冷酷非道な魔神様は、捌き屋に全てを捧げる

墨尽(ぼくじん)

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前編

第25話 どうして分かるの?

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「彼の狩り方には、生き物への敬意が感じられる。だから俺は、冷酷で非道なんて到底思えない」
「………」
「狩り方で言えば、人間のほうがもっとえげつない。素材として価値のない部分を壊してから、生きたまま素材を剥ぐ人もたくさんいる。魔獣だって……生きているのに」

 エリトは真っ直ぐクラーリオを見つめて、その言葉を呟いた。人に害を成す魔獣に、同情する人間など居ない。
 魔獣の血が自分にも流れているが故なのか、そうであれば「捌き屋」という生業は、エリトにとって辛いものであるはずだ。

「……エリトは、捌き屋が辛くはないのか?」
「辛い? う~ん、考えたことなかったな。だって俺には、これしか出来ないから」

 微笑みながら零すエリトの腕を引っ張り、クラーリオは自らの腕の中に抱きこんだ。
 細くて小さな体は、クラーリオの身体にすっぽりと納まる。エリトは少し驚いた顔をしたが、直ぐに嬉しそうに微笑んだ。

「クリオ? どうした?」
「……その魔神は大丈夫かもしれないけど、他の魔族には近づいちゃ駄目だ。……分かった?」
「わかってるって! 子どもじゃないんだから」

 エリトはそう言うと、クラーリオの腕の中でくすくす笑った。そんな彼の髪を梳くと、今日も同じ石鹸の香りがクラーリオの鼻に届く。

「……エリト。俺は明日から数日ほど帰れない。エリトに会えないのは、とても寂しいけど……絶対に戻ってくるから……」
「森の調査か? まさか、危険な場所じゃないだろうな? ヘラーリア側の奥は危険だから、絶対に近づいちゃだめだ!」

 慌てた様子でエリトが言い、クラーリオの顔を覗き込む。心配そうな顔に潜む「寂しさ」の影に、クラーリオの胸がぎゅっと絞られた。

(置いて行くのは、これで最後だ。……これで最後にする)
 
 

「俺の仲間は強者揃いだから、大丈夫」
「……うん。クリオは弱いんだから、仲間の間に入らせてもらうんだぞ? 身体が大きいから、こうきゅっと身体を小さくしてだな……」
「はは、分かった。気をつける」
 
 エリトの頭を抱え込むと、クラーリオは傍に置いてあった毛布を手繰り寄せた。それをエリトと自分自身を覆うように巻きつける。

「今日はエリトを抱きしめて寝たい」
「……? 俺を? どうして?」
「好きだから。触れたいから」

 クラーリオはそう言うと、エリトを抱きしめたまま床へ横になった。目の前のエリトは困惑しているが、嫌がっている様子はない。 
 クラーリオの顔を見つめて、エリトは眉を寄せた。そして自分の胸に、自身の小さな手のひらを添える。

「……不思議なんだ。クリオを見ていると、ここがぎゅってなる」
「……うん。俺もなる」
「クリオも? ……一緒なの、何か嬉しいな」

 破顔するエリトの頬に、クラーリオは口付けた。そこを指で愛おしそうに擦った後、エリトの唇にも口付ける。触れるだけの淡いキスの後、エリトは驚くでもなく微笑んだ。

「クリオは……何で俺が欲しいものが分かるんだ?」
「……うん?」
「何でキスが欲しいって分かった?」
「……」
「……クリオ?」


(……信じられない。何だこの可愛い生き物は)

 目の前のエリトは、驚くほど澄んだ目をしていた。その表情を見る限り、決して駆け引きなど考えていない。ただまっすぐにクラーリオを見て、疑問を投げかけている。
 
「……クリオ、ぎゅってしていい?」
「……うん」


 エリトはクラーリオを抱きしめると、その胸に頬ずりする。クラーリオの胸が高鳴っている事は、きっとエリトに伝わっただろう。この鼓動だけで想いが伝われば、どれほど良いだろうか。

 胸の中にいるエリトの髪を撫でると、彼が顔を上げる。その顔を手で包んで、クラーリオはもう一度口付けた。
 唇を食んで、優しく吸いつく。角度を変えながら何度も啄むと、エリトから小さな声が漏れた。クラーリオがゆっくりと唇を離すと、エリトとの間につつと銀糸が伸びる。

「……今の、すごく……きもちいい」
「……もう一回する?」
「する」

 クラーリオが再度口付けると、エリトがもどかしそうに脚を動かした。そのエリトの脚に自身の脚を絡ませ、クラーリオは身体を密着させる。
 後頭部に手を沿え固定すると、クラーリオはエリトの口内に舌を滑り込ませた。目を見開くエリトと視線を合わせ、クラーリオは瞳を細める。

 クラーリオに見つめられたエリトは、眉を顰めて瞳を潤ませた。その表情は、クラーリオを煽るものでしかない。

 未知の感覚に戸惑って、戸惑いながらも縋りつきたい。こんな表情を浮かべたエリトを見るのは、初めてじゃない。
 ずっと昔に愛した彼も、同じ反応を示した。まるきり同じで、同じだからこそクラーリオの胸は激しく疼く。

 お互いに絡ませ合っていた脚に熱い塊が触れると、クラーリオの理性が崩れ落ちた。
 重なり合った唇の隙間から、言葉が滑り落ちる。

 
「エリト……もっと触れさせて」
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