拾った犬は、魔神様でした。

墨尽(ぼくじん)

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11 やっと、名前を知ることができた

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「金って言っても、あの金とはまた違う。透き通る琥珀の中に、きらきらの金粉を混ぜ込んだような……。ううん、違う……はちみつの中に、星屑を散りばめたような……。どんな言葉でも表現できない。こんな綺麗な瞳、見たことが無いよ」
「……」

 エリトはそう呟いた後、はたと気付き自身の口を覆った。
 魔神を見ると、目線を逸らしたまま口を引き結んでいる。やってしまった、そう思ったエリトは誤魔化すように再度捲し立てた。

「ぼ、僕の名前はエリト。あなたの名前は?」
「……」
「……やっぱり、秘密?」

「……クラーリオ」

 形の良い唇から零れ落ちた声は、耳触りの滑らかな低温だった。男らしいのに柔らかで繊細な声に、エリトは思わず笑顔を湛える。

「何て綺麗な声なんだ! 男性らしさを失わず、かつ繊細で滑らか。あなたは声帯までも完璧みたいだね……」
「……」

(あ、またやってしまった……)


 独り暮らしが長いせいか、エリトは独り言を零すのが癖になっていた。自分以外がいない空間は、いつも静かで物憂げだ。寂しさを紛らわすために、つい独りでべらべらと喋ってしまう。

 エリトは仕切り直すように咳払いをして、口を開いた。

「クラーリオ! いい名前だ。えっと、じゃあ……クリオだね」
「……」
「宜しく、クリオ。名前を教えてくれて、ありがとう。傷が治るまでここに居ていいからね……。クリオの前にも、怪我をした子を看護してたんだ……。不思議と傷の位置が似ているから、処置は任せてよ!」

 まだ視線を合わせてくれないクラーリオを見ると、その黒髪がふわりと揺れていた。エリトはそこに手を伸ばそうとしたが、ふと我に返る。
 
(こんな自分に頭を撫でられるなんて、嫌だよな……)

 ノウリに触るような感覚で触れていては、きっと不快に思うだろう。手を引っ込めたエリトは、クラーリオの毛布を掴んで引き上げた。
 冷気が入らないように隙間を埋めて、エリトは満足気に頷く。

「ごめんね。お話疲れたでしょ? お水は自分で飲めそう? 頭もとに置いておくね」
「……とう」
「?」

 クラーリオがぽつりと呟いた言葉は、エリトの耳には届かなかった。エリトが首を傾げて近くによると、クラーリオが急に視線を合わせる。

 琥珀色の双眸に見据えられ、エリトの胸がどきりと跳ねた。彼の美しい顔の破壊力は、エリトの許容に納まりそうもない。
 そして彼は、唇で弧を描く。驚くほど左右均等で僅かな歪みもない、美しい笑顔だった。

「……エリト。ありがとう」
「…………あ、いいえぇ……」

 エリトは慌てて立ち上がり、足を縺れさせながら家を出た。自分の心臓の音は、クラーリオに届くぐらいバクバクと暴れている。

(?? どうして? 顔が、熱い……)
 
 手で顔を扇ぎ、エリトはほっと息をつく。まだおかしな感覚の胸に手を当てて、何かを打ち消すように頭を振った。


 エリトは以前、街の教会にいた女性に淡い恋心を抱いていた時期があった。誰にでも等しく優しい彼女を遠くから見るだけで、胸が高鳴ったものだ。

 その感覚と、今のこの胸の痛みはすごく似ている。胸の痛みと比例して、高揚感も湧き上がるのだ。

(ぼ、僕……。いや! 勘違いだ! あまりにも形の良い身体の造りに、ドキドキしてるだけ!)

 エリトは狩りの道具を鷲掴んで、森を睨んだ。まるで邪念を振り払うかのように、エリトは森に向かって駆けた。
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