拾った犬は、魔神様でした。

墨尽(ぼくじん)

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12 胸に刺さったのは

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 数時間後、エリトは狩りから帰って来た。
 起きていたクラーリオは、その姿を見て唖然とする。

 顔の至る所に擦り傷ができ、美しいブロンドの髪は魔獣の返り血でどろどろになっていた。
 クラーリオは思わず身体を起こし、痛みに顔を歪ませる。それに気付いたエリトが、素材をその場に落としながら駆け寄って来た。

「クリオ! まだ動いちゃ駄目だ!」
「………エリト……どこへ?」
「どこって、狩りだよ?」
「……魔獣討伐じゃなくてか?」

 
 魔獣を狩るだけなら、こんなにひどい状態になることは無い。自分が狩れる分だけを狩るからだ。顔を傷だらけにしてしまうまで、狩りを続ける必要はない。

「あは、魔獣討伐? 僕の汚れ方、そんなにひどい?」
「……大丈夫なのか? それ」

 エリトの眉尻についている大きな擦り傷に、クラーリオは手を伸ばす。するとエリトがびくりと身を震わせた。
 その様子を見て、クラーリオは慌てて手を引っ込めた。

(……魔族なんぞに、触れられたくないよな……)

 人間と魔族は、ついこの間まで戦をしていたのだ。特にこのガーランデの国民は、魔族に良い感情を持っていないだろう。この国の軍隊を叩き潰したのは、他でもないクラーリオなのだから。

 クラーリオがこの家で療養できているのは、エリトの慈悲深い心のお陰だ。そんな彼でも、魔族に対しては良い印象は持っていないだろう。



 エリトは自身の傷痕に指を滑らせて、眉根を寄せる。次いで笑顔を浮かべるが、その笑顔はどことなくぎこちない。

「あはは……いつもはこんな怪我しないんだけど……今日は僕、ぼーっとしちゃってて……」
「ぼーっとって……魔獣相手に危険すぎるだろ」
「う、うん……そうなんだけど……」


(クリオの事を思い出して、集中できなかったなんて……言えないよ……)

 魔獣を追いかけている間も、胸の違和感は抜けなかった。まるで何かに射貫かれたかのように、胸にクラーリオが居残り続ける。

 森にノウリがいないかを探したが、彼は見つかることが無かった。黒いふわふわの毛並みを思い出し、似たような髪質のクラーリオに思考が行きつく。
 何をしてても考えていても、終着点がクラーリオなのだ。これでは狩りにも身が入らない。

 
 ふう、と自嘲気味に嘆息して、エリトはクラーリオを見た。そして相変わらず顔のいいクラーリオに、エリトの胸がどきりと跳ねる。

 クラーリオの瞳は、とても優しい。母が自分に向けてくれる瞳と同じで、穏やかで柔らかいのだ。

(彼は知らない。僕がどんなに穢れた存在かを……)

 魔族でも『穢れの子』の存在は知っているのだろうか。
 知っているとしたら、自分がその『穢れの子』であることをクラーリオに知ってほしくない。


 エリトが思考を巡らせていると、クラーリオがゆっくりと身体を起こした。痛みに顔を歪ませながらも、エリトへと笑顔を向ける。

「エリト。……ごめんな、触れてもいいか?」
「……え?」

 クラーリオが近くにある水桶を手繰り寄せ、中にあったタオルを絞る。そしてそれを、優しくエリトの傷口へ当てた。
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