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第二章 執念の後、邂逅へ臨む
第32話 向けられた怒り ※
しおりを挟む彼の表情に滲む、隠そうとしない『怒り』に、葉雪は驚き目を瞬かせる。
(……どうして怒ってるんだ?……)
鵠玄楚にとって、昊黒烏は姉の仇だ。
しかし彼は昊黒烏への中傷に過敏に反応し、憤りを感じている。
(……立場と感情がちぐはぐだ。表裏が読めない。彼の思惑はなんだ……)
葉雪の戸惑いを余所に、鵠玄楚はまるで呪詛を吐くように言葉を続けた。
「彼の力がある時は、その力を甘んじて受け、彼が異端だと思った瞬間から突き放す。かと思えば新たな脅威を恐れ、またその力を享受しようとする。クソ以外に見合う言葉が見つからんな」
「…………お、お前は……」
「ああ、そうだ。貴様への口止めがまだだったな」
鵠玄楚は片膝を付くと、葉雪と目線を合わせた。その表情にはまだ怒りが残っているが、口元には嗜虐的な笑みが浮かんでいる。
(……殺す、つもりではないだろうな。文衛が一人いなくなれば、冥府が騒ぎ出す……)
入り口にいた文衛も、眠らされているだけだった。
葉雪の命を奪うのも容易だったはずだが、鵠玄楚はそれを避けているように思える。
となると、残された選択肢は少ない。
「……言っておくが、痛みには屈しないぞ」
「痛み? そうだなぁ、痛めつけて顔が腫れ上がっても、この仮面なら露呈しないだろうな」
物騒な言葉を零しながら鵠玄楚は手を伸ばし、卓の脚に繋がれていた葉雪の両手を解く。しかし依然として、両手はまとめて拘束されたままだ。
外被の胸元を掴まれて強制的に立たされたと思えば、そのまま卓へとうつ伏せに押し付けられる。
藻掻いて逃れようと思ったが、足はかろうじてつま先が床に触れているような状態だ。卓の上で身を捩る事しかできない。
おまけに鵠玄楚は、葉雪を押しつぶすように身を寄せてきた。
「天上人は馬鹿みたいに自尊心が高い。この世界の覇者のように振舞い、高い場所から生物を睥睨する。お前もその一人だろう」
「……っはな、せ………っ」
「自尊心の高い者には、これが一番だ」
外被が捲り上げられ、太腿から腰までをするりと撫でられる。
衣越しに感じる淡い感触だったが、ぞくりと背中が粟立った。
「恥辱」
耳元で、鵠玄楚の低く舐めるような声が落ちる。思わず身を竦めたが、それは彼を調子づかせるだけだった。
くく、と低く喉を鳴らして、鵠玄楚の手が葉雪の下衣にかかる。
(……!? っこいつ……!!)
下衣の紐がしゅるりと解かれたと同時に、鵠玄楚の手が中へと入り込んできた。解いただけの紐を緩めるために、彼の手の甲が下衣を押し上げる。
抵抗もむなしく、下衣はあっという間に膝まで落ちてしまった。
恐ろしいまでの手つきの良さに、葉雪は状況を忘れ唖然としてしまう。
宴の間でも貫禄を感じたが、こちらの面においても彼は、数百年ものあいだ試練に身を投じた男には思えない。
完全に遊び人の態度、そして手つきだ。
「……っおい、はなせっ……!!」
「おいおい、随分腰が細いんだな。これで良くあの動きが出来たもんだ」
「くそったれ! それ以上やるなら……」
「やるなら?」
ぐっと背中に掛かる重みが増し、耳元で鵠玄楚が囁く。肺の空気が押し出され、先程の痛みがぶり返した。
鵠玄楚との体格差は大きい。体重を掛けられると、まったくといって良いほど身体が動かない。
しかしながら、男に組み敷かれているという状況は、さすがに腹に据えかねる。
(……っこの……! 昊力で飛ばしてやろうか……!)
手足が使えなくとも、昊力を使った術なら鵠玄楚に攻撃することが出来るだろう。しかし昊力を使った術には、個人の特色が濃く現れる。
使えば、彼に自分が昊黒烏だと分かってしまうかもしれない。
爆発しそうな怒りを抑えていると、鵠玄楚の逞しい指が内腿に触れた。そしてつつ、と指が滑り、中心まで辿り着く。
先端を柔く握られると、不快感で背筋が反り返った。
「……っ、は……!」
「初い反応だな……あまり使ってないのか? それとも、抱かれる側か?」
「ッ黙れ! ……っく……」
ゆっくりと鵠玄楚の指が上下に動く。他人に触られているという背徳感が、与えられる感覚を敏感にさせる。
葉雪はこの手の事には、非常に淡白だった。性欲など無いに等しい。
性行為などこの千年で数回しかないし、そのどれも自分から進んでやったものではなかった。
しかし性欲が無いにしても、触られれば身体は反応する。男性体であるならば、性器を触られることで、少なからず快感を拾ってしまうだろう。
それが例え、望んだことではなくてもだ。
自身の性器がどんどん膨らんでいくのを感じ、葉雪は唇に歯を立てる。
痛みで気を逸らしたかったのもあるが、声だけは漏らしたくないという気持ちが大きかった。
しかし無情にも、鵠玄楚の指は更に葉雪の屹立を責め立てる。
「……よしよし、膨らんできたな。もっと感じろ」
「っ……ふ、……く……」
「……声を出せ。……ん? こら噛むな」
「……っ!? あ、がっ」
唇を割って入っていた鵠玄楚の指に、葉雪は大いに翻弄された。その大きさから口が閉じられないどころか、彼の指は我が物顔で口内を蹂躙する。
上あごを撫でられると、未知の感覚に唇が震えた。
「……っあ、ぁ……はぁっ……」
「柔らかい舌だな、女みたいだ。お前、どんな顔してるんだ?」
「っ!!」
「おっと、あぶない」
歯を立てようとしたのを勘付いたのか、葉雪の口から鵠玄楚の指が出ていく。
急激に入ってくる新鮮な空気を吸い込みながら、葉雪は背後に居る鵠玄楚を睨みつけた。
「っはは、本当に活きが良い。……まぁ、お前の顔など興味はない。見ないでやるよ」
どこか楽しそうに言う鵠玄楚だが、葉雪の屹立を責め立てる手は止めない。
もう完全に勃ち上がった屹立からは、先走りも漏れているのだろう。にちゅにちゅと、耳を塞ぎたくなるような水音が響き始めている。
また唇を噛み締めた葉雪を見て、鵠玄楚は不満そうな声を漏らした。
「意地でも声を漏らさない気か? ……お前の声は、かなり好みだ。もっと声を出せ」
「……っふ、く……」
「頑固だな。快楽に身を任せた方が楽だぞ? 俺の指で喘いで乱れて、この神聖な魂与殿を穢してしまえ」
「んん~~っ……ッ!!」
下腹部に熱が溜まっていく。内腿が痙攣し、呼吸が短く荒くなる。
(……ぜ、ったいに……! 絶対に、達するものか……!)
葉雪はこれまで、敵に屈することがなかった。
背中に乗っている男が旧友だとしても、一方的に責め抜かれるという状況は、耐え難い屈辱だ。
達するより先に、葉雪の堪忍袋のほうが限界を迎えた。
ぶち、という音と共に、目の前が真っ白に染まる。同時に鈍い破壊音が響き、葉雪の真下にあった卓が砕け散った。
足が地についた瞬間、床を蹴り上げ、葉雪は鵠玄楚の身体から逃れる。
半ば転がるようにしながら鵠玄楚から距離を取り、立ち尽くしたままの彼と対峙した。
「……それ以上、寄るな……!!」
威嚇するように発した声に、鵠玄楚は驚いたように目を見開いた。表情にはどうしてか動揺が浮かんでいて、それが逆に葉雪の神経を煽る。
(……っ昔のお前は、そんなんじゃなかった……! そんなんじゃ…………あ……?)
目の前がぐにゃりと歪み、踏みしめる足元も、綿のように不安定になる。身体を真っ直ぐに保とうとするが、強制的に視界が傾く。
「っおい!」
頭に衝撃を感じたあと、遠くから焦りを含んだ声が聞こえた。
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