【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

文字の大きさ
187 / 248
いざ、競技会!

第184話 涙目で見つめられたら

しおりを挟む

「物心ついた時には、母は壊れていた。彼女は自分に子供がいることを理解していない。幼いころは、私の事を『知り合いの子供』という認識で関わってくれていたが、今ではその関係すらない。……母や父のせいにするつもりはないが、私も感情というものが……良く分からない」
「そうだったのか……。でも俺から見たら、リュウは十分感情溢れる人だぞ?」
「それは、相手が君だからだ」

 困ったようにリーリュイは笑う。
 光太朗はポーチに手を伸ばし、ガーゼを取り出した。それをリーリュイの頬の傷に当てると、彼は何も言わずに瞼を伏せる。
 
 やっと治療が出来そうな雰囲気に、光太朗はほっと安堵の息を吐いた。座ったままリーリュイへにじり寄って、顔についた泥や血を拭っていく。

「光太朗は、良く私の事を『凄い』と言うが、君だって凄い。……私の感情をこんなに引き出せる人は、他にはいない」
「そうか?」
「君を前にすると、靄がかかっていた自分が鮮明になる」
「それは良かった。俺はリュウを前にすると、感情が引き出されるって感じかなぁ」

 光太朗は相槌を打ちながら、リーリュイの傷へ軟膏を乗せていく。額についた傷はかなり深い。血は止まっているが、痕が残るだろう。
 眉を顰めていると、リーリュイが光太朗の手を掴んだ。その顔には窘めるような表情が浮かぶ。

「……その顔。また『自分のせいで』と考えているだろう。止めなさい。この傷は、私の選択から生じたものだ。君のせいではない」
「……そんな事言っても……」
「崖崩れが起きて、君が流された後……皇子という立場である私がとるべき行動は『都に帰る事』だ。状況的に、ユムトの別部隊が王都に進撃している可能性が高い。しかし私は愚かにも、君を選んだ。そして僅かも後悔はしていない。全ての責任は私にある。……分かったか?」

 光太朗は少しの逡巡のあと、小さく頷く。納得できない部分もあったが、言い返す言葉が見つからなかった。

「分かったから……ちょっと動くなよ。その首、めっちゃ痛そう……」

 詰襟の縁に手をかけて、光太朗はリーリュイの首筋を覗き込む。深い傷ではないが、鎖骨の下まで続いているようだ。

「リュウ、服を脱ごう。こんな濡れたの着てたら寒いぞ」

 リーリュイの返答を聞かないまま、釦を手際良く外し、服を剥いでいく。案の定、インナーまでずぶ濡れになっていた。
 裾を掴んで促すと、リーリュイは素直にインナーを脱いだ。

 リーリュイの身体には、そこかしこに痣が浮かんでいた。強固な戦闘服のお陰で大きな傷は無いが、かなり痛々しい。彼がここに来るまで、かなりの無茶をしたことが推し量れる。
 光太朗の顔が、また悲しみと自責に歪む。

「……光太朗」
「分かってるよ。……でもやっぱり、俺が悪いとしか思えない」

 光太朗は顔を伏せたまま、リーリュイの身体についた打撲痕に軟膏を擦り込んでいく。
 美しく鍛えられていた彼の肉体を、まだらな打撲痕が穢しているように見えた。自責の念は、打撲痕の数ほど湧いてくる。

 目の奥が熱くなって、光太朗はさらに目を伏せた。リーリュイの静かな吐息と声が、上から降ってくる。

「……レレイアの子供は無事で、親子で巣に帰ったそうだ」
「……そう……」
「負傷した魔導騎士団も、全員無事だ。かなり状況が悪かったが、アゲハが一転させてくれたと聞く。……キースは、君の応急処置がなければ危なかっただろう。……全部、君のお陰だ」

 優しく髪を撫でられ、瞳からぼろりと涙が零れた。『誰かが居なくなったかもしれない』という緊張感から解放され、堰を切ったように感情が溢れ出る。
 泣いている事を悟られたくなくて、光太朗は顔を伏せたまま、黙々と治療を続けた。

「今回の謀反は、遅かれ早かれ起こる事だった。……光太朗がいなければ、騎士団は全滅していただろう。皆、君に救われたんだ。君は仲間を守った」
「……でも俺がいなければ、ユムトは……」
「……君という存在が、ユムトを動かす起爆剤になったと言うのなら、その原因を作ったのは私だろう。君という存在を隠さず、人の目に触れさせ、王都まで連れてきた。……責められるべきは私だ」
「……違う……。それは絶対、違う……!」

 手の甲で涙を拭って、光太朗はリーリュイの胸に包帯を巻きつけた。力いっぱい締め付けると、リーリュイから呻き声が漏れる。

「……光太朗? 怒ったか?」

 小首を傾げるリーリュイを、光太朗は睨み上げた。泣き顔を晒すのは恥ずかしいが、しっかりとリーリュイの双眸を覗き込む。
 自分の気持ちをちゃんと伝えたい。そう思えるようになったのも、リーリュイのお陰だ。

「……あのな、リュウ。俺は幸せなんだ。リュウに出会って、大好きになって、こうして側に居ることができて……本当に嬉しい。それが間違いだったなんて、思って欲しくない」
「…………」
「すげー幸せなんだぞ。だって、リュウみたいに愛おしい人、そうそう出会えないだろ? そりゃあもう、怖くなるくらい…………ん?」

 言葉を伝えながら、光太朗はある事に気付いた。先ほどまでは主張していなかったはずのそれは、今やかなりの存在感を放っている。

「リュウ? それ……勃ってるな?」
「……君のせいだ」
「えぇ? こんな時に? 人が真面目な……」
「君のせいだ」

 抗議の声が漏れる光太朗の唇を、リーリュイの唇が塞ぐ。
 突然のキスに光太朗は驚き、目を見開いた。すぐに手が伸びてきて、逃がさないとばかりに頭を固定される。

 ぬるりと大きな舌が入ってきて、光太朗は身を震わせた。自身の発熱のせいか、リーリュイの舌が冷たい。
 まるで体温を馴染ませるように、リーリュイの舌が口内を撫でる。ぞくぞくと背筋に走る感覚は、快感に間違いない。
 キスがこれほど気持ちいいなんて、光太朗は知らなかった。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

処理中です...