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第1章
4話
しおりを挟む「食事だよ!」
─ガチャン!─
乱暴に置かれる食器の音がする。
私は、人の走り去る足音を聞いてから小屋の扉をそっと開けた。
硬いパンが1つと半分こぼれた具のないスープの入ったカゴが、地面にポツンと放置されていた。
…まだスープが半分あるだけ、今日はマシかもしれない…
パンを紙袋で包み、少ないスープをキッチンの鍋に移して食器を洗ってからカゴに戻す。
後はカゴごと小屋の外へと置いておけば、明日の朝食の時に回収されるのだ。
伯爵家の者たちは横暴な態度だが、いつも小屋の外で喚いては一目散に逃げて行く。
面と向かって悪態をつかれたことは一度もない。
「呪われるって思われているのも、まぁそれはそれで…」
少し薄暗い中、私は小屋のすぐ裏の山へと向かう。
小屋から出る時はいつも隠密の術を使っているから、誰にも咎められない。
裏山は伯爵家の敷地内で、山菜やキノコが取り放題!
それに、私はこっそりと野菜も育てている。
別荘から持ってきた野菜の種が、私にとってこんなに大きな助けになるとは…思ってもみなかった。
小屋に戻った私は、パンを香ばしく焼いて収穫してきた野菜とキノコを手早く調理し…食事を済ませる。
硬いパンも、あるかないか分からないスープも、もう慣れたし…必要最低限…食べていれば生きていける。
「でも、やっぱり…スープが少ないわ…」
誕生日の夜も、いつものように私のお腹の虫は鳴るのだった。
────────
「見た目を変えて働けばいいのよね」
翌朝、代わり映えのしない朝食を食べ終えた私は、街で仕事を探すために出かける準備を始めた。
伯爵家からは服など1着も貰ったことはない。
別荘から持ってきた服は成長した今の私が着れるものではないため、小さくなった2着の服を使って1着の服に上手くリメイクして使っている。
どれも色褪せてはいるが、まだまだ着れる。
私は小花柄の青いワンピースに着替え、上着を羽織る。
ササッと両眼に目薬をさすと…变化の術を施す呪文を詠唱し、手の甲で顎から頬にかけてスルリと撫で上げた。
半分錆びて曇った鏡には、どこにでもいそうな平凡で地味な少女が映っていた。
自分の顔は普通に気に入ってるけど、街では少し目立つように思う。
こんなガリガリでみずぼらしい姿の私でも…年ごろの娘、今まで出かけた時には男性に声をかけられたこともある。
正直煩わしいし面倒に感じる部分があった。
「うん、いいんじゃないかしら?」
伯爵家から街へは馬車で15分ほど。
当然…伯爵家の馬車を私が使えるはずもなく、邸から出て少し歩いてから乗り合い馬車を利用する。
隠密の術って本当に便利よね。魔術を使えてよかったわ。
──────────
私は『小屋から出るな』と最初にキツく言われてはいたけれど、見張られているわけではなかった。
というか…私を直接見ることが怖くて誰も見張りになんて来ない。
多分、朝晩の食事だけで生存確認をしているんだと思う。
伯爵家からすれば、衣類もお金も与えていない人間が外へなど出れないし、出たところでできることは何もない…と、まぁ…そんなところだろう。
期待を裏切るようで申し訳ないけれど、お金がない私は…緑豊かな裏山でこっそりと野菜を育て、それを街で売って小銭を得ていた。
最初は街のことが分からないから、近くの教会を訪ね…野菜を寄付するところから始めた。
今ではシスターからも信頼され、市場や街のこともよく分かっている。
今までは月に数回、師匠から貰ったマジックバックに収穫した野菜を詰めて市場へ売りに出かけていたけれど…成人したから、普通に働きたいな!
乗り合い馬車に揺られながら、私はワクワクしていた。
応援ありがとうございます!
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