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第2章
22話
しおりを挟むフェルナンド様とダンスを終えた後、アデリーナ様と一緒に少し休憩していた。
フェルナンド様は、私たちのために飲み物を取りに行くと言っていたわ。
「フェルナンドったら…3曲もイシスを独占して、本当にしょうがないわね」
「踊り過ぎたでしょうか?」
「普通は踊っても2曲までなのよ。それ以上は、かなり親しい間柄ってことを周りに知らしめるための…」
「母上、こちらをどうぞ。はい…イシスはこれ。お酒じゃないから安心して飲めるよ」
「ありがとう、フェル兄様」
「…フェルナンド…あなたって子は。ちょっとこちらへいらっしゃい!」
熱気溢れるパーティー会場で、よく冷えたドリンクが私の乾いた喉を潤してくれる。
落ち着いて周りをよく見ると…若いご令嬢やご令息たちは、互いにダンスの誘いを待ってソワソワしているようだった。
ということは…フェルナンド様と踊りたいご令嬢もたくさんいるはず。
ダンス好きなら、いろんなパートナーと踊りたいものよね?
滅多にパーティーに行かないフェルナンド様のせっかくのチャンスを、私が邪魔してしまったのかも。
「イシス嬢」
…この声は…。
「クリストファー殿下、タチアナ様、本日は誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」
「ありがとう、イシス嬢」
「イシス様、お久しぶりですわ。今日もお会いできてうれしいです」
この日のために、タチアナ様は全身を磨き上げられてこられたに違いないわ。とってもお綺麗。
「タチアナ様、ドレスもよくお似合いで大変お美しいですわ。殿下とのお色合わせも素敵ですわね」
婚約者同士、互いの髪や瞳の色を取り入れて上品にコーディネートされている。
タチアナ様は恥ずかしそうに頬を染めておられます。
「イシス嬢、私と1曲…踊っていただけるかな?」
「まぁ…殿下。大変光栄でごさいますわ」
殿下から差し出された手をそっと取る。
「えーと、本当にいいか?
どっから来た、フェルナンド?…睨むな…怖すぎだろう」
いつの間にか、私の真後ろにフェルナンド様が立っていたみたい。
「睨んでいませんよ。タチアナ嬢…私と踊っていただけますか?」
「はい。よろしくお願いします」
今日の主役であるお2人と私たちは、パートナーを交換してダンスを1曲踊った。
────────
「キャッ!」
突然、ピンク色の頭が視界に飛び込んできました。
どこかのご令嬢が、躓いたのか…バランスを崩して、フェルナンド様へとまっしぐらに突っ込んで来たようなのです。
実際には、突っ込んで来るか来ないか?という早い段階で、フェルナンド様はサッと場所を移動しました。
これぞオーラの力?
その結果、ご令嬢は…フェルナンド様の少し後ろにいたご令息の股間辺りに体当たりされていました。
とても痛そう…どちらかというと…ご令息のほうが。飛び跳ねていらっしゃるもの。
「チェルシー!大丈夫か」
「わぁぁーん!バジル兄さん!」
チェルシー?
バジル?
あら、このお2人…アンデヴァイセン伯爵家の…。
それにしても…被害を被ったご令息に謝罪もしないで、ただ騒いでいるだけ?
高位貴族が集まるこのパーティーで、自ら恥をかこうというのかしら…家名を背負っているという自覚も、常識も欠如しているのね。
私は周りに集まった“眼”を…少し覗き視てみることにした。
『嫌だわ…あの娘、この前のデビュタントでも転ぶフリをして侯爵家の令息に抱き着いていたじゃない』
『可愛いなぁ…胸もデカい。バカそうだし、股もゆるいだろうな』
『恥ずかしいこと。アンデヴァイセン伯爵家も跡継ぎがアレじゃ…もう駄目ね』
『令息は家に内緒で娼館に通い詰めてるって』
『フェルナンド様って、近くで見たらやっぱり素敵!
可愛いチェルシーのことが好きになるに決まってるわ、ねぇこっちを見てぇ!』
『あの黒髪の女は誰だ?身体は駄目だが、顔はかなり好みだな。
このバジル様を見て惚れちまったか?』
─本っ当に…恐ろしく残念な兄妹だこと─
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