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第2章
26話
しおりを挟むパーティーの翌日はお昼まで寝てしまった。
「やっとお目覚めでいらっしゃいますね」
ミリアムさんの娘さん、アリエルさんが部屋のカーテンを開けてくれる。今日も晴天ね。
「おはようございます。寝すぎました」
「初めてのパーティーでしたから、かなりお疲れになったのだと思いますわ。
今日はゆっくり休むようにと、旦那様も仰っておられました。お食事はどうされますか?」
いつもは、侯爵様たちと揃ってダイニングで食事をいただいているのだけど…。
「お部屋で食べてもいーい?」
「ふふっ…イシス様ったら。勿論ですわ」
アリエルさんは19歳で、私と歳が近いから…何となくお友達感覚になってしまうのよね。
──────────
「お食事をお持ちいたしました」
ミリアムさんが、テーブルにお皿を並べていく。
「シェフが、イシス様のお好きなお肉も焼いてくださいましたよ」
「うれしいわ、お肉大好きよ!昨日の疲れも吹き飛ぶわね」
「昨夜はフェルナンド様にも大好きって仰っていましたわね。ウフフ」
「…ん?…え…?ウソ…私が?」
ミリアムさんが動きを止めて、数回瞬きをした。
「あ…イシス様、眠そうでしたものね…覚えていらっしゃいませんでしたのね。大変失礼をいたしました」
「……う……」
「ほほほ。さ、あたたかいうちに…どうぞ」
何だかミリアムさんがいつもより楽しそう。
「こちらのお部屋でお食事されるお姿を見ていますと…最初のころを思い出しますわ」
「確か…何でもフォークで突き刺して食べていたかしら?」
私が当時を真似てフォークでお肉を刺すと、ミリアムさんが笑う。
「あのころは、私はいつもお部屋の外で待機をしておりました。誰かが側にいると落ち着かないだろうから、離れて見守るようにと…フェルナンド様からのご指示でしたわ」
「…そう…フェル兄様は本当に優しいわね」
「はい。お小さいころから、人の感情にはとても敏感でいらっしゃいましたから」
ミリアムさんが…どこか遠い目をした。
「それがフェルナンド様の能力だと分かってからは、旦那様や奥様もフェルナンド様と接する時間を特に大切にしてこられました。
勿論、私共も心安らいでいただけるようにと努めてまいりましたわ。
それでも…お部屋から一歩もお出にならない日が続いたり、大声で叫んでいらっしゃることはございました」
昔は魔眼と蔑まれて“他の能力がよかった”と、私も思っていた。
けれど、異能力者として他人より突出した能力を持つ限りは…苦しむ部分がどうしても出てくるってことよね。
「大魔術師のグランド様がいらしてからは、そういったことはなくなりましたが…成人なさるころには、今度は感情の起伏がなくなってしまわれたかのように…平然と毎日を過ごされるようになりました」
私の知るフェルナンド様とは違う人の話みたい。
というか、彼の人物像について知りたいと思ったことが…私はなかった…?
「フェル兄様が小さいころから…ミリアムさんはずっとお邸に?」
「あ…実は、総メイド長から聞いた話もございます。…私の…母ですので」
「えっ!知らなかったわ」
代々、ランチェスター侯爵家にお仕えしているってことなのね。
「母は…メイドのトップとして、フェルナンド様が生まれた時からご成長を見守ってまいりました。
イシス様がいらしてからは、フェルナンド様が変わられたと喜んでおります」
「フェル兄様、やっぱり…前は鉄仮面みたいだったのかしら?」
私がお邸に来た日…
怒って花瓶割ったり、ショゲたり、笑顔になったり…昨日なんて遂に泣いちゃったのよ?
秘密だけど。
「笑顔をお見せになることは滅多に…。今は感情豊かになられましたわ。
最初はイシス様とご一緒の時だけでしたけれど…今では…従者とお話されながらも、表情をコロコロと変えていらっしゃるんです。
フェルナンド様ご自身はお気付きではないかもしれませんが」
ミリアムさんがうれしそうに話すのが何だかいいな…と思って聞いていた。
「きっと、今までは感情を表に出すことを抑えてこられたのでしょう…“無意識”に。
フェルナンド様は、本当のご自分のお姿を取り戻されたのだと…私は思いますわ」
ミリアムさんは、フェルナンド様の鉄仮面を外したのは私だと言い…昨夜は、私の大好きという発言で“耳まで真っ赤”になったレアなフェルナンド様を見た!と言って笑った。
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