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第3章
35話(ガーラント辺境伯Side)
しおりを挟む「ドミニク・ガーラント辺境伯に…ご挨拶申し上げます。フェルナンド・ランチェスターでございます」
「よく来てくださった、フェルナンド殿。して…そちらのご令嬢は?」
「はい、イシス・フォークレア子爵令嬢。私の遠縁にあたります。彼女は…優秀な魔術師でございます」
─魔術師だと?このフワフワした少女が?─
「イシス・フォークレアと申します」
「イシス嬢…ようこそ、この辺境の地へ。ご令嬢には楽しみのない厳しい土地ではありましょうが…まぁ、せっかくお越しになったのだ、城内でごゆっくり過ごされるがよい」
少々…トゲのある言い方になってしまったか?
「さて…フェルナンド殿、後ほど話ができると有り難い。先ずは部屋へ案内したいと思うのだが…もう一部屋、必要なようですな?」
「私が勝手をいたしましたことについては、深くお詫び申し上げます。ですが…どうか、ご容赦いただきたい」
「いいでしょう。ただし…説明責任は…果たしていただきますよ」
──────────
「ジェンキンス、どう思う?」
執務室兼、軍事対策室に入った瞬間、私はジェンキンスに問う。
「…ドミニク様…とんでもないことですよ」
「お前たちが跪くとは、確かにとんでもないな…フェルナンド殿は」
「いえ…フェルナンド様も確かに凄いのですが、それよりもイシス嬢です」
「あの少女がどうした?」
ジェンキンスらしくもない。
そんな、どこかぼんやりと遠くを見る目で話している場合なのか?
「あれほどの魔力の持ち主には…出会ったことがございません。圧倒的過ぎます」
「魔力?あのイシスという少女がか?」
「そうです。お気付きではありませんか?魔物が息を潜め隠れるように…全く騒ぎ立てていないことに。静か過ぎますよね?」
はぁ?魔物があの少女を恐れていると?
だが…確かに不思議だ。耳障りなあのいつものザワつきが…全くない。
まさか本当に?
私とジェンキンスは、今までにないこの状況をどう受け入れるべきなのか困惑しながらも…高揚する気持ちを抑えられないでいた。
「フェルナンド殿があの少女を連れてきた理由は、私たちを救うため…か。ならば、随分と…私は失礼な態度を取ってしまったな」
「イシス嬢が今後気分を害されないように、城の者たちには指導を徹底なさるほうがよろしいかと思います。お急ぎください!」
そこからは、ジェンキンスがフェルナンド殿の隣の部屋を新たに準備したり…とにかく慌てふためいていた。
──────────
『最強の戦士?本当に強い者は、弱い者を助け守るから強いのよ。あなたは違うわ』
政略結婚で私の妻となった女は、城で魔物討伐に全力を注ぎ、会話もなく食事も共にしない…子作りのための義務的な行為だけは求める…そんな私に、ある時そう言い放った。
弱い自分にも目を向け手を差し伸べろ…妻はそう言っているのだ。
そんなものはただの理想で、綺麗ごとではないのか?できるならとっくにそうしている。
周りは魔物だらけ…常に戦闘状態で昂ぶる精神は安まることがない。
帝国を守る戦士は、己の命を捨てる覚悟で戦っている。
誰かに守ってもらおうなどと、ここでは甘い考えだ。
そんな妻は…その命と引き換えにシルフィを出産した。
子が1人ではこの先立ち行かなくこともある…私が強く2人目の男児を望んだのだ。
魔物討伐を終え、城へと戻った私に届いた知らせは…女児の誕生と妻の死だった。
しばらくして、妻が生前書き記していた日記のようなものが見つかった。
そこには…私への恨みつらみがひたすら書き綴ってあった。
そうだろうなとは思っていたが…文字となった妻の言葉は…私の心を存外深く抉った。
私は後添えを娶ることはしなかった。
妻という存在について、私が何をどう感じようが…全て遅すぎた。
“最強戦士”といわれた私は、戦いの場以外では心に余裕のない…つまらない男だったのだ。
周りでは愛妻家などと間違った情報が出回っていたが、もうどうでもいい。
シルフィは魔物討伐では負けなし…軍神のような娘に育っていった。アレンと共に、飛龍の討伐にも果敢に挑んだ。
側近の男と人生を共にすると決めたところだったが…その矢先に飛龍の襲来を受けた。
帝国は守り抜いた。しかし…子供たちを守れなかった。
私はあの世でも…妻に合わせる顔がない。
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