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第3章
48話
しおりを挟む今は使用していない古い監視塔。高さはかなりある。
魔導具のレーダーを使うようになってからは、城と繋がっている見張り塔に切り替えられたため、使われていない。
度重なる飛龍の襲来で崩れている箇所もあるが、1番上まで登るわけではないから…。
塔の7分目まで登った辺りで、西側の入江を眺めると…何とか内側まで確認できそうな感じ。
マジックバックから双眼鏡を取り出す。
入江の内側は、海水により侵食されている。
地溝というのか…地層のズレによる窪みのような場所がいくつもある。
つまり、入江の内側の壁は穴だらけ。
「…何か…あるわ…」
一段と大きな窪みの中に、何かが見える。
「あそこ、少し光ってる。銀色?の…何だろう?」
「見せて。…ん?…何だ?…よく分からないな…」
フェルナンド様も首を傾げている。
私は、もう一度…しっかりと視る。
「文字…?…何か書いてある。えーと…あれは、バイセル王国の古代文字ね」
「古代文字?」
私は10歳のころ、バイセル王国出身の薬師に古代文字を少しだけ教わったことがある。
かなり前の話だけど、その時すでに古代文字は知る人がほとんどいなくて…国家機密の暗号などにも使用されていると聞いていた。
「もう使われていない、とても古い文字よ」
まぁ…文字が読めても読めなくても、私にはこの“眼”がある。
さぁ、何て書いてあるの?
『この龍の呪いは…愛する…ジュリーの、ために…』
…龍の呪い…
「あれが…あの禍々しいモノが、呪い?」
バイセル王国は飛龍を呪殺できるくらいだから、魔術と同じように呪術も使う…。
龍の呪いとは?どんなものなの?
ジュリーとは?一体誰のこと?
フェルナンド様も考え込んでしまっている。
ここまで距離が離れていると、これ以上詳しくは分からない。とりあえず…私たちは城へと戻った。
──────────
夕刻。
ガーラント辺境伯様とローウェン様に今日のことを報告するために、私たちは執務室へと向かった。
これも日課となっている。
「入江に行ったのですか?」
「はい。飛龍の襲来が増えたことについて、イシスは調査をしていました。
5年前にこの地を訪れたバイセル王国使節団は…調査対象になっていまして」
「つまり、船が停泊していた場所を確認してきたということなのか?」
「そうです」
フェルナンド様が今日の出来事を…話していく。
「え!そのようなことが?!フェルナンド殿、もうお身体は大丈夫なのですか?」
ローウェン様は、フェルナンド様の体調を気にしてくれている。実は…私もまだ心配。
「フェルナンド様を襲ったのは“龍の呪い”というものでした。入江には強い呪いを込めた何かが…仕掛けてあるのです」
辺境伯様が息を呑むのが分かった。
「…龍の…呪いだと?」
「えぇ。入江の内側ですし…船を停泊していたバイセル王国の仕業と見て間違いないですわ」
辺境伯様もローウェン様も表情が固い。戸惑いを感じていることが見て取れる。
バイセル王国がなぜそんな呪いを仕掛けたのか?全くわけが分からないのだと思う。
「実は…その呪いを込めたモノには、言葉が刻まれていました」
─この龍の呪いは、愛するジュリーのために─
言葉を聞いた辺境伯様が、ガタッ!と…突然立ち上がった。
急にどうされたのかと…フェルナンド様と私は、顔を見合わせる。
「っ…亡き妻は…妻の名は…ジュリエットというのだ」
え?ジュリエット?
「私は…妻の名を呼んだことなどなかったが、親しい者ならばジュリーと呼ぶのか?…どうだ…ローウェン」
「はい。…そうだと…思います」
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