前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy

文字の大きさ
13 / 215
第1章

13 魔導具と本

しおりを挟む


「ん?あれ…レイ…ヴン…?」



明後日には除籍の手続きが済むと聞いていたレティシアは、侯爵夫人が用意してくれた衣類や生活小物などを“引っ越し荷物”としてほぼまとめ終わったところ。


開かずの引き出しから出てきた魔導具と魔法石、それから…一番奥に入っていた一冊の本。
これも持って出て行くべきかと机に並べて思案中、変わった形状をした魔導具の隠れた部分に、うっすらと光り輝く銀色の小さな文字を見つけた。
二つが対になっている魔導具の両方に“レイヴン”と記されている。




──────────




「私物として扱えるものといえば、この三つしかない」


先ずは、家族に宛てた手紙が挟まっていた本。この本には、魔法や魔導具についての事柄が多く書かれていた。
内容は全て読めるし理解もできるので、役に立ちそうな気がする。ただ、不思議なことに本の文字が赤い。

次に、レティシアにしか扱えない魔法石。
国王と交わした『門外不出』の契約がある以上、貴重品として侯爵家の金庫に預けるしかないのだろうかと悩む。

最後に魔導具。魔導具と魔法石は、レティシアの中では所謂『セット商品』。
もし、今後も魔導具を使う可能性があると仮定した場合…魔法石が手元になければ困った事態に陥る。


(うーん…魔導具と本はいいとして、魔法石と映像問題をどう解決しよう)



    ♢



「…レイヴン…普通に考えたら、こんな場所に刻まれる文字はMADE IN JAPAN的な感じだけど、多分…ただの名前かな?」


そう思ったのは、二つの“レイヴン”という文字にわずかな違いがあり、手書きであるという印象を受けたからだった。


(魔導具は誰かの所有物?…かなり高価な品らしいし…“レイヴン”から一時的に借りたとか?)


「…っ…そういえば…」


レティシアは、机に置いていた本の裏表紙を手早く捲る。

この本をまだ最後まで読んでいないレティシアであったが、時折…印をつけているかのようにキラッとページの端が光っていたのを思い出した。


「あった!!!」


裏表紙を一枚捲ったところにその文字を見つけたレティシアは、これが名前であると確信して頷く。


(本に自分の名前を書くなら…やっぱりこの辺りよね。魔導具と本は“レイヴン”のもの。じゃあ、魔法石も?)



─ コン コン ─



「レティシア?」


軽いノック音と共に、侯爵夫人の声が聞こえる。
侯爵夫人はおっとりとした優しい女性。レティシアとは適度な距離を保っていて、遠い親戚のおば様といった雰囲気。


「どうぞ、お入りください」

「…失礼するわ。まぁ、もうすっかり片付いたようね。まさか一人で荷造りを?」

「はい。私のためにいろいろと品物をご用意いただきまして、感謝申し上げます」

「…それくらいは…させてちょうだい…」


侯爵夫人は寂し気な顔をしてそう言うと、レティシアが机に広げていた本に目を留めた。


「あ、今…本も持って行こうかと思っていたところだったので。そうだ、侯爵夫人はここに書いてある“レイヴン”という名前の人をご存知ではないでしょうか?」

「レイヴン?…一体どこに書かれているのかしら…?」


侯爵夫人は、レティシアが指し示す銀色の文字を探せない様子で…瞳をキョロキョロと彷徨わせる。


「あら、この本は帝国のものね。妃教育では帝国語も習っていたから、その時の教本かもしれないわ」

「帝国?帝国語は、また言葉や文字が違うのですか?」

「え?…えぇ…勿論そうよ」


侯爵夫人は少し首を傾げ、本棚から別の本を持ってきて並べて見せてくれた。


「ほら、こうして比べればよく分かるでしょう?文字は形も全然違うから」

「…あ、あぁ…ソウデスネ…」


(…形を比べるといっても…)


レティシアは少し曖昧な相槌を打った後、二冊の本の文字を改めて指でなぞる。
ルブラン王国の文字は黒色、帝国の文字は赤色。
転生者であるレティシアの目には、形など関係なく…日本語文字が国ごとに違う色で見えていたことが理解できた。
さらに、侯爵夫人には認識できない文字まで見えている。


(“レイヴン”って、魔法の文字なのかもしれない)


「さっき言っていた…レイヴン?…そのお名前は、帝国の大魔術師様だったと思うわ」

「えっ!…大魔術師…様?が…レイヴン?!」

「えぇ、どうしてそのお名前を知っているの?…確か、次の魔塔主様になるお方のはず…」

「…魔塔…主?」

「ルブラン王国には魔法を使える人が少ないけれど、魔法が盛んな国では、優秀な魔術師や魔法使いがたくさん魔塔に所属して活躍されていると聞くわ。そのトップが魔塔主。魔塔の顔となる、凄い実力者よ。帝国は、この大陸で最も大きくて強い国だから…雲の上のような存在かしらね」

「…雲の上…」


(な…何で?どうしてそんな有名な人と知り合いなの?!)



    ♢



「あっ、こうしてはいられないわ!」


レティシアが一人で頭を抱えていると、側にいた侯爵夫人が当初の目的を思い出したらしく…パンッ!と手を叩く。


「レティシア、今日は養護施設を訪問する日なのよ」

「養護施設ですか?」

「今のあなたには覚えがない話で…少し困惑するかもしれないわね。だけど、とても大切にしていたボランティア活動で、施設の子供たちもレティシアに会うのを楽しみにしているの。
今日は最後の日になるから…ご挨拶も兼ねて私も一緒について行くわ。心配しなくても大丈夫よ」

「ボ…ボランティア活動?」


(この世界にもあるんだ、ボランティア)


記憶のない状態で参加することに不安がないわけではないが、とりあえず…ワンピースで参加できそうだとレティシアはホッとする。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。 国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。 そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。 え? どうして? 獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。 ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。 ※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。 時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子
恋愛
自分によく似た攻略対象がいるからと、親友に勧められて始めた乙女ゲームの世界に転移してしまった雫。 けれど実は、自分はそのゲームの世界の住人で攻略対象の妹「ロゼ」だったことを思い出した。 その世界でロゼは他の攻略対象、そしてヒロインと出会うが、そのヒロインは……。 ※小説家になろうにも投稿しています

処理中です...