前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy

文字の大きさ
45 / 215
第4章

45 アルティア王国2

しおりを挟む


「国王陛下、お目にかかれて光栄にございます。レックス・アシュリー・ルデイア、ただ今無事に帰国いたしました」

「うむ。出立の際は知らせだけであったが、顔を見れて私もうれしく思うぞ。随分と久しぶりではないか?」

「…はい、大変申し訳ございません…」


厳かな雰囲気の謁見室、高台の玉座に座る国王クライスは、にこやかにアシュリーを迎える。
ラスティア国の大公になって以降、アシュリーはアルティア王国の王宮へ足を踏み入れてはいなかった。


「今回、私はラスティア国の者として初めて国外へ出ましたので…帰国のご挨拶とご報告にまいりました」


ゴードンは、報告書類一式を国王の側付き事務官へと手渡す。ルブラン王国よりも前に訪れた国の分も含め、二週間分の書類となる。


「ゆっくりと旅の報告を聞こう。別室を用意する」


国王は黄金の瞳を光らせ…ニヤッと笑う。
どうやら、レティシアを伴って帰国したという第一報が耳に届いているようだ。




──────────




「レイが不在の間は、叔父上が張り切っていたぞ」

「あの方は、まだ隠居なさるおつもりはありませんからね。お陰で私は自由にさせていただいております」


室内には国王クライスとアシュリーの二人きり。兄は弟を愛称で呼び、気兼ねなく話す。


「女性を連れ帰ったそうだな?」

「…やはり…ご存知でしたか…」

「入国担当者が血相を変えて飛び込んで来た、美人秘書官が結婚相手では?!とな。同行するかと思って楽しみにしていたのだが、なぜ私に会わせない?」

「彼女は、貴族や身分の高い者との接触を好まないのです」

「ん?…それはつまり、平民ということか?」

「…一体、何からお話をすればいいでしょう…」



    ♢

 

「…期間…限定…?」


話を聞いた国王は、残念そうにガックリと肩を落とした。


「同じ馬車に女性を乗せていたと聞いて、勝手に浮足立ってしまった。今ごろ、知らせを受けた父上たちが騒いでいるかもしれん。大事になる前に、私から一言伝えておこう」

「すみません…私も、レティシアを見つけた時は同じような感じでした。彼女が抱える事情を何も知らなかったもので…」

「…そうか…そうだよな、私たちよりもお前が一番…」


弟に気遣いを見せる心優しい国王に、アシュリーは申し訳なさそうな表情を向ける。


「ずっと女性を避けて生きるしかなかった私が、初めて興味を持ったのがレティシアなんです。彼女と触れ合い、会話をして…女性について考えたり知ろうとするだけでも、今の私には十分刺激になっています」

「確かに、大きな変化だな。そのレティシアという女性を側に置きたいのか?」

「はい。主従関係ではありますが、レティシアは特別で…私にとって大切な人です。この世界に慣れるまで、私なりに手助けをしながら彼女を守っていきたいと考えています。できれば、ラスティア国でずっと暮らして欲しい…そう強く望んでおります」

「ほぅ、彼女の幸せ優先ではあるようだが…さては、もうしっかり囲っているな?…ふむ…状況次第では“異世界人”として丁重に扱うことも、我が王国ならば可能だろう。もしかすると、聖女様と同じ世界の者かもしれんからな」


国王がレティシアの存在を認めれば、身分に関係なく最上級の待遇を受けることができる。王国領内での暮らしやすさは、他国の比ではない。


「陛下のお心遣いに、感謝申し上げます」

「彼女も、レティシアという殻に籠もるより“異世界人”として好きに生きるほうが楽ではないのか?」

「…それは…私の口からは何とも…」


普通は、より優遇されるほうへと気持ちが流れていくものだが…レティシアの価値観はアシュリーにもはっきりとは読み取れない。


「先ずは、彼女を聖女様に引き合わせたいのですが」

「確か、今朝から東の結界を張り直しに出掛けると聞いたな…もう夕刻だ、間もなく戻っていらっしゃるだろう」


アシュリーは“聖女様との面会許可”を手に入れ、レティシアの待つ部屋へと急いで戻った。




──────────




「何だ?…この可愛らしい生き物は?」


窓際に置かれたソファーに寝転がり、丸まってスヤスヤと眠るレティシアの無防備な姿に…アシュリーの心の声が漏れ出た。

胸に真っ白なぬいぐるみを抱きかかえ、フワフワした毛に顔を埋めている。その幼い寝顔は天使のよう。『急いで帰って来たのに』と文句を言いながら、眠るレティシアの髪に触れるアシュリーの口元は緩んでいた。


「殿下、お帰りなさいませ」

「あ、あぁ…今戻った。チャールズ、レティシアはどうしてこうなったんだ?」

「それが…庭で突然クオン様が飛び出して来られて…」


“クオン様”と聞いたアシュリーが、レティシアの胸に抱かれている真っ白なぬいぐるみに視線を移す。
ぬいぐるみの正体は“神獣クオン”、白い虎の姿をしている。



    ♢



「あっ、クオン様!」



─ ぺシッ!ぺシッ! ─



ムクリと起き上がった神獣クオンは、レティシアの髪を撫でていたアシュリーの手を『邪魔だ』と言わんばかりに…白い前足で何度も叩く。


アシュリーとチャールズは、王国の護り神である神獣を前に跪く。
クオンは二人をチラリと見ただけでプイッとそっぽを向き、レティシアの頬を前足でプニプニと押し始めた。

レティシアにしか興味がない様子に、アシュリーとチャールズは顔を見合わせ…ソファーからそっと離れる。


「…ぅん…くすぐったい……や……ん?」


ようやく目を覚まし、ノロノロと身体を起こしたレティシアの膝の上へ、間髪を入れずクオンが乗っかった。


「あれ…私寝てた?」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。 国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。 そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。 え? どうして? 獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。 ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。 ※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。 時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子
恋愛
自分によく似た攻略対象がいるからと、親友に勧められて始めた乙女ゲームの世界に転移してしまった雫。 けれど実は、自分はそのゲームの世界の住人で攻略対象の妹「ロゼ」だったことを思い出した。 その世界でロゼは他の攻略対象、そしてヒロインと出会うが、そのヒロインは……。 ※小説家になろうにも投稿しています

処理中です...