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ラスティア国

77 秘書官レティシア

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五人の従者sは、基本的にアシュリーの住まう邸で生活をしている。それが、アルティア王国でもラスティア国でもずっと変わりはない。


妹のロザリーがいるルークだけは、アルティア王国に来た当初…ラスティア国でクロエ夫人の世話になり、ロザリーが新生活に慣れるまで兄妹一緒に住んでいたという。
公爵夫妻と馴染みの深いルークは、今回、レティシアの護衛担当として公爵邸に住まいを移し、再び妹と同じ屋根の下?で暮らすことになった。

レティシアの新しい住まいを整えると同時に、自身も引っ越しを余儀なくされたため、ルークは疲れた顔をしていたのだ。

実際に引っ越し作業をしたのは、魔法の得意なカリム。
カリムはカリムで、アシュリーから指示を受けて宮殿で忙しく動いていたと聞く。


(いくら魔法があるといっても、それなりに手間はかかる)


そもそも、他国を周っていたアシュリー一行に、新しい秘書官を連れ帰る予定などはなかったはず。
アシュリーに誘われ、異世界人の“聖女”に会いたい一心で急遽王国へとやって来たレティシアは…従者sから見れば『お荷物』の『役立たず』でしかない。


「…はぁ…」


申し訳なさに、ため息が出た。




──────────




「…何もない?……共寝したんじゃ?」

「馬鹿おっしゃい、私がいつ?」

「昨夜。ロザリーが俺の部屋に飛び込んで来て…半泣きになってたぞ?」

「ちょっと誤解があっただけよ。今朝、私からちゃんと伝えたわ。殿下は、用事が済んだらお帰りになったの」

「用事?…抱き合うことか?」

「だっ、抱き合ってなんか……もう、しつこいっ!」

「…ロザリーが…ひどく気にしてる…」


(…ルーク…まさかと思うけどシスコンなの?…いや、シスコンだな。ロザリー可愛いもんね)


朝から『護衛だ』と張りついて、昨夜の出来事を根掘り葉掘り聞いてくると思ったら…と、レティシアは項垂れる。


「本当に殿下とは何もない。心配しなくて大丈夫よ」


“兄とは、妹を溺愛する生き物”
それを身を以て知っているレティシアだが、これ以上ルークがシスコンを拗らせないよう神に祈った。



    ♢



昨夜のアシュリーは、ラファエルの身体と逞しさがどう違うのかを見比べて欲しかったらしく…トンチンカンな行動に出てレティシアを大いに困らせた。


王族は、ほぼ全裸の状態から服を着せて貰うなど…身の回りの世話を他人に任せる身分。
幼少期からそんな世話を受け続ければ、最終的に従者の前で肌を晒すことに羞恥心はなくなる。

しかも、レティシアはアシュリーの上半身(背中)をすでに見たという前科・・持ち。アシュリーの怪我を心配して確認した時には全く躊躇しなかったレティシアが、まさか叫び声を上げるとは…思ってもいなかったのだろう。

あそこまでフリーズしたアシュリーを見たのは初めて。何だか可愛くて、可哀想で?…怒れなかった。


(もーーっ!殿下のほうがいい筋肉してましたよっ!!)



    ♢



今日は“秘書官”として初の出勤・・日。

ブツブツ煩いルークを案内人として伴い、緊張感ゼロのまま長い廊下を歩き続け…レティシアはいつの間にか『秘書官室』の前を通過、建物の突き当り近くまで来ていた。


「あ、レティシア…秘書官。おはようございます」


背筋をピンと伸ばしたカインが、壁を背にして涼し気な顔で廊下に立っていた。カインの隣には見知らぬ騎士がもう一人、レティシアは軽く二人に会釈をする。

『大公殿下の秘書官』ともなると、むやみにペコペコ頭を下げていてはいけないらしい。(ゴードンの教え)


「イグニス卿、おはようございます。お仕事中ですか?」

「そう。だって…ここは、大公殿下の執務室前だし?」

「えっ?ちょっと、ルークさん。私の秘書官室は他の方たちと別になっているから、そこに連れて行ってくださると仰っていませんでした?」


レティシアは、ルークをジロリと睨む。


「「…ここだよ…」」


カインとルークが同時に執務室を指差し、レティシアを見る。


「……冗談よね?」




──────────




執務室内にも、扉の左右に騎士が二人無言で立っていた。

立派な応接セットが並んで二つ、事務机、ドッシリとした大きな執務机…の上には、二週間不在の間に溜まった『大公承認待ち』の書類が山積み。


「レティシア…おはよう、待ってたよ」


執務机に座ったアシュリーが、書類の山の影からヒョイと顔を出す。


「…おはよう…ございます、殿下。本日より、よろしくお願い申し上げます」

「あぁ、頼んだよ。今日は初日だから様子見でいい」


別に、熊の敷物や鹿の剥製を期待していたわけではないが…無駄なものは何一つ置かず、室内の壁面はギッシリ本の詰まった本棚だらけ。シンプルの一言。

窓が少なく、広い部屋の中心まで自然光が届かないため、魔法の灯りで補っている。
それが逆に厳かな執務室を演出しているかに思えた。
調度品やカーテンは落ち着いた色調で揃えられ、全体的にノーブルな雰囲気。


「とても素敵な…執務室ですね」


アシュリーの香りが染み付いている部屋だからか…レティシアには非常に心地いい。


「そうか?ありがとう。レティシアはこの隣の部屋、というか…続き間に近いかな?そこを使って」

「隣?続き?って…ここと…繋がっているんですか?」

「まぁ、見てみるといい。その扉から行けるから」


アシュリーは、本棚と本棚の間にある扉を指し示した。











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