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第7章
92 感謝祭(前日)2
しおりを挟む「わぁっ!綺麗な色」
サオリが用意したドレスは、レティシアの瞳の色と同じ瑠璃色をしていた。
大人っぽいビスチェに、ふんわりとボリュームのあるスカートを組み合わせたシンプルなドレス。ゴテゴテと飾りつけた派手さはなく、裾に向かって広がるスカートのシルエットがとても美しい。
「この神聖な青色は、アルティア王国では黄金色の次に高貴な色とされているのよ。レティシアにピッタリだわ」
スカートの布地を手に取って見てみると、色味と長さが少しずつ違う生地を何層も重ねてあり、角度や光によって深い青色が鮮やかにその表情を変化させる。
上半身のビスチェ部分は、落ち着きのあるやや紫っぽい青色。硬めでしっかりとした艶のあるベロア素材には細かな宝石が散りばめられ、ザックリ広めに開いた胸元と背中はかなり衝撃的。
「ささっ、着てみましょう!皆、準備して!」
サオリが軽く手を叩くと、どこからともなく数人の女性たちが現れた。レティシアはあっという間に裸に剥かれ、恥ずかしいと言う暇もなく着替えが終了する。
「とてもお綺麗ですわ!」
「色白で、濃いお色が映えますわ!」
「お胸が…スタイル抜群でいらっしゃいますわ!」
少々興奮気味な女性たちが次々と賛辞を口にする中で、レティシアは背中を丸くして青ざめていた。
「サ…サオリさん…私、無理…無理です…」
「え、えぇぇ?…レティシア、大丈夫?私に見せて?…ねっ?」
涙目で訴えるレティシアのあまりの狼狽ぶりに、自信作のドレスにどんな不具合があったのかとオタオタしたサオリは、一旦女性たちを室外へ下がらせる。
「…胸が…見え過ぎています…」
小刻みに震えるレティシアが両手で覆い隠していた胸元から手を外すと、V字に深く切り込みの入ったビスチェに収まり切らない豊かな胸の膨らみがはみ出していた。
「レティシア、これでいいのよ?」
「……え?」
(なぬ?)
ホッと息をつくサオリとは対照的に、レティシアは口を開けたまま固まる。
「王宮主催のパーティーに招かれるのは、伯爵家以上の貴族。皆、ある程度の魔力量を持っているわ。基本的に、女性で夜会へ招待されるのは18歳以上の成人した令嬢たち」
「………?」
「つまり、早熟で育ち切った18歳以上の女性ばかりが集まるってこと。王宮で催される規模の大きなパーティーは、婚約者の決まっていない令嬢にとって結婚相手を探す絶好の機会。若い子たちは自分の美貌と色気を猛アピールするの。たとえ婚約者がいても、胸なんて大概半分は見えちゃってるわよ?」
「…っ…?!」
レティシアの開いた口の奥で、ヒュッと音が鳴った。
「感謝祭は二日間、正確には一日半くらい。明日は一日目の夜会。前夜祭みたいな感じで、食事や会話、男女が交流を楽しむ…どちらかというと大人の会よ。ドレスは華やかさに加えて、自分の魅力や個性をより引き立てるものを身に着けるわ。踊らないから、際どいドレスもオッケーなの。
二日目はダンスパーティー、舞踏会ね。一日目に着るドレスとはガラリと印象を変えて、ダンスをしながらいかに目立てるかが勝負」
レティシアは、明日の一日目のみ参加をする。サオリの話から、この大胆なドレスが夜会に適しているということは理解したものの、自分が着るとなれば別問題だ。
「…胸のところは…ちょっと…」
「何を言っているの、早熟な令嬢たちにもレティシアの胸は負けていないわよ!」
(私が気にしているのは、胸のサイズではありませんっ!)
♢
レティシアの白くて華奢な首元を飾るのは大きな宝石が煌めく首飾り、真っ直ぐな鎖骨のラインを邪魔しないようコルセット状のビスチェには肩紐や袖がない。しかし、それが心許ないとレティシアは半泣きになっていた。
トルソーに飾られた素晴らしいドレスをただ眺めるのと、実際に身に纏うのとでは大違い。
(試着って、めちゃくちゃ大事!)
どんなにスタイルがよくても、背中を丸めていては勿体無い。胸を張って堂々とお披露目パーティーへ参加して貰いたいと願うサオリは、ドレスの手直しを始める。
衣装担当の女性たちを再び部屋へ呼び込むと、レティシアの肌色に合わせたソフトなチュール生地をビスチェの胸元から継ぎ足し、ホルターネックへと作り変えていく。
肩や背中の露出は敢えて残し、一番気になっている胸だけを優しく隠す。サオリの指示を受けた女性たちは、それぞれが扱う魔法を駆使してドレスを仕上げていった。
「これなら、上品な透け感もあって悪くないわ。首のバンド部分はビスチェと同じ素材で、そうね…少し幅を太くして、首飾りをやめる代わりにそこへ宝石をたっぷりつけましょう。宝石を見せて。あ、耳飾りはもう少し大きいものに変えて…」
サオリは、女性たちにテキパキと自分のイメージを伝える。テーブル上には、眩しい宝石や装飾品がズラリと並んだ。
「レティシア、どうかしら?」
「気にならなくなりました…薄い布一枚でも、すごく効果があるんですね。ありがとうございます」
「よかったわ」
「…サオリさん…背中がスースーします…」
「え?」
やっと背筋を伸ばして立つようになったレティシアが、今度は後ろを気にし出す。
「このドレスは特にバックスタイルを見せるものなのよ、うーん…明日は夜会だから、全部隠すのは相応しくないかもしれない」
「…そうなんですか…」
「レティシアはまだ17歳、許されるけれど…ううん、せっかくのお披露目…ここはやっぱり…」
「聖女様の妹君様は、本当に可愛らしいお方ですね」
「…エメリア…」
一人葛藤するサオリに声を掛けたのは、手伝う女性たちの中で最も年長者の側仕えエメリア。
「初めてのパーティーが夜の装いでは、戸惑われるのも仕方がございませんわ。聖女様、妹君様は御髪が短くていらっしゃるので、腰辺りまで長く伸ばされてみてはいかがでしょう?お顔が小さいですし、髪を全てアップにせず、背中側を下ろしたヘアスタイルでもよろしいかと思います」
「髪で背中を自然に隠すってことね…長い髪は貴族たちにも受けがいいから、そうしましょう!そうすれば、ドレスはそのままでもレティシアの希望はちゃんと叶うわ。ありがとう、エメリア」
「とんでもございません。魔法使いをお呼びしますか?」
「いいえ、今はまだレティシアを外部の者に会わせたくないの。髪を伸ばす魔法薬を準備できるかしら?」
「勿論でございます」
(わぁぁ…よかった!)
──────────
「ドレスのデザインは、サオリさんにお任せすると言っていたのに…すいません」
明日のレティシアのコーディネートを完璧に作り上げたサオリは、甘い菓子と紅茶で休憩中。大きな仕事をやり遂げ、これで感謝祭に集中できると胸を撫で下ろす。
「構わないわ、レティシアには気に入ったドレスを着て欲しいもの」
「本当に素敵なドレスをありがとうございます。ルブラン王国のものとは違って、とても軽いですね」
「ドレスって、多少重みがあったほうがスカートの動きや流れが美しい場合もあるのよ。だから、皆自分好みに魔法で調節する」
「…いいなぁ…魔法…」
「今回は、先に布へいろいろな魔法をかけておいたわ。ルブラン王国では、一体どんな重いドレスを着ていたの?」
「私は、国王陛下から呼ばれた時に正装しただけです。あの一回きりでへこたれました。侯爵令嬢だった現世のレティシアは、いつも胸にサラシを巻いて…ドレスは首元の詰まったものしか着なかったそうです」
毎日ネグリジェやワンピースで自由に過ごしていたレティシアは、カミラから突然サラシを巻くように言われたあの日…事情を知って愕然とした。
「胸をわざと潰して…?」
「はい、元・婚約者は女体にしか興味のない変態でした。目をつけられたくなかったんだと思います」
「まさか…そんな息苦しい生活をずっとしていたというの?…お可哀想に…」
サオリは、レティシアの手をそっと握り締める。
「やっぱり…もう少し胸を出してみない?レティシア」
「絶対に嫌ですっ」
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