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ラスティア国2

143 大公邸 ※少々残酷な描写があります

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「「お帰りなさいませ!」」


離宮から公爵邸へ魔法陣で移動し、レティシアの部屋の前まで辿り着くと、ルークとロザリーの兄妹が待ち構えていた。


「ただいま」

「出迎えご苦労。…ロザリー、これを…」


アシュリーは、帰り際にヴィヴィアンから受け取った土産の菓子をロザリーに手渡すと、何やらコソコソと耳打ちをしている。


(…んんっ?)


チラッとこちらを見たロザリーの目が…弧を描いたように思えた。




「殿下、先程クロエ夫人がお見えになりました」

「叔母上が?」

「殿下にお渡しするよう…公爵閣下が、夫人に頼んでいたという書類をお預かりしております。…どうぞ」


アシュリーはルークが手にしていた封筒を受け取り、中身を確認する。


ユティス公爵は、茶会へ出かけるアシュリーの代わりに現在宮殿で仕事中。
『執務は任せておけ!』とのことで、アシュリーは朝から晩まで一日休日となっていた。


「…この後、邸へ戻る。ルーク、ゴードンたちにも一度戻るよう伝えておいてくれ。お前はレティシアの護衛を他の者に引き継いでから、大公邸へ来るように」

「はっ!」


(何か…急な知らせかしら…?)


フッと小さく息をつくレティシアの様子を見たロザリーは、部屋の扉を静かに開ける。


「レティシア様、お部屋でごゆっくりお寛ぎくださいませ」

「えぇ…ありがとう、ロザリー」


アシュリーに手を引かれて部屋に入ったレティシアは、ソファーに座った途端…ズシリと身体が重くなった気がした。


「…急に、気が緩んじゃいました…」

「慣れない茶会で疲れただろう……っと、レティシア?」


隣へ腰掛けたアシュリーに、レティシアはピタリと寄り添ってしなだれかかる。


(…今日は、もうこれで会えないから…)


恋人は忙しい一国の主、一日中一緒にいられると思っていたわけではなかった。それでも…今すぐに離れるのがほんの少し寂しい。

爽やかな魔力香を胸一杯に吸い込んで充電していると、アシュリーが器用に髪飾りを外し、解いた髪を優しく指で梳きながら…大きな手で頭を包み込んでマッサージをし始める。


「…わっ…気持ちいい…」


いつも髪を束ねている彼は、自分の頭もこうしてマッサージしているのだろうか?と、レティシアは勝手に想像してしまう。


「緊張が続いて、全身が凝り固まってしまったな」


アシュリーは、胸元にすがりついて甘えてくるレティシアが愛しくて堪らない。
世話を焼くその表情は、幸福感に満ち溢れている。


「私、ドレスやハイヒールに慣れていないので…。
緊張しましたけど、お茶会は初めてで楽しかったです。ヴィヴィアン様は、とても素敵なお母様ですね」

「穏やかでいて強い、父上の最愛の女性ひとだ。私は、昔から母上を泣かせてばかりだが…」


(でも、涙はうれしくても出ますものね?)


アシュリーが茶会で突然レティシアを抱き締めた時、ヴィヴィアンは歓喜の涙を流していた。
素直に愛情表現をするアシュリーの姿を見て、ひとしきり泣いた後…『今幸せなのね』と、愛する息子の頬を撫でながら微笑んだ。


「父上と母上に、私たちが恋人だと報告することができてよかった。これで、正式に公認となる」

「公認の恋人?」


レティシアがアシュリーの顔を見上げると、マッサージの手を止め…黄金色の瞳をキラキラさせて頷く。 


(眩しい!…不思議と不安も吹き飛ぶ気がするわ)


「私は一旦邸へ戻るが、夜にまたここへ来るつもりでいる。その時に詳しく話をしよう」

「…夜に?……んっ」


アシュリーはレティシアの頭を抱えたまま、チュッチュッと…何度も唇を啄む。


「今夜は剣術の稽古を休んで、私とゆっくり“混浴”をしないか?君の疲れた身体を揉んで…解してあげたい」

「……エッチなこと考えてません?」

「…………考えてる」




──────────




「…実は、この邸に手を入れる必要が出てきた…」


普段あまり使われていない大公邸の広い執務室内で、真剣な顔付きの主を前に…五人の従者たちは目をパチクリとさせている。



アシュリーがルークから受け取った書類は、全てレティシアを大公邸に迎え入れるための準備に関するもの。
仕事人間のユティス公爵とはいえ、流石に昨日の今日では全ての資料を揃えられない。
大公妃云々…ということはさて置き、特に早く手をつけるべき作業について詳しく纏めた資料だった。

素早い対応に応えるべく、相談をしたアシュリーも“大公邸の改革”を始動、クロエ夫人作成の『やることリスト』を手にして読み上げながら説明をしていく。


集まった従者sは、時折顔を見合わせながら聞いていた。



ゴ)「なるほど、女性の使用人を雇う準備を進めるのですね。殿下のご決断は、大変素晴らしいと思います」

「ゴードンには何かと動いてもらわねばならない。よろしく頼む」

ゴ)「お任せください」

マ)「女性がいると邸が華やぎますから、私も大賛成です」

「そうか」

チ)「とうとう女人、ですね!ありが…あっ、いえ…おめでとうございます」

「…皆には、長く苦労をかけたと思っている。すまない」

チ)「と、とんでもございません」

ル)「私は公爵邸に住んでいますので、変わりない…ということでよろしいのでしょうか?」

「今のところは…まぁ…そうだな」

カ)「あの…女性使用人との恋愛は、許されますか?」

「「「「…カリム…」」」」



「宮殿でも同じだが、恋愛をするなとは言わない。皆、分別のある行動ができると信じている。
ただ、報告はしてくれ。お前たちが幸せになるのなら、それは私の喜びでもあると…忘れないで欲しい」

ゴ)「有り難いお言葉をいただき、うれしい限りです。我々従者は、殿下の幸せを一番に考えております」


ゴードンの話に、従者たちは皆大きく頷いた。



    ♢



「それで、ゴードン…私に話とは?」


今、アシュリーとゴードンは執務室に二人きり。


「殿下、ルブラン王国の件なのですが」

「…ルブラン…何か新情報が?」

「はい。最近のルブラン王国では、貴族の馬車など…主に金品を狙った襲撃事件が、相次いで起こっていたのです」


トラス侯爵家の取引先となる商店の荷馬車が狙われたことをきっかけに、トラス侯爵は王国騎士団の小部隊に盗賊の討伐をするよう強く働きかけた。

その結果、騎士団は大きな盗賊団の一味のねぐらを突き止め、奇襲をかけて一網打尽にし…壊滅に追い込む。


「強盗、強奪、強姦、殺し、何でもする…かなり極悪な破落戸の集まりだったようです。
その盗賊団の中に…行方知れずになっていた、フィリックスとアンナがいました」

「…っ何?!」

「大所帯の盗賊団で、全員を取り調べるまでかなりの時間がかかったと思われますが…捕まった先が王国騎士団ですから、やはり元王子だと誰かが気付いたようですね」

「つまり…二人は盗賊たちに家を襲われ、攫われていたのか…」

「そうです。フィリックスは雑用や食事係くらいの役にしか立たず、奴隷同然の扱いを受けていたと見られています。
アンナは…男たちの慰み者になっていました。…アンナと同じ目に合っていた女性は、他にも数人いたとか」


アシュリーは両手で顔を覆った。
盗賊が凶悪な犯罪者であると知っていても、話を聞いただけで胸が悪くなる。


「…攫われてからもう二ヶ月近い…何て酷いことだ…」

「男爵家が捜索した程度では、見つからなかったでしょう。
被害者と断定された上で、身元引受人はパーコット男爵になるようですが、おそらく二人共医療施設行きです」

「…いくら街外れに住んでいたとはいえ、山奥でもないのに…平民の家を盗賊団が襲ったのか…?」

「女欲しさに無差別に狙ったとも考えられますし、フィリックスが『元王子』だと言いふらして、金品を奪われたのかもしれません」

「第三側妃に匿われているなどと…噂とは、本当にアテにならないものだな…」

「少し、動向を見守りますか?」

「…あぁ…頼む…」

「殿下、もう一つ。トラス侯爵家の後継ぎ、レティシアの兄ジュリオンが、近く…旅に出るという話があります」

「旅?…何処へだ?…まさか…」

「その、まさか…です」









────────── next 144 罪

本日の公開が遅くなり、大変申し訳ありません。










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