前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy

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第13章

188 刻印の儀3

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レティシアを抱えて寝室に入ったアシュリーは、締めた扉を背にして足を止める。


「ここが、今夜…二人で過ごす部屋だよ」


明るい廊下から一転、広い室内は少々薄暗い。所々に配置されている煌びやかであろう調度品類が控えめな灯りの中で鈍い輝きを放つ儀式の間は、清閑にして穏やかだった。


「…あっ…あれって流れ星…?」

「うん」

「…わぁ…」


目を丸くしてポッカリと口を開いたレティシアが、数回大きく瞬きをした後にスンと鼻をひくつかせる。アシュリーは、そんなレティシアの様子を見逃すまいと…抱き上げた腕に力を込めてじっと窺う。


(…まるで、プラネタリウムだわ…)


高い天井は一面夜空と化していて、そこへ無数の星屑が目一杯散らばっていた。屋内だというのに、星の粒がチカチカと点滅し、時折流星まで現れる不思議な光景に、レティシアは求婚を受けた日の満天の星を思い出す。
この星空の演出は機械的に天井へ投映しているわけではなく、きっと魔法なのだろう。


「刻印の儀は、こういった趣向で行われるの…?」

「…いや、そうではない…」


本来ならばレティシアの身支度と同時に刻印の儀の準備をすべきところ、昨日全てを済ませていたアシュリーは短時間で最終確認を終えていた。期待と喜びに膨らむ想いを抱え悶々と待ち続ける間、さらに室内へ手を加える。
儀式のために整えた別荘の寝室は、大公邸より広い。少しでもレティシアが落ち着いて過ごせるようにと、照明の調整に拘って思い出の星降る夜を魔術で再現した。


「レティシアの好みには合わなかったか?」

「ううん、とっても素敵よ。ただ驚いて」

「儀式を王宮で執り行う場合、既定通りの進行以外は認められない。王宮内は監視の目もある…王子であれば習わしに従っただろうが、今の私は大公で、ここは公爵家の別荘だ。正しく魔法呪文を唱え領域を占有できていれば、後は正式な儀式の流れに添うだけでいい。多少自由にしても構わない…そう、叔父上が私に教えてくれた」

「…公爵閣下が…」

「だから…まぁ、要は…気に入って貰える部屋にしようと思ってだな…」


(…私のために、ここまで手の込んだことを…?)


皆まで言わせるつもりかと、口を閉ざしてしまったアシュリーの首元にレティシアは頬を擦り寄せる。途端に、彼の喉仏が忙しなく上下した。


(あ、殿下の香りがまた強くなったみたい)


アシュリーが毎日を過ごす私室や執務室でもないのに、寝室には濃い魔力香がこれでもかというくらいに充満している。部屋の隅々まで魔力が行き届いて、特殊な魔法がしっかりと施されている証でもあった。

刻印の儀は、男女が契りを交わす儀式。愛を確かめ合う行為なのだから、緊張や恥ずかしさはあっても怖くはない。心地いい空間で、大好きな人の香りに包まれて初夜を迎えられることを…レティシアはこの上なく幸せに思う。



    ♢



部屋の真ん中にドンと置かれているのは、天蓋付きの大きなベッド。その回りの床がうっすらと円形に発光して、陽炎のように光が立ち昇り揺らめいて見える。上から星が降り注ぎ、下からやんわりとスポットライトを浴びるその場所が、神聖で特別なものに思えた。
つがいであっても、神の審判は必ず通過しなければならない。アシュリーの伴侶となる許しを得るために、これから大切な儀式を行うのだと実感する。

アシュリーはレティシアをベッドへそっと座らせて、自分は床に跪いた。


「…レティシア・アリス…」

「はい、殿下」

「今宵、私…レックス・アシュリー・ルデイアは、貴女に刻印を与える」

「…私は…レティシア・アリスは、刻印を謹んでお受けいたします…」


予め決められた儀礼的な詞を述べるだけだというのに、堅苦しい物事に不慣れなレティシアの声はかすかに震えている。初々しい恋人の姿を見つめる黄金色の瞳の中心が、鮮やかに赤く光った。


「この儀式で私たちは身も心も結ばれ、互いの存在を魂に刻み込み深く繋がる。私は、レティシアを生涯愛すると言った誓いを絶対に破ることはない…永遠にだ…」


(…永遠…)


至誠溢れる言葉と男らしい低音の声に胸がキュンとして、心臓のドキドキは今や指先にまで脈打って響いている。
アシュリーは、そんなレティシアの手のひらに優しく唇を当てた。これは、触れ合いたい…愛してもいいか?と問うもので、儀式への最終的な同意を求めているのだ。
レティシアはぎこちない動きでアシュリーの長い前髪を掻き分け、前屈みになって額にキスをして返す。

こうして、奥ゆかしく刻印の儀は幕を開ける。




──────────
──────────




華奢な身体に純白のナイトドレスを纏ったレティシアは、女神の如く清廉で気高く、妖精のように儚げ。ガウンを脱がせたアシュリーは目が眩む思いをした。


「…あ…あんまり見ないで欲しいの…」

「それは、できない約束だな」


露出した足を重ねてモジモジと身を捩るレティシアを引き寄せ…膝の上へ横抱きにすれば、か細い身体は相変わらずの軽さ。薄布を通して柔らかな肌の感触と温もりが生々しく伝わって来る。


「…じゃあ…殿下もガウンを脱いで…」

「私を丸裸にするのか?」

「まっ…あっ、だ…駄目駄目駄目…まだ…駄目ぇ」


ちょっとからかっただけで頬を染めて照れる様子が可愛くて、紺碧の瞳を潤ませながら『駄目』と子供みたいに繰り返す愛らしい唇を…アシュリーは強引に塞いだ。



    ♢



延々と止まない口付けに翻弄され続けたレティシアは、咥内を掻き乱す舌が離れた隙に堪らず喘ぐ。


「…はぁ…ぁ…んっ……でん…かぁ…」

「……っ……」


色っぽい吐息と舌っ足らずな呼び声は、つがいの甘い香りをたっぷりと嗅いで高揚した感情に刺激を与え、一瞬で全身の熱い血を燃え上がらせる。すぐにでも身体を繋げてしまいたい…強欲で淫靡な思考が頭を擡げた。
『肉欲に支配されるな』『閨の手順を全うしろ』と、アシュリーは自分の理性に懸命に語り掛けて奮い立たせる。

気付けば、レティシアが腰に跨って大胆な格好をしていた。ナイトドレスの裾からスラリと左右に伸びた太腿も丸見えだ。アシュリーは誘われるようにレティシアの首筋や鎖骨へ舌を這わせ、肌触りのいいドレスの布地を熱っぽい手つきで撫で、ゆっくりと丁寧に胸を愛撫していく。


「……ふっ……んぅ……」


女性らしい曲線をなぞる度に、声を抑えた切ない息遣いが耳に届いて、アシュリーの下半身が痛い程に反応する。すでに硬く勃ち上がった欲望の塊が下穿きを持ち上げ、その存在感は最早ガウンでも隠しようがない。
レティシアが恥じらいを捨て去り、感じるままに肉体を解放するよう導いてやらなければ、そそり勃つ長大なアシュリー自身を受け入れては貰えない気がした。


「…脱がせてもいいか…?」


布越しに触れる…ふっくらと盛り上がった胸の先が、ツンと尖り始めているのは気のせいではないだろう。
コクリと素直に肯くレティシアのナイトドレスのリボンを一つ、二つと解いて、四つ全てを開いた時…レースの生地は磨き上げられた艷やかな肌から呆気なく滑り落ちた。


「……綺麗だ……」


アシュリーは小さく感嘆の声を漏らし、目を細めてレティシアを眺める。寝室に施した魔術の発動に伴う明光を浴びた天蓋幕の中で、朧げな明かりに包まれた裸体は何とも神々しく美しかった。

細く括れた腰から脇へ向かって素肌に指先を滑らせれば、自慢していたモチモチ肌の弾力がよく分かる。触れただけでも敏感に感じて身悶えるレティシアからは、むせるような芳香が漂う。情欲をそそられたアシュリーは、目の前で踊る真っ白な双丘の頂に思わず吸いついた。


「……ふぁっ!……っ……」


室内に大きく響いた自分の声に驚いて、きつく唇を引き結んだレティシアの焦りと葛藤などお構いなしに、アシュリーは口に含んだ胸の先端をねっとりと舐めしゃぶり、甘噛みし、舌先で転がすことに夢中になっている。

盛った雄の匂いが混ざった魔力香は、レティシアにとって性的な興奮を促す媚薬そのもの。濃厚で密な触れ合いが、感度の高まったレティシアをトロトロに溶かす。
執拗なまでに胸を交互に弄られ、下腹部の奥がジンジンと痺れて疼きが収まらない。得も言われぬ快感に、喉の奥を鳴らして嬌声を上げるしかなかった。


「…ンッ……ゃっ……あぁっ!!…」


アシュリーが口と指で胸先を同時に可愛がった瞬間、甲高い声と共にレティシアの身体が大きく跳ねる。背を仰け反らせて小刻みに肩を揺らしたかと思うと、そのままふにゃりと脱力した。


「…達した…のか…」


小さな唇を半開きにしてまどろむレティシアの表情は、蠱惑的で恍惚としている。
しっとり汗ばんで薄ピンクに色付いた肌を抱き締め、アシュリーは誇らしさと戸惑いが半々の複雑な笑みを浮かべた。強い快楽の余韻に浸るレティシアの頬を愛おしそうに撫でて、そっとベッドへ横たえる。


「…そんな蕩けた顔をされては…加減ができない…」


逸る気持ちを抑えながらガウンを脱げば、火照った胸筋が鼓動に合わせて振動し、獰猛な欲棒はさらに凶暴さを増して…早く窮屈な下穿きを取り去れといきり立っていた。










────────── next 189 伴侶の証

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