4 / 6
4.
しおりを挟む『川は此岸と彼岸の間に横たわっている。
橋は此岸と彼岸を繋いでいる』
探偵は私には分からない事を呟いた。
「どうして彼女がその犯人だと思うんですか? 私かも知れないじゃないですか」
探偵は続ける。
「あの橋から遺棄されたのは早い段階で特定できました。
次はそれを行ったのは誰かと云う事になるんですが。
容疑者として二人の人物が浮かび上がりまして。
捜査令状出すにももう少し判断材料が欲しいと云う事でしてね。
探偵の真似事を頼まれました」
探偵は脚と腕を組み替えて自分の凭れているソファに深く沈み込む様に座り直した。
「あの橋の辺りは繁華街からも住宅街からも離れています」
私たちのアパートはだから安かったんだ。
二十歳を過ぎて親にそろそろ自立しろと言われ、卒業してからで良いじゃないかと食い下がる私に、あんたはそんな事言ってずっと家に居そうな気がすると半ば強制的に追い出され、落ち着いた先は仕送りはそれなりにしてくれる事を約束してくれたが、それなりだったので安価な場所を選んだら、必然で繁華街からも住宅街からも離れた場所になった。
その近くにあの橋はあった。駅へ行く道と逆方向なので人は滅多に行かない。
ヤバいものを棄てるには適している。
誰にも見つからない様に。
「何処へ行くのかと訊いたでしょう」
それが一体なんだ。
私もこんな印象深い男をよく忘れていたものだ。
「同じ事を訊きまして」
それはそうなんだろう。容疑者を特定するためなんだろうから。その質問がどうして犯人を特定出来るかどうか分からないが。
同じ場所を指し示すだけだろうに。
何て訊かれただろう。
『何処に行くのですか?
あちらには何もありませんよ』
そんな風に言われた気がする。
「『川に用事があって』彼女はそう答えたのですけれど、貴方は『橋まで』と言ったのです。覚えてますか」
まあ、そんな事を答えた気がするけど、それが何だと云うのだろう。
「何処が違うんだ?」
訊いたのは先生で、私と同じ感想を持った様だ。
何処が違うのだ?
何処がどう違って、私は個人宅で彼女は警察署なのだ?
「住宅街でも繁華街でもない様な所にね。川に何が用事があったのでしょうかね」
「それなら私だって……」
「『橋』と云うならね、誰かと待ち合わせかとも思うのですが。人目を忍んで。
『川』と云うのが、釣りでもしに行くのかバーベキューとか。しかしそんな場所でもないし、サイドが整備されてなくて場所取りも出来ない様な所ですしね。彼女はそんな趣味も持ってないでしょうし。
整備してないから誰かが確かめに降りて来ることもない。などと云う事まで考慮したのかはまだ定かではありませんが」
そこで彼はひと息吐いた。ひと息吐いてからこう言った。
「自分が殺した人間をバラバラにして少しずつ捨ててしまうのには持って来いの、丁度良い場所だとは思いませんか」
私も大きく息を吐いた。
「そんなのこじ付けだ」
「確かにそうかも知れません。
でも、バラバラ死体があり、犯人の特定をするためのものならばどうでしょう」
膝が痛い。
服は裂けてないし、血も滲んでないのに、彼は気付いた様で、
「怪我をしたんですか?
気付かなくて申し訳ない。手当しましょう」
ゆとりのある服だったので、そのまま捲ると右膝が少し擦り剥けていた。気を向けると、痛いかも? と思える程度の傷だ。
笑ってしまう。
思っただけでなく実際笑ってたみたいだ。
二人が心配そうににこちらを見ている。
「やはりお風呂に入りませんか? 悪化すると良くないですし」
優しい事を言ってくれる先生に対し、
「貴方が具合を悪くしたからと云って彼女の罪は軽減されませんよ」
「またそう云う事を言う」
何時もこんな感じなのか、この人は。
時間稼ぎしようと思った訳でなく、拒否したり、抵抗したりするのが億劫になっていた。
「彼女もこう云う気持ちだったんでしょうか?」
それとも彼女は飽きたのか。
抵抗したり嘆き悲しんだりする事に。
パチっと薪が爆ぜた。
ーー何でここはこんなに暖かいのだろう?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる