星降る真夏の夜に、妖精の森で迷子になる。

折原ミフク

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飛行船

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 真っ白の雲の上を滑る様に漂う様に飛んでいる。丸い窓から見える景色は地上の天気は関係なく穏やかだ。
「ふっふっふっふっ」
 王太子殿下は飛行船のソファにふんぞり返って得意気である。
「“麗しのグエン=ローゼンハイム号”と言うのだ!」
 あー、そんな名前の国だった。そうだった。教えて貰った気がするけど、俺は外国の名前まず覚えらんない。でも、“麗し”っている? 今だけ形容詞として使ってるんだろうか? まさか名前に組み込まれてんのかな。
「何そのネーミングセンス。乗組員の皆さんが気の毒だとは思わないのか」 
 移動は馬車でなく勿論王子様の魔法でもなく、飛行船だった。荷物は乗組員の人たちが運び入れてくれた。
「二十歳の誕生日に父君母君からプレゼントして貰ったのだ!!」
 風属性だから耳は良い筈なのに、俺の言葉は聞こえなかったらしい。
「これ絶対最終的に焼け落ちちゃうヤツだろ」
 滝が出て来れば滝壺に落ち、飛行船が出て来たら焼け落ちる。物語はそういうとこに行く事になっている。勿論、乗組員の皆さんには聞こえない様に言ってる。
「縁起でもない事言うな」
 リロイに突っ込まれる。
 そうだ。耳が良いと言えば。
「猫、やっぱり居ない?」
 乗り込む時に猫の鳴き声した気がしたのだ。
 皆んな聞かなかったのかな。ヤだな、ホラー展開。
 ライトは飛行船に浮かれてたし、俺もライト同様だったので、すぐ飛行船に夢中になって猫の鳴き声の事は頭の隅に追いやってしまった。ライトと一緒に離陸した瞬間から徐々に高度が高くなるにつれて、景色を変えていく窓の外を息を潜めて見入っていた。
 広大な邸が小さくなって行き、妖精の森の上も優雅に眼下に見下ろしながら進んで行く。女神の泉は樹々に隠れて見えなかった。妖精の森を抜けると草原が広がっていた。風車小屋や家がポツポツ増えていく。俺には同じ草原にしか見えないがどこからか小麦畑になってたらしい。
「二時間位で王都に着きますよ」
 馬車だと四日かかります。という船長さんの説明に、
「四日かけません?」
 勿論、飛行旅行をもっと楽しみたいという意味だ。
 俺の言葉にライトは首を縦に振って賛成してくれたが。
 反してヒヨリと言えば、キールと一緒にソファでグッタリしてる。火や風の属性のせいか俺たちは空の上は殊の外楽しいんだが、水属性にはあまり居心地の好いものではないらしい。
「乗組員にも水属性の者は居ませんね」
 船長さんが教えてくれた。火と風の属性を持った者たちには飛行船の乗組員は憧れの職業なんだとか。分かる気がする。俺もなりたい。
「苦手じゃありませんよ。 水が空と融合するのには  火か風の協力の元生まれ変わる様な体験が必要で  この感覚を超えて私達は強く  ええ勿論風や火の協力が必要不可欠となって来る訳ですが」
 キールが途切れ途切れ脈絡のない事をごちゃごちゃ言ってる。
 目は半眼。キールでもこんな顔出来るんだ。じっとり嫌な汗もかいてるっぽい。
 生まれ変わる程の体験ね。
 水は大地を流れてる。空まで昇るには色々形を変えなきいけないという事かな。形を変えるには多大なエネルギーが要る。
 俺は並んで横になってる二人の間に入り込み、二人をぎゅーっと抱きしめた。
「癒される?」
 俺は風属性だし今までのお礼も込めて。滞っているものを流す様なイメージを送る。するとリロイが、
「何をしてる」
「今はいいじゃないですか。ヒヨリが来てから嫉妬があからさま過ぎます」
 やっぱりそうなのかなぁ。
 ヒヨリへの嫉妬で距離感おかしくなってるんだな。
 夜二人きりなら良いが、昼の日なかに皆んなの前でというのは恥ずかしいので、俺は更にキールとヒヨリの間にめり込んだ。
 でもしまった事に、視界を塞いだ為に、リロイの顔を鮮明に思い出してしまった。
 キールやヒヨリの柔らかな美しさでなく、男らしく精悍な男前の顔を。色素の薄い二人と違って、ブルネットの黒々とした艶やかな髪の色と複雑なキラキラした虹彩を持った濃紫の瞳の色を。
「僕とリョウはそんな間柄じゃないですよ。まぁ、家族よりは大切ですけど」
 というより、何故か家族がそんなに大切じゃなかったんだな、俺たちには。

 そんな時に猫の声がしたんだ。
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