星降る真夏の夜に、妖精の森で迷子になる。

折原ノエル

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スパーク*(痛いかも) (2024年8月4日改稿)

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「そんな解釈間違ってんだろ、早まるな。そういう使い方で良いのか?
 フツーに願えば? そういうのって木の下で愛を誓うとか、告白するとかそんなんじゃないの?」
「んー、多分ねー。でも私にはもう相手居ないし、見つけても壊れるものだって分かっちゃったし」
「だから、見つけてから誓えば?」
「だから、見つけたのに違ってたんだってば」
 堂々巡り。

 ジョバンニから視線を外し木を見上げる。満月の強い光に照らし出される繋がった二つの木は静かにそこにあるだけで何も俺に教えてくれない。だが花は咲いてない。大丈夫。
「これ本当に木蓮なの? 花咲いてないから分かんないぞ?」
 向こうの世界では今の時期咲いていた花もこちらはまだ寒いせいか見て取れない。
「大丈夫。今日皆既月食だから」
「はい?」
「何故この日にしたと思うんだ。こちらの都合の良い時なんか幾らでもあったのに。それこそ君たちが何も気付かないうちに頂く物を頂いてさっさと逃げてしまえば問題はなかったのに」
「だからって何か起こるとは限んないだろ」
 言ってまじまじと俺を見る。
「それに君魔力疲れ起こしてないね。皆既月食だからかなぁ。それとも何か月の加護があるとか。転移者は良いね」

 そんな不毛な会話をしている内に時は確実に流れていた。
 木蓮に当たっていた光が弱くなって翳りが現れる。

 そしてあろう事か翳ったところから、キラキラと光が瞬き始め、花が生まれるように咲き出した。

 ふわり、ふわり、と。
 鳥が来て泊まるように、花が踊るように枝に咲く。甘い香りも漂って来る。
 あり得ない状況に言葉を失ってしまう。

 ジョバンニはもう笑っていなかった。浮かぶ表情はなく、喜びも悲しみもその整った顔からは俺に窺い知ることは出来ない。

 木蓮は間違いようもなく木蓮で、花が咲いてしまったら俺にも分かる。
 花弁は全て開かず半開きで上に向かって咲くから鳥のように見えるんだ。
 その花の鳥が白と紫と二つの色で現れる。中には一つの花に二つの色の花びらが混じっているのもあった。 
 むくむくと花が自ら動き出し、はたはたと花びらをひらめかせたかと思うと、それはふわりと枝から離れた。
 一層強く上下に動いた花びらは次の瞬間、羽に変わった。
 それはもう間違いなく、鳥で、それも二羽の鳥がくっついてる。
 僕はあれを知ってる。
 知識の上でなら。
 殆どの人が、知識でなら知ってるんだろう。
 僕の様に実際に目にした人はいるのだろうか?
 いるんだろうな。
 僕も今目にしているのだから。
 あれは、比翼の鳥だ。
 そして、連理の枝だ。
 ああ、そうだ。
 僕はとてもよくそれを知っている。

 翳りは広がりを見せ、そのせいで木自体から発せられる光はどんどん強くなり、その強い光で鳥のような花を生み出し続ける。

「願い事はない。もう終わりにしたいんだよ」
 いつの間にか距離を詰めて俺たちを通り越して木蓮の傍までやって来ていた男は俺には理解できない事を言った。俺に聞かせようと言ったのでもないだろう。

 言ってる事は分からなかったが彼が何をする気かは分かった。
 でもダメだ。絶対にダメだ。
 それだけは分かった。
 怖いという感情が湧く前に俺は飛び出して、ジョバンニと木蓮の間に滑り込んだ。後ろから突き当たるとかえって木を傷付けるかも知れない。後で「考えもなしに」って言われたけど考えてる暇なんてなかった。考えてたら何も出来なかった。魔法の使い方も良く分からなかったから自分の身を投げ出すしかなかった。

 男が大きな影になる。

「比翼の鳥!」
 影は大きく叫んで銀の斧を振り被り、
「連理の枝!!」
 そして振り下ろした。

 勢いの付いた斧は木蓮の前に立ちはだかった俺を容赦なく貫き木蓮の木に突き刺さる。

 全てがおかしかった。
 痛みを感じる筈が痛くなく切り裂かれた身体からは血が噴き出ることなく、ぱっくりと割れた箇所からは光が溢れ出し。

 そして、弾けた。




 
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