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エピローグ(6)ーー星の夜。
しおりを挟む引越しはかなり楽しい楽な作業になった。
元々自分の持ち物なんてないし、服だってグエンやリロイやキールのお古だ。引越しの荷物もあまりない。
家を整える為に一つずつ揃えていく。
お金の心配は要らなかった。
事件解決の報奨金が出たのだ。目が飛び出るくらいの。
自分たちの為にした事が結果そうなっただけであって、何にもしてない気がするんだけど。
「それを言ったら、働いてた人間はいなかったって事になる」
リロイに諭され、
「そういうもんかなぁ」
それなら皆んなにも一軒ずつ家が与えられるべきではなかろうか? とも思うし。
「大丈夫。皆ボーナス出てます」
キールも言ってくれるが、俺たち破格に貰い過ぎでは?
ぶちぶち言ってたら、
「お前はほんとに自己評価低いね」
ぶちっと、リロイの呆れた様に言うのに切れそうになり、そこをキールに宥められ、ライトとヒヨリは俺とリロイを喧嘩させない為に家を受け取った様なもんだ。
一階はダイニングやキッチン、来客用の応接室なんかに当てて、二階はヒヨリとライトの共有スペース。三階が俺のものになる。
元々はヒヨリの誕生日プレゼントっていう名目だったのに、俺が上でスペースも広いのはこれも如何なものか、とこれもゴネてみたが、ヒヨリはライトと一緒が好いに決まってるし高所恐怖症の気もある。元からその気はあったが、こっち来て飛行船の事もあって益々高い所が苦手になってしまった。
「二階も三階もそんなに変わんない気がするけど」
「リョウは高い所平気だろうけど。庶民の居住に耐えうる高さは二階までだね」
「ヒヨリの誕生日プレゼントなのに」
「そんな事言ってたら、リョウの誕生日凄い事になるんじゃないの?」
ライトの正しい指摘に、俺は文句言うのを止めた。
「俺の部屋なのに何でリロイの荷物がこんなにあるんだ?」
「愛する者同士、一緒に住むのは当然だ」
「ーーっな?!」
何を言ってるんだ? 昼間から酒入ってないよね? 素面だよね?!
「ライトとヒヨリも一緒だろ」
「一緒に住む?!」
聞いてない!
リロイの台詞に、酒飲んでないのに真っ赤になってる自信満々のところへ、
「私はこの角部屋を貰うぞ」
王太子殿下の声が聞こえた。
「「はい?!」」
これはリロイも聞いてなかったらしい。慌ててグエンに詰め寄る。
「何言ってるんだ?!
お前いい加減、自分が王太子だという自覚を持て!!」
「グエンも住むんだったら、キールも一緒に住めば良いじゃん。隣の家じゃなくて」
「監督する人間要るかもしれませんね」
キールも眉間に皺寄せて考え込んでしまう。
「そうだよ。俺たち未成年だし」
「監督だったら、私が居るだろ」
「監督する人間が同じ部屋はおかしくない?」
「おかしくない」
「おかしいよ」
「おかしいですね」
「前から思ってたが、お前たち距離近くないか?!」
「いいじゃん、近くて、何が悪いんだよ」
「何も悪くないですね」
「悪いわ」
「ふた部屋いい?」
「駄目に決まってんだろ」
「何を考えてるんですか、貴方は。今に始まった事じゃないですが」
「グエン、取り敢えず、お前は城へ帰れ。大体、許可はあるのか」
「私に許可を与えられるのは私だけだ」
「違う。違うぞ。国王陛下の許可が要るだろ。いや、要らん。許可は要らん。お前は此処に住むな。こら、衛兵、荷物を運び入れるな」
「衛兵?! こんなとこに国家権力使わないでよ! 引越しだよ! 城替えじゃないよ?!」
「一人でやれば良いのか?」
「ちがーう!!」
「頭痛くなって来た。ヒヨリ、薬はないですか?」
「薬? あ、買うの忘れてる!! 常備薬って要るよね」
「救急箱?」
「救急箱」
「帰ります」
「逃げるな」
「薬屋さんてどの辺だろう?」
「衛兵は帰れ」
「いや、三部屋は欲しいな」
「お前も帰れ」
「地図もいるんじゃない?」
「あー、いるかも」
「キールの家にない?」
「ありますよ」
「それより何か食べれば治るんじゃないかな?」
「それはあるかも知れませんね」
「ご飯、キールの家にしても良いんじゃん?」
「あ、いいですね。全然構いませんよ」
「こら、お前まで逃げるんじゃない」
「ふた部屋で妥協するか」
「妥協するな」
「三部屋いいのか」
「そう言う事を言ってるんじゃない。ひと部屋もやらん」
「お前の家じゃないだろう」
「そういう問題じゃない」
「いいお肉があるんですよ」
「殿下、こちらの荷物はどう致しましょう」
「地図って、ガイドブックみたいなのなかった?」
「ランチ重めで、ディナー軽めにしようか」
「常備薬って何要るんだろ」
「衛兵さんたちも召し上がります?」
「宜しいのですか?!」
「宜しくない」
「いいじゃないか、ドケチ」
「だから帰れ」
「地図」
「部屋」
「荷物」
「薬」
「お腹空いた」
「あー! もーー!!」
すったもんだ、って死語かな?
一番しっくり来るんだけどな。
そのすったもんだの末、落ち着いたのは夜遅くだった。
今夜は星が綺麗だ。
新月なので月は見えない。
カーテンのレースがそよそよ揺れる。
「風邪を引くぞ」
リロイが俺の後ろから手を伸ばして窓を閉じる。カーテンも二重に閉めた。
そのまま俺を抱き締める。
俺はその腕を押し除けて向きを変える。腕を伸ばしてリロイの頭を引き寄せ口付けた。
グエンは結局ここから一番離れた角部屋に落ち着いた。
キールは明日の朝もこちらで食べるのでゲストルームに泊まってる。
ライトとヒヨリはもう寝ただろうか。
何処かから花の香りがする。
大きく深呼吸する。彼の匂いと一緒に体の奥深くまで取り込む。
その夜、俺は彼の腕の中で少し大人になった。
〈了〉
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