神より授けられし力

虎 正規

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美少女は果たして・・・

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「おお~」

 「わあ~」

 道行く男たちがみな振り返る。

 中にはそのまま歩み、電信柱にぶつかるものもいた。

 カップルでは彼女に脇をつねられるものも。

 その視線の先にいるのは学内一の美貌を誇る女生徒。

 着ているのは制服である青いジャンパースカートだ。

 胸元はきれいなスクエアカットでリボンやネクタイはない。

 脇はあいているタイプで後ろは吊りスカートのように肩紐がクロスしていた。

 彼女は校門をくぐった。

 「お~、石亀さんのご登校だ」

 「おお、本当だ」

 男子生徒たちが振り向く。

 「石亀さん、おはよう」

 「今日もいい天気だね」

 男子たちがよってきてラブレターを手渡す。

 石亀といわれたその美少女が校舎に入って靴箱を開ければ再度ラブレターがぎっしり。

 教室に入って机の中を見てみればまたまた。

 「ばっかみたい」

 同じ制服に身を包んだ女子たちは冷ややかな目で石亀さんを見ていた。

 「石亀ばかりが女子じゃないっていうのに」

 石亀さんは男子には人気、女子には不人気だった。




 すると男子たちの間である話が持ち上がる。

 「石亀さんってさあ、うんこするのかな?」

 「さあなあ、あんなきれいな子だったらしないだろ」

 「いや、石亀さんとて俺たちと同じ種の生き物だ。うんこ位するに違いないさ」

 「お前はどう思う?」

 「ん~、どっちだろ?同じ生物だから・・・いや石亀さんだったらしないかも」

 この会話を聞いていたあの少年。

 「石亀さんに訊いてみようか?」

 「そうだ、そうしよう」




 あの少年が石亀さんに直談談版。

 「ね~ね、石亀さん」

 「なあに?また告白?」

 「いや、石亀さんってうんこするの?」

 「私はしないわ、そんな汚いこと」

 石亀さんは両目をつぶって顔を背ける。

 「ほんとにうんこしないの?」

 「私がすると思う?」




 「だってさ」

 「やはりしないんだ」

 「いや、するだろ」

 「本人が言っているんだよ?」




 あの少年は確認したくなった。

 箱を出し、そっとあける。

 中にはあの時トイレの神様からいただいたありがたきガラス細工人形の数々が。

 その中の一体を出し、石亀と書いた。

 で、

 ガシャン!

 そのガラス人形を落とし、割る。




 授業中。

 石亀さんの様子を観察する少年。

 「うっ」

 思わず石亀さんが声を上げた。

 石亀さんの顔が見る見るうちに青ざめて行く。

 (は、も、もしかしたら・・・)

 石亀さんの両目に涙が浮かんだ。

 (や、やはり。あのトイレの神がいったことは本当だったんだ)

 歯を食いしばる石亀さん。

 その歯の間からうめき声が時折漏れる。

 (や、やっぱ石亀さんも人間、いや生命体だね)

 少年は確信した。

 石亀さんのこめかみを脂汗が伝う。

 ちらちらと時計を見る石亀さん。

 その手が青いジャンパースカートで覆われた腹へと伸びた。

 耳を澄ませば

 ギュルギュル

 という音が聞こえてきている。

 キーンコーンカーンコーン。

 石亀さんにとっては救いの音。

 石亀さんは一も二もなく教室を飛び出し、トイレに一直線。

 が、

 「おっと、石亀さん。どこに入るのかな?」

 近道を通って先回りしていた少年が女子トイレの前で通せんぼ。

 「どいてっ!」

 叫ぶ石亀さん。

 「ここに入りたいのかい?」

 「そ、そうよっ!」

 「何だ、何だ?」

 男子たちがそのさまを見てよって来る。

 「こ、来ないでっ!」

 「石亀さん、トイレに御用かい?」

 「石亀さんはウンコしないんじゃなかったっけ?」

 男子たちが言った。

 「ええ、もちろん。し、しないわよ」

 「じゃあなぜトイレに?」

 「お、おしっこよ!」

 「抑えてるのお腹じゃん」

 「それにほら、お腹からゴロゴロ音が鳴っているよ?」

 「う・・・うぐ・・・」

 石亀さんはその場にうずくまる。

 「お、お願い・・・どいて頂戴・・・」

 「何?何がしたいの?」

 「石亀さん、うんこしないんだよね?」

 石亀さんうんこしない派は目の前で行われていることが信じられないようだ。

 「う、うんこ・・・。そう、うんこよ、うんこ!ウンコがしたいの!後生だからそこどいてよ!」

 石亀さんの生まれた時代さえもう少し早ければかの楊貴妃を差し置いて世界三大美女のうちの一人に数え上げられたに間違いない程度の美貌が涙でぐっちゃぐちゃ担っていた。

 「そんな・・・石亀さんはうんこしないんじゃなかったの?」

 頭を抱えるウンコしない派の男子たち。

 「する、するわよ。私だってうんちするわよっ!だから・・・認めるからそこどきなさいっ!!」
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