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Ep.21 春の風の中で
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春の朝。
王都の空はやわらかな光に満ちていた。
石畳を渡る風が花びらを運び、
街の人々の笑い声が遠くまで続いている。
クラリッサは城門の前に立っていた。
淡い青のドレスに薄い外套。
長い髪が春風に揺れ、その横顔には静かな笑みが浮かんでいた。
セドリックが隣に立つ。
手には、王国の新法令の写本が抱えられていた。
「……ついに施行ですね」
「ええ。
“信義と理解による統治”――
短い言葉ですが、ここに至るまで長い道のりでした」
セドリックが頷き、
「あなたの筆がなければ、この文は生まれなかった」と言った。
クラリッサは小さく微笑んだ。
「わたしはただ、皆が語り合えるように整えただけです。
この法は、“声を持たぬ人の言葉”ですから」
「まるで、あなた自身のようですね」
「……それは褒め言葉として受け取ります」
ふたりは歩き出した。
城壁の向こうには、春の花で飾られた王都の通りが広がっている。
◇◇◇
王宮では、戴冠の儀が始まっていた。
シャーロットが新たな王冠を戴き、
その声が広間に響く。
「徳によって国を継ぎ、
理によって人を導き、
慈によって未来を築かん。」
その言葉を、クラリッサは遠くから聞いていた。
広間の外、回廊の柱の陰で。
彼女は一度だけ深く頭を垂れ、
そのまま立ち去った。
――光の下ではなく、風の中で見届けるのが、自分の役目だと思ったから。
◇◇◇
昼過ぎ。
城の中庭には、外交使節団が到着していた。
隣国との新しい友好条約――
長く緊張していた国境にも、ようやく「平和」という言葉が届いたのだ。
セドリックが書簡を受け取り、
クラリッサに目を向けた。
「これで、本当に終わりましたね」
「いいえ。終わりではありません。これは、“始まり”です」
「始まり……」
「この国が、もう二度と“言葉を失わないように”。」
風がふたりの間を通り抜けた。
花びらが舞い上がり、春の光に溶けていく。
クラリッサは目を細め、その景色を胸に刻んだ。
――これからは、自分の意志で選び、自分の言葉で未来を紡いでいく。
長い冬は終わった。
けれど、彼女の心は静かに燃えていた。
「セドリック様」
「はい?」
「この国が、穏やかな季節の中で歩めるように、
わたしたちは、語り、選び続けましょう」
セドリックは柔らかく微笑んだ。
「ええ。……共に。」
その言葉に、クラリッサも静かに微笑み返した。
風が再び吹いた。
それは、祝福のように温かく、春の終わりを告げる優しい風だった。
◇◇◇
夕陽が沈み、空が金から藍へと変わる。
王国の塔が光を受け、
その影が長く大地に伸びていく。
――クラリッサ・エインズワース。
その名は、“静かな誠実”として、
そして“共に歩む者”として、
新しい時代の礎に刻まれていった。
――fin.
王都の空はやわらかな光に満ちていた。
石畳を渡る風が花びらを運び、
街の人々の笑い声が遠くまで続いている。
クラリッサは城門の前に立っていた。
淡い青のドレスに薄い外套。
長い髪が春風に揺れ、その横顔には静かな笑みが浮かんでいた。
セドリックが隣に立つ。
手には、王国の新法令の写本が抱えられていた。
「……ついに施行ですね」
「ええ。
“信義と理解による統治”――
短い言葉ですが、ここに至るまで長い道のりでした」
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「あなたの筆がなければ、この文は生まれなかった」と言った。
クラリッサは小さく微笑んだ。
「わたしはただ、皆が語り合えるように整えただけです。
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「まるで、あなた自身のようですね」
「……それは褒め言葉として受け取ります」
ふたりは歩き出した。
城壁の向こうには、春の花で飾られた王都の通りが広がっている。
◇◇◇
王宮では、戴冠の儀が始まっていた。
シャーロットが新たな王冠を戴き、
その声が広間に響く。
「徳によって国を継ぎ、
理によって人を導き、
慈によって未来を築かん。」
その言葉を、クラリッサは遠くから聞いていた。
広間の外、回廊の柱の陰で。
彼女は一度だけ深く頭を垂れ、
そのまま立ち去った。
――光の下ではなく、風の中で見届けるのが、自分の役目だと思ったから。
◇◇◇
昼過ぎ。
城の中庭には、外交使節団が到着していた。
隣国との新しい友好条約――
長く緊張していた国境にも、ようやく「平和」という言葉が届いたのだ。
セドリックが書簡を受け取り、
クラリッサに目を向けた。
「これで、本当に終わりましたね」
「いいえ。終わりではありません。これは、“始まり”です」
「始まり……」
「この国が、もう二度と“言葉を失わないように”。」
風がふたりの間を通り抜けた。
花びらが舞い上がり、春の光に溶けていく。
クラリッサは目を細め、その景色を胸に刻んだ。
――これからは、自分の意志で選び、自分の言葉で未来を紡いでいく。
長い冬は終わった。
けれど、彼女の心は静かに燃えていた。
「セドリック様」
「はい?」
「この国が、穏やかな季節の中で歩めるように、
わたしたちは、語り、選び続けましょう」
セドリックは柔らかく微笑んだ。
「ええ。……共に。」
その言葉に、クラリッサも静かに微笑み返した。
風が再び吹いた。
それは、祝福のように温かく、春の終わりを告げる優しい風だった。
◇◇◇
夕陽が沈み、空が金から藍へと変わる。
王国の塔が光を受け、
その影が長く大地に伸びていく。
――クラリッサ・エインズワース。
その名は、“静かな誠実”として、
そして“共に歩む者”として、
新しい時代の礎に刻まれていった。
――fin.
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