21 / 149
魔法の使い方
しおりを挟む”どうして勉強しなきゃなんないの? 狩りに行った方が強くなるのに”
そんなアルノーの言葉を聞いた私は、早速スヴェンに頼みこみ文字の勉強を始めることにした。
祖父と狩りに行きたいアルノーを強制的に椅子に座らせ、買ってきたばかりの魔導書を開く。私もアルノーも全くもって文字を読めないのでスヴェンは先生役をしてもらう。
不貞腐れるアルノーの興味を引く為に、一番初めの授業は私に全く関係ない魔法についてだ。
「よく聞けアルノー、魔法の使い方は二種類ある」
一つはスヴェンのように精霊の力を借りて使うもの。
もう一つは魔石を媒介とし使うもの。これはよく魔法使いとしてイメージする杖の様なものに当てはまり、ブレスレットやピアス、ネックレスなどに加工する事もあるらしい。
それらに自身の魔力を与える事ではじめて使えるのが魔法で、魔力が無いと魔法は全く使えない。
その仕組みを例えるならば魔力が燃料、精霊・魔石が着火材、詠唱がスイッチといったところだろうか。
祖父やアルノーの様に体に魔力を留め強化するのはわりと簡単にできるが、それを外へ放射するにはソコソコの知識が必要とされ、威力がある魔法、もしくは火や水を掛け合わせた魔法を使うには学がないと難しい。
まあどちらにせよ魔力がない私にとっては関係ない話であるが。
「精霊に力を借りるって言うけど、精霊は何処にいんのさ」
「そこらへんにいるぞ、見えねぇけど」
「適当だな」
「適当だね。でも精霊がいるんだ! 凄いね!」
精霊どこにいるんだろうと辺りをキョロキョロするアルノーを大人しくさせ、スヴェンに話を続けてもらう。
心なしかアルノーの目は煌めいて興味を示しているようだ。
精霊にはそれぞれ属性があり火や水、土や風といった様々な精霊がいる。見えないだけいつでも何処にでもいて、魔法を使う際の詠唱に反応し、その人の魔力を吸収し魔法を発動させる。
魔石に至ってもそれぞれの属性に合わせた魔石を使用して魔法を使う為、全ての属性の魔法を使える人間は限られるそうだ。
私の思い描いていた魔法とは異なり、出来ることも限られる。簡単に氷を作ったり電気を生み出したりするのもなかなか出来はしないし、全ての属性を使いこなすなんて無理難題で、得意分野の魔法のみ伸ばす人が殆どらしい。
「でもまあ、アルノーは身体強化はもう出来るみてぇだし、魔導書さえ読めればなんとかなるだろう」
紙の製造方法が伝わって以来魔術師はは爆発的に増え、大体の魔法は初期に作られた魔法が元になっている。以前スヴェンが使った詠唱も魔導書に載っているもので、魔力さえあれば誰でも使えるようになる初期魔法。
しかしながらその初期魔法にも欠点があり、精霊との相性が悪いと使う事が出来ないそうだ。
「んじゃアルノー、俺の後に続けて言え。”火の精、水の精よ! 我に力を与え、ここに暖かな恵みをあらわしたまえ!” 」
「火の精、水の精よ! 我に力を与え、ここに暖かな恵みをあらわしたまえ!」
詠唱を唱えたスヴェンの手からは湯気の見えるお湯の球体ができ、ウキウキとするアルノーの手には何も現れない。
これは相性が悪いのかと思っていると、まだ精霊がアルノーの魔力を吸えていないのだろうとスヴェンは言う。
「相性が悪いわけではないの?」
「よく見ろ、アルノーの手に風の渦が出来てるだろ?」
そう言われじっくりと観察してみれば、確かに小さな渦が出来ていた。
「相性が悪かったら何も起きないのさ。アルノー、もう一度唱えてみろ」
「うん! 火の精、水の精よ! 我に力を与え、ここに暖かな恵みをあらわしたまえ!」
再度アルノーが力強く唱えると、青と赤の光がその渦に加わりスヴェンよりも小さな水の球体が出来上がった。
試しにそれをつついてみればお湯とは行かないけれど常温の水よりも温かい。
「で、できたぁー!」
キャッキャと嬉しそうに笑うアルノーと凄いねと手を取り合って喜び、ほんの少し魔法を使えるアルノーが羨ましく思った。
魔力を全く持たないと言うことはお湯を沸かすにも火をつける事からやらなければならないと言う事で、詠唱一つ唱えられない出来ないこの虚しさ。
「うーん、魔法羨ましい! でもさ! 詠唱なしで出来たりしないの? 長くない?」
「出来なくはないが、魔石を媒介にする時だけだな」
「なんで?」
「なんでって、詠唱なしでどう精霊に伝える? 魔石になら魔力を流せば詠唱を短縮する事も出来るが、精霊はそうはいかねぇぞ」
どうやら精霊に力を借りる場合は的確な指示を出さなければ精霊が指示を読み取り間違える可能性があり、その為か魔導書が出来た頃から詠唱が変わったと言うことは今の今までない。
それに引き換え魔石は自身の魔力を変換し使用するもので、無茶をすれば壊れるだけですむ。故に詠唱を短縮したい魔術師や無詠唱を売りにしてる魔術師は魔石を多用するようだ。
結果魔石を持っていない、買えない魔術師は精霊に頼り長ったらしい詠唱をする事が殆どである。
「だからこそ魔導師を目指す奴は魔導書は必要で、字が読めなきゃなんねぇ。って事で勉強は必要なんだぞ、アルノー」
「でも俺がなりたいの騎士だよ?」
「ここだけの話、腕っ節より魔法の強さで騎士になる奴もいる。あと文字を読めねぇ奴は騎士見習いすらなれねぇぞ」
冒険者と違い騎士にはそれなりの知識を求められている。
私たちの父親は冒険者上がりの騎士だったようだが魔術師としての腕が見込まれ、成人してから騎士とは何かを一から学んだようだ。
そんな父を知っている祖父は何処か寂しそうにアルノーを見ていた時もあり、アルノーに父の面影を感じていたのかもしれない。
「んー、じゃあ勉強するー。嫌だけど」
「私は魔法は使えないけど読み書きは一緒に勉強するよ。頑張ろうアルノー」
こくんと頷くアルノーの頭を撫で、ついでに足し引き掛け割りも覚えようねと更に告げる。
なにそれと首をかしげるアルノーに、私はにっこりと笑いかけた。
「それ出来るとお爺ちゃんにお菓子をだまし取られずにすみます!」
「覚えます!」
「よし頑張ろう!」
ガシッと手と手を取り合い、私達の勉強生活は始まった。
0
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
兄の親友が彼氏になって、ただいちゃいちゃするだけの話
狭山雪菜
恋愛
篠田青葉はひょんなきっかけで、1コ上の兄の親友と付き合う事となった。
そんな2人のただただいちゃいちゃしているだけのお話です。
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【短編】子猫をもふもふしませんか?〜転生したら、子猫でした。私が国を救う!
碧井 汐桜香
ファンタジー
子猫の私は、おかあさんと兄弟たちと“かいぬし”に怯えながら、過ごしている。ところが、「柄が悪い」という理由で捨てられ、絶体絶命の大ピンチ。そんなときに、陛下と呼ばれる人間たちに助けられた。連れていかれた先は、王城だった!?
「伝わって! よく見てこれ! 後ろから攻められたら終わるでしょ!?」前世の知識を使って、私は国を救う。
そんなとき、“かいぬし”が猫グッズを売りにきた。絶対に許さないにゃ!
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる