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魔法の使い方
しおりを挟む”どうして勉強しなきゃなんないの? 狩りに行った方が強くなるのに”
そんなアルノーの言葉を聞いた私は、早速スヴェンに頼みこみ文字の勉強を始めることにした。
祖父と狩りに行きたいアルノーを強制的に椅子に座らせ、買ってきたばかりの魔導書を開く。私もアルノーも全くもって文字を読めないのでスヴェンは先生役をしてもらう。
不貞腐れるアルノーの興味を引く為に、一番初めの授業は私に全く関係ない魔法についてだ。
「よく聞けアルノー、魔法の使い方は二種類ある」
一つはスヴェンのように精霊の力を借りて使うもの。
もう一つは魔石を媒介とし使うもの。これはよく魔法使いとしてイメージする杖の様なものに当てはまり、ブレスレットやピアス、ネックレスなどに加工する事もあるらしい。
それらに自身の魔力を与える事ではじめて使えるのが魔法で、魔力が無いと魔法は全く使えない。
その仕組みを例えるならば魔力が燃料、精霊・魔石が着火材、詠唱がスイッチといったところだろうか。
祖父やアルノーの様に体に魔力を留め強化するのはわりと簡単にできるが、それを外へ放射するにはソコソコの知識が必要とされ、威力がある魔法、もしくは火や水を掛け合わせた魔法を使うには学がないと難しい。
まあどちらにせよ魔力がない私にとっては関係ない話であるが。
「精霊に力を借りるって言うけど、精霊は何処にいんのさ」
「そこらへんにいるぞ、見えねぇけど」
「適当だな」
「適当だね。でも精霊がいるんだ! 凄いね!」
精霊どこにいるんだろうと辺りをキョロキョロするアルノーを大人しくさせ、スヴェンに話を続けてもらう。
心なしかアルノーの目は煌めいて興味を示しているようだ。
精霊にはそれぞれ属性があり火や水、土や風といった様々な精霊がいる。見えないだけいつでも何処にでもいて、魔法を使う際の詠唱に反応し、その人の魔力を吸収し魔法を発動させる。
魔石に至ってもそれぞれの属性に合わせた魔石を使用して魔法を使う為、全ての属性の魔法を使える人間は限られるそうだ。
私の思い描いていた魔法とは異なり、出来ることも限られる。簡単に氷を作ったり電気を生み出したりするのもなかなか出来はしないし、全ての属性を使いこなすなんて無理難題で、得意分野の魔法のみ伸ばす人が殆どらしい。
「でもまあ、アルノーは身体強化はもう出来るみてぇだし、魔導書さえ読めればなんとかなるだろう」
紙の製造方法が伝わって以来魔術師はは爆発的に増え、大体の魔法は初期に作られた魔法が元になっている。以前スヴェンが使った詠唱も魔導書に載っているもので、魔力さえあれば誰でも使えるようになる初期魔法。
しかしながらその初期魔法にも欠点があり、精霊との相性が悪いと使う事が出来ないそうだ。
「んじゃアルノー、俺の後に続けて言え。”火の精、水の精よ! 我に力を与え、ここに暖かな恵みをあらわしたまえ!” 」
「火の精、水の精よ! 我に力を与え、ここに暖かな恵みをあらわしたまえ!」
詠唱を唱えたスヴェンの手からは湯気の見えるお湯の球体ができ、ウキウキとするアルノーの手には何も現れない。
これは相性が悪いのかと思っていると、まだ精霊がアルノーの魔力を吸えていないのだろうとスヴェンは言う。
「相性が悪いわけではないの?」
「よく見ろ、アルノーの手に風の渦が出来てるだろ?」
そう言われじっくりと観察してみれば、確かに小さな渦が出来ていた。
「相性が悪かったら何も起きないのさ。アルノー、もう一度唱えてみろ」
「うん! 火の精、水の精よ! 我に力を与え、ここに暖かな恵みをあらわしたまえ!」
再度アルノーが力強く唱えると、青と赤の光がその渦に加わりスヴェンよりも小さな水の球体が出来上がった。
試しにそれをつついてみればお湯とは行かないけれど常温の水よりも温かい。
「で、できたぁー!」
キャッキャと嬉しそうに笑うアルノーと凄いねと手を取り合って喜び、ほんの少し魔法を使えるアルノーが羨ましく思った。
魔力を全く持たないと言うことはお湯を沸かすにも火をつける事からやらなければならないと言う事で、詠唱一つ唱えられない出来ないこの虚しさ。
「うーん、魔法羨ましい! でもさ! 詠唱なしで出来たりしないの? 長くない?」
「出来なくはないが、魔石を媒介にする時だけだな」
「なんで?」
「なんでって、詠唱なしでどう精霊に伝える? 魔石になら魔力を流せば詠唱を短縮する事も出来るが、精霊はそうはいかねぇぞ」
どうやら精霊に力を借りる場合は的確な指示を出さなければ精霊が指示を読み取り間違える可能性があり、その為か魔導書が出来た頃から詠唱が変わったと言うことは今の今までない。
それに引き換え魔石は自身の魔力を変換し使用するもので、無茶をすれば壊れるだけですむ。故に詠唱を短縮したい魔術師や無詠唱を売りにしてる魔術師は魔石を多用するようだ。
結果魔石を持っていない、買えない魔術師は精霊に頼り長ったらしい詠唱をする事が殆どである。
「だからこそ魔導師を目指す奴は魔導書は必要で、字が読めなきゃなんねぇ。って事で勉強は必要なんだぞ、アルノー」
「でも俺がなりたいの騎士だよ?」
「ここだけの話、腕っ節より魔法の強さで騎士になる奴もいる。あと文字を読めねぇ奴は騎士見習いすらなれねぇぞ」
冒険者と違い騎士にはそれなりの知識を求められている。
私たちの父親は冒険者上がりの騎士だったようだが魔術師としての腕が見込まれ、成人してから騎士とは何かを一から学んだようだ。
そんな父を知っている祖父は何処か寂しそうにアルノーを見ていた時もあり、アルノーに父の面影を感じていたのかもしれない。
「んー、じゃあ勉強するー。嫌だけど」
「私は魔法は使えないけど読み書きは一緒に勉強するよ。頑張ろうアルノー」
こくんと頷くアルノーの頭を撫で、ついでに足し引き掛け割りも覚えようねと更に告げる。
なにそれと首をかしげるアルノーに、私はにっこりと笑いかけた。
「それ出来るとお爺ちゃんにお菓子をだまし取られずにすみます!」
「覚えます!」
「よし頑張ろう!」
ガシッと手と手を取り合い、私達の勉強生活は始まった。
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