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私のわんこ
しおりを挟む今日は待ちに待った日だ。
グルムンドから帰って三日、例の亜人に庭のご飯を与えて三日。今日その結果が出る。
「今日はワシもスヴェンも行くぞ!」
「俺も行くー!」
三人は元気よくハーイと手を上げて私の周りを囲んだ。
その顔には一人で行く気じゃないよなとか、むしろ一人で行かせるわけねぇだろとか、面白そうだから俺もついてくーとかそんな感情が読み取れる。
「別にいいけど、なんで?」
「奴隷でボロボロじゃっても亜人は亜人。それもリズの飯のお陰でワシと同じ状態かもしれん。そんな奴に孫娘を会わせるわけには……」
どうなっているか分からないけどスヴェンも細マッチョに早変わりした訳だし、多分彼もマッチョになってるに違いない。
そう思うと確かに危険なのかもしれない。
筋骨隆々の男に抱きつき、懐いた犬が喜んで抱きついたらうっかり骨が砕かれかねない、私が死にかねない。
私だってわざわざ危険に突っ込んで行くほど馬鹿ではないので、じゃあ行くかと私を先頭にして家を出た。
いつも通り森の中を歩き、途中うっかりファングと出くわしたがビビる暇なく三人の狩人に命を刈り取られいる。流れるような作業で近場の木に吊され血抜きをされているファングのなんて無様な事。
祖父は清々しい笑顔で角煮が食べたいと言い、アルノーは生姜焼きが食べたいと、スヴェンはとにかく美味いものを食べたいと私は視線を向け、それを作るように仕向けられているのだろうか。
最近は食べたいものをリクエストしてくれる事が多くとても嬉しいのだけれども、狩りに行って大量に獲物を獲ってくるのはやめて頂きたい。
今日は沢山作るね、だから先を急ごうかと急かし、一旦ファングをそのままに庭へ向かう。
さすがにあれを引きずって行くほどの事では無いだろうし、万が一他の獣に食べられたとしてもうちにはまだ大量の肉が残っているから問題ない。
とにかく今は実験の成果が見たいのだ。
そこから数分も歩かないうちには庭の入り口に到着し、ワクワクと中へ足を進める。いつも通りの景色の中変わったものは今の所見られない。
彼が寝ていた場所に四人で向かったが其処に彼の姿をはなく、祖父は逃げたかと呟いた。
「そう簡単に逃げられものかなぁ」
勝手に庭から出られるとしたらここに放っている鶏達も逃げることもあっただろうが、柵で囲ってないのに庭のある一定の場所からは動かないし、一羽も減ることはない。故に私の許可なく庭から出られないのではないのかと考えていた。
「もしかしてお腹減らして彷徨ってるんじゃ……」
朝起きて身体治って体力全快で、お腹が減ったから食べ物を探しに歩き周っている可能性も捨てきれない。そう思いよくよく桃の木を見ると、いつも頭上になっている桃の数が明らかに少なくなったのがみてとれる。
やはりお腹が空いてる可能性が大だ。
私達は桃の木を中心に探し始め、ある場所で獣のような足跡を発見する事が出来た。
桃を取ったが落とし、踏みつけてしまったようでその桃と少し先まで濡れた足跡が続いている。
ここにいる獣は彼しかいない。
つまりはこの足跡の先に向かえば彼がいるに違いない。
そんな安易な考えで私を走り出していた。
たどり着いた先は先日魚を放ったばかりの池だった。
其処にいた彼はフサフサの尻尾を左右にフリフリとさせて、ガツガツと生の魚に食らいついている。
「川魚の生食は寄生虫がいるからあぶないよー?」
祖父とスヴェンに止められ近く事は出来ないが、大きな声で彼に話しかけた。
ピクリと体を動かした彼はゆっくりとこちらに振りかえり、スヴェンはその姿に警戒を怠らない。
かけた耳は綺麗な三角に、両手足の怪我は治り鎖があった場所にもフサフサの毛が生えている。折れていたであろう骨も、元の位置に戻していなかったのに真っ直ぐとくっついたようだ。
結果、亜人の怪我も三日で治る。
ジッとこちらを見つめる彼に対してこちらも見つめ返し、最初な沈黙を破ったのは祖父だった。
「言葉は、分かるかの?」
「……分かる」
単純で簡易な返答。
だがしかし先日まで話せなかったのだから中々の進展とも言えるだろう。
「お前はこの子が買った奴隷だ。敵意はあるか」
次に声をかけたのはスヴェンで、彼はその言葉に首を振り、尻尾をタラーンと下げる。
敵意はないく、尻尾を下げているという事は不安がっているか服従を示しているに違いないだろうが、その姿がなんとも可愛らしい。
「リズに何かしたら容赦しないから」
我が弟はにっこりと笑いながら彼を見つめ、殴るし蹴るよと続ける。
私を心配してくれるのは有難いが、アルノーが殴ったら体が半壊しそうだからやめて欲しい。せっかく彼が治ったのに壊されちゃお終いだ。
寂しそうに目を細め、彼は尻尾を垂らし左右に振る。その姿にもはや私は虜になっており、繋いだアルノーの手を出し振りほどきそのフワフワのお腹へ飛びついた。
「おぅふ! ふわふわー! これだよこれ! 私はこれを求めてたんだよー!」
陽の光を浴びていたから暖かく、桃の木下にいたからか甘い香りがする。
モフモフと彼を堪能しているとアルノーも羨ましそうな顔をしていて、おいでと手招きし二人でもふんと抱きついた。
「もふもふー」
「モフフワー」
ふふっと笑い保護者二人を見るとなんとも微妙な表情で、彼は彼で両手をどうすればいいのか分からずにいる上に伸ばしている。
多分害を与えませんというポーズなのだろう。
しかしながらそんな彼の尻尾は嬉しそうにブンブン左右に揺れ、とても嬉しそうにも見えた。
「むふふー! 君は私のものになったのだから存分に可愛がってやろう!」
主に犬扱いで。
精一杯背伸びを頭を撫でようとするが届くはずもなく、首を傾げる彼に屈んでと言い視線が同じ高さになったところで頭を撫でる。
最初こそ警戒していた彼だがもやは主人に腹を見せる犬のような雰囲気を醸し出しており、私の方こそ危険を感じる事はない。
ハスキー犬は飼い主に従順だと聞いていたが、似ている彼もそうなのかもしれない。
沢山可愛がって沢山仕事してもらって、私を幸せにしてくれればいいなと思う。
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