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120 新事実、と
しおりを挟む限られた時間は刻々と過ぎていくもので、残りの日数は後二日。二日と言っても最終日は学院まで戻る時間も有するので、一日半といったところだろうか。
これまでに作り終えたフリーズドライは百四十を超え、ノルマは制覇した。
作ったものはお味噌汁をはじめとしたスープ各種、カレーや丼もの、糖分としてのアイスクリームとプリン等々。制作三日目から生産スピードが上がった故にこなせた数だといえるだろう。
しかしながら四日にして私はとある疑問を抱いたのだ。
どうやってこれらを保存するべきなのだろうと。
フリーズドライは水分を抜くことで出来上がる品物で、いかにその乾燥を保っているかが重要になる。
私の知ってるフリーズドライは密閉した袋に入っているか、もしくは真空パックしてあったものだと記憶している。
だがしかし今の私にそれらを準備できる筈もなく、折角作ったフリーズドライはそのまま麻袋に詰められておりこのままではやはり長期保存には向かないのではと考えた。
だがしがし、これはすぐ様杞憂であったと知ることになったのである。
「リズの作ったものなら腐らないよ? 今まで貰ったの少しずつ食べてても変化するのは見た目だけだったよ?」
そう言ったアルノーに同意するかのようにスヴェンも頷き、眉間に手を当て深くため息をついた。
「お前の作った庭産の食い物は多少傷むが腐った試しはねぇよ。作ってる本人であるお前は気にしなかったただろうが、売り手としてはどんくらい日持ちするか気にするもんだ。で、結果は見た目は多少傷んで変わるが、腐らない。見た目も持ち運ぶ過程で傷む程度で根本的に食い物が悪くなってはいないんだろうがな」
「━━なんてこったいっ!」
初めて知る事実に思わず私は間抜けな顔を二人に晒す。
腐ることがないということは無理にフリーズドライを作る必要が無かったのではないか。いやしかし、アルノーに持たせる保存食の種類は増えたし結果オーライなのか?
むしろ何故今までそれを教えてくれなかった!?
ひとまずこれで問題は解決したようなものだが、若干腑に落ちない。
もっと早く知っていれば、アルノーが入学する前にもっと準備出来たはず。
わざわざ調べようとしなかった私と悪いのだろうが、調べて教えてくれなかったスヴェンも悪い。
今日のご飯は少なめにしてやる。
ジト目で睨み付けるとスヴェンは視線を逸らし、そしてもう一度ため息をついてこう言った。
お前が調子にのるから言わなかったんだ、と。
あらがち間違いではないが、それでも報連相は大事だと思うのだが。
さて、フリーズドライ問題はこれで解決として私を次に頭を悩ませたのは家に届いた一通の手紙である。
差出人は我が領主であるガリレオ・バーベイル。
今までも用事があると従者がここまで来て手紙を渡して行ったが、今回は"招待状"という形で届いたのだ。
日程はアルノーが学院に戻った次の日。私がブラコンなのを考慮したのか、それともたまたまかは分からないが兎も角三日後には領主邸へ向かわなければならない。
以前大量に亜人をもらい受けてから私は訪れていないし、亜人を受け取ってもいない。
となると新たな亜人の受け入れかと考えるも前回があの量だったのだ、それほど用意しているとは考えづらい。それに手紙には亜人についての記載はなく、相談したい事があるとしか書いていない。
何となくだが、嫌な予感はする。
否、嫌な予感しかしない。
何せ領主の、貴族の"相談したい事"だ。
よくなことではないのだろう。
「スヴェンさーん、これ、行かなきゃ駄目?」
「駄目だ、行かないっつー選択はない。 貴族のお呼び出しだぞ? 行かない方が後々面倒なことになるのは分かってるだろう?」
「分かってるけどさぁ……」
貴族だからこそ面倒なんだよね。
自分の方が偉いと分かってる人間が、態々低姿勢でくるってことは絶対にろくでもないことを考えてるに違いない。
普通"お越しください"なんて手紙を目下た平民に送らないだろう?前回のことがあって少し私への態度を改めたとしても、貴族として平民に頭を下げることはしないはず。
それでもこうして私みたいな平民へ招待状を送るということはそれなりの理由があるのだろう。
どうせ保存食の量を増やせとかもっと融通利かせろって事なんだろうけど、それなりの見返りを考えているのだろうか?
この前の亜人は領主の不手際から大量に買い取らせてもらったが、次はそうはいかない。
また自分有利に事を運ぼうとしたら本気で切ってやる。たとえスヴェンにどつかれたとしてもだ。
「まぁ、あれだ。 俺にも考えがあるからあまり考え無しの行動するなよ」
「うー、善処するー」
善処するとは言ったが、了解はしてないよ?
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