酒池肉林王と7番目の天使

日向かなた

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第19話ー2

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 アクアーリオ国の舞踏会開始2時間前の、午後4時。

 カプリコルノの北東に位置するプリームラ町の東門を出、そのまま真っ直ぐ向かうと間もなく見えて来るチクラミーノ港にて。

 帆船に乗ろうか直前、ベルとヴァレンティーナ、ヴィットーリア、シャルロッテの女4人が別れを惜しむのは、見送り一同の腕に抱かれてやってきたレオナルドとジルベルト。

「本日は向こうに一泊するから、次に会えるのは明日の夜中になるかもしれないのう」

 と、ヴィットーリアが名残惜しそうにアリーチェの腕に抱かれているレオナルドと、ベラドンナの腕に抱かれているジルベルトの頭を撫でる。

「留守を頼んだからの、未来を担う希望の光たちや」

 ナナ・ネネが「もういいか?」と問うた。

 どうやら急いでいるらしい。

 一同承知すると、両舷に艦砲が二列に渡って搭載されている帆船――ガレオン船ガレオーネに乗った。

 護衛用のガレオーネ4隻と海兵と共に、ナナ・ネネの魔法で風を起こして全速前進。

 合計5隻のガレオーネの帆が破れんばかりに膨らんだと思った刹那、見送り側もぽかんとしてしまう勢いで驀進ばくしんしていった。

  あまりの勢いに体勢を崩した女たちを、フラヴィオとコラードの腕が支える。

 海兵たちはそのまま転倒したようだ。

「大丈夫か?」

 とか訊いた割には、風を弱めようとしないナナ・ネネ。

 右舷側と左舷側に分かれて立ち、周りを帆走する護衛船とぶつかったりしないよう風の向きを微調整して忙しそうなので、このままお願いすることにした。

 フラヴィオたち一同は揺れの少ない船尾楼の中へと移動し、椅子やベッドレットに腰かける。

 コラードがヴァレンティーナを見ながら、呟くように口を開いた。

「向こうの王太子って、どんなんだったかな……ティーナと同い年で、金髪碧眼なのは覚えてるんだけどな」

「外見云々より、王太子殿下の人格が気になるところです。ティーナ様が純真無垢の穢れなき天使なだけに、尚のこと」

 と、ベルが続いた。

「コラード様とシャルロッテ陛下のように好相性であって下さったら嬉しい限りですが、国が変われば文化や習慣、考え方にも違いがあってもおかしくありませんし、当然ご両親の教育によっても変わりますし」

 シャルロッテが、ベルとコラードの様子を見ながら口を開いた。

「これはうちの国もだけど、王侯貴族の男は皆『力の王』に畏怖の念を抱いているから大丈夫だとは思うわ。でも、正直、マストランジェロ王家が変わってるのはたしかよ」

 コラードが「そう?」と問うと、シャルロッテが頷いた。

「うちの国も私が王――女王だからマシな方だけど、アクアーリオ国の女の身分は低いわよ。民衆は当然、王妃や王太子妃でも、夫と同等の身分とは思わない方が良いわ。過去のアクアーリオ王妃、王太子妃が、男児を出産しないという理由でどれだけ離婚や死刑にされてきたか。女がまつりごとに口を出すことも許されないって聞くし」

 と言ったあとに、シャルロッテが慌てた様子でヴァレンティーナを見た。

「って大丈夫よ、ヴァレンティーナ殿下。さっきも言ったけれど、あなたはとても強いお父様に守られているから。誰もあなたに酷いことしたりしないし、皆大切にしてくれるはずよ」

「大丈夫です、サジッターリオ陛下」

 と、ヴァレンティーナがシャルロッテに笑顔を向ける。

「夫に従い、尽くすのが妻としての仕事なのだと、母上から教わっております」

「まぁ……」

 と少し声高になったシャルロッテが、ヴィットーリアを見て小声になる。

「流石だわ、ヴィットーリア陛下。でも心配だわ……!」

 その言葉にベルとコラードも同意すると、ヴィットーリアが「ほほ」と笑った。

「きっと大丈夫じゃ、シャルロッテ陛下。コラードもベルも、そんなに心配するでない。親馬鹿かもしれぬが、我が娘ティーナを愛さない男は早々見当たらぬ」

「まぁねぇ……」

 と、シャルロッテが、年々美しく成長していく絶世の美少女に顔を戻して納得する。

 その傍ら、現在大変不服に思っているベルとコラード。

 目を合わせた後、フラヴィオの顔を見た。

 死んでいた。

 また目を合わせ、顔を寄せ合う。

「なぁ、宰相。向こうの王太子ふざけた奴だったらボコボコにしていい? 妻が男を産まなきゃ離婚だの死刑だのって、頭イカれてるだろアクアーリオの王家…! オレ嫌だよ、そんなとこに大切な妹をやるのなんて……!」

「お気持ちは分かりますが、ボコボコにするのは脳内だけでお楽しみ下さい、コラード様。しかし、私も不安になって来ました……」

 と、ヴァレンティーナを見るベルの栗色の瞳が揺れ動く。

 シャルロッテの言う通り、フラヴィオを始めとするマストランジェロ一族の男が変わっているのは察している。

 だって、身分や容姿、年齢などに関わらず、女という女に甘いのだ。

 王侯貴族でなくとも、普通に考えてそんな男は貴重なように思う。

 だから、男尊女卑のアクアーリオ国の方が普通なのかもしれないと、多少は思う。

 しかし、ベルを含む国民皆が愛し、大切にして来たヴァレンティーナが辛い思いをするのだけは避けたかった。

 アクアーリオとは政略結婚であるとはいえ、それ以上にヴァレンティーナに幸せになって欲しい思いが強い。

「何かと相違は生じるかもしれませんが……何よりもあちらの王太子殿下が、マストランジェロ一族の男性のように優しく、妻を永久に愛し、大切にして下さるお方であることを願うばかりです――」


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