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第21話ー3
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――その日の夜10時。
2階にある図書室の中。
フラヴィオの補佐その1とその2が向かい合って座り、思案投首になっていた。傍らには、それぞれの妻もいる。
「今すぐではなく、もう少し先の話とはいえ……兄上の『後妻』はどうすべきなんだ」
「閣下と俺は、陛下の後妻はベルだけだと思っていたのにな。しかし、ムネ殿下が……」
隣の夫フェデリコと、斜め向かいのアドルフォの顔を交互に見ながら、アリーチェが口を開く。
「ルフィーナさんをフラヴィオ様の後妻にって考えてるわよね。だったら、そうすべきかもしれないと思うの。わたし、お義姉様のことで後悔したのよ。ムネ殿下がフラヴィオ様に『側室』の話をしていたとき、反対なんかするんじゃなかったって……」
アリーチェの向かいで、ベラドンナが「ワタシもよ」と同意した。
「もう二度と繰り返したくない過ちだわ。でもお姉様が、ベルがフラヴィオ様の側室になって、女として幸せになって欲しいって願ってたのも知ってるわ。ワタシだってそう思うし」
「ええ、わたしもそれは思うのよ。でも……あ、そうだわ。ベルが王妃で、ルフィーナさんが側室とかどう? その反対でもいいけど」
「お姉様のときは心配いらなかったけど、それって普通に考えたらどうなのかしらねぇ……」
と、ベラドンナが溜め息を吐いた。
「ワタシ、つくづくドルフに側室がいなくて良かったと思って。ベルは最初から言ってたけど、ドルフに側室がいたら夫婦円満は無理だったわ。それにルフィーナさんて、もうそのつもりは無いらしいけど、見ててドルフのこと好きだって分かるじゃない? ワタシの前でもお構いなしにドルフに「好きです」とか言うし。ワタシ、その度にハラワタ煮えくりかえっちゃって。側室なんて、いずれ血を招くものね」
「お、俺はルフィーナ殿に対してそういう感情ないからな……!?」
とアドルフォが妻を見て狼狽する傍ら、フェデリコが苦笑しながら「待て待て」と口を挟んだ。
「兄上とルフィーナ殿が結婚したところで、誰も幸せになれないということか? ルフィーナ殿に兄上との結婚願望があるならまだしも……恩人に対してなんという仕打ちよ。今後、兄上の正室・側室問わず、妻になるメッゾサングエの女性は苦行を強いられるんだぞ」
「そうだが……閣下よ、そうやって一切の犠牲を出すまいと考えているうちは、また同じ過ちを繰り返すんじゃないか? とか言ってる俺も、陛下が気の毒で仕方がないけどな。陛下はどう見ても、ベルに王妃になって欲しいと思ってる」
ベラドンナとアリーチェが「そうね」と声を揃えた。
「今日の昼間ね、ベラちゃんと一緒に裏庭に行ったら、フラヴィオ様がベルに情熱的なバーチョしていたの」
「あの場で最後までしちゃうのかと思ったわー。だってほら、フラヴィオ様まだまだ本調子じゃないけど、食欲戻って来たし、週に一度だけど鍛錬も再開したし、少し元気になって来たことだし?」
「ほんとドキドキしちゃったわよねー」
と、2人がくすぐったそうに笑ったとき、戸口の方から物音がした。
振り返ると、扉が少しだけ開いていて、そこに真っ赤になったベルの顔が半分だけ見えていた。
どうやら話が聞こえていたらしい。
「ぬ……盗み見でございますか」
「やーね、偶然よ」
と笑ったベラドンナが、隣の椅子を引いてベルを手招きする。
動揺して落としたのか、ベルは足元にあるものを拾い上げてから中に入って来た。
それは何かと見てみると、ハナとの『交換日記』だった。
レオーネ国の一同とは月に数度、ほんの数十分しか会えなくなってしまったために始めたものだった。
同時にベラドンナとムサシ、オルランドとアヤメも始めた。
そうしたら、最近フラヴィオも一緒でベルと2人きりで話を出来ないからと、ヴァレンティーナもベルと始めた。
さらにコラードも婚約者のサジッターリオ国女王シャルロッテと始め、最近の宮廷の中で流行りつつあった。
フェデリコが「兄上は?」と問うと、ベルが「お湯殿です」と答えて、ベラドンナに隣の席に着いた。
ここ毎晩そうであるように、浴室で多数待ち構えている使用人たちにフラヴィオを任せてきたのだろう。
夜10時を回っていることから、ヴァレンティーナの方は床に就かせたようだ。
「で?」とベラドンナが興味津々として問う。
「どうだった、昼間のバーチョは?」
ベルが再び赤面した。
そんなこと訊かないでと文句ありげな顔で、ベラドンナを見る。
ベラドンナが「いいじゃない」と肘でつつくと、ベルが少し俯いてこう答えた。
「どういうわけか……胸が、痛くなりました」
ベラドンナとアリーチェが一度顔を見合わせた。
「なんでだと思う? バーチョがいちばん想いを伝えやすいからよ」
つまりどういうことなのかと、ベルが「え?」と首を傾げた傍ら、アリーチェが溜め息交じりに続いた。
「そういうの聞いちゃうと、フラヴィオ様の後妻はベルであって欲しいって思っちゃうわ…。さっきわたし、ムネ殿下に従ってルフィーナさんを後妻をするべきかもしれないって言ったのだけれど……」
それを聞いたベルが、少しばかり眉を顰めた。
「私は、ルフィーナさんをフラヴィオ様の後妻として認めることは出来ません。これはルフィーナさんに限ったことではありませんが、フラヴィオ様の後妻になる方は、王妃陛下や私に負けず劣らずフラヴィオ様を愛することが大前提でございます」
それを聞いた4人が苦笑する。
頭の中、マサムネが連れて来るメッゾサングエが次から次へとベルに門前払いにされていく。
そして最後に残ったのは、仁王立ちしているベルただひとりだった。
ベルが「しかし」と言葉を続けた。
その顔が、今度は少し沈んでいく。
「私は今日の昼間のことで、ルフィーナさんに謝らなければならないこともあります。彼女は、私に正論を言いました。私は今や実質的宰相と呼ばれているにも関わらず、国民中心ではなくフラヴィオ様中心なのです。しかもこれから先も、永遠に変わりません」
「そんなに落ち込むことはないぞ? 君が兄上のために働いてきた結果、この国が良い方向へと変わって来たんじゃないか。それをルフィーナ殿はまだ知らないだけだ」
とフェデリコが言うと、ベルが「そうですが」と小さく返して俯いた。
「彼女は、国民のことを一番に考えられる女性です。そういうお人の方が、宰相やフラヴィオ様の後妻――次の王妃陛下に相応しいのかもしれないとも、思い始めました」
「んじゃ、ルフィーナ殿を陛下の後妻として認めるのか?」
というアドルフォの質問には、ベルが即刻「いいえ」と返した。
さっき言った条件だけは譲れないようだ。
「君とルフィーナ殿を足して2で割れる魔法があれば良いんだけどな」
とのフェデリコの言葉に、「嫌です」とさも不服そうに返したベルは、やはりまだ立腹しているらしい。
「分かった分かった」と、アドルフォがさっき話題に出ていたことを言ってみる。
「ベルが王妃、第二夫人にルフィーナ殿っていうのはどうだ? もともとムネ殿下は、メッゾサングエを陛下の『側室』にって言ってたし、そんなに問題ないだろう」
「いや、あるわよ」
と、ベラドンナがすかさず突っ込んだ。
「さっき言ったじゃない、ワタシ。『側室』なんて、いずれ血を見ることになるわよ」
フェデリコが唸った。
「たしかに、そういう心配もありそうだ。……が、ベルだし大丈夫じゃないか? 兄上がベソを掻かずに済むという意味では、それが最善だ。まぁ、ベルが女性として幸せになりたいなら……だけどな?」
ベルは「え?」と返しながら、ふと思い出す。
以前、ヴィットーリアに似たような話をされたことがある。
このベルがフラヴィオの側室となり、女としても幸せになって欲しいと。
「兄上ために生きることが、君の幸せなのは分かるが。それが女性としての幸せかどうかと言ったら、少し違うように見える。君は兄上の妻という存在になって、女性として幸せになりたいと思ったことはないのか?」
「そういうことを思う以前の話です。フラヴィオ様の妻に相応しい女性など、王妃陛下以外には――」
「居ないんだ、もう。義姉上はもう、居なくなってしまったんだ……君に、兄上を託してな」
ベルの栗色の瞳が大きく揺れ動く。
「わ……私には、王妃陛下に匹敵できるものなどフラヴィオ様への愛しかありません」
「それだけで充分だ。大体、君は君なんだから義姉上と比べなくて良いんだ」
そう言った後に、フェデリコがもう一度問うた。
「兄上の妻になって、女性として幸せになりたいとは思わないのか?」
「それは……」
とベルが俯いて少しのあいだ黙考する。
「分かりません。だって、私がフラヴィオ様の妻など、まるで想像が出来ないのです」
と言いながらも頬を染めているところは、傍から見るとまんざらでもないように見えるのだが。
ベル自身は、その言葉通りの様子だった。
「フラヴィオ様と王妃陛下はどう見てもご夫婦でしたが、フラヴィオ様と私ではまるで飼い主と愛犬であり――」
「分かった分かった」
と、再びのその言葉でアドルフォが遮った。
埒が明かなそうなので、こう訊いてみる。
「今現在、後妻――王妃候補に挙がってるのはベルとルフィーナ殿だ。自分と彼女だったら、どっちが陛下に相応しいと思うんだ?」
「それは、私でございます!」
とベルが勃然として声を上げると、フェデリコとアドルフォがこう返した。
「じゃあ、決まりだ」
ベルは「何故でございますか」と声高に突っ込んだが、顔を見合わせたベラドンナとアリーチェも続いた。
「そうね、それがいいかも。ワタシと違って、アンタなら側室がいても冷静なんだろうし」
「ルフィーナさんには、側室になってもらいましょ。申し訳ないけれど、国民を想う彼女なら引き受けてくれるとも思うの」
話を進めていく4人の顔を見回したベルが、「お待ちください」と言いながら顔を赤くした。
「しつこいようですが、私は相応しくないのです。そ、それにまだ王妃陛下が亡くなったばかりですし、今決めるのは時期尚早でございますっ…! ムネ殿下がフラヴィオ様に相応しいメッゾサングエを連れて来られる可能性だってありますしっ……!」
と動揺を隠すためか、半ば錯乱した様子の頭を落ち着かせるためか、ベルがハナとの交換日記を開いて読み始める。
それを見て何か思い出したらしいフェデリコとアドルフォが、突如苦笑した。
交換日記を指差す。
「ソレ、兄上も混ぜてやってくれないか? ティーナとの方でも良いから。声が出なくて話し足りないせいか、今はひたすら皆に構って欲しいせいか、というか元々が寂しがり屋のせいか、どうやら羨ましいみたいなんだ。ソレやってる他の皆には、断られたらしくってな」
「先日ベルが朝廷に行っていていないとき、帳面を持った陛下が俺と閣下のところへ来てな。期待の眼差しを向けられて、思わず見て見ぬ振りをしてしまったぞ。そしたら陛下が肩を落として去って行かれ、罪悪感に苛まれたんだが……いくら何でも30過ぎの男3人でソレは無いから、助けてくれ」
「と言われましても、実は私もお断りしたのですよ。ハナの方にも、ティーナ様の方にも、秘密のお話が書かれておりますもので。よって、お三方でどうぞ」
「いやいやいや」
と、フェデリコとアドルフォが尚のこと苦笑している頃――
2階にある図書室の中。
フラヴィオの補佐その1とその2が向かい合って座り、思案投首になっていた。傍らには、それぞれの妻もいる。
「今すぐではなく、もう少し先の話とはいえ……兄上の『後妻』はどうすべきなんだ」
「閣下と俺は、陛下の後妻はベルだけだと思っていたのにな。しかし、ムネ殿下が……」
隣の夫フェデリコと、斜め向かいのアドルフォの顔を交互に見ながら、アリーチェが口を開く。
「ルフィーナさんをフラヴィオ様の後妻にって考えてるわよね。だったら、そうすべきかもしれないと思うの。わたし、お義姉様のことで後悔したのよ。ムネ殿下がフラヴィオ様に『側室』の話をしていたとき、反対なんかするんじゃなかったって……」
アリーチェの向かいで、ベラドンナが「ワタシもよ」と同意した。
「もう二度と繰り返したくない過ちだわ。でもお姉様が、ベルがフラヴィオ様の側室になって、女として幸せになって欲しいって願ってたのも知ってるわ。ワタシだってそう思うし」
「ええ、わたしもそれは思うのよ。でも……あ、そうだわ。ベルが王妃で、ルフィーナさんが側室とかどう? その反対でもいいけど」
「お姉様のときは心配いらなかったけど、それって普通に考えたらどうなのかしらねぇ……」
と、ベラドンナが溜め息を吐いた。
「ワタシ、つくづくドルフに側室がいなくて良かったと思って。ベルは最初から言ってたけど、ドルフに側室がいたら夫婦円満は無理だったわ。それにルフィーナさんて、もうそのつもりは無いらしいけど、見ててドルフのこと好きだって分かるじゃない? ワタシの前でもお構いなしにドルフに「好きです」とか言うし。ワタシ、その度にハラワタ煮えくりかえっちゃって。側室なんて、いずれ血を招くものね」
「お、俺はルフィーナ殿に対してそういう感情ないからな……!?」
とアドルフォが妻を見て狼狽する傍ら、フェデリコが苦笑しながら「待て待て」と口を挟んだ。
「兄上とルフィーナ殿が結婚したところで、誰も幸せになれないということか? ルフィーナ殿に兄上との結婚願望があるならまだしも……恩人に対してなんという仕打ちよ。今後、兄上の正室・側室問わず、妻になるメッゾサングエの女性は苦行を強いられるんだぞ」
「そうだが……閣下よ、そうやって一切の犠牲を出すまいと考えているうちは、また同じ過ちを繰り返すんじゃないか? とか言ってる俺も、陛下が気の毒で仕方がないけどな。陛下はどう見ても、ベルに王妃になって欲しいと思ってる」
ベラドンナとアリーチェが「そうね」と声を揃えた。
「今日の昼間ね、ベラちゃんと一緒に裏庭に行ったら、フラヴィオ様がベルに情熱的なバーチョしていたの」
「あの場で最後までしちゃうのかと思ったわー。だってほら、フラヴィオ様まだまだ本調子じゃないけど、食欲戻って来たし、週に一度だけど鍛錬も再開したし、少し元気になって来たことだし?」
「ほんとドキドキしちゃったわよねー」
と、2人がくすぐったそうに笑ったとき、戸口の方から物音がした。
振り返ると、扉が少しだけ開いていて、そこに真っ赤になったベルの顔が半分だけ見えていた。
どうやら話が聞こえていたらしい。
「ぬ……盗み見でございますか」
「やーね、偶然よ」
と笑ったベラドンナが、隣の椅子を引いてベルを手招きする。
動揺して落としたのか、ベルは足元にあるものを拾い上げてから中に入って来た。
それは何かと見てみると、ハナとの『交換日記』だった。
レオーネ国の一同とは月に数度、ほんの数十分しか会えなくなってしまったために始めたものだった。
同時にベラドンナとムサシ、オルランドとアヤメも始めた。
そうしたら、最近フラヴィオも一緒でベルと2人きりで話を出来ないからと、ヴァレンティーナもベルと始めた。
さらにコラードも婚約者のサジッターリオ国女王シャルロッテと始め、最近の宮廷の中で流行りつつあった。
フェデリコが「兄上は?」と問うと、ベルが「お湯殿です」と答えて、ベラドンナに隣の席に着いた。
ここ毎晩そうであるように、浴室で多数待ち構えている使用人たちにフラヴィオを任せてきたのだろう。
夜10時を回っていることから、ヴァレンティーナの方は床に就かせたようだ。
「で?」とベラドンナが興味津々として問う。
「どうだった、昼間のバーチョは?」
ベルが再び赤面した。
そんなこと訊かないでと文句ありげな顔で、ベラドンナを見る。
ベラドンナが「いいじゃない」と肘でつつくと、ベルが少し俯いてこう答えた。
「どういうわけか……胸が、痛くなりました」
ベラドンナとアリーチェが一度顔を見合わせた。
「なんでだと思う? バーチョがいちばん想いを伝えやすいからよ」
つまりどういうことなのかと、ベルが「え?」と首を傾げた傍ら、アリーチェが溜め息交じりに続いた。
「そういうの聞いちゃうと、フラヴィオ様の後妻はベルであって欲しいって思っちゃうわ…。さっきわたし、ムネ殿下に従ってルフィーナさんを後妻をするべきかもしれないって言ったのだけれど……」
それを聞いたベルが、少しばかり眉を顰めた。
「私は、ルフィーナさんをフラヴィオ様の後妻として認めることは出来ません。これはルフィーナさんに限ったことではありませんが、フラヴィオ様の後妻になる方は、王妃陛下や私に負けず劣らずフラヴィオ様を愛することが大前提でございます」
それを聞いた4人が苦笑する。
頭の中、マサムネが連れて来るメッゾサングエが次から次へとベルに門前払いにされていく。
そして最後に残ったのは、仁王立ちしているベルただひとりだった。
ベルが「しかし」と言葉を続けた。
その顔が、今度は少し沈んでいく。
「私は今日の昼間のことで、ルフィーナさんに謝らなければならないこともあります。彼女は、私に正論を言いました。私は今や実質的宰相と呼ばれているにも関わらず、国民中心ではなくフラヴィオ様中心なのです。しかもこれから先も、永遠に変わりません」
「そんなに落ち込むことはないぞ? 君が兄上のために働いてきた結果、この国が良い方向へと変わって来たんじゃないか。それをルフィーナ殿はまだ知らないだけだ」
とフェデリコが言うと、ベルが「そうですが」と小さく返して俯いた。
「彼女は、国民のことを一番に考えられる女性です。そういうお人の方が、宰相やフラヴィオ様の後妻――次の王妃陛下に相応しいのかもしれないとも、思い始めました」
「んじゃ、ルフィーナ殿を陛下の後妻として認めるのか?」
というアドルフォの質問には、ベルが即刻「いいえ」と返した。
さっき言った条件だけは譲れないようだ。
「君とルフィーナ殿を足して2で割れる魔法があれば良いんだけどな」
とのフェデリコの言葉に、「嫌です」とさも不服そうに返したベルは、やはりまだ立腹しているらしい。
「分かった分かった」と、アドルフォがさっき話題に出ていたことを言ってみる。
「ベルが王妃、第二夫人にルフィーナ殿っていうのはどうだ? もともとムネ殿下は、メッゾサングエを陛下の『側室』にって言ってたし、そんなに問題ないだろう」
「いや、あるわよ」
と、ベラドンナがすかさず突っ込んだ。
「さっき言ったじゃない、ワタシ。『側室』なんて、いずれ血を見ることになるわよ」
フェデリコが唸った。
「たしかに、そういう心配もありそうだ。……が、ベルだし大丈夫じゃないか? 兄上がベソを掻かずに済むという意味では、それが最善だ。まぁ、ベルが女性として幸せになりたいなら……だけどな?」
ベルは「え?」と返しながら、ふと思い出す。
以前、ヴィットーリアに似たような話をされたことがある。
このベルがフラヴィオの側室となり、女としても幸せになって欲しいと。
「兄上ために生きることが、君の幸せなのは分かるが。それが女性としての幸せかどうかと言ったら、少し違うように見える。君は兄上の妻という存在になって、女性として幸せになりたいと思ったことはないのか?」
「そういうことを思う以前の話です。フラヴィオ様の妻に相応しい女性など、王妃陛下以外には――」
「居ないんだ、もう。義姉上はもう、居なくなってしまったんだ……君に、兄上を託してな」
ベルの栗色の瞳が大きく揺れ動く。
「わ……私には、王妃陛下に匹敵できるものなどフラヴィオ様への愛しかありません」
「それだけで充分だ。大体、君は君なんだから義姉上と比べなくて良いんだ」
そう言った後に、フェデリコがもう一度問うた。
「兄上の妻になって、女性として幸せになりたいとは思わないのか?」
「それは……」
とベルが俯いて少しのあいだ黙考する。
「分かりません。だって、私がフラヴィオ様の妻など、まるで想像が出来ないのです」
と言いながらも頬を染めているところは、傍から見るとまんざらでもないように見えるのだが。
ベル自身は、その言葉通りの様子だった。
「フラヴィオ様と王妃陛下はどう見てもご夫婦でしたが、フラヴィオ様と私ではまるで飼い主と愛犬であり――」
「分かった分かった」
と、再びのその言葉でアドルフォが遮った。
埒が明かなそうなので、こう訊いてみる。
「今現在、後妻――王妃候補に挙がってるのはベルとルフィーナ殿だ。自分と彼女だったら、どっちが陛下に相応しいと思うんだ?」
「それは、私でございます!」
とベルが勃然として声を上げると、フェデリコとアドルフォがこう返した。
「じゃあ、決まりだ」
ベルは「何故でございますか」と声高に突っ込んだが、顔を見合わせたベラドンナとアリーチェも続いた。
「そうね、それがいいかも。ワタシと違って、アンタなら側室がいても冷静なんだろうし」
「ルフィーナさんには、側室になってもらいましょ。申し訳ないけれど、国民を想う彼女なら引き受けてくれるとも思うの」
話を進めていく4人の顔を見回したベルが、「お待ちください」と言いながら顔を赤くした。
「しつこいようですが、私は相応しくないのです。そ、それにまだ王妃陛下が亡くなったばかりですし、今決めるのは時期尚早でございますっ…! ムネ殿下がフラヴィオ様に相応しいメッゾサングエを連れて来られる可能性だってありますしっ……!」
と動揺を隠すためか、半ば錯乱した様子の頭を落ち着かせるためか、ベルがハナとの交換日記を開いて読み始める。
それを見て何か思い出したらしいフェデリコとアドルフォが、突如苦笑した。
交換日記を指差す。
「ソレ、兄上も混ぜてやってくれないか? ティーナとの方でも良いから。声が出なくて話し足りないせいか、今はひたすら皆に構って欲しいせいか、というか元々が寂しがり屋のせいか、どうやら羨ましいみたいなんだ。ソレやってる他の皆には、断られたらしくってな」
「先日ベルが朝廷に行っていていないとき、帳面を持った陛下が俺と閣下のところへ来てな。期待の眼差しを向けられて、思わず見て見ぬ振りをしてしまったぞ。そしたら陛下が肩を落として去って行かれ、罪悪感に苛まれたんだが……いくら何でも30過ぎの男3人でソレは無いから、助けてくれ」
「と言われましても、実は私もお断りしたのですよ。ハナの方にも、ティーナ様の方にも、秘密のお話が書かれておりますもので。よって、お三方でどうぞ」
「いやいやいや」
と、フェデリコとアドルフォが尚のこと苦笑している頃――
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