酒池肉林王と7番目の天使

日向かなた

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第27話ー3

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「なぁ、相手にはモストロがうじゃうじゃいるんだってよ」

「本当に大丈夫だと思うか?」

「負けるわけないだろ、復活した陛下や元帥閣下たちが」

「そりゃそうだが……テレトラスポルト? とかいう瞬間移動の魔法で、オレたちの前にいきなりモストロが現れたらどうするよ?」

「それ死ぬ気しかしないな……」

 と兵士たちが不安心になって宮廷の『下の中庭』で騒然としていたのは、今から一週間前のこと。

 そこへ、

「待たせたな、おまえら! 安心せい、ワイらがおまえらを守ったる!」

 と、噂のテレトラスポルトでレオーネ国王太子マサムネとその猫4匹、四男坊ムサシが現れ。

 その後すぐに、荷物をまとめて待っていた天使番号1番ベラドンナ・2番アリーチェ・3番セレーナ・4番パオラ、6番ビアンカの他、まだ戦場に出られない小さな王子やその従兄弟たちがレオーネ国の宮廷へ避難していった。

「やっぱりレオーネ国はオレたちの味方なんだな!」

「ありがとうございます!」

 とそのときからマサムネやムサシには感謝し、再び受け入れた将兵や使用人たち。

 しかしやはり、モストロである猫4匹には不信感や恐怖感が抜けない様子だった。

 それ故、肩身が狭い思いをしながら宮廷で過ごした猫4匹。

 また、無実ながら罪人にならなければならなかったアラブ。

 本日、ようやくそれから解放される時が来た――

「やはりカンクロ軍は本国を出港したときより、大幅に船の数が減っています。半分は消えたかと」

 と、アラブが『力の王』や『力の王弟』、『人間卒業生』、それから『宰相』に報告したのは、カプリコルノの東隣アクアーリオ国の砦の中だった。

 大陸付近の航路を離れてから長いこと兵糧補給地が無いカンクロ軍は、想定通りまずここアクアーリオ国に向かっていた。

 それ故、アクアーリオ国王に事情を説明し、カンクロ軍が停泊するだろう港付近の砦を借りて匿っている。

「なんで分かるんだ?」

 と300人ほど連れて来た将兵たちの中から聞こえた呟きは、アラブや猫4匹の耳に届いている。

「アラブさんはカンクロ国の密偵の仕事をしていたから、どれくらいの兵力で遠征に出たか知ってるんだよ」

 とタロウが言うと、アラブが「だから」と空を指差した。

「ついさっき、見て来たんだ。テレトラスポルトで上空に移動して、真上から船団をざっとな。ちなみに空って、凍死しそうなくらい寒い」

 兵士たちから「へえ」と声が上がった。

 マサムネが声を大きくする。

「ほな、そろそろおまえらに魔法の盾を2枚掛けるでー。全員、周りの奴らと手ぇ繋ぎー」

 兵士たちが動揺しながらも、国王やその補佐3人が従ったのを見て続く。

 そして全員繋がったと分かると、タロウ・ハナ兄妹が「せーの」と声を揃えた。

「バッリエーラ」

 それはタロウ・ハナに近い方から掛かっていき、最終的には300人すべての将兵を包み込んでいった。

 兵士たちがざわめき出す。

「盾って……何も見えないぞ」

「でもたしかに今、何かに包まれた感じがした」

「本当に盾なんて掛かってるのか?」

 アラブが「試してみればいいじゃないか」と言うと、2人の兵士がふと向かい合った。

 片方が防御を構え、片方が殴ろうと拳を振るう。そして拳が当たる寸前で「うわっ!」と跳ね返されて尻を付くと、兵士たちがどよめきだった。

「すげぇ、本当に盾に守れてるぞ!」

「こんな便利な魔法もあるんだなー」

 それから20分ほど経過すると、人間の目にもカンクロ遠征軍の船団がはっきりと見えて来た。

 フラヴィオとハナと共に、砦の城壁上の歩廊から海を見ていたベルが、突如「ああっ」と声を上げて震え出す。

「フラヴィオ様っ…! ついにカンクロ軍が来ましたっ…! ああ、ベルナデッタは、ベルナデッタはっ……!」

「なんだアモーレ、小動物のようにプルプルして、怖くなったのか? それならレオーネ国に避難させておくべきだった――」

「フラビーフラビー」

 と、ハナがその言葉を遮った。

「なんか違う」

「うん?」

 と小首を傾げ、ベルの脇の下に手を入れて持ち上げたフラヴィオ。

 眼前にベルの顔を持って来たら、なんとも不敵な笑みが浮いていた。

「ベルナデッタは、この日をお待ちしておりました。フラヴィオ様の最大の財産――カプリコルノ国を略奪しようとする言語道断・不届き至極のカンクロ国を、再生不能なほどに撃退するこの日を…! ああっ、武者震いがっ……!」

「ああそう……」

 ハナが「そろそろだぞー」と下に向かって声を大きくすると、マサムネと2人の元帥の声が砦の中に響き渡った。

「まずは相手の様子を見る! んで、機を見てテレトラスポルトで敵の前に移動すんで、準備しとき!」

「全員、隊列を整えろ!」

「そして移動するときに置いて行かれないよう、さっきみたいに周りと繋がっておけよ!」

 兵士たちが急いで指示に従う中、マサムネがタロウに「ワイらも」と言って城壁上の歩廊を指差した。タロウが従い、兵士を除く一同をそこに移動させる。

 近くなって来たカンクロ大船団に気付かれないよう、城壁上に作られている小壁と小壁のあいだにある隙間から、顔を半分覗かせて向こうの様子をうかがう。



 船の大きさはまちまちだが、どれもベルとハナが成敗したカンクロ海賊リージンの帆船と、同じ形の船体をしているようだった。四角く、横から見ると三日月形で、またどれも赤い帆だ。

 それらを眺めながら、マサムネこう言った。

「カンクロ王太子ワン・ジンの船の帆には、必ずカンクロの国章――牙を向いた虎の顔が描かれてるはずや」

 フラヴィオが「ああ」と頷いた。

「それを狙うのが手っ取り早いが……まるで見えんな」

「先陣を切って突っ込んでく力の王ちゃうんやから、そら前の方にはおらんわ。てか、カーネ・ロッソの数を削るのも目的のひとつやで。カーネ・ロッソが――人型モストロが、脅威なんやから」

「んじゃ片っ端からやってくのか」

 城壁上の歩廊に居る数人から、「あ」と小さく声が漏れた。

 視線の先――港に、ぱっと1匹のカーネ・ロッソが現れた。兜は被っておらず赤い犬耳は見えているが、弱点のひとつである尻尾は鎧の中にきちんと隠しているようだ。

 すぐに2匹目、3匹目とテレトラスポルトで現れる。

「奴らにバッリエーラは何枚掛かってるんだ?」

 とアドルフォが問うと、猫4匹が「5枚」と答えた。

 アラブが「しかし」と続く。

「このタロウ君たちのものに比べると、薄いバッリエーラですよ。メッゾサングエの自分のバッリエーラと、ほとんど変わりません。カーネ・ロッソは魔力がそんなに高くないですからね」

 ハナが頷いた後に、「でも」と続いた。

「自分の主には、何十枚もバッリエーラを掛けてると思うよ。リージンの飼い犬のホンファがそうだった」

 と「な」とベルを見ると、それは同意して頷いた。

 自身の命が危険に晒されようとも、主リージンを守るため、そのとき残っていた力すべてを使ってリージンにバッリエーラを掛けて守ったホンファを思い出す。

「主の命は、彼らの命なのです。それ故、主を守り切れなかったとき彼らは絶望し、必然的に戦意が無くなります。よって、そこを狙うのが最善かと」

 フェデリコが「たしかに」と同意した。

「カンクロ本国を出港した時よりも兵力が半分になったと言っても、向こうにはまだ30万の兵が居る。人間だけでなく、モストロもいるとなったらこちらとて骨が折れる」

 とフラヴィオとアドルフォの顔を見ると、それらも「まぁな」と同意した。

「出番でございます」

 とアラブとナナ・ネネの顔を見、港の方を指差したベル。

 そこには何十匹も集まったカーネ・ロッソたちが、困惑した様子で立ち往生していた。よく利く鼻で、辺りの匂いを嗅いでいる。

 ナナ・ネネがその声を聞き取った。

「おかしいって、言ってる」

「この国の町は食い物の匂いがほとんどしないって、言ってる」

「どうしようって、困ってる」

「このままじゃ主たちが腹減りで死ぬって、焦ってる」

 フラヴィオが「だろうな」と言った。

「うちの宰相が、めずらしく羽振りの良いことをしたからな」

 ベルが「スィー」と返事をした。

 事前の作戦通り、ここアクアーリオ国と、カプリコルノの北隣サジッターリオ国の食糧は買い占めてある。

 尚も続々とテレトラスポルトで集まって来るカーネ・ロッソたちから、船の方へと栗色の瞳が移った。

「彼らの主は皆、船の中に隠れていらっしゃるようです。それ故、アラブさん、ナナさん・ネネさん、お願い致します」

「そうだな。ここは何よりも、魔法が早かろう」

 とフラヴィオが続くと、アラブが「御意!」、ナナ・ネネが「同感」と声を揃えた。3人顔を見合わせて、急遽手短に打ち合わせをする。

 それが10秒ほどで終わると、ベルが「さぁ」の言葉と共に、再び武者震いした。

「言語道断・不届き至極の万死に値するカンクロ国軍の皆様……ご逝去あそばせ!」


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