酒池肉林王と7番目の天使

日向かなた

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第34話ー2

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 ――5月末日のヴィットーリアの一周忌には、ほぼすべての国民がマストランジェロ王家の霊廟に訪れた。レオーネ国やサジッターリオ国、ヴィルジネ国からも王族が墓参りにやって来た。

 フラヴィオたちはひとりひとりヴィットーリアに伝えたいことがあって、ひとりずつ霊廟の中に花や菓子などを持って入っていった。

 最後はフラヴィオで、ヴィットーリアに一番似合う花――薔薇の花束を抱えて入っていき、そのまま翌日の早朝までヴィットーリアの柩の傍らで過ごした。

 ベルがアラブのテレトラスポルトで迎えに行くと、フラヴィオの目はすっかり冴えており、眠らずに語り明かしたのだと分かった。

 フラヴィオはヴィットーリアの棺に向かって「愛している」と言った。その後「また来る」と言うと、ベル、アラブと共に霊廟を後にした。

 宮廷へ帰ると、皆が浮足立っていた。そして忙しそうだった。

 何故ならヴァレンティーナの13歳の誕生日で、それを祝福するパレードパラータの日だったからだ。

 墓参りの後、宮廷に宿泊していったレオーネ・サジッターリオ・ヴィルジネ国の王族にも見守られてのパラータは、王都オルキデーアで割れんばかりの拍手と歓声の中で行われ、熱気・興奮冷めやらぬまま無事に幕を閉じた。

 いつもそうであるように、王侯貴族のパラータが行われてから短くても一週間は王都は祝福に沸いている。

 今回は国民皆が真に愛する5番目の天使のパラータというだけでなく、一年ぶりのパラータだった故に、町はまるで元に戻る気配がない。

 このまま6月後半のアドルフォの誕生日パラータや、去年出来なかったオルランドの成人パラータを迎えるようだ。

 そして現在、6月の半ば。舞踏会の日がやって来た。

 午後0時から12時までの半日に渡って開催されるそれには、先日ヴィットーリアの墓参りにやって来てくれた三国の他、アクアーリオ国の王侯貴族も招待している。

「追い返そうぜ」

「こら、コラード」

「だって兄上、何度も言っただろ? あいつ――アクアーリオの王太子は、史上最低最悪のクソヤロウだって」

「たしかに、母上が亡くなったときだけでなく、先日の一周忌にも誰も来ないあたりはアクアーリオの神経を疑うけどな。まぁ、怯えているだけかもしれないが」

 と王太子オルランドと第二王子コラードが会話をしているのは、宮廷の3階にある舞踏室の窓際。

 他国の招待客はまだ着いていないが、カプリコルノ国の王侯貴族はもう皆集まっていた。

 接待の仕事がある天使たちは丁寧にめかし込んでいるらしく、その姿はまだ見えない。

 その一方で、結婚や婚約がまだの第三・第四王子やその従兄弟たち、侯爵の養子でありレオーネ国王太子の四男坊でもあるムサシも、貴族の娘たちに囲まれて忙しそうだ。

 また、その親であるフェデリコやアドルフォはさらに忙しそうにしている。

「怯えてるって?」とコラードが問うと、オルランドが「『力の王』にだ」と答えながら舞踏室の中を見回した。

 その『力の王』こと父フラヴィオの姿は、一番多忙のはずなのにまだ見えなかった。準備中の天使たちが籠っている衣裳部屋の前に張り付いていそうに思う。

「来たら殺されると思って、この一年間震え上がっていたんじゃないか? 1月の防衛戦でアクアーリオの砦を借りた際は、父上は手紙でアクアーリオ国王とやり取りをしている。そのとき父上は実際に会って話そうとしたんだが、アクアーリオ国王はなんやかんや理由を付けて会おうとはしなかったようだ」

「なるほどな。んじゃー、この舞踏会にも来なかったりしてな」

 とコラードが「はははっ」と笑うと、オルランドが「いや」と首を横に振った。

「恐らく来るだろう。必ず王太子を連れてな。婚姻を通してたしかな友好関係を結んでおきたいのは、うちよりアクアーリオだからな。うちも石材の輸入が止まったらまずいっちゃ、まずいが」

「石材なら、オレが国王になるサジッターリオにもそこそこあるから大丈夫だろ……って、ちょっと待てよ。民家をすべて石造りに変えたいって、ロッテが言ってたな」

「民家をすべて石造りに? それはまた大掛かりだな。シャルロッテ陛下は、何故そのようなことを?」

「サジッターリオには、普段関わることが無いとはいえ、炎属性のやばいモストロがいるからさ。実際おれとロッテも防衛戦のときにその威力見たけど、あれは木造じゃまず堪えられるもんじゃないよ。一瞬で灰になる」

「そういうことか」

 うんと頷いた後、コラードが「だからさ」と声を潜めた。

「アクアーリオ国王太子が未だにクソヤロウで、ティーナを嫁にやれたもんじゃなかったら、オレがサジッターリオ国王になってからぶっ潰すよ。そうすりゃあ、石材の心配いらなくなるし」

「待て。おまえは隣国の国王になるって言ったって、そんな父上たちの許可も無しに」

「大丈夫、許可はちゃんと取るよ。特に父上の補佐その3こと宰相ベルに無断でなんて、オレには怖くて出来な――」

「コラード様」

 と噂をすれば何とやら、ベルの声に言葉を遮られたコラードが「うわぁ!」と声を上げた。

 2人が振り返ると、いつの間にかそこにベルが立っている。

 本日のためにフラヴィオが用意した王族の色――紫色のドレスヴェスティートを纏い、品のある化粧をしている。

 2人は「おお」と声高になった。

「綺麗だな、ベル。君の可憐さには淡い色が似合うが、君の落ち着いた雰囲気には高貴な紫が似合う」

「だなー、偉大なる宰相って感じ。あ、父上は敢えてその色のヴェスティートにしたのか」

 ベルが「スィー」と言って、自身のヴェスティートを改めて見つめる。

「私は小娘宰相ですから、馬鹿にされたり舐められたりしないようにと、フラヴィオ様がお気遣いくださったのでしょう。天使軍のお姉様方には、大人っぽく見えるようしっかりお化粧して頂きました」

 と、ベルが指先を揃えた手で舞踏会の戸口の方を指した。

「ティーナ様も同じような理由から、私が紫色のヴェスティートをご用意させて頂きました。本当はティーナ様が10代であらせられるうちは、愛らしいピンクローザ色などを着せたい想いがあったのですが」

 ベルと一緒にフラヴィオや天使一同が舞踏室にやって来たようで、ベルの指す先にはド派手なフラヴィオと紫色のヴェスティートを纏ったヴァレンティーナが居た。

 ベラドンナとアリーチェは忙しそうな夫の下へ行き、セレーナとパオラも戸口で他国からの招待客を迎える準備をしていた。

 4つになったばかりで、本日が初めての舞踏会であるビアンカは、誰よりもブリブリのローザ色のヴェスティートで舞踏室の中を気取って歩き、たちまち貴族の小さな男の子に囲まれておすまし顔でいる。

「ああ、今回はティーナも紫で良いと思う。ローザだとどうしても可愛い印象を抱くからな」

「だな。あの史上最低最悪のクソヤロウに舐められそうだから、ティーナも高貴な王族の色で王女の品格を演出した方がいい」

 アヤメが「ランド!」と呼びながら、小走りで寄って来た。本日は爽やかなミントグリーンヴェルデミンタのヴェスティートだ。

 オルランドが「Oh……!」と、額に鈍器でも食らったかのごとくエビ反りになる。

「フラヴィオ様に似て来ましたねぇ……」

 とベルが呟いた傍ら、バネに弾かれたかのように舞い戻って来たオルランドの上半身。

 その顔は恍惚としていて、目前に居たアヤメを抱き上げて唇に吸い付いた。

 慌てて唇を離したアヤメが、真っ赤になって辺りを見回す。

「あっ…あかんよランド、こんなところでっ……!」

「ごめん、身体勝手に。ああ、君はどうしてこんなに愛らしいぃぃ――」

「――せ、せやからあかんてばっ…! ウチらも今日は社交で忙しいんやでっ…! はよ戸口で招待客出迎える準備せなっ……!」

「ああ、そうだな。行こう」

「あかんあかんあかん、降ろしてえぇぇ!」

 とアヤメが姫抱っこされたまま、オルランドに連れ去られていく。

 それを生あたたかい目で見送った後、ベルはコラードに顔を戻した。

「コラード様、サジッターリオ国の国王陛下になられた暁には、アクアーリオ国を奪取するご意向のようですが」

 コラードがギクッとして一歩後退った。

「い、いやいや、落ち着いてくれ宰相。アクアーリオ王太子が相変わらず気に入らないヤロウだったらの話で、その……落ち着いてくださいっす」

 ベルは「落ち着いております」と答えると、小声になって続けた。

「賛同致します」

「え?」

「アクアーリオ国の王太子殿下が相変わらずのお方で、ティーナ様に相応しくないのなら、私はそのようなことも頭の片隅で考慮しております。此度アクアーリオ国について詳しく調べましたが、プリームラ『国』といったところです」

「プリームラ『国』……?」と鸚鵡返しにした後、察したコラードが眉間にシワを寄せた。

「国民が重税を課せられて貧困ってこと? 奴隷とかもいて? 大して金持ちでないはずのアクアーリオ国の宮廷がうちに負けず劣らず豪華だったのは、やっぱそういうことなのかよ」

 ベルが頷いて続ける。

「そんなアクアーリオ国の現状を見たらティーナ様は胸を痛めてしまいますし、アクアーリオ国の王太子殿下が相変わらずでしたら、この先変わることもないでしょう。私はとてもではありませんが、そのような国にティーナ様を差し上げることなど出来ません。しかしフラヴィオ様には、ティーナ様を王妃陛下にして差し上げたいご意向――つまり国の頂点にして差し上げたいご意向ですから、最悪アクアーリオ国を奪取して、ティーナ様をアクアーリオ国の女王陛下にするのです」

 コラードが「おおっ」と声高になって、下がっていた一歩分戻って来た。

「いいなソレ、最高じゃん……! ここら三国、オレらが治められたら平和になるよなぁ」

「スィー」と返事をしたベルの栗色の瞳が、恍惚と煌めいていった。

「ここら三国すべて、マストランジェロ王家の――我が主のものとなるのです」

「いや、ちょっと宰相? サジッターリオ国はオレで、アクアーリオ国はティーナが国王になるってさっき言ってたよね? 全部父上のものじゃないよね? ちょっと、宰相――って、Oh……!」

 と先ほどのオルランドに続いて、コラードもエビ反りになる。どうやら婚約者のサジッターリオ国女王シャルロッテが来たらしい。


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