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第34話ー3
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「つくづくフラヴィオの子ねぇ」
とやって来たシャルロッテは、流石は女王といったところ。大変豪奢なヴェスティートでのご登場。
コラードに猛烈に吸い付かれた後、興奮している犬を宥めるように「ハイハイ」とコラードの明るい茶色の頭を撫でる。
シャルロッテはベルと互いのヴェスティートを褒め合った後、戸口を一瞥して小声になった。
「ねぇ、ベル。まだアクアーリオの王族は見えていないみたいだけど」
「スィー、シャルロッテ陛下。アラブさんがテレトラスポルトでお迎えに行っているのですが、少し遅いですね」
「むしろそれが原因かもね。怖いのよ、モストロや魔法が。特に王太子がぐずってるんじゃない? 王太子はあの日、あなたたちか弱い女性を置いてひとりで逃げたくらいだもの。まぁ、あの国じゃそれが当然のことなんでしょうけど」
ベルが眉間にシワを寄せて「当然とは?」と問うた。
「危なくなったとき、女性を犠牲にして逃げることよ。言ったでしょう? 酷く男尊女卑の国だって」
「スィー。過去には、男の子を生まなかったという理由だけで、王妃・王太子妃が死刑にされて来たと」
「そういうときだけでなく、アクアーリオは常日頃から女性の命を軽んじていて、女性もそれが当然のようになっているのよね。淑女の嗜みに『レディーファースト』っていうのがあって……例えば、建物があったとするでしょう?」
「スィー」と相槌を打って、ベルは耳を傾ける。
此度アクアーリオ国について詳しく調べたつもりだったが、向こうの淑女教育に関してまでは調べていない。知らない言葉が出て来た。
「そういう場合、女性が先に中に入っていくの。マストランジェロ一族の男たちが女性への気遣いから扉を開けて、中に入るのを待っていてくれるのとは違うわよ? 真逆の意味。アクアーリオでは、レディーファースト――『淑女が先に』中に入って安全を確認するの。つまり、アクアーリオの男は女性を『盾』にして、自分の身の安全を確保するのよ。他にも女性が『先に』食堂に入って男を出迎え、男を待たせないとか、女性が『先に』就寝して貞淑を守るだとか、朝は女性が『先に』起きて朝の支度を終えるだとか、色々あるわ」
驚愕していく2人の顔を見ながら、シャルロッテが「だから」と話を続けた。
「今回の舞踏会で、ヴァレンティーナ殿下とアクアーリオ王太子が婚約するかもしれないみたいだけど……私も口出しさせてもらうわ。ヴァレンティーナ殿下は私の義妹になるんだから、他人事じゃないもの。ヴァレンティーナ殿下は『力の王』に守られているから大丈夫だと思っていたけど、去年の事例からいって、もうそうとは言えないしね。向こうの王太子の態度によっては婚姻を反対させて頂くからよろしくね」
「スィー、むしろお願い致します」
と、ベル。お辞儀をしたら、そのまま倒れてしまいそうな感覚に陥る。
シャルロッテの言うその『レディーファースト』が常識の国に、ヴァレンティーナを嫁にやるなんて改めて冗談じゃなかった。
「ところで」と、ふとシャルロッテが舞踏室の一角を指す。
「流石よねー、アレ。私たちが、この舞踏室にやって来たその瞬間からグイグイ来たわ」
ベルがシャルロッテの指した方を見ると、フェデリコの長男リナルドとシャルロッテの長女――サジッターリオ国第一王女マヤがいた。
此度の舞踏会ではリナルドがマヤを口説く予定もあり、リナルドは早速取り掛かっているようだった。
「ちなみに」とシャルロッテが、続いて別の方向を指差した。
「なんかあっちもアレなんだけど……」
ベルがそちらを見てみると、第三王子レンツォとサジッターリオ国第二王女エーベルが談笑している。
「エーベルは人見知りだから私にしがみ付いて隠れていたのだけれど、レンツォがそれを見てエーベルにお菓子の皿を持って来てくれたのよ。レンツォは物腰が柔らかいし、見てるとマストランジェロ一族の男たちの中で一番おとなしいから、エーベルは安心感を覚えたのでしょうね。レンツォはサジッターリオ語もペラペラだし、エーベル11歳に対してレンツォ9歳で年も近いし」
「ふむ、それはそれは……」
と、咳払いをしたベルと、シャルロッテの視線が合う。
「あの、シャルロッテ陛下?」
「ええ、ベル?」
「如何でしょうか」
「もちろん良いわ。うちの国と末永くよろしくね」
「こちらこそよろしくお願い致します」
とベルはぴったり45度の角度でお辞儀をすると、「主に報告して参ります」とその場を後にした。
その言葉通り、そそくさと戸口にいる主フラヴィオの元へ向かう。
恍惚とした表情で寄って来るベルを見て、フラヴィオの方は苦笑していく。
「こら、ベル……」
「フラヴィオ様、ベルナデッタはやりました」
「何を悪いことして来たのだ」
「悪いことなどしておりません。お喜びくださいませ。サジッターリオ国はこれから先、どんどんマストランジェロ王家に侵食されていくのでございます。そう、未来のサジッターリオ国はフラヴィオ様のものになるのです。え? そう簡単には行かないだろう? いいえ、フラヴィオ様。私が上手いことやってご覧に入れましょう」
「待て待て、『侵食』てなんだ」
「サジッターリオ国女王シャルロッテ陛下はコラード様が、サジッターリオ国王太女マヤ殿下はリナルド様が、そしてサジッターリオ国第二王女エーベル殿下もレンツォ様が頂くことになりました」
「――へ?」
と間の抜けた声を出して振り返ったのは、近くにいたレンツォ。
「お三方にマストランジェロ一族の男性のお力でアモーレ様をメロメロにして頂きました後は、この宰相ベルナデッタの意のまま思うがまま、思うツボでございま――」
「こら! いつまで経っても『悪い子』め!」
「『良い女』でございます!」
と、フラヴィオとベルの口喧嘩が始まるや否や、廊下から少年と思われる怒号が響いて来た。
「ボクに寄るな! メッゾサングエが汚らわしい!」
アクアーリオ語だった。
続いて、アクアーリオ語で返したアラブの声。
「はぁ、すみません」
「おい、何してる! ボクを先に中に入れる気か! 敵が潜んでいるかもしれないのに、危ないだろ! おまえが先に行け!」
「はぁ、すみません」
と、げんなりした顔のアラブが真っ先に入って来る。
その後、アクアーリオ国王夫妻と王太子が姿を現した。
とやって来たシャルロッテは、流石は女王といったところ。大変豪奢なヴェスティートでのご登場。
コラードに猛烈に吸い付かれた後、興奮している犬を宥めるように「ハイハイ」とコラードの明るい茶色の頭を撫でる。
シャルロッテはベルと互いのヴェスティートを褒め合った後、戸口を一瞥して小声になった。
「ねぇ、ベル。まだアクアーリオの王族は見えていないみたいだけど」
「スィー、シャルロッテ陛下。アラブさんがテレトラスポルトでお迎えに行っているのですが、少し遅いですね」
「むしろそれが原因かもね。怖いのよ、モストロや魔法が。特に王太子がぐずってるんじゃない? 王太子はあの日、あなたたちか弱い女性を置いてひとりで逃げたくらいだもの。まぁ、あの国じゃそれが当然のことなんでしょうけど」
ベルが眉間にシワを寄せて「当然とは?」と問うた。
「危なくなったとき、女性を犠牲にして逃げることよ。言ったでしょう? 酷く男尊女卑の国だって」
「スィー。過去には、男の子を生まなかったという理由だけで、王妃・王太子妃が死刑にされて来たと」
「そういうときだけでなく、アクアーリオは常日頃から女性の命を軽んじていて、女性もそれが当然のようになっているのよね。淑女の嗜みに『レディーファースト』っていうのがあって……例えば、建物があったとするでしょう?」
「スィー」と相槌を打って、ベルは耳を傾ける。
此度アクアーリオ国について詳しく調べたつもりだったが、向こうの淑女教育に関してまでは調べていない。知らない言葉が出て来た。
「そういう場合、女性が先に中に入っていくの。マストランジェロ一族の男たちが女性への気遣いから扉を開けて、中に入るのを待っていてくれるのとは違うわよ? 真逆の意味。アクアーリオでは、レディーファースト――『淑女が先に』中に入って安全を確認するの。つまり、アクアーリオの男は女性を『盾』にして、自分の身の安全を確保するのよ。他にも女性が『先に』食堂に入って男を出迎え、男を待たせないとか、女性が『先に』就寝して貞淑を守るだとか、朝は女性が『先に』起きて朝の支度を終えるだとか、色々あるわ」
驚愕していく2人の顔を見ながら、シャルロッテが「だから」と話を続けた。
「今回の舞踏会で、ヴァレンティーナ殿下とアクアーリオ王太子が婚約するかもしれないみたいだけど……私も口出しさせてもらうわ。ヴァレンティーナ殿下は私の義妹になるんだから、他人事じゃないもの。ヴァレンティーナ殿下は『力の王』に守られているから大丈夫だと思っていたけど、去年の事例からいって、もうそうとは言えないしね。向こうの王太子の態度によっては婚姻を反対させて頂くからよろしくね」
「スィー、むしろお願い致します」
と、ベル。お辞儀をしたら、そのまま倒れてしまいそうな感覚に陥る。
シャルロッテの言うその『レディーファースト』が常識の国に、ヴァレンティーナを嫁にやるなんて改めて冗談じゃなかった。
「ところで」と、ふとシャルロッテが舞踏室の一角を指す。
「流石よねー、アレ。私たちが、この舞踏室にやって来たその瞬間からグイグイ来たわ」
ベルがシャルロッテの指した方を見ると、フェデリコの長男リナルドとシャルロッテの長女――サジッターリオ国第一王女マヤがいた。
此度の舞踏会ではリナルドがマヤを口説く予定もあり、リナルドは早速取り掛かっているようだった。
「ちなみに」とシャルロッテが、続いて別の方向を指差した。
「なんかあっちもアレなんだけど……」
ベルがそちらを見てみると、第三王子レンツォとサジッターリオ国第二王女エーベルが談笑している。
「エーベルは人見知りだから私にしがみ付いて隠れていたのだけれど、レンツォがそれを見てエーベルにお菓子の皿を持って来てくれたのよ。レンツォは物腰が柔らかいし、見てるとマストランジェロ一族の男たちの中で一番おとなしいから、エーベルは安心感を覚えたのでしょうね。レンツォはサジッターリオ語もペラペラだし、エーベル11歳に対してレンツォ9歳で年も近いし」
「ふむ、それはそれは……」
と、咳払いをしたベルと、シャルロッテの視線が合う。
「あの、シャルロッテ陛下?」
「ええ、ベル?」
「如何でしょうか」
「もちろん良いわ。うちの国と末永くよろしくね」
「こちらこそよろしくお願い致します」
とベルはぴったり45度の角度でお辞儀をすると、「主に報告して参ります」とその場を後にした。
その言葉通り、そそくさと戸口にいる主フラヴィオの元へ向かう。
恍惚とした表情で寄って来るベルを見て、フラヴィオの方は苦笑していく。
「こら、ベル……」
「フラヴィオ様、ベルナデッタはやりました」
「何を悪いことして来たのだ」
「悪いことなどしておりません。お喜びくださいませ。サジッターリオ国はこれから先、どんどんマストランジェロ王家に侵食されていくのでございます。そう、未来のサジッターリオ国はフラヴィオ様のものになるのです。え? そう簡単には行かないだろう? いいえ、フラヴィオ様。私が上手いことやってご覧に入れましょう」
「待て待て、『侵食』てなんだ」
「サジッターリオ国女王シャルロッテ陛下はコラード様が、サジッターリオ国王太女マヤ殿下はリナルド様が、そしてサジッターリオ国第二王女エーベル殿下もレンツォ様が頂くことになりました」
「――へ?」
と間の抜けた声を出して振り返ったのは、近くにいたレンツォ。
「お三方にマストランジェロ一族の男性のお力でアモーレ様をメロメロにして頂きました後は、この宰相ベルナデッタの意のまま思うがまま、思うツボでございま――」
「こら! いつまで経っても『悪い子』め!」
「『良い女』でございます!」
と、フラヴィオとベルの口喧嘩が始まるや否や、廊下から少年と思われる怒号が響いて来た。
「ボクに寄るな! メッゾサングエが汚らわしい!」
アクアーリオ語だった。
続いて、アクアーリオ語で返したアラブの声。
「はぁ、すみません」
「おい、何してる! ボクを先に中に入れる気か! 敵が潜んでいるかもしれないのに、危ないだろ! おまえが先に行け!」
「はぁ、すみません」
と、げんなりした顔のアラブが真っ先に入って来る。
その後、アクアーリオ国王夫妻と王太子が姿を現した。
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