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第44話ー1 新王太子
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ワン・ジンとその母――王太后の葬儀を終え、陵墓に埋葬した後のこと。
「私が王妃でいるあいだお世話になりました、リエンさん。引き続き、私の女官をお願い出来ませんか?」
とベルに問われたリエンは、少し驚いた様子で「いいノ?」とベルやカプリコルノ一同を見て問うた。
そして良いようだと分かると「御意」と笑顔を見せた。
カンクロ国の宮廷内のことを実際に回りながら細かく教えて回った後、こんなことを言ってテレトラスポルトでその場を後にした。
「改めてご即位おめでとうございますネ、女王陛下。ご主人様の願いを受け入れてくれテ、本当にありがとウ……エミ。リエン、ご主人様のお墓に忘れ物したから取って来ル」
その直後、ベルがハナを見てこう言った。
「厨房までテレトラスポルトお願いします。リエンさんに美味しいものを作って差し上げなければ」
「そうだな。主を失ったカーネ・ロッソにとっての楽しみっていったら、もう食い物だけだろうからな。しっかし、国王の部屋から厨房離れすぎだろ、ここの宮廷」
リエンに続いて2人もテレトラスポルトで消えた後、フラヴィオが「なぁ」とマサムネに声を掛けた。
「今のベルとハナの会話だが……」
「ああ。食堂も無いみたいやし、テレトラスポルトが無かった時代はさぞ冷めきった料理が国王の下に届けられたんやろうな。おまえんとこも1階から4階まで運ぶの大変やけど」
「いや、厨房の話ではなくて」
マサムネが「ん?」とフラヴィオの顔を見上げた後、「ああ……」と小さく溜め息を吐いた。
「そういうもんやねん、カーネ・ロッソって。ちょっとベルに似てるような気もするわ。主を知ったカーネ・ロッソにとって、主の居なくなった世界は地獄でしかない。おまえもヴィットーリアはん失ったとき酷かったけど、たぶんそんなもんちゃう。人間には計り知れんほどやと思う。まぁ、食い物にはほんま弱いみたいやけど……あのリエン、戻って来ないかもな」
「え?」
「ベルやって、おまえが死んだ後、『生きること』の仕事が無かったらそうしたいんやで。ていうか、おまえやってそうやったやん」
マサムネの言いたいことを理解するまでに数秒掛かり、その後フラヴィオは「タロウ」と声高に呼んだ。
「あいつの墓にテレトラスポルトしてくれ。今すぐにだ」
リエンはワン・ジンの柩の傍らに、仰向けで倒れていた。
胸と首には刃物のように鋭利な黒い岩石が突き刺さり、辺り一面に血溜まりが出来ていた。
顔は蒼白く、一見して死んでいるように見えたが、灰になっていないことがそうではない証拠だった。
「タロウ!」
とフラヴィオがリエンから黒い岩石を引き抜くと、タロウがすぐさま「グワリーレ!」と唱えた。
間もなく瞼を開けたリエンが、「え?」と栗色の瞳を動揺させてフラヴィオとタロウの顔を見た。
そしてその目に涙が溜まり、牙が剥き出しになって、怒声を上げようとしたその口よりも先に、フラヴィオが「申し訳ない」と言った。
「そなたに怒られても仕方ないことをした、申し訳ない。でも、余はあいつにそなたのことは殺さないと約束した。それなのに、これでは約束を破ってしまったようなものだ」
「人間がカーネの辛さを分かると思うなヨ!」
リエンの甲高い叫喚が、痛々しく響き渡った。
フラヴィオは再び「申し訳ない」と謝ってから、「そして」と言葉を続けた。
「そなたもまた、主との約束を破ってしまうことになる」
リエンの牙が唇の奥に隠れていった。
眉が下がって、涙がその頬を伝っていく。
「あいつ側の目線になってしまって申し訳ない。あいつはそなたを生かそうとした。自分が死んでも、そなたには生きて欲しいと願っていた。ならば、出来る限りこの世に居てはくれないか? あいつが好きだったベルの女官なら、そんなに嫌ではなかろう?」
「でモッ……でモ、リエンは――」
「まぁ、落ち着いてよ」
とタロウが口を挟んだ。
「カンクロ女王陛下はね、料理が得意なんだ。今、君のために何か作ってるみたいだから、それ食べてから自害するかどうか決めることを勧めるよ」
「カーネ・ロッソはたしかに食べ物に弱いけド、あんまりリエンのこと馬鹿にするなヨ、この馬鹿ネコ! リエン、そんなに単純じゃないヨ!」
「分かった分かった。だからとりあえずね、ハイ」
と、タロウが半ば強引にカンクロ宮廷の国王の寝殿へと飛ぶ。
食卓に着かされたリエンが泣きじゃくって待っていると、間もなく厨房へ行っていたベルとハナが戻ってきた。
ベルが持っている皿には、カプリコルノ国の菓子――パンケーキが5枚重ねて盛り付けられている。
2人はリエンの服が血だらけになっているのを見るなり息を呑み、そして何が起こったのか察した様子で顔を見合わせた。
「馬鹿リエン! おまえな、ベルナデッタ女王陛下の料理は天下一品なんだぞ! せめて食ってから死ねよ!」
「どうぞ、リエンさん。カーネ・ロッソは肉食寄りということで、たっぷりのバターで焼きました」
泣きじゃくるリエンの鼻がヒクヒクと動いた。
ベルがふわふわトルタを一口大に切り分け、リエンの口元へと持っていくと反射的に食い付く。
「如何ですか?」
美味しかったらしい。
泣きながらも瞳を恍惚とさせ、ふわふわトルタを一枚ずつ手掴みで食べていく。
一枚につき2、3口で食べ進め、ものの2分で平らげると、その涙は止まっていた。
「おかわりくださいネ、女王陛下。リエン、女官頑張りマス」
その単純さと食い意地は、人間には計り知れないものであることが判明した。
「私が王妃でいるあいだお世話になりました、リエンさん。引き続き、私の女官をお願い出来ませんか?」
とベルに問われたリエンは、少し驚いた様子で「いいノ?」とベルやカプリコルノ一同を見て問うた。
そして良いようだと分かると「御意」と笑顔を見せた。
カンクロ国の宮廷内のことを実際に回りながら細かく教えて回った後、こんなことを言ってテレトラスポルトでその場を後にした。
「改めてご即位おめでとうございますネ、女王陛下。ご主人様の願いを受け入れてくれテ、本当にありがとウ……エミ。リエン、ご主人様のお墓に忘れ物したから取って来ル」
その直後、ベルがハナを見てこう言った。
「厨房までテレトラスポルトお願いします。リエンさんに美味しいものを作って差し上げなければ」
「そうだな。主を失ったカーネ・ロッソにとっての楽しみっていったら、もう食い物だけだろうからな。しっかし、国王の部屋から厨房離れすぎだろ、ここの宮廷」
リエンに続いて2人もテレトラスポルトで消えた後、フラヴィオが「なぁ」とマサムネに声を掛けた。
「今のベルとハナの会話だが……」
「ああ。食堂も無いみたいやし、テレトラスポルトが無かった時代はさぞ冷めきった料理が国王の下に届けられたんやろうな。おまえんとこも1階から4階まで運ぶの大変やけど」
「いや、厨房の話ではなくて」
マサムネが「ん?」とフラヴィオの顔を見上げた後、「ああ……」と小さく溜め息を吐いた。
「そういうもんやねん、カーネ・ロッソって。ちょっとベルに似てるような気もするわ。主を知ったカーネ・ロッソにとって、主の居なくなった世界は地獄でしかない。おまえもヴィットーリアはん失ったとき酷かったけど、たぶんそんなもんちゃう。人間には計り知れんほどやと思う。まぁ、食い物にはほんま弱いみたいやけど……あのリエン、戻って来ないかもな」
「え?」
「ベルやって、おまえが死んだ後、『生きること』の仕事が無かったらそうしたいんやで。ていうか、おまえやってそうやったやん」
マサムネの言いたいことを理解するまでに数秒掛かり、その後フラヴィオは「タロウ」と声高に呼んだ。
「あいつの墓にテレトラスポルトしてくれ。今すぐにだ」
リエンはワン・ジンの柩の傍らに、仰向けで倒れていた。
胸と首には刃物のように鋭利な黒い岩石が突き刺さり、辺り一面に血溜まりが出来ていた。
顔は蒼白く、一見して死んでいるように見えたが、灰になっていないことがそうではない証拠だった。
「タロウ!」
とフラヴィオがリエンから黒い岩石を引き抜くと、タロウがすぐさま「グワリーレ!」と唱えた。
間もなく瞼を開けたリエンが、「え?」と栗色の瞳を動揺させてフラヴィオとタロウの顔を見た。
そしてその目に涙が溜まり、牙が剥き出しになって、怒声を上げようとしたその口よりも先に、フラヴィオが「申し訳ない」と言った。
「そなたに怒られても仕方ないことをした、申し訳ない。でも、余はあいつにそなたのことは殺さないと約束した。それなのに、これでは約束を破ってしまったようなものだ」
「人間がカーネの辛さを分かると思うなヨ!」
リエンの甲高い叫喚が、痛々しく響き渡った。
フラヴィオは再び「申し訳ない」と謝ってから、「そして」と言葉を続けた。
「そなたもまた、主との約束を破ってしまうことになる」
リエンの牙が唇の奥に隠れていった。
眉が下がって、涙がその頬を伝っていく。
「あいつ側の目線になってしまって申し訳ない。あいつはそなたを生かそうとした。自分が死んでも、そなたには生きて欲しいと願っていた。ならば、出来る限りこの世に居てはくれないか? あいつが好きだったベルの女官なら、そんなに嫌ではなかろう?」
「でモッ……でモ、リエンは――」
「まぁ、落ち着いてよ」
とタロウが口を挟んだ。
「カンクロ女王陛下はね、料理が得意なんだ。今、君のために何か作ってるみたいだから、それ食べてから自害するかどうか決めることを勧めるよ」
「カーネ・ロッソはたしかに食べ物に弱いけド、あんまりリエンのこと馬鹿にするなヨ、この馬鹿ネコ! リエン、そんなに単純じゃないヨ!」
「分かった分かった。だからとりあえずね、ハイ」
と、タロウが半ば強引にカンクロ宮廷の国王の寝殿へと飛ぶ。
食卓に着かされたリエンが泣きじゃくって待っていると、間もなく厨房へ行っていたベルとハナが戻ってきた。
ベルが持っている皿には、カプリコルノ国の菓子――パンケーキが5枚重ねて盛り付けられている。
2人はリエンの服が血だらけになっているのを見るなり息を呑み、そして何が起こったのか察した様子で顔を見合わせた。
「馬鹿リエン! おまえな、ベルナデッタ女王陛下の料理は天下一品なんだぞ! せめて食ってから死ねよ!」
「どうぞ、リエンさん。カーネ・ロッソは肉食寄りということで、たっぷりのバターで焼きました」
泣きじゃくるリエンの鼻がヒクヒクと動いた。
ベルがふわふわトルタを一口大に切り分け、リエンの口元へと持っていくと反射的に食い付く。
「如何ですか?」
美味しかったらしい。
泣きながらも瞳を恍惚とさせ、ふわふわトルタを一枚ずつ手掴みで食べていく。
一枚につき2、3口で食べ進め、ものの2分で平らげると、その涙は止まっていた。
「おかわりくださいネ、女王陛下。リエン、女官頑張りマス」
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