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第47話ー3
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「ティーナはやっぱり反抗期か……」
「そのようです、フラヴィオ様……」
愕然とするフラヴィオとベルの傍ら、フェデリコとアドルフォが「待て待て待て」と焦りながら一同の顔を見回した。
「ベルを除く天使の皆と子供たちは、テレトラスポルトで今すぐ帰国してくれ。招待客の接待と留守番を頼む」
「ついでにムネ殿下に、お得意の一発芸で宴を盛り上げておいてもらってくれ。ところでアクアーリオ国王夫妻はどこだ?」
とアドルフォがタロウに顔を向けると、「カプリコルノにいるよ」とのこと。
「どうやらさ、ティーナとアクアーリオ王太子が2人で企んだことっぽいんだよ。アクアーリオ王太子に、ティーナに見せたいものがあるから宮廷まで送ってくれって言われたときに疑えば良かった。あの臆病な王太子自らモストロを頼りに来るなんて、命の危機に晒されたときくらいだろうに……本当にごめん」
「良い、タロウは気にするな」
と宥めた後、フラヴィオがハナとナナ・ネネを見た。
「ルーポ・ヴェレノーソが現れるかもしれぬし、天使と子供たちをカプリコルノに送ったら余の剣を持って来てくれ。余はコニッリョの目があるから、以前のようにいつでも剣を持ち歩いているわけではないのだ」
「オレものこる」
と、ぶすっとした顔をしているジルベルト。
天使や王子たちと一緒に帰る気は無いらしく、テレトラスポルトで飛ばされぬよう父アドルフォの服をぎっちりと握っている。
ハナとナナ・ネネは承知すると、指示通りの一同を連れてカプリコルノ国へと飛んでいった。
「まぁ、もちろんテレトラスポルトでティーナを強引に連れて来ることも出来るけど……それじゃ解決しないと思ったんだよ」
「ああ、タロウ。どうやらティーナは本気のようだ。ちゃんと向き合って話すときが来た」
と、小さく溜め息を吐いたフラヴィオ。
「ティーナ」と呼んだら、すぐに「嫌よ」と返ってきた。
「それは分かった、ティーナ。教えてくれ。どうしてこんなことをするのだ?」
「こうでもしないと、父上たちが認めてくれそうにないからよ。知ってる? うちに石材の貿易を止められて、一切合切の交流も遮断されたから、アクアーリオの国民は酷い貧困に陥っているわ。案の定よ」
ベルが「ティーナ様」と溜め息交じりに口を挟んだ。
「それは、うちとの交流が無くなる以前からの話かと。アクアーリオ国は元から宮廷ばかりが立派で、国民は税を絞り取られて生きるか死ぬかの生活を強いられていたことでしょう。うちと交流があろうが無かろうが、一緒なのですよ」
アクアーリオ王太子がヴァレンティーナの方を気にして、「そんなことない!」と声を上げた。
「カンクロ女王陛下、勝手に決めつけないでください。ボクが彼女を妻に迎えたら、父上に頼んで民衆を裕福してしてやります!」
「信用なりませんね、アクアーリオ王太子殿下。裕福になれるのは、あなた方王族だけでございましょう? うちからの輿入れ金で。そしてティーナ様が女性であるのを理由に、政には一切口出しさせないおつもりでしょう?」
「いいえ、約束しましょう。王女殿下と民衆の幸せを。政に口を出したいって言うなら、ボクが父上に許可をもらってあげますし」
「酷い大法螺でございますね。二度も私との約束を破ってトーレにヴェスティートを着せてパラータに連れて行ったフラヴィオ様並でございます」
フラヴィオが「すまん」と冷や汗を掻き出した傍ら、ヴァレンティーナが「もう!」と眉を吊り上げた。
「王太子殿下は嘘なんか吐いていないわ、ベル!」
「いいえ、ティーナ様。私には分かります。そこの王太子殿下は、性根の腐り切った汚物でございますよ」
「本人の前でなんてことを言うのよ、ベル!」
「気を遣って差し上げるほどの相手ではございませんし、陰で言うより爽やかでございます」
ジルベルトが「そうだ!」と声を荒げた。
「ティーナ、どうやらおまえはよく分かってねぇみたいだけど、オレもそいつがどれだけクソかは聞いてるぞ! いくら王太子だっつったって、そんなヤツよりオレとケッコンした方が何十倍もしあわせなのが分かんねーのか! ぜってーオレのがつえーし、ぜってーオレのがおまえのこと好きなのに! オレが成人になる、あと……えーと……?」
「12年よ」
「あと12年くらい、まってろよ!」
「ごめんね、ジル」
「んだと!?」
ハナとナナ・ネネが戻ってきた。
当然の如くアクアーリオ国王夫妻もいて、半狂乱になって宮廷の門の方へと駆けて行く。
「何をしているんだ、馬鹿息子が! さっさと王女殿下を連れて降りてこい!」
「父上、彼女の方からボクと結婚したいって言い出したんです」
「そうです、アクアーリオ陛下。私が王太子殿下にお願いしたのです」
フラヴィオとフェデリコ、アドルフォが困り果てた様子で相談をし始める。
その間、ベルとヴァレンティーナの押し問答は続いていた。
次第に熱を帯びていって、それに連れて互いに語調が強くなり、仕舞いには傷付け合いになっていた。
「どうして、ベルっ…! 私がこんなにお願いしているのにっ……!」
とヴァレンティーナが泣き出すと、ベルの胸が強く痛んだ。
それでも下がるわけには行かず、ベルは首を縦には振らない。
「どんなにお願いされたって駄目です。そこの王太子殿下では、ティーナ様を幸せに出来ません」
「ベルは何も分かってない! ルフィーナ王妃陛下を見て! カプリコルノ国民の幸せのために、王妃になってくれたでしょう? 私だってそうなのよ! アクアーリオ国と仲良くしたいし、国民の皆が困っているなら助けてあげたいのよ! 私はそれで幸せなの! お願いだから分かって!」
「ティーナ様のそのお優しいお心は、私や皆に伝わっております。しかし、私も皆も最優先はティーナ様ご自身の幸せでございます。国民の誰もがティーナ様の幸せを切に願っております」
「それならこの婚姻を許してくれるでしょう?」
「許しません。ティーナ様がそんなにアクアーリオ国民を想うのなら、一番はフラヴィオ様のものにすることです」
「戦争で奪って?」
「くださいと申し出たところで、お譲り頂けないでしょうからね」
「どうしてそういうやり方しか出来ないの? 私はベルのことが大好きだけれど、そういうところは理解出来ないわ」
「戦争を起こしたいわけでは無いのです。ただ私は、ティーナ様の幸せのために――」
「この婚姻が私の幸せだって言ってるじゃない! ベルは私を本当に愛してくれているの?」
ベルの眉間に少しシワが寄った。
「どういう意味です……?」
「私はベルを本当の姉のように思っているけど、ベルは私を本当の妹として見ていないから――愛していないから、分かってくれないのよ! もういいわ! ベルなんか、私の姉上なんかじゃないわ!」
「――」
栗色の瞳が深く傷付き、相談していたフラヴィオたちがはっと静まり返って2人を見る。
突如憤怒したハナが、「ティーナ!」と声を上げた。
「人間に反抗期とかいうのはあって当然なんだろうけどな、それでもいい加減にしろ! ベルがどれだけティーナのことを想って言ってると思ってるんだ! 血の繋がった親兄弟に負けず劣らず愛してくれてるのが分からないのか! 『もういい』のはコッチだ! 今からあたいがテレトラスポルトで強引に連れ戻してやるから覚悟しろ!」
「はいはい、落ち着いてハナ」
と、タロウがハナを羽交い絞めにする。
フラヴィオが慌ててベルの顔を覗き込むと、傷付いた栗色の瞳に涙が溜まっていた。
それが零れてしまわぬよう飲み込み、ベルがヴァレンティーナを睨むように見つめて声を震わせる。
「ティーナ様に嫌われようと、もう姉でなくなろうと、私は今や女王……重要な決断を下すときに、おいそれと下がるわけには行かないのですよ。ティーナ様、これは命令です。私の最優先はティーナ様ご自身の幸福でございます。しかしその王太子殿下が夫となっては、それは難しいでしょう。お分かりですね? ならば、いつまでもごちゃごちゃと反抗していないで……」
天地を揺るがすような女王の咆哮が鳴り渡っていく――
「とっとと帰って来なさい!」
アクアーリオ王太子と共にヴァレンティーナが跳び上がり、すぐそこまで迫って来ていたルーポ・ヴェレノーソが遁走していく。
しかし、ヴァレンティーナは小刻みに戦慄しているものの、結構な度胸の持ち主のようだった。
いつだったかも感じたように、このベルに負けず劣らずの女王の頭角が今、はっきりと見える。
「嫌よ……絶対に嫌っ! 悲しみの涙も戦争も大嫌い! 私は王太子殿下と結婚して、絶対にアクアーリオ国民を救うのよ! 私はこの意志を貫くわ!」
「なんですって?」
とベルの声が冷然と響くと、フラヴィオが「アモーレ」と割って入った。
ベルの肩を持って、ヴァレンティーナから自身の方へと向かせる。
「先にハナとカプリコルノに戻っているのだ。ジルもだ。ここは余が話を付ける」
「しかしっ……」
とベルがヴァレンティーナの方へと顔を向ける。
今はすべての否定的な意見を受け付けない、反抗的な蒼の瞳があった。
小さく「分かりました」と承知したベルと、「イヤだ!」と抵抗するジルの手の掴んで、ハナがテレトラスポルトでカプリコルノ国へと連れて行く。
天使たちが招待客の接待をし、マサムネが一発芸を披露して盛り上げていた宴に参加し、やきもきとしながらフラヴィオたちの帰りを待つ。
帰ってきたのは意外と早く1時間後で、ちゃんとヴァレンティーナの姿もあった。
「ティーナ様っ……!」
どうやらフラヴィオたちが説得して連れて帰って来てくれたようだと判断したベルが、笑顔で席から立ち上がる。
しかし、ヴァレンティーナはベルから気まずそうに顔を逸らし、他の皆もベルと目を合わせられない様子だった。
「アモーレ、それからジル、ハナ、留守番組の皆も……聞いてくれ」
フラヴィオがベルの隣の席に座って、ベルを膝の上に乗せる。
宥められるように栗色の髪を撫でられ、ベルはもうこの時点で察した。
「その……コニッリョのことを考えると、今のうちがティーナを失うわけには行かないだろう? だから週に一度、こちらに帰って来るという約束の下でだ。そう、ティーナは週に一度は帰って来るのだ。向こうはちゃんと約束した。その下で……ティーナとアクアーリオ王太子の婚姻が、決まったぞ――」
「そのようです、フラヴィオ様……」
愕然とするフラヴィオとベルの傍ら、フェデリコとアドルフォが「待て待て待て」と焦りながら一同の顔を見回した。
「ベルを除く天使の皆と子供たちは、テレトラスポルトで今すぐ帰国してくれ。招待客の接待と留守番を頼む」
「ついでにムネ殿下に、お得意の一発芸で宴を盛り上げておいてもらってくれ。ところでアクアーリオ国王夫妻はどこだ?」
とアドルフォがタロウに顔を向けると、「カプリコルノにいるよ」とのこと。
「どうやらさ、ティーナとアクアーリオ王太子が2人で企んだことっぽいんだよ。アクアーリオ王太子に、ティーナに見せたいものがあるから宮廷まで送ってくれって言われたときに疑えば良かった。あの臆病な王太子自らモストロを頼りに来るなんて、命の危機に晒されたときくらいだろうに……本当にごめん」
「良い、タロウは気にするな」
と宥めた後、フラヴィオがハナとナナ・ネネを見た。
「ルーポ・ヴェレノーソが現れるかもしれぬし、天使と子供たちをカプリコルノに送ったら余の剣を持って来てくれ。余はコニッリョの目があるから、以前のようにいつでも剣を持ち歩いているわけではないのだ」
「オレものこる」
と、ぶすっとした顔をしているジルベルト。
天使や王子たちと一緒に帰る気は無いらしく、テレトラスポルトで飛ばされぬよう父アドルフォの服をぎっちりと握っている。
ハナとナナ・ネネは承知すると、指示通りの一同を連れてカプリコルノ国へと飛んでいった。
「まぁ、もちろんテレトラスポルトでティーナを強引に連れて来ることも出来るけど……それじゃ解決しないと思ったんだよ」
「ああ、タロウ。どうやらティーナは本気のようだ。ちゃんと向き合って話すときが来た」
と、小さく溜め息を吐いたフラヴィオ。
「ティーナ」と呼んだら、すぐに「嫌よ」と返ってきた。
「それは分かった、ティーナ。教えてくれ。どうしてこんなことをするのだ?」
「こうでもしないと、父上たちが認めてくれそうにないからよ。知ってる? うちに石材の貿易を止められて、一切合切の交流も遮断されたから、アクアーリオの国民は酷い貧困に陥っているわ。案の定よ」
ベルが「ティーナ様」と溜め息交じりに口を挟んだ。
「それは、うちとの交流が無くなる以前からの話かと。アクアーリオ国は元から宮廷ばかりが立派で、国民は税を絞り取られて生きるか死ぬかの生活を強いられていたことでしょう。うちと交流があろうが無かろうが、一緒なのですよ」
アクアーリオ王太子がヴァレンティーナの方を気にして、「そんなことない!」と声を上げた。
「カンクロ女王陛下、勝手に決めつけないでください。ボクが彼女を妻に迎えたら、父上に頼んで民衆を裕福してしてやります!」
「信用なりませんね、アクアーリオ王太子殿下。裕福になれるのは、あなた方王族だけでございましょう? うちからの輿入れ金で。そしてティーナ様が女性であるのを理由に、政には一切口出しさせないおつもりでしょう?」
「いいえ、約束しましょう。王女殿下と民衆の幸せを。政に口を出したいって言うなら、ボクが父上に許可をもらってあげますし」
「酷い大法螺でございますね。二度も私との約束を破ってトーレにヴェスティートを着せてパラータに連れて行ったフラヴィオ様並でございます」
フラヴィオが「すまん」と冷や汗を掻き出した傍ら、ヴァレンティーナが「もう!」と眉を吊り上げた。
「王太子殿下は嘘なんか吐いていないわ、ベル!」
「いいえ、ティーナ様。私には分かります。そこの王太子殿下は、性根の腐り切った汚物でございますよ」
「本人の前でなんてことを言うのよ、ベル!」
「気を遣って差し上げるほどの相手ではございませんし、陰で言うより爽やかでございます」
ジルベルトが「そうだ!」と声を荒げた。
「ティーナ、どうやらおまえはよく分かってねぇみたいだけど、オレもそいつがどれだけクソかは聞いてるぞ! いくら王太子だっつったって、そんなヤツよりオレとケッコンした方が何十倍もしあわせなのが分かんねーのか! ぜってーオレのがつえーし、ぜってーオレのがおまえのこと好きなのに! オレが成人になる、あと……えーと……?」
「12年よ」
「あと12年くらい、まってろよ!」
「ごめんね、ジル」
「んだと!?」
ハナとナナ・ネネが戻ってきた。
当然の如くアクアーリオ国王夫妻もいて、半狂乱になって宮廷の門の方へと駆けて行く。
「何をしているんだ、馬鹿息子が! さっさと王女殿下を連れて降りてこい!」
「父上、彼女の方からボクと結婚したいって言い出したんです」
「そうです、アクアーリオ陛下。私が王太子殿下にお願いしたのです」
フラヴィオとフェデリコ、アドルフォが困り果てた様子で相談をし始める。
その間、ベルとヴァレンティーナの押し問答は続いていた。
次第に熱を帯びていって、それに連れて互いに語調が強くなり、仕舞いには傷付け合いになっていた。
「どうして、ベルっ…! 私がこんなにお願いしているのにっ……!」
とヴァレンティーナが泣き出すと、ベルの胸が強く痛んだ。
それでも下がるわけには行かず、ベルは首を縦には振らない。
「どんなにお願いされたって駄目です。そこの王太子殿下では、ティーナ様を幸せに出来ません」
「ベルは何も分かってない! ルフィーナ王妃陛下を見て! カプリコルノ国民の幸せのために、王妃になってくれたでしょう? 私だってそうなのよ! アクアーリオ国と仲良くしたいし、国民の皆が困っているなら助けてあげたいのよ! 私はそれで幸せなの! お願いだから分かって!」
「ティーナ様のそのお優しいお心は、私や皆に伝わっております。しかし、私も皆も最優先はティーナ様ご自身の幸せでございます。国民の誰もがティーナ様の幸せを切に願っております」
「それならこの婚姻を許してくれるでしょう?」
「許しません。ティーナ様がそんなにアクアーリオ国民を想うのなら、一番はフラヴィオ様のものにすることです」
「戦争で奪って?」
「くださいと申し出たところで、お譲り頂けないでしょうからね」
「どうしてそういうやり方しか出来ないの? 私はベルのことが大好きだけれど、そういうところは理解出来ないわ」
「戦争を起こしたいわけでは無いのです。ただ私は、ティーナ様の幸せのために――」
「この婚姻が私の幸せだって言ってるじゃない! ベルは私を本当に愛してくれているの?」
ベルの眉間に少しシワが寄った。
「どういう意味です……?」
「私はベルを本当の姉のように思っているけど、ベルは私を本当の妹として見ていないから――愛していないから、分かってくれないのよ! もういいわ! ベルなんか、私の姉上なんかじゃないわ!」
「――」
栗色の瞳が深く傷付き、相談していたフラヴィオたちがはっと静まり返って2人を見る。
突如憤怒したハナが、「ティーナ!」と声を上げた。
「人間に反抗期とかいうのはあって当然なんだろうけどな、それでもいい加減にしろ! ベルがどれだけティーナのことを想って言ってると思ってるんだ! 血の繋がった親兄弟に負けず劣らず愛してくれてるのが分からないのか! 『もういい』のはコッチだ! 今からあたいがテレトラスポルトで強引に連れ戻してやるから覚悟しろ!」
「はいはい、落ち着いてハナ」
と、タロウがハナを羽交い絞めにする。
フラヴィオが慌ててベルの顔を覗き込むと、傷付いた栗色の瞳に涙が溜まっていた。
それが零れてしまわぬよう飲み込み、ベルがヴァレンティーナを睨むように見つめて声を震わせる。
「ティーナ様に嫌われようと、もう姉でなくなろうと、私は今や女王……重要な決断を下すときに、おいそれと下がるわけには行かないのですよ。ティーナ様、これは命令です。私の最優先はティーナ様ご自身の幸福でございます。しかしその王太子殿下が夫となっては、それは難しいでしょう。お分かりですね? ならば、いつまでもごちゃごちゃと反抗していないで……」
天地を揺るがすような女王の咆哮が鳴り渡っていく――
「とっとと帰って来なさい!」
アクアーリオ王太子と共にヴァレンティーナが跳び上がり、すぐそこまで迫って来ていたルーポ・ヴェレノーソが遁走していく。
しかし、ヴァレンティーナは小刻みに戦慄しているものの、結構な度胸の持ち主のようだった。
いつだったかも感じたように、このベルに負けず劣らずの女王の頭角が今、はっきりと見える。
「嫌よ……絶対に嫌っ! 悲しみの涙も戦争も大嫌い! 私は王太子殿下と結婚して、絶対にアクアーリオ国民を救うのよ! 私はこの意志を貫くわ!」
「なんですって?」
とベルの声が冷然と響くと、フラヴィオが「アモーレ」と割って入った。
ベルの肩を持って、ヴァレンティーナから自身の方へと向かせる。
「先にハナとカプリコルノに戻っているのだ。ジルもだ。ここは余が話を付ける」
「しかしっ……」
とベルがヴァレンティーナの方へと顔を向ける。
今はすべての否定的な意見を受け付けない、反抗的な蒼の瞳があった。
小さく「分かりました」と承知したベルと、「イヤだ!」と抵抗するジルの手の掴んで、ハナがテレトラスポルトでカプリコルノ国へと連れて行く。
天使たちが招待客の接待をし、マサムネが一発芸を披露して盛り上げていた宴に参加し、やきもきとしながらフラヴィオたちの帰りを待つ。
帰ってきたのは意外と早く1時間後で、ちゃんとヴァレンティーナの姿もあった。
「ティーナ様っ……!」
どうやらフラヴィオたちが説得して連れて帰って来てくれたようだと判断したベルが、笑顔で席から立ち上がる。
しかし、ヴァレンティーナはベルから気まずそうに顔を逸らし、他の皆もベルと目を合わせられない様子だった。
「アモーレ、それからジル、ハナ、留守番組の皆も……聞いてくれ」
フラヴィオがベルの隣の席に座って、ベルを膝の上に乗せる。
宥められるように栗色の髪を撫でられ、ベルはもうこの時点で察した。
「その……コニッリョのことを考えると、今のうちがティーナを失うわけには行かないだろう? だから週に一度、こちらに帰って来るという約束の下でだ。そう、ティーナは週に一度は帰って来るのだ。向こうはちゃんと約束した。その下で……ティーナとアクアーリオ王太子の婚姻が、決まったぞ――」
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