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第52話ー2
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――フラヴィオの願い空しく。
「Nooooooo!」
フラヴィオの第九子でベルの第二子は、12番目の天使だった。
つまりカプリコルノ国の第三王女で、カンクロ国の第一王女だった。
しかも兄サルヴァトーレの性別をそのまま変えたような、金髪碧眼のベルだった。
頭を抱え、エビ反りになって絶叫し、そのまま後方にぶっ倒れたフラヴィオを見て、出産ギリギリ直前にやって来たハナが「おいおい」と突っ込む。
「その反応はどうなんだ、フラビー? 喜ぶところだろ。あたいは娘が出来たみたいで物凄い嬉しいぞ?」
「余も喜んでるのだ! 可愛いのだ! 嫌なのだ! 可愛すぎるのだ! 嫁にやらないのだあぁぁ!」
「なんか錯乱してるなぁ」
リンリーとピエトラによって手早く綺麗にされ、おくるみに包まれた娘を愛おしそうに腕に抱きながら、フラヴィオが涙目でベルを見る。
「こんなに可愛すぎる娘を産んでくれてありがとう、アモーレ。名前は『カテーナ』と『ヴィルジニア』の二択から選んでくれ」
ベルが苦笑してしまいながらハナとルフィーナに問う。
「どっちが良いと思います? カテーナが『鎖』で、ヴィルジニアが『乙女』という意味なのですが」
「それって、この子を鎖で繋いでおくか、永遠の乙女でいさせるつもりですか陛下?」
「困った父親だな、フラビー。でもまぁ、鎖って名前よりは、乙女の方が良いんじゃないか?」
ベルが「では、ヴィルジニアにします」と言うと、フラヴィオが承知した。
鼻を啜りながら、廊下でヴィルジニアのお披露目を待っている一同の下へ向かっていく。
扉を開けるなり感嘆の声が上がり、たちまち囲まれて人気者になったヴィルジニアを、まずはサルヴァトーレに「妹だぞ」と渡す。
「名前はヴィルジニアだ。愛称は……『ジーナ』が良いか」
「わぁ…! ジーナ、とっても小さいね……!」
と碧眼を煌めかせて感動するサルヴァトーレの傍ら、興奮していくレオナルド。
「お…女の子になったトーレ殿下だ……! え、じゃあ……じゃあっ……!」
とフラヴィオを見上げ「義父上」と言うや否やに、拳骨を食らって「いったぁ!」と蹲る。
「今のは空耳か、レオ? 余はおまえの『伯父上』であって、『義父上』じゃないだろう? ヴィルジニアの意味は乙女だ。分かるな? 分かっているな、レオ?」
「まぁまぁ」
と2つの声がハモって聞こえてフラヴィオが振り返ると、そこには弟と親友の恍惚とした顔がある。
「レオがトーレに恋をしたままよりは良いではありませんか、兄上。いとこ同士ですから結婚は問題無いですし、私はジーナがレオの嫁になってくれるなら嬉しい」
「もしジーナがレオを気に食わなかったら、うちのジルの嫁という選択肢もありますぞ陛下。それならティーナみたいに他国に行かなくていいし、同じ宮廷の中で暮らせるし、あぁ、なんと素晴らしいことでしょうなぁ」
「――なっ……何を考えているのだ、おまえたちまで! ジーナは永遠の乙女なのだ! オスとかいうケダモノになんてやるものか!」
「酒池肉林王とかいうケダモノが言いますか」
「うるさい!」
と喧嘩を始める父たちの傍ら、ルフィーナの腕に渡ったヴィルジニアが部屋の中へと戻されていく。
「とってもとってもかぁーわいいですねぇ、ジーナ殿下。まさに天使みたいですよー? ケダモノは放っておいて、お乳にしましょうねー」
とルフィーナの腕から、母ベルの腕へとヴィルジニアが渡る。
予定日通りに生まれたヴィルジニアだったが、3週間早く生まれたサルヴァトーレよりも小さく、体重は2900gだった。
小さな小さな愛娘を抱いて授乳をするベルの顔に、母の微笑が浮かんでいく。
「立派な王女になるんですよ、ジーナ」
「なるよな、立派な両親から生まれた子なんだから。それにしても、トーレもこんなんだったよなぁ」
と、サルヴァトーレが生まれたとき共にいたハナが、しばしのあいだ感慨深そうにヴィルジニアを見つめる。
その後、はっとして「そうだ」とベルの顔を見た。
「ティーナのことだけどさ、ベル」
その名を聞いたベルも、はっとして戸口を一瞥した。
「先ほどティーナ様の声が聞こえて来なかったのですが、まだいらっしゃっていないのですか?」
「うん、そうなんだ。なんかさぁ」
とハナが先ほどテンテンとアクアーリオ国に行って来たときのことを伝えると、ベルとルフィーナの眉間にシワが寄っていった。
「演奏会が本当だとしても、違和感しかありませんね。ティーナ様は私の第2子の誕生を心待ちにしてくださっていただけに」
「そうですよね。ヴァレンティーナ殿下が、ベルさんの出産より楽器の練習を優先するとは思えません。それに、今日は『あんこ鍋の日』なのに。まぁ、たしかにアクアーリオ陛下が仰っていたらしいように、人間がコニッリョに敵視されなくなった今、ヴァレンティーナ殿下は役目を終えたと言ったらそうですし、毎月の誰かしらのお誕生日に帰って来るなら充分なのかもしれませんが……」
「そうだな」
と、部屋に戻って来たフラヴィオの声が割り込んできた。
「向こう目線で考えてみると、向こうが文句を言いたくなるのは仕方がないのだ。ティーナはアクアーリオに嫁いだのだから、本当はその時点でこっちの都合を好き勝手に押し付けてはいけなかった。ティーナが今日来なかったのは、向こうがいい加減に嫌気が差したとかそういうことかもしれん」
ベルとハナがフンと鼻を鳴らした。
「逆にあの汚物にティーナ様が嫁いで差し上げた時点で、永遠にこちらの都合に合わせて頂きたいものでございますよ」
「本当だよ。未だにティーナとあのクソ王太子じゃ吊り合わないよ」
フラヴィオが呆れ顔で「こら」と言った。
「いい加減に向こうを認めてやるのだ、ベルハナ。ティーナは王太子妃として大切にされているのだから」
ベルの「どうでしょう」と、ハナの「どうだか」が被った。
「以前も申し上げましたが、ティーナ様が嘘を仰っているということもありますし」
「あたいと兄貴、ナナ・ネネの猫耳は聞いたことがある。あのクソ王太子、前にティーナがこのまま妊娠しなかったら離婚するって言ってたぞ」
そう言うベルハナの顔を、フラヴィオが交互に見る。
「いや、でも……していないだろう、離婚。今もティーナはアクアーリオ王太子妃のままだろう。ティーナ自身が大切にされていると言っているのだし、それを信じるべきだ。こっちの誰かの誕生日には帰って来るようだし、ティーナはこれからも毎月顔を見せてくれるのだ。コニッリョはもう余の手からもあんこを食べてくれるのだから、これからは向こうの希望に合わせることにしよう」
むっつりと黙っているベルハナに、フラヴィオが語調を強くして「良いな?」と承知の返事を催促する。
すると2人は目を合わせた後、仕方なさそうに「スィー」と返事をした。
30分掛かってヴィルジニアの授乳が終わった頃、ハナの黒猫の耳が反応した。
「あ、マサムネたち来た。思ったより早かったな。まぁ、仕事の合間なんだろうけど」
扉を叩く音と同時に、マサムネの声が廊下から響いてくる。
「おおーい! 見せてやー! ベル似のかわええかわええジーナ、見せてやー!」
またフラヴィオがそれを抱いて廊下に出て行くと、マサムネの糸目がさらに糸のようになっていく。
「おお! かわええのう、かわええのう。ほんま金髪碧眼のベルやん、トーレの性別変えただけやん。かわええのう、かわええのう。こりゃまたカプリコルノもカンクロも、トーレ以来の祭になるな」
とマサムネが、フラヴィオに「いつや?」と問うた。
「ジーナのお披露目パラータは? 3ヶ月くらいになってからか?」
「うむ、最低でもそれくらいだな」
アラブのテレトラスポルト送迎でやって来たサジッターリオ国一同の内、女王シャルロッテが口を開く。
「パラータのとき、宮廷楽士の演奏いるわよね。ハーゲン呼ぶ?」
フラヴィオが「頼む」と答えた一方で、ふとナナ・ネネが動揺を見せた。
そのガット・ティグラートの緑色の瞳は、コラードとリナルドを見る。
「ハーゲンて、あのヴィオリニスタか」
「ハーゲンて、あの山小屋のか」
「近寄るなと言ったはずだ、コラード」
「関わるなと言ったはずだ、リナルド」
と強張った顔で近寄って来る2匹を宥めるように、コラードとリナルドが「いやいや!」と手を振った。
「落ち着いてよ、ナナ・ネネ。もうあの日以来、オレたちは当然、兵士たちもあの山小屋には近寄らせてないし、もう関わってないから」
「そうそう。だから私たちがハーゲンに会うときは、ハーゲンが月に一度王都に帰ってくるときだけだよ。ピピストレッロはしばらくもう、見ていない」
フラヴィオが「なんだその話?」と問うと、2匹の視線が移ってきた。
「ピピストレッロの中に、タナカさんみたいな奴がいた」
「ピピストレッロの中に、ササキさんみたいな奴がいた」
フラヴィオが「うん?」と首を傾げた傍ら、マサムネが察して口を開いた。
「つまり、ガット界でいうタナカとササキみたいに、ピピストレッロ界にも飛び抜けて魔力が高い奴がおったんか」
頷いた2匹が、小刻みに震えた手でサジッターリオ国一同に50枚ものバッリエーラを掛ける。
「こりゃよっぽどやな。けど、ピピストレッロはこっちが何もしなければ何もして来ないやん。それどころか、微塵の興味すらもってくれへんやん。心配しすぎちゃう?」
とマサムネが言うと、2匹が首を横に振って「駄目だ」と言った。
「あれに近寄ったら駄目だ」
「あれに関わったら駄目だ」
フラヴィオがシャルロッテを見る。
「ハーゲンが心配だ。月に一度王都に帰ってくるだけで大丈夫なのか? 一ヶ月分の食料とか、まとめて持って帰れないだろう。それに、家族が心配しているんじゃないのか? ハーゲンの父親は、たしか宮廷楽士長だったよな? ハーゲンの兄弟姉妹も宮廷楽士だと聞いた」
シャルロッテが「そうなのよ」と頷いた。
「傍から見ててもわかるけど、宮廷楽士長の子供たちの中でもハーゲンが特に優秀なせいか、ハーゲンはその分可愛がられてるのよね。だからハーゲンの山小屋にピピストレッロが出入りしているらしいって知ったとき、宮廷楽士長が酷く心配しちゃって」
コラードが「そうそう」と続く。
「最近、ハーゲンが帰ってくる度に親子喧嘩になってるよ。宮廷楽士長がヴィオリーノを捨てて戻って来いって言うんだけど、ハーゲンは聞く耳持たずって感じでさ」
「親目線で見てみると、宮廷楽士長が気の毒で。だから私もせめてもっと帰って来なさいって言ったんだけど、王都との行き来が面倒だからってそれ以上帰って来ようとしないのよ。帰ってきたと思っても、すーぐまた山小屋に戻って行っちゃうし。ちょっと痩せたように思うけど元気だし、なんか今の生活が楽しくて仕方ないみたいよ?」
「本当に変わった奴だよ、あいつは。私には理解不能だ」
と呆れ顔になったリナルドが、「あ」と思い出す。
「そういえば今日ちょうど、あいつが王都に帰ってくる日だ。ジーナのお披露目パラータに呼ぶなら、今から伝えておきましょう――」
「Nooooooo!」
フラヴィオの第九子でベルの第二子は、12番目の天使だった。
つまりカプリコルノ国の第三王女で、カンクロ国の第一王女だった。
しかも兄サルヴァトーレの性別をそのまま変えたような、金髪碧眼のベルだった。
頭を抱え、エビ反りになって絶叫し、そのまま後方にぶっ倒れたフラヴィオを見て、出産ギリギリ直前にやって来たハナが「おいおい」と突っ込む。
「その反応はどうなんだ、フラビー? 喜ぶところだろ。あたいは娘が出来たみたいで物凄い嬉しいぞ?」
「余も喜んでるのだ! 可愛いのだ! 嫌なのだ! 可愛すぎるのだ! 嫁にやらないのだあぁぁ!」
「なんか錯乱してるなぁ」
リンリーとピエトラによって手早く綺麗にされ、おくるみに包まれた娘を愛おしそうに腕に抱きながら、フラヴィオが涙目でベルを見る。
「こんなに可愛すぎる娘を産んでくれてありがとう、アモーレ。名前は『カテーナ』と『ヴィルジニア』の二択から選んでくれ」
ベルが苦笑してしまいながらハナとルフィーナに問う。
「どっちが良いと思います? カテーナが『鎖』で、ヴィルジニアが『乙女』という意味なのですが」
「それって、この子を鎖で繋いでおくか、永遠の乙女でいさせるつもりですか陛下?」
「困った父親だな、フラビー。でもまぁ、鎖って名前よりは、乙女の方が良いんじゃないか?」
ベルが「では、ヴィルジニアにします」と言うと、フラヴィオが承知した。
鼻を啜りながら、廊下でヴィルジニアのお披露目を待っている一同の下へ向かっていく。
扉を開けるなり感嘆の声が上がり、たちまち囲まれて人気者になったヴィルジニアを、まずはサルヴァトーレに「妹だぞ」と渡す。
「名前はヴィルジニアだ。愛称は……『ジーナ』が良いか」
「わぁ…! ジーナ、とっても小さいね……!」
と碧眼を煌めかせて感動するサルヴァトーレの傍ら、興奮していくレオナルド。
「お…女の子になったトーレ殿下だ……! え、じゃあ……じゃあっ……!」
とフラヴィオを見上げ「義父上」と言うや否やに、拳骨を食らって「いったぁ!」と蹲る。
「今のは空耳か、レオ? 余はおまえの『伯父上』であって、『義父上』じゃないだろう? ヴィルジニアの意味は乙女だ。分かるな? 分かっているな、レオ?」
「まぁまぁ」
と2つの声がハモって聞こえてフラヴィオが振り返ると、そこには弟と親友の恍惚とした顔がある。
「レオがトーレに恋をしたままよりは良いではありませんか、兄上。いとこ同士ですから結婚は問題無いですし、私はジーナがレオの嫁になってくれるなら嬉しい」
「もしジーナがレオを気に食わなかったら、うちのジルの嫁という選択肢もありますぞ陛下。それならティーナみたいに他国に行かなくていいし、同じ宮廷の中で暮らせるし、あぁ、なんと素晴らしいことでしょうなぁ」
「――なっ……何を考えているのだ、おまえたちまで! ジーナは永遠の乙女なのだ! オスとかいうケダモノになんてやるものか!」
「酒池肉林王とかいうケダモノが言いますか」
「うるさい!」
と喧嘩を始める父たちの傍ら、ルフィーナの腕に渡ったヴィルジニアが部屋の中へと戻されていく。
「とってもとってもかぁーわいいですねぇ、ジーナ殿下。まさに天使みたいですよー? ケダモノは放っておいて、お乳にしましょうねー」
とルフィーナの腕から、母ベルの腕へとヴィルジニアが渡る。
予定日通りに生まれたヴィルジニアだったが、3週間早く生まれたサルヴァトーレよりも小さく、体重は2900gだった。
小さな小さな愛娘を抱いて授乳をするベルの顔に、母の微笑が浮かんでいく。
「立派な王女になるんですよ、ジーナ」
「なるよな、立派な両親から生まれた子なんだから。それにしても、トーレもこんなんだったよなぁ」
と、サルヴァトーレが生まれたとき共にいたハナが、しばしのあいだ感慨深そうにヴィルジニアを見つめる。
その後、はっとして「そうだ」とベルの顔を見た。
「ティーナのことだけどさ、ベル」
その名を聞いたベルも、はっとして戸口を一瞥した。
「先ほどティーナ様の声が聞こえて来なかったのですが、まだいらっしゃっていないのですか?」
「うん、そうなんだ。なんかさぁ」
とハナが先ほどテンテンとアクアーリオ国に行って来たときのことを伝えると、ベルとルフィーナの眉間にシワが寄っていった。
「演奏会が本当だとしても、違和感しかありませんね。ティーナ様は私の第2子の誕生を心待ちにしてくださっていただけに」
「そうですよね。ヴァレンティーナ殿下が、ベルさんの出産より楽器の練習を優先するとは思えません。それに、今日は『あんこ鍋の日』なのに。まぁ、たしかにアクアーリオ陛下が仰っていたらしいように、人間がコニッリョに敵視されなくなった今、ヴァレンティーナ殿下は役目を終えたと言ったらそうですし、毎月の誰かしらのお誕生日に帰って来るなら充分なのかもしれませんが……」
「そうだな」
と、部屋に戻って来たフラヴィオの声が割り込んできた。
「向こう目線で考えてみると、向こうが文句を言いたくなるのは仕方がないのだ。ティーナはアクアーリオに嫁いだのだから、本当はその時点でこっちの都合を好き勝手に押し付けてはいけなかった。ティーナが今日来なかったのは、向こうがいい加減に嫌気が差したとかそういうことかもしれん」
ベルとハナがフンと鼻を鳴らした。
「逆にあの汚物にティーナ様が嫁いで差し上げた時点で、永遠にこちらの都合に合わせて頂きたいものでございますよ」
「本当だよ。未だにティーナとあのクソ王太子じゃ吊り合わないよ」
フラヴィオが呆れ顔で「こら」と言った。
「いい加減に向こうを認めてやるのだ、ベルハナ。ティーナは王太子妃として大切にされているのだから」
ベルの「どうでしょう」と、ハナの「どうだか」が被った。
「以前も申し上げましたが、ティーナ様が嘘を仰っているということもありますし」
「あたいと兄貴、ナナ・ネネの猫耳は聞いたことがある。あのクソ王太子、前にティーナがこのまま妊娠しなかったら離婚するって言ってたぞ」
そう言うベルハナの顔を、フラヴィオが交互に見る。
「いや、でも……していないだろう、離婚。今もティーナはアクアーリオ王太子妃のままだろう。ティーナ自身が大切にされていると言っているのだし、それを信じるべきだ。こっちの誰かの誕生日には帰って来るようだし、ティーナはこれからも毎月顔を見せてくれるのだ。コニッリョはもう余の手からもあんこを食べてくれるのだから、これからは向こうの希望に合わせることにしよう」
むっつりと黙っているベルハナに、フラヴィオが語調を強くして「良いな?」と承知の返事を催促する。
すると2人は目を合わせた後、仕方なさそうに「スィー」と返事をした。
30分掛かってヴィルジニアの授乳が終わった頃、ハナの黒猫の耳が反応した。
「あ、マサムネたち来た。思ったより早かったな。まぁ、仕事の合間なんだろうけど」
扉を叩く音と同時に、マサムネの声が廊下から響いてくる。
「おおーい! 見せてやー! ベル似のかわええかわええジーナ、見せてやー!」
またフラヴィオがそれを抱いて廊下に出て行くと、マサムネの糸目がさらに糸のようになっていく。
「おお! かわええのう、かわええのう。ほんま金髪碧眼のベルやん、トーレの性別変えただけやん。かわええのう、かわええのう。こりゃまたカプリコルノもカンクロも、トーレ以来の祭になるな」
とマサムネが、フラヴィオに「いつや?」と問うた。
「ジーナのお披露目パラータは? 3ヶ月くらいになってからか?」
「うむ、最低でもそれくらいだな」
アラブのテレトラスポルト送迎でやって来たサジッターリオ国一同の内、女王シャルロッテが口を開く。
「パラータのとき、宮廷楽士の演奏いるわよね。ハーゲン呼ぶ?」
フラヴィオが「頼む」と答えた一方で、ふとナナ・ネネが動揺を見せた。
そのガット・ティグラートの緑色の瞳は、コラードとリナルドを見る。
「ハーゲンて、あのヴィオリニスタか」
「ハーゲンて、あの山小屋のか」
「近寄るなと言ったはずだ、コラード」
「関わるなと言ったはずだ、リナルド」
と強張った顔で近寄って来る2匹を宥めるように、コラードとリナルドが「いやいや!」と手を振った。
「落ち着いてよ、ナナ・ネネ。もうあの日以来、オレたちは当然、兵士たちもあの山小屋には近寄らせてないし、もう関わってないから」
「そうそう。だから私たちがハーゲンに会うときは、ハーゲンが月に一度王都に帰ってくるときだけだよ。ピピストレッロはしばらくもう、見ていない」
フラヴィオが「なんだその話?」と問うと、2匹の視線が移ってきた。
「ピピストレッロの中に、タナカさんみたいな奴がいた」
「ピピストレッロの中に、ササキさんみたいな奴がいた」
フラヴィオが「うん?」と首を傾げた傍ら、マサムネが察して口を開いた。
「つまり、ガット界でいうタナカとササキみたいに、ピピストレッロ界にも飛び抜けて魔力が高い奴がおったんか」
頷いた2匹が、小刻みに震えた手でサジッターリオ国一同に50枚ものバッリエーラを掛ける。
「こりゃよっぽどやな。けど、ピピストレッロはこっちが何もしなければ何もして来ないやん。それどころか、微塵の興味すらもってくれへんやん。心配しすぎちゃう?」
とマサムネが言うと、2匹が首を横に振って「駄目だ」と言った。
「あれに近寄ったら駄目だ」
「あれに関わったら駄目だ」
フラヴィオがシャルロッテを見る。
「ハーゲンが心配だ。月に一度王都に帰ってくるだけで大丈夫なのか? 一ヶ月分の食料とか、まとめて持って帰れないだろう。それに、家族が心配しているんじゃないのか? ハーゲンの父親は、たしか宮廷楽士長だったよな? ハーゲンの兄弟姉妹も宮廷楽士だと聞いた」
シャルロッテが「そうなのよ」と頷いた。
「傍から見ててもわかるけど、宮廷楽士長の子供たちの中でもハーゲンが特に優秀なせいか、ハーゲンはその分可愛がられてるのよね。だからハーゲンの山小屋にピピストレッロが出入りしているらしいって知ったとき、宮廷楽士長が酷く心配しちゃって」
コラードが「そうそう」と続く。
「最近、ハーゲンが帰ってくる度に親子喧嘩になってるよ。宮廷楽士長がヴィオリーノを捨てて戻って来いって言うんだけど、ハーゲンは聞く耳持たずって感じでさ」
「親目線で見てみると、宮廷楽士長が気の毒で。だから私もせめてもっと帰って来なさいって言ったんだけど、王都との行き来が面倒だからってそれ以上帰って来ようとしないのよ。帰ってきたと思っても、すーぐまた山小屋に戻って行っちゃうし。ちょっと痩せたように思うけど元気だし、なんか今の生活が楽しくて仕方ないみたいよ?」
「本当に変わった奴だよ、あいつは。私には理解不能だ」
と呆れ顔になったリナルドが、「あ」と思い出す。
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