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最終話ー3
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――カプリコルノ国。
宮廷オルキデーア城の1階にある客間の中。
フラヴィオとベル、ヴァレンティーナの3人と、数時間前に訪ねて来たアクアーリオ王太子が向かい合って座っていた。
「先ほど、こちらは話すことは無いと申し上げたはずですが、何故まだご帰国されていないのでしょうか」
「ボクの方は話があるからです、カンクロ女王陛下」
「そうですか、では本日はどのようなご用件で」
とベルが大儀そうに問うと、アクアーリオ王太子がこう答えた。
「離婚しました。ボクの世継ぎも出来たし、もうあの女には用はありません」
「だから何か」
とベルの声に険が混じると、それはヴァレンティーナを一瞥した。
「彼女を迎えに来ました。彼女をまたボクの妻にしてあげます」
「お戯れが過ぎますこと、王太子殿下。決戦日は明日ですよ、帰って首をお洗いください」
「じゃあ、ボクが彼女の婿になってあげましょう。ボクは何も悪くないんだから、ボクが殺されるのは意味が分からない。父上を殺した後は、ボクと彼女がアクアーリオを共同統治するべきだ」
「ご逝去あそばせ」
とベルが立ち上がると、アクアーリオ王太子が「うわぁっ!」と声を上げて椅子から転げ落ちた。
「駄目よ、ベル!」
「私は立ち上がっただけですよ、ティーナ様。ささ、参りましょう」
「どこへ?」
「宮廷服飾職人の下です。ティーナ様には、戴冠式のための絢爛豪華なドレスをお考えいただかなければ」
「だ、だから私に女王なんて無理よっ…! あっ、ベルっ……!」
とヴァレンティーナがベルに引っ張られるようにして、客間から出ていく。
アクアーリオ王太子が不愉快そうな顔で「女のクセに」と小さく呟いたのを見逃さなかったフラヴィオから、長嘆息が出た。
「哀れな王太子だ。人生において、愛し愛されることは最高の幸せだというのに、おまえではそんな相手を見つけることは叶わないだろう。おまえと結婚したいと思う女はいても、おまえ自身を愛してくれる女はせいぜい母親くらいだ。おまえは父親とも表面だけの親子のようだし、明日余がおまえを救ってやるぞ。ああいや待てよ、ジルが張り切っていたな。まぁ、どちらでも良いか。兎に角おまえを救ってやる」
「ありがとうございます」
と安堵の笑顔を見せ、椅子に着いたアクアーリオ王太子の目前には、冷然とした碧眼があった。
「おまえ、何か勘違いしていないか?」
「はい? 明日、ボクは助かるんでしょう?」
「ああ、哀れなおまえを救ってやる。これからすぐに船で帰国するか、今夜ここに泊まって最後の晩餐をしていくかの二択から選ぶが良い。まぁ、後者が良いか? そうだな、船では7時間、8時間も掛かるしな。最後の晩餐を楽しみ、明日テレトラスポルトで余たちと共にアクアーリオに帰国するのが良かろうな」
「カプリコルノ陛下?」
「おまえが本当の孤独を知る前に、現世ではもう終わりにしてやる――処刑してやると言っている。予定通りな」
――さっきヴァレンティーナと共に客間を後にしたベルは、ひとりになっていた。
ひとり宮廷の階段を上りながら、呆れた風に「まったくもう」と呟く。
でも、すぐに「ふふふ」と擽ったそうに笑った。
「アモーレ」
と下から声が聞こえて来たので振り返ると、フラヴィオが階段を上って来ていた。
「ティーナは服飾職人の部屋に連れて行ったのか?」
「そのつもりだったのですが」
「うん?」
「途中にある空き部屋から大きな手が出て来まして、ティーナ様が攫われてしまいました。あの手はおそらく、フェーデ様のご次男だったかと」
「ガルテリオか」
とフラヴィオが呆れ顔になる一方で、ベルがまた「ふふふ」と笑った。
フラヴィオと横に並んで階段を上っていく。
「仕方ありませんよ。正式なご婚約・ご結婚は明日のアクアーリオ戦の後ですが、もう決まっているようなものですし。また今日は、明日に控えて武術の鍛錬などはお休みですし」
「とはいえ、こんな真昼間から……あいつの頭の中、もう新婚なのだろうな」
「ジル様に見つからなければよろしいのですが」
「そうだな。ジルも本気でティーナを好いているようだから、後にガルテリオと激しい喧嘩になろうな。余はティーナの夫には真に強いジルでも良いと思っていたが……まだ8つではな」
「そうですね。私もジル様ならと思っておりましたし、17歳年上のフラヴィオ様を愛した私が言うのも何ですが、20歳と8歳の年の差は大きいですからね」
と4階に辿り着いたところで、ベルが「ところで」と話を切り替えた。
「あの汚物は帰国されたのですか?」
「いや、うちで最後の晩餐をしていくようだ」
「今夜はうちに泊まっていくということですか?」
「見張りを付けているし、何も悪さは出来ないだろう。最後の晩餐は1階の客間でひとりでしてもらう」
「地下牢で充分かと」
「本当に今夜で最後なのだ。客間くらい貸してやれ」
「スィー」
4階の階段脇にある部屋――ベルの自室に2人で入る。
仕事をしようと机に向かおうとしたベルだったが、フラヴィオに抱き上げられてレットの方へと連れて行かれる。
「フラヴィオ様」
「ふふふ」
「こんな真昼間から……頭の中は新婚ですか?」
その問いに、フラヴィオが「うーん」と首を傾げた。
「ちょっと違うな。新婚の時よりも今の方が愛している。以前から思っていたが、不思議なのだ。そなたと出会ってからの日々の中で、いつも今日がそなたを一番愛していると思う。嘘でもない、間違いでもない、確固たる自信がある。それなのに、明日になると明日の余の方がそなたを愛しているのだ」
とフラヴィオがベルの顔を見つめながら「おかしいか?」と問うと、それは「いいえ」と幸福の微笑を浮かべた。
「私もです、フラヴィオ様。私も本日が一番フラヴィオ様を愛しています。そして本日も7番目の天使ベルナデッタは、誰よりも何よりもフラヴィオ様を愛しています」
とベルと唇を重ね合ったあと、フラヴィオが「フォォォォウ!」とレットに飛び込んでいる頃――
宮廷オルキデーア城の1階にある客間の中。
フラヴィオとベル、ヴァレンティーナの3人と、数時間前に訪ねて来たアクアーリオ王太子が向かい合って座っていた。
「先ほど、こちらは話すことは無いと申し上げたはずですが、何故まだご帰国されていないのでしょうか」
「ボクの方は話があるからです、カンクロ女王陛下」
「そうですか、では本日はどのようなご用件で」
とベルが大儀そうに問うと、アクアーリオ王太子がこう答えた。
「離婚しました。ボクの世継ぎも出来たし、もうあの女には用はありません」
「だから何か」
とベルの声に険が混じると、それはヴァレンティーナを一瞥した。
「彼女を迎えに来ました。彼女をまたボクの妻にしてあげます」
「お戯れが過ぎますこと、王太子殿下。決戦日は明日ですよ、帰って首をお洗いください」
「じゃあ、ボクが彼女の婿になってあげましょう。ボクは何も悪くないんだから、ボクが殺されるのは意味が分からない。父上を殺した後は、ボクと彼女がアクアーリオを共同統治するべきだ」
「ご逝去あそばせ」
とベルが立ち上がると、アクアーリオ王太子が「うわぁっ!」と声を上げて椅子から転げ落ちた。
「駄目よ、ベル!」
「私は立ち上がっただけですよ、ティーナ様。ささ、参りましょう」
「どこへ?」
「宮廷服飾職人の下です。ティーナ様には、戴冠式のための絢爛豪華なドレスをお考えいただかなければ」
「だ、だから私に女王なんて無理よっ…! あっ、ベルっ……!」
とヴァレンティーナがベルに引っ張られるようにして、客間から出ていく。
アクアーリオ王太子が不愉快そうな顔で「女のクセに」と小さく呟いたのを見逃さなかったフラヴィオから、長嘆息が出た。
「哀れな王太子だ。人生において、愛し愛されることは最高の幸せだというのに、おまえではそんな相手を見つけることは叶わないだろう。おまえと結婚したいと思う女はいても、おまえ自身を愛してくれる女はせいぜい母親くらいだ。おまえは父親とも表面だけの親子のようだし、明日余がおまえを救ってやるぞ。ああいや待てよ、ジルが張り切っていたな。まぁ、どちらでも良いか。兎に角おまえを救ってやる」
「ありがとうございます」
と安堵の笑顔を見せ、椅子に着いたアクアーリオ王太子の目前には、冷然とした碧眼があった。
「おまえ、何か勘違いしていないか?」
「はい? 明日、ボクは助かるんでしょう?」
「ああ、哀れなおまえを救ってやる。これからすぐに船で帰国するか、今夜ここに泊まって最後の晩餐をしていくかの二択から選ぶが良い。まぁ、後者が良いか? そうだな、船では7時間、8時間も掛かるしな。最後の晩餐を楽しみ、明日テレトラスポルトで余たちと共にアクアーリオに帰国するのが良かろうな」
「カプリコルノ陛下?」
「おまえが本当の孤独を知る前に、現世ではもう終わりにしてやる――処刑してやると言っている。予定通りな」
――さっきヴァレンティーナと共に客間を後にしたベルは、ひとりになっていた。
ひとり宮廷の階段を上りながら、呆れた風に「まったくもう」と呟く。
でも、すぐに「ふふふ」と擽ったそうに笑った。
「アモーレ」
と下から声が聞こえて来たので振り返ると、フラヴィオが階段を上って来ていた。
「ティーナは服飾職人の部屋に連れて行ったのか?」
「そのつもりだったのですが」
「うん?」
「途中にある空き部屋から大きな手が出て来まして、ティーナ様が攫われてしまいました。あの手はおそらく、フェーデ様のご次男だったかと」
「ガルテリオか」
とフラヴィオが呆れ顔になる一方で、ベルがまた「ふふふ」と笑った。
フラヴィオと横に並んで階段を上っていく。
「仕方ありませんよ。正式なご婚約・ご結婚は明日のアクアーリオ戦の後ですが、もう決まっているようなものですし。また今日は、明日に控えて武術の鍛錬などはお休みですし」
「とはいえ、こんな真昼間から……あいつの頭の中、もう新婚なのだろうな」
「ジル様に見つからなければよろしいのですが」
「そうだな。ジルも本気でティーナを好いているようだから、後にガルテリオと激しい喧嘩になろうな。余はティーナの夫には真に強いジルでも良いと思っていたが……まだ8つではな」
「そうですね。私もジル様ならと思っておりましたし、17歳年上のフラヴィオ様を愛した私が言うのも何ですが、20歳と8歳の年の差は大きいですからね」
と4階に辿り着いたところで、ベルが「ところで」と話を切り替えた。
「あの汚物は帰国されたのですか?」
「いや、うちで最後の晩餐をしていくようだ」
「今夜はうちに泊まっていくということですか?」
「見張りを付けているし、何も悪さは出来ないだろう。最後の晩餐は1階の客間でひとりでしてもらう」
「地下牢で充分かと」
「本当に今夜で最後なのだ。客間くらい貸してやれ」
「スィー」
4階の階段脇にある部屋――ベルの自室に2人で入る。
仕事をしようと机に向かおうとしたベルだったが、フラヴィオに抱き上げられてレットの方へと連れて行かれる。
「フラヴィオ様」
「ふふふ」
「こんな真昼間から……頭の中は新婚ですか?」
その問いに、フラヴィオが「うーん」と首を傾げた。
「ちょっと違うな。新婚の時よりも今の方が愛している。以前から思っていたが、不思議なのだ。そなたと出会ってからの日々の中で、いつも今日がそなたを一番愛していると思う。嘘でもない、間違いでもない、確固たる自信がある。それなのに、明日になると明日の余の方がそなたを愛しているのだ」
とフラヴィオがベルの顔を見つめながら「おかしいか?」と問うと、それは「いいえ」と幸福の微笑を浮かべた。
「私もです、フラヴィオ様。私も本日が一番フラヴィオ様を愛しています。そして本日も7番目の天使ベルナデッタは、誰よりも何よりもフラヴィオ様を愛しています」
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