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良妻ー3
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――夕刻になって1日の軍事訓練が終了すると、中庭にいる将兵は、汗だくのまま帰宅する者と、宮廷の1階にある浴場で汗を流してから帰る者に分かれる。
後者の場合、入浴の順番は、最初に『中の中庭』にいるフラヴィオたち、次に『上の中庭』にいる将軍――貴族たち、最後に『下の中庭』にいる民兵となっている。
故に、後が詰まっているフラヴィオたちは装備していた板金鎧を外すとすぐに浴場へ向かい、なるべく早く汗を流して出て来るようにしている。
しかしこの日、アドルフォが浴場前で呼び止められた。
「侯爵閣下」
ヴィットーリア・ベラドンナ姉妹の父親――アドルフォの義父だった。
夫婦でこの宮廷の3階に住んでいるが、元は敵国だったプリームラ国の貴族であり、見た目がバケモノだと言って忌み嫌い、同時に恐れているアドルフォに自ら声を掛けてくるのはとても珍しいことだった。
不審に思ったフラヴィオたちの足もつい止まると、アドルフォが浴場の扉を開けながら「どうぞ」と催促して皆を中に入れた。
その後扉を閉めてから、義父の方をもう一度見て問う。
「何かご用ですか、義父上」
「その呼び方は止めていただきたい」
アドルフォが口を開きかけて、また閉じる。
恐らく一番話し辛い相手だった。
「今日の昼休みに、ベラに毒の茶を出されたそうですな。つまり、そういうことかと」
「……どういうことでしょう」
「ベラは貴殿に愛想を尽かしている。目が覚めたのでしょう。誰が見ても、うちのベラは貴殿とは吊り合わない。娘の幸せのために、離婚していただきたいのですがね」
アドルフォはきっぱりと「お断りします」と返すと、浴場に入って行った。
脱衣所で板金鎧の下に装備していた布鎧を脱ぎ、脱衣籠にいれる。
浴室の方へ行こうとして、ふと脱衣所にある姿見に顔を向けた。
(義父上の言う通りだな)
たしかに自身は、ベラドンナとまるで吊り合っていない。
ベラドンナは――妻は、絶世の美女だ。
(対して俺は、自分で見てもバケモノだ)
稀にプリームラの王侯貴族に現れるという銀の髪と黒の肌は、両親どちらからも受け継いでいない。
持って生まれた者は皆強靭で、一度も病気に掛かることもなく、最期は寿命で眠るように亡くなっていくらしい。
身体付きは男女ともに華奢であったことは無いが、アドルフォほど桁外れの容貌魁偉が生まれたことも無かった。
身長は198cmで止まってくれたようだが、いつも鍛錬を積んでいることもあって年々筋肉が増え続け、現在体重は180kgを超えている。
また狼のような琥珀色の瞳は鋭く、1kgのビーフステーキを2、3口で平らげてしまう大きな鰐口を持つ。
日常生活をする上で、どんなものにも繊細な力加減で触れなければ破壊してしまう手は、手首の付け根から中指の先まで28cmあるし、足の大きさは34cmだ。
逆立った銀髪はまるで凶器のようで、毎朝の髭の処理は剃刀では歯が立たない毛もあり、そういうのはハサミで根元からバチバチと音を立てて切っている。
昔から当然のように怯えられてきたし、脅かさないよう目を合わせないようにしていたって、女は近くを通ることすらしなかった。
(俺は本当にベラと釣り合わない)
絶世の美女と絶世のバケモノ。
知らない町を並んで歩いていたら、きっと夫婦には見られないだろう。
(それどころか、美女がバケモノに襲われそうになってるって、大騒ぎになるだろうな)
そんなことを想像したときに、ふとこんなことを思う。
(もしかして俺は、結婚して以来ずっとベラに恥を掻かせてきたのか……?)
胸が、痛んだ。
扉を叩く音がする。
「入っていいー?」
ベラドンナの声だ。
アドルフォが「いいぞ」と答えると、ベラドンナが笑顔を覗かせた。
それはいつも、太陽の花――ヒマワリのように明るい。
「鍛錬お疲れ様、ドルフ。昼間から刺繍を初めて、やーっと出来たわ! お風呂から上がったら着てね」
とベラドンナがアドルフォの着替えのシャツを、使用人たちが用意しておいた衣類の上に重ねて置く。
「昼間からずっとやっていたのか?」
「そうなの。ワタシ、針すら使ったことが無かったから時間掛かっちゃって」
「だ、大丈夫か? 指を怪我したんじゃないのか?」
「したけど、治癒魔法でもう治ったから大丈夫よ」
「俺のためにそこまでしなくて良いぞ」
「いいの、したいの。だってワタシ、ドルフの妻だもの」
そう言ってまたヒマワリのような笑顔を咲かせたベラドンナを見て、アドルフォの胸が締め付けられる。
「ありがとうな、ベラ……こんな俺のために」
「何よ、『こんな』って?」
「いや……早く風呂に入ってこれを着るとする。本当にありがとう、ベラ。俺は嬉しい」
ベラドンナは「ええ」と満足そうな笑顔を見せると、背伸びしてアドルフォの頬にバーチョした。
「それじゃワタシ、次はドルフの夕餉のビーフステーキを焼くから」
「ベラが料理をっ?」
「ええ。ドルフのために頑張って作るから、楽しみに待っててね」
ベラドンナが厨房に向かって行った後、アドルフォは感動に包まれながら浴室に入って行った。
空いている浴槽に浸かると、この身体の大きさなもので、お湯が大量に外へ流れ出ていく。
隣の浴槽にフェデリコと浸かっているフラヴィオが、顔を覗き込みながら問うてきた。
「義父上は何だって? わざわざおまえに声を掛けて来るなんて珍しい」
「ベラが俺に毒茶らしきものを出したことが嬉しかったようです。ベラの幸せのために、離婚してくれと言われました」
「まだ言っているのか、義父上は」
とフラヴィオが、げんなりとした様子で溜め息を吐く。
フェデリコが口を開いた。
「アリーが言っていた。ベラは、未だに毎日のようにドルフと離婚しろと父親から言われていると。そして、兄上か私の第二夫人にしてもらえと。ちなみに義姉上が亡くなったとき、兄上の後釜になるよう言われたそうです」
「それはそれは、余がメッゾサングエを後妻に迎えたとき、さぞ怒り狂ったんだろうな。余がベラではなく、姉のヴィットーリアと結婚したときのように」
「そのようです」
と、呆れ顔になったフェデリコからも溜め息が漏れた。
フラヴィオが「それで」と話しを戻した。
「ベラと離婚してくれと言われて、ドルフは当然断ったのだろう?」
「スィー」
とアドルフォが答えると、フラヴィオが安堵の表情を見せた。
「ずっとそのままでいてくれ、ドルフ。ベラはおまえを愛しているのだから。いやでも、昼間のあの茶のことを考えると……。ほ、本当に離婚話を出されてしまう前に、早くベラの怒りの原因を見つけた方が良いぞ?」
「いえもう、大丈夫です。ベラは怒っていなかった」
それを聞いた一同が意外そうな顔をした。
「そうなのか? 正直、あの茶には只ならぬ殺意を感じたが……」
「いえ、大丈夫です陛下。ベラは針で怪我をしながらも、何時間も掛けて俺のマッリェッタに刺繍を入れてくれました。さらに、今日の夕餉はベラが俺にビステッカを焼いてくれるそうです」
「ほう? あのベラがなぁ。では、昼間の茶は一体なんだったんだろうな? まぁ良いか、怒っていないならな。良かったな、ドルフ。これからベラが刺繍を入れてくれたマッリェッタを着るのだろう? 早く汗を流して上がろう」
アドルフォが承知の返事をして、手っ取り早く湯の中に全身を沈めて汗を流す。
皆で脱衣所に戻って行くと、アドルフォに注目が集まった。
「早く着てみるでござるよ、おとん」
「ああ、ムサシ」
と、いそいそとタオルで身体を拭いていく。
ジルベルトがアドルフォのマッリェッタを広げてみると、両方の袖口に金糸の刺繍が入っていた。
「シシュウだっけ? ぐちゃぐちゃだぞ、おとん」
「良いんだ、ジル。俺の目には美しい刺繍に映る」
下着を身に着け、ズボンを穿いてから「さて」とマッリェッタに手を掛けたアドルフォ。
一同に微笑ましそうに見られながら、「では」と袖に手を通していった。
が――
「――……手が、出ん」
ベラドンナが袖にぐるりと一周入れた刺繍は、どこで間違えたのか、反対側にくる部分も一緒に縫われ、袋状の袖に仕上がっていた。
脱衣所の中が静まり返る。
「こ…これは……」
とフラヴィオが、ごくりと喉を鳴らした。
「これは『もうワタシに手を出さないで』という意味の伝言じゃないのか、ドルフっ……!」
「そ…そういうことなのか……!?」
昼間の毒茶事件のときのような、不穏な空気が流れ出す。
動揺する琥珀色の瞳を見て、フェデリコが「落ち着け」と言った。
「ベラは周りが甘やかして来たから、色々と知らないこと、出来ないことが多いんだ。単に刺繍もそのひとつで――」
「シシュウうんぬんの前に、ウラまで縫ったら手が通らねぇだろってことくらい3歳と5ヶ月のオレでも分かるぜ」
「突っ込むな、ジル。その、こんなこと言ったら失礼だが、ベラはその……あまり賢い方ではないかもしれない気がしなくもない」
アドルフォが小さく「そうだな」と同意すると、フェデリコがこう続けた。
「この刺繍も、昼間の謎の茶も、きっとベラは悪気があったとかではないんだ。愛するドルフのために頑張ったんだ。悪気なんか無いんだ。今、ベラがドルフのためにビステッカを焼いてくれているんだろう? 腹も減ったことだし、早く4階の食堂に行って、楽しみに待っていようドルフ――」
――4階の王侯貴族専用の食堂に、硬直が訪れる。
ジルベルトが、アドルフォの前に置かれた皿を見ながら呟いた。
「いや、『悪気』ありまくりだろ、コレ……」
後者の場合、入浴の順番は、最初に『中の中庭』にいるフラヴィオたち、次に『上の中庭』にいる将軍――貴族たち、最後に『下の中庭』にいる民兵となっている。
故に、後が詰まっているフラヴィオたちは装備していた板金鎧を外すとすぐに浴場へ向かい、なるべく早く汗を流して出て来るようにしている。
しかしこの日、アドルフォが浴場前で呼び止められた。
「侯爵閣下」
ヴィットーリア・ベラドンナ姉妹の父親――アドルフォの義父だった。
夫婦でこの宮廷の3階に住んでいるが、元は敵国だったプリームラ国の貴族であり、見た目がバケモノだと言って忌み嫌い、同時に恐れているアドルフォに自ら声を掛けてくるのはとても珍しいことだった。
不審に思ったフラヴィオたちの足もつい止まると、アドルフォが浴場の扉を開けながら「どうぞ」と催促して皆を中に入れた。
その後扉を閉めてから、義父の方をもう一度見て問う。
「何かご用ですか、義父上」
「その呼び方は止めていただきたい」
アドルフォが口を開きかけて、また閉じる。
恐らく一番話し辛い相手だった。
「今日の昼休みに、ベラに毒の茶を出されたそうですな。つまり、そういうことかと」
「……どういうことでしょう」
「ベラは貴殿に愛想を尽かしている。目が覚めたのでしょう。誰が見ても、うちのベラは貴殿とは吊り合わない。娘の幸せのために、離婚していただきたいのですがね」
アドルフォはきっぱりと「お断りします」と返すと、浴場に入って行った。
脱衣所で板金鎧の下に装備していた布鎧を脱ぎ、脱衣籠にいれる。
浴室の方へ行こうとして、ふと脱衣所にある姿見に顔を向けた。
(義父上の言う通りだな)
たしかに自身は、ベラドンナとまるで吊り合っていない。
ベラドンナは――妻は、絶世の美女だ。
(対して俺は、自分で見てもバケモノだ)
稀にプリームラの王侯貴族に現れるという銀の髪と黒の肌は、両親どちらからも受け継いでいない。
持って生まれた者は皆強靭で、一度も病気に掛かることもなく、最期は寿命で眠るように亡くなっていくらしい。
身体付きは男女ともに華奢であったことは無いが、アドルフォほど桁外れの容貌魁偉が生まれたことも無かった。
身長は198cmで止まってくれたようだが、いつも鍛錬を積んでいることもあって年々筋肉が増え続け、現在体重は180kgを超えている。
また狼のような琥珀色の瞳は鋭く、1kgのビーフステーキを2、3口で平らげてしまう大きな鰐口を持つ。
日常生活をする上で、どんなものにも繊細な力加減で触れなければ破壊してしまう手は、手首の付け根から中指の先まで28cmあるし、足の大きさは34cmだ。
逆立った銀髪はまるで凶器のようで、毎朝の髭の処理は剃刀では歯が立たない毛もあり、そういうのはハサミで根元からバチバチと音を立てて切っている。
昔から当然のように怯えられてきたし、脅かさないよう目を合わせないようにしていたって、女は近くを通ることすらしなかった。
(俺は本当にベラと釣り合わない)
絶世の美女と絶世のバケモノ。
知らない町を並んで歩いていたら、きっと夫婦には見られないだろう。
(それどころか、美女がバケモノに襲われそうになってるって、大騒ぎになるだろうな)
そんなことを想像したときに、ふとこんなことを思う。
(もしかして俺は、結婚して以来ずっとベラに恥を掻かせてきたのか……?)
胸が、痛んだ。
扉を叩く音がする。
「入っていいー?」
ベラドンナの声だ。
アドルフォが「いいぞ」と答えると、ベラドンナが笑顔を覗かせた。
それはいつも、太陽の花――ヒマワリのように明るい。
「鍛錬お疲れ様、ドルフ。昼間から刺繍を初めて、やーっと出来たわ! お風呂から上がったら着てね」
とベラドンナがアドルフォの着替えのシャツを、使用人たちが用意しておいた衣類の上に重ねて置く。
「昼間からずっとやっていたのか?」
「そうなの。ワタシ、針すら使ったことが無かったから時間掛かっちゃって」
「だ、大丈夫か? 指を怪我したんじゃないのか?」
「したけど、治癒魔法でもう治ったから大丈夫よ」
「俺のためにそこまでしなくて良いぞ」
「いいの、したいの。だってワタシ、ドルフの妻だもの」
そう言ってまたヒマワリのような笑顔を咲かせたベラドンナを見て、アドルフォの胸が締め付けられる。
「ありがとうな、ベラ……こんな俺のために」
「何よ、『こんな』って?」
「いや……早く風呂に入ってこれを着るとする。本当にありがとう、ベラ。俺は嬉しい」
ベラドンナは「ええ」と満足そうな笑顔を見せると、背伸びしてアドルフォの頬にバーチョした。
「それじゃワタシ、次はドルフの夕餉のビーフステーキを焼くから」
「ベラが料理をっ?」
「ええ。ドルフのために頑張って作るから、楽しみに待っててね」
ベラドンナが厨房に向かって行った後、アドルフォは感動に包まれながら浴室に入って行った。
空いている浴槽に浸かると、この身体の大きさなもので、お湯が大量に外へ流れ出ていく。
隣の浴槽にフェデリコと浸かっているフラヴィオが、顔を覗き込みながら問うてきた。
「義父上は何だって? わざわざおまえに声を掛けて来るなんて珍しい」
「ベラが俺に毒茶らしきものを出したことが嬉しかったようです。ベラの幸せのために、離婚してくれと言われました」
「まだ言っているのか、義父上は」
とフラヴィオが、げんなりとした様子で溜め息を吐く。
フェデリコが口を開いた。
「アリーが言っていた。ベラは、未だに毎日のようにドルフと離婚しろと父親から言われていると。そして、兄上か私の第二夫人にしてもらえと。ちなみに義姉上が亡くなったとき、兄上の後釜になるよう言われたそうです」
「それはそれは、余がメッゾサングエを後妻に迎えたとき、さぞ怒り狂ったんだろうな。余がベラではなく、姉のヴィットーリアと結婚したときのように」
「そのようです」
と、呆れ顔になったフェデリコからも溜め息が漏れた。
フラヴィオが「それで」と話しを戻した。
「ベラと離婚してくれと言われて、ドルフは当然断ったのだろう?」
「スィー」
とアドルフォが答えると、フラヴィオが安堵の表情を見せた。
「ずっとそのままでいてくれ、ドルフ。ベラはおまえを愛しているのだから。いやでも、昼間のあの茶のことを考えると……。ほ、本当に離婚話を出されてしまう前に、早くベラの怒りの原因を見つけた方が良いぞ?」
「いえもう、大丈夫です。ベラは怒っていなかった」
それを聞いた一同が意外そうな顔をした。
「そうなのか? 正直、あの茶には只ならぬ殺意を感じたが……」
「いえ、大丈夫です陛下。ベラは針で怪我をしながらも、何時間も掛けて俺のマッリェッタに刺繍を入れてくれました。さらに、今日の夕餉はベラが俺にビステッカを焼いてくれるそうです」
「ほう? あのベラがなぁ。では、昼間の茶は一体なんだったんだろうな? まぁ良いか、怒っていないならな。良かったな、ドルフ。これからベラが刺繍を入れてくれたマッリェッタを着るのだろう? 早く汗を流して上がろう」
アドルフォが承知の返事をして、手っ取り早く湯の中に全身を沈めて汗を流す。
皆で脱衣所に戻って行くと、アドルフォに注目が集まった。
「早く着てみるでござるよ、おとん」
「ああ、ムサシ」
と、いそいそとタオルで身体を拭いていく。
ジルベルトがアドルフォのマッリェッタを広げてみると、両方の袖口に金糸の刺繍が入っていた。
「シシュウだっけ? ぐちゃぐちゃだぞ、おとん」
「良いんだ、ジル。俺の目には美しい刺繍に映る」
下着を身に着け、ズボンを穿いてから「さて」とマッリェッタに手を掛けたアドルフォ。
一同に微笑ましそうに見られながら、「では」と袖に手を通していった。
が――
「――……手が、出ん」
ベラドンナが袖にぐるりと一周入れた刺繍は、どこで間違えたのか、反対側にくる部分も一緒に縫われ、袋状の袖に仕上がっていた。
脱衣所の中が静まり返る。
「こ…これは……」
とフラヴィオが、ごくりと喉を鳴らした。
「これは『もうワタシに手を出さないで』という意味の伝言じゃないのか、ドルフっ……!」
「そ…そういうことなのか……!?」
昼間の毒茶事件のときのような、不穏な空気が流れ出す。
動揺する琥珀色の瞳を見て、フェデリコが「落ち着け」と言った。
「ベラは周りが甘やかして来たから、色々と知らないこと、出来ないことが多いんだ。単に刺繍もそのひとつで――」
「シシュウうんぬんの前に、ウラまで縫ったら手が通らねぇだろってことくらい3歳と5ヶ月のオレでも分かるぜ」
「突っ込むな、ジル。その、こんなこと言ったら失礼だが、ベラはその……あまり賢い方ではないかもしれない気がしなくもない」
アドルフォが小さく「そうだな」と同意すると、フェデリコがこう続けた。
「この刺繍も、昼間の謎の茶も、きっとベラは悪気があったとかではないんだ。愛するドルフのために頑張ったんだ。悪気なんか無いんだ。今、ベラがドルフのためにビステッカを焼いてくれているんだろう? 腹も減ったことだし、早く4階の食堂に行って、楽しみに待っていようドルフ――」
――4階の王侯貴族専用の食堂に、硬直が訪れる。
ジルベルトが、アドルフォの前に置かれた皿を見ながら呟いた。
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