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家族ー1(フェデリコ目線・本編52話省略分ー11)
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――1498年6月1日。
本日で私の姪っ子ヴァレンティーナが20歳に、甥っ子サルヴァトーレが6歳になった。
「早いものですね、兄上。ティーナがもう20歳ですよ。トーレなんて、ついこのあいだ生まれたと思っていたのに」
「ああ、信じられん。ジーナも昨日生まれたような感覚があるが、もう1歳と9ヶ月なのか。子供の頃は一日一日があんなに長く感じたのにな」
私は現在、40歳だ。
つまり兄上とはもう40年も一緒にいるということになる。
子供の頃は身長差があり、顔が瓜二つでもちゃんと1歳差の兄と弟に見えたものだが、いつからか身長が並ぶようになると双子のように見られた。
しかし誰もがそうであるように、兄上と私は一目で見分けが付く。
その理由には、兄上は派手を好み、私は地味を好むところや、ピアスの有無などもあるだろう。
でもたとえ服を交換して欺こうとしても、ほとんどの者に見抜かれるのが落ちだと思う。
何故なら同じ碧眼でも、兄上はいつまでも少年のように澄んでいて、興味のあるもの――特に女――を見つけては、満天の星空を反映したかのごとく煌く。
同じように笑っても、兄上は真夏の太陽のごとく目映く輝く。
また兄上がいるだけで周りに笑顔が咲き、愉快げな笑い声が沸き起こる。
それらは私には無く、兄上は私の何倍も人を魅了するものを持っていた。
「どうだ、フェーデ?」
と兄上が、鏡越しに私の顔を見た。
現在、場所は宮廷の3階にある男子用の衣装部屋の中。
先ほどティーナとトーレの誕生日パラータを終えたばかりで、これから居間で私が親族一同の集合絵を描くことになっている。
後世まで残されるからと、皆いつもより洒落込んでいた。
「今日の髪型、これで良いと思うか?」
「ええ、問題無いかと」
「本当か? 格好良いか?」
「ハイハイ、兄上は格好良いですから世界一」
兄上が腰に手を当てて「そうか」とふんぞり返る。
時に兄上の素直さと自信家ぶりが羨ましくなる。
その分、兄上は私より多くの幸せを知っている。
「真似して良いぞ、フェーデ」
「ハイハイ」
髪型からヒゲから私に一緒にして欲しいらしい兄上のため、私は今日も鏡越しに兄上を見ながら、それらをお揃いに仕立て上げる。
「よく40過ぎの兄弟が……」
私の次男ガルテリオの呟きが聞こえた。
「ランド兄上、おれたちも頭お揃いにしてみる?」
「冗談。恥ずかしい」
「だよなー、普通」
「うわ、見て殿下たち。あの兄弟、よく見たら今日は衣装もお揃いだよ」
「凄いな……」
兄上の長男オルランドと四男ティート、それから私の三男エルネストの声も聞こえた。
おまえたち、もはや尊敬の眼差しで見てくるんじゃない。
今日の衣装が兄上と色違い――兄上が派手な赤で、私が落ち着いた青――にされていることは、私もつい数分前に知ったことだ。
決して私の意志でこうなったんじゃないんだ、嘘じゃない。
「黙れ、おまえたち」
流石は兄上だ。
国王らしい威厳のある声で子供たちを叱ってくれた……――が、何か嬉しそうだ。
「フェーデをからかうことは余が許さぬ。妻と並んで愛し、誰よりも尊敬している兄上とお揃いにしたくて何が悪い。なぁ、フェーデ?」
「…………」
突っ込みたいが、兄上の澄んだ瞳が煌めていて突っ込めない。
ここで正直に、兄上が怒るから渋々やっているのだと言ったら、確実に繊細な兄上を傷付けてしまう。
それにお揃いにはしたくなくても、私は兄上を妻アリーチェと並んで愛し、誰よりも尊敬しているところは否定を出来ない。
それ故に、恥を忍んで「スィー」と答えた。
「ああ、そうっすか」
「それはすみませんでした」
子供たちの失笑が聞こえたが、兄上が愉快そうに笑うので私はそれで良い。
物心ついた頃から両親に、将来は兄上の補佐をして生きるよう言われて育った私の人生は、確実に半分は兄上のためにあるのだから。
「さーて」
と衣裳部屋の中を見回した兄上が、傍に居た愛息子トーレを片腕で抱き上げた。
トーレはカンクロ国の王太子ということで、本日は普段着ないカンクロ国の衣装を着ていた。
ちなみに最初、母であるカンクロ国女王ベルナデッタ陛下と、妹のヴィルジニアとお揃いの衣装にされそうになっていた。
赤ん坊の頃は兄上の好きに遊ばれていた哀れなトーレは、今ではすっかり男の自覚があった。
「トーレ男の子だもーん!」
――そう言って大泣きし、普段は素直なのに、女装させられることを全力で拒んでみせた。
兄上は衝撃を受けていたが、お陰で今日は無事に男の衣裳を着せられている。
良かったな。
「皆、準備は出来たな。では、居間へ行くとしよう――と、その前に、親族一同って何人いるんだ? 数えた奴いるか?」
と兄上が右手を上げながら訊いたが、誰も挙手はしなかった。
つまり私もそうだ。今や親族が増えすぎて、大雑把にしか把握していない。
「『親族』って……どこまでを言うの?」
と私の四男レオナルドが、腕組みしながら眉を寄せている。
「さっき居間を覗いたら、そうじゃない人たちもいるように見えたんだけど……」
「どういうことだ、レオ?」
と訊いたものの、なんとなく分かる。
私たちには家族や親族と言って良いほど、信頼の置ける仲間たちがいた。
衣裳部屋から出ると、居間の前にカンクロ国のとても華やかな衣装で着飾ったベルナデッタ陛下――ベルと家政婦長ピエトラ、執事ファウスト、料理長フィコの姿が見えた。
何やら揉めているのか、ベルの頬が膨らんでいる。
実年齢よりも落ち着いた雰囲気をしている私の生徒ベルだが、時々そういう顔をすると幼く見えて可愛い。
「こら、ベル。俺ぁ、この後の宴の準備で忙しいんだよ」
「本日くらいは部下を信頼して仕事を休んでください、フィコ師匠。フィコ師匠はベルナデッタのお父さんで、ピエトラ様はお母さんで、ファウスト様はおじいちゃんなのです。ベルナデッタの家族なのです、一緒に集合絵に入ってくれなきゃ嫌なのです。ていうか……」
「なんでい」
「入りなさい?」
「勅令か、オイ。ったく仕方ねぇな、俺の一番弟子は」
「本当、仕方のない子だねぇ」
と渋々のようで嬉しそうなフィコと家政婦長、素直に「嬉しいね」と穏やかな笑顔を浮かべるファウストがいる。
「ありがとうございます」
と歯を見せてはにかんだベルが、3人を引っ張って居間の中へ入っていった。
私と同時に「ふふふ」と微笑ましそうに笑った兄上が、4人が居た方を指差した。
「良いか、フェーデ? フィコとピエトラ、ファウストも入れて集合絵を描いてもらっても。アモーレがあんなに可愛い権力行使をせんでも、余も3人を集合絵に入れるつもりだった」
「ええ、私もです兄上。私たちにとっても、『第二の父上』と『第二の母上』、『じいや』ですからね。大切な家族です」
居間に入ってみると、着飾った者たちでごった返していた。
そしてレオが混乱するのも無理はなく、たしかに『親族』ではない者たちも集まっている。
そしてここでもまた揉めているようだった。
「は? こらハナ、おまえも集合絵に入る気なん?」
「当たり前だろ、マサムネ。あたいはベルの親友なんだから。あたいは今日のために着物を新調したんだ。あたい、ベルのとーなりっ!」
「ハナが入るなら僕とナナ・ネネも入るからね。僕たちにとってフラビーたちは家族も同然だし」
「え、ガットたち入るの? なら、おれも入りたい。いいでしょ? おれ日頃頑張ってるんだし」
「待っテ、ずるイ! ガットたちとテンテンが入るなラ、リエンも入ル! だってリエン、ベルナデッタ女王陛下の女官だもン! リエンが女王陛下の隣ネ、ハナどけヨ!」
「ふざけるなリエン! 単なる女官のおまえは後列で充分だろ! ベルの隣はあたいが相応しいんだ、下がれよ!」
「わあぁぁぁあン! ハナが酷いネ、女王陛下! ハナがリエンのこと虐めるネ! 宮廷ガットでリエンより強いからって横暴ネ!」
「こらこら二匹とも、喧嘩をするのではありません。最前列は、各国の国王・女王・王妃陛下にするべきですよ。私たちはおとなしく後列に下がりましょう」
「――っテ、マー中堂も入る気なノ?」
「おや、フラヴィオ陛下とベルナデッタ陛下の補佐である私たち内閣大学士が入ってはいけませんか?」
ざっと希望者の数を数えてみる。
カプリコルノ国とカンクロ国、レオーネ国、サジッターリオ国の四国から集合し、総勢約50人以上の集合絵になるようだ。
これは大変だ……。
「お、皆揃ったな」
とド派手な衣装で決めてきたレオーネ国王マサムネ陛下――ムネ陛下が、居間にやって来た私たちに気付いた。
「皆はよ並びー。最前列はワイら国王・女王・王妃な。で、二列目に王子・王女とかそこらの身分。残りは三列目以降に適当に雛壇に並べばええやろ」
とムネ陛下が仰ると、口々に承知の返事をして並んでいく。
最前列の国王陛下たちは椅子に座り、二列目はその後ろに立ち、三列目以降は用意されている雛壇に上っていく。
私は絵描きなので、皆の前方に用意されている大きなキャンバスの方へと向かい、手早く油と顔料を混ぜて絵具を作る。
「すまん、ここは空けておいてもらって良いか?」
兄上の声が聞こえて、そちらを見た。
すると、兄上がご自身の左隣に空席を作っていた。
「フェーデの場所だ。後でフェーデだけレオに描いてもらう」
「兄上、私は大公ですから二列目で結構です」
「駄目だ。おまえは余の隣だ。本当はドルフも並びたいところだが、最前列に置くにはデカすぎるからな」
「ええ、俺はここで」
と黒の巨人――兄上と私の親友アドルフォ――は、雛壇の脇に立っていた。
「兄上、私も――」
「駄目だ」
と、兄上の厳しい声に口を遮られた。
こんなことを思うのはまったく初めてではないが、また何を仰るのかこの人は。
私はあくまでも大公で、国王・王妃の次の身分であるのだから、並んで座るのはおかしなことだ。
「40年間、余のすぐ傍で余を支えて来てくれたおまえは、もう一人のカプリコルノ国王だ。二列目に下がることは断じて許さぬ。良いな?」
――しまった。
ハンカチを忘れてしまった。
兄上が私のことを大切な弟だと思ってくださっていることは、重々承知しているつもりだった。
しかし本当に『つもり』で、まさかそんな風に私を思ってくださったことを、今初めて知った。
「御意、兄上」
と従いながら、必死に込み上げてきたものを飲み込んだ。
「では、始めます」
本日で私の姪っ子ヴァレンティーナが20歳に、甥っ子サルヴァトーレが6歳になった。
「早いものですね、兄上。ティーナがもう20歳ですよ。トーレなんて、ついこのあいだ生まれたと思っていたのに」
「ああ、信じられん。ジーナも昨日生まれたような感覚があるが、もう1歳と9ヶ月なのか。子供の頃は一日一日があんなに長く感じたのにな」
私は現在、40歳だ。
つまり兄上とはもう40年も一緒にいるということになる。
子供の頃は身長差があり、顔が瓜二つでもちゃんと1歳差の兄と弟に見えたものだが、いつからか身長が並ぶようになると双子のように見られた。
しかし誰もがそうであるように、兄上と私は一目で見分けが付く。
その理由には、兄上は派手を好み、私は地味を好むところや、ピアスの有無などもあるだろう。
でもたとえ服を交換して欺こうとしても、ほとんどの者に見抜かれるのが落ちだと思う。
何故なら同じ碧眼でも、兄上はいつまでも少年のように澄んでいて、興味のあるもの――特に女――を見つけては、満天の星空を反映したかのごとく煌く。
同じように笑っても、兄上は真夏の太陽のごとく目映く輝く。
また兄上がいるだけで周りに笑顔が咲き、愉快げな笑い声が沸き起こる。
それらは私には無く、兄上は私の何倍も人を魅了するものを持っていた。
「どうだ、フェーデ?」
と兄上が、鏡越しに私の顔を見た。
現在、場所は宮廷の3階にある男子用の衣装部屋の中。
先ほどティーナとトーレの誕生日パラータを終えたばかりで、これから居間で私が親族一同の集合絵を描くことになっている。
後世まで残されるからと、皆いつもより洒落込んでいた。
「今日の髪型、これで良いと思うか?」
「ええ、問題無いかと」
「本当か? 格好良いか?」
「ハイハイ、兄上は格好良いですから世界一」
兄上が腰に手を当てて「そうか」とふんぞり返る。
時に兄上の素直さと自信家ぶりが羨ましくなる。
その分、兄上は私より多くの幸せを知っている。
「真似して良いぞ、フェーデ」
「ハイハイ」
髪型からヒゲから私に一緒にして欲しいらしい兄上のため、私は今日も鏡越しに兄上を見ながら、それらをお揃いに仕立て上げる。
「よく40過ぎの兄弟が……」
私の次男ガルテリオの呟きが聞こえた。
「ランド兄上、おれたちも頭お揃いにしてみる?」
「冗談。恥ずかしい」
「だよなー、普通」
「うわ、見て殿下たち。あの兄弟、よく見たら今日は衣装もお揃いだよ」
「凄いな……」
兄上の長男オルランドと四男ティート、それから私の三男エルネストの声も聞こえた。
おまえたち、もはや尊敬の眼差しで見てくるんじゃない。
今日の衣装が兄上と色違い――兄上が派手な赤で、私が落ち着いた青――にされていることは、私もつい数分前に知ったことだ。
決して私の意志でこうなったんじゃないんだ、嘘じゃない。
「黙れ、おまえたち」
流石は兄上だ。
国王らしい威厳のある声で子供たちを叱ってくれた……――が、何か嬉しそうだ。
「フェーデをからかうことは余が許さぬ。妻と並んで愛し、誰よりも尊敬している兄上とお揃いにしたくて何が悪い。なぁ、フェーデ?」
「…………」
突っ込みたいが、兄上の澄んだ瞳が煌めていて突っ込めない。
ここで正直に、兄上が怒るから渋々やっているのだと言ったら、確実に繊細な兄上を傷付けてしまう。
それにお揃いにはしたくなくても、私は兄上を妻アリーチェと並んで愛し、誰よりも尊敬しているところは否定を出来ない。
それ故に、恥を忍んで「スィー」と答えた。
「ああ、そうっすか」
「それはすみませんでした」
子供たちの失笑が聞こえたが、兄上が愉快そうに笑うので私はそれで良い。
物心ついた頃から両親に、将来は兄上の補佐をして生きるよう言われて育った私の人生は、確実に半分は兄上のためにあるのだから。
「さーて」
と衣裳部屋の中を見回した兄上が、傍に居た愛息子トーレを片腕で抱き上げた。
トーレはカンクロ国の王太子ということで、本日は普段着ないカンクロ国の衣装を着ていた。
ちなみに最初、母であるカンクロ国女王ベルナデッタ陛下と、妹のヴィルジニアとお揃いの衣装にされそうになっていた。
赤ん坊の頃は兄上の好きに遊ばれていた哀れなトーレは、今ではすっかり男の自覚があった。
「トーレ男の子だもーん!」
――そう言って大泣きし、普段は素直なのに、女装させられることを全力で拒んでみせた。
兄上は衝撃を受けていたが、お陰で今日は無事に男の衣裳を着せられている。
良かったな。
「皆、準備は出来たな。では、居間へ行くとしよう――と、その前に、親族一同って何人いるんだ? 数えた奴いるか?」
と兄上が右手を上げながら訊いたが、誰も挙手はしなかった。
つまり私もそうだ。今や親族が増えすぎて、大雑把にしか把握していない。
「『親族』って……どこまでを言うの?」
と私の四男レオナルドが、腕組みしながら眉を寄せている。
「さっき居間を覗いたら、そうじゃない人たちもいるように見えたんだけど……」
「どういうことだ、レオ?」
と訊いたものの、なんとなく分かる。
私たちには家族や親族と言って良いほど、信頼の置ける仲間たちがいた。
衣裳部屋から出ると、居間の前にカンクロ国のとても華やかな衣装で着飾ったベルナデッタ陛下――ベルと家政婦長ピエトラ、執事ファウスト、料理長フィコの姿が見えた。
何やら揉めているのか、ベルの頬が膨らんでいる。
実年齢よりも落ち着いた雰囲気をしている私の生徒ベルだが、時々そういう顔をすると幼く見えて可愛い。
「こら、ベル。俺ぁ、この後の宴の準備で忙しいんだよ」
「本日くらいは部下を信頼して仕事を休んでください、フィコ師匠。フィコ師匠はベルナデッタのお父さんで、ピエトラ様はお母さんで、ファウスト様はおじいちゃんなのです。ベルナデッタの家族なのです、一緒に集合絵に入ってくれなきゃ嫌なのです。ていうか……」
「なんでい」
「入りなさい?」
「勅令か、オイ。ったく仕方ねぇな、俺の一番弟子は」
「本当、仕方のない子だねぇ」
と渋々のようで嬉しそうなフィコと家政婦長、素直に「嬉しいね」と穏やかな笑顔を浮かべるファウストがいる。
「ありがとうございます」
と歯を見せてはにかんだベルが、3人を引っ張って居間の中へ入っていった。
私と同時に「ふふふ」と微笑ましそうに笑った兄上が、4人が居た方を指差した。
「良いか、フェーデ? フィコとピエトラ、ファウストも入れて集合絵を描いてもらっても。アモーレがあんなに可愛い権力行使をせんでも、余も3人を集合絵に入れるつもりだった」
「ええ、私もです兄上。私たちにとっても、『第二の父上』と『第二の母上』、『じいや』ですからね。大切な家族です」
居間に入ってみると、着飾った者たちでごった返していた。
そしてレオが混乱するのも無理はなく、たしかに『親族』ではない者たちも集まっている。
そしてここでもまた揉めているようだった。
「は? こらハナ、おまえも集合絵に入る気なん?」
「当たり前だろ、マサムネ。あたいはベルの親友なんだから。あたいは今日のために着物を新調したんだ。あたい、ベルのとーなりっ!」
「ハナが入るなら僕とナナ・ネネも入るからね。僕たちにとってフラビーたちは家族も同然だし」
「え、ガットたち入るの? なら、おれも入りたい。いいでしょ? おれ日頃頑張ってるんだし」
「待っテ、ずるイ! ガットたちとテンテンが入るなラ、リエンも入ル! だってリエン、ベルナデッタ女王陛下の女官だもン! リエンが女王陛下の隣ネ、ハナどけヨ!」
「ふざけるなリエン! 単なる女官のおまえは後列で充分だろ! ベルの隣はあたいが相応しいんだ、下がれよ!」
「わあぁぁぁあン! ハナが酷いネ、女王陛下! ハナがリエンのこと虐めるネ! 宮廷ガットでリエンより強いからって横暴ネ!」
「こらこら二匹とも、喧嘩をするのではありません。最前列は、各国の国王・女王・王妃陛下にするべきですよ。私たちはおとなしく後列に下がりましょう」
「――っテ、マー中堂も入る気なノ?」
「おや、フラヴィオ陛下とベルナデッタ陛下の補佐である私たち内閣大学士が入ってはいけませんか?」
ざっと希望者の数を数えてみる。
カプリコルノ国とカンクロ国、レオーネ国、サジッターリオ国の四国から集合し、総勢約50人以上の集合絵になるようだ。
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「お、皆揃ったな」
とド派手な衣装で決めてきたレオーネ国王マサムネ陛下――ムネ陛下が、居間にやって来た私たちに気付いた。
「皆はよ並びー。最前列はワイら国王・女王・王妃な。で、二列目に王子・王女とかそこらの身分。残りは三列目以降に適当に雛壇に並べばええやろ」
とムネ陛下が仰ると、口々に承知の返事をして並んでいく。
最前列の国王陛下たちは椅子に座り、二列目はその後ろに立ち、三列目以降は用意されている雛壇に上っていく。
私は絵描きなので、皆の前方に用意されている大きなキャンバスの方へと向かい、手早く油と顔料を混ぜて絵具を作る。
「すまん、ここは空けておいてもらって良いか?」
兄上の声が聞こえて、そちらを見た。
すると、兄上がご自身の左隣に空席を作っていた。
「フェーデの場所だ。後でフェーデだけレオに描いてもらう」
「兄上、私は大公ですから二列目で結構です」
「駄目だ。おまえは余の隣だ。本当はドルフも並びたいところだが、最前列に置くにはデカすぎるからな」
「ええ、俺はここで」
と黒の巨人――兄上と私の親友アドルフォ――は、雛壇の脇に立っていた。
「兄上、私も――」
「駄目だ」
と、兄上の厳しい声に口を遮られた。
こんなことを思うのはまったく初めてではないが、また何を仰るのかこの人は。
私はあくまでも大公で、国王・王妃の次の身分であるのだから、並んで座るのはおかしなことだ。
「40年間、余のすぐ傍で余を支えて来てくれたおまえは、もう一人のカプリコルノ国王だ。二列目に下がることは断じて許さぬ。良いな?」
――しまった。
ハンカチを忘れてしまった。
兄上が私のことを大切な弟だと思ってくださっていることは、重々承知しているつもりだった。
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