15 / 33
第15話 休息
しおりを挟む
「あの~」
「おや、いらっしゃい。旅の人かい?」
国境を越えてすぐの名も無き小さな集落、そこにポツンと1軒だけある喫茶店のような所へとハンナは入っていった。
すると出迎えてくれたのは背筋のまだシャンとした小柄なお婆さんで。
「えぇ、まぁ……。それで、水を売っていただきたくて……あとヤギのミルクもあれば……」
「あぁ~らぁ! 赤子連れてるんかい。そら大変だぁ」
「え、えぇ……。ですが私の子供ではないのでこの子のミルクが欲しいのです」
この集落に来るまでの間、乳がたくさん出て余っている母親がいると聞けば母乳をもらったりしてどうにかしていた。
だが都合よくそんな人がどこにでもいるわけもなく、道中ではこうやってヤギのミルクを買って代用として与えることも多くあったのだった。
「おぉ、おぉ! 子供のミルク分ぐらいなら金はいい。うちの分を分けてもかまわないが……お前さんの子供じゃないってのは? まさか――」
「えっと、ちょっと訳ありでして……。いえ、誘拐などではありませんよ。この子の――母親に託されたんです」
その言葉にお婆さんの眉がピクリと動く。
「託されたって……もしかしてその母親ってのは、死んだってことかい?」
「まぁ……」
ハンナは視線を落として曖昧な返事をして言葉を濁す。
本当のことが言えないのは勿論、性格上ウソもつけないからだ。
それにある意味、死んだというのもウソとは言い切れない状態であり……。
「そうか……聞いて悪かったね。しかし、そんな乳飲み子を連れて旅とは――」
「ふぇっ、ふぇっ、ふぇええーーーんぇええ~ん!」
長話をし過ぎたのか、ハンナの腕に抱かれた赤ん坊が目を覚ましてグズり始めた。
「あぁ、ごめんよ。ミルクだったね。すぐ用意するからね~」
赤ん坊の泣き声でハッとしたお婆さんは厨房の方へと引っ込み、ガタガタとミルクの用意をし始めた。
「おぉ~、よしよし。お腹すいたよね~。もうちょっと待ってね~」
生まれてから十日足らずで生家を追い出され、赤ん坊にしては過酷な旅を強いられた憐れな子供。
なのにもかかわらずここまで元気に生きているというのは、なんと強い子供なのだろうか。
腕に抱いた子供を揺らしてあやしながらふと、ハンナはそんなことを思うのだった。
「はい。人肌に温めてきたよ」
ハンナの居る方へと戻ってきたお婆さんはそう言ってミルクの注がれた温かいカップを近くの机の上に置いた。
「ありがとうございます」
ハンナは一緒に渡された木製のスプーンでヤギのミルクを少しすくい、赤ん坊の口へと持って行く。
唇にスプーンが触れた条件反射で赤ん坊が口を開くと中へ注ぎ入れ……それを赤ん坊が要らないという仕草をするまで繰り返したのだった。
「おや、いらっしゃい。旅の人かい?」
国境を越えてすぐの名も無き小さな集落、そこにポツンと1軒だけある喫茶店のような所へとハンナは入っていった。
すると出迎えてくれたのは背筋のまだシャンとした小柄なお婆さんで。
「えぇ、まぁ……。それで、水を売っていただきたくて……あとヤギのミルクもあれば……」
「あぁ~らぁ! 赤子連れてるんかい。そら大変だぁ」
「え、えぇ……。ですが私の子供ではないのでこの子のミルクが欲しいのです」
この集落に来るまでの間、乳がたくさん出て余っている母親がいると聞けば母乳をもらったりしてどうにかしていた。
だが都合よくそんな人がどこにでもいるわけもなく、道中ではこうやってヤギのミルクを買って代用として与えることも多くあったのだった。
「おぉ、おぉ! 子供のミルク分ぐらいなら金はいい。うちの分を分けてもかまわないが……お前さんの子供じゃないってのは? まさか――」
「えっと、ちょっと訳ありでして……。いえ、誘拐などではありませんよ。この子の――母親に託されたんです」
その言葉にお婆さんの眉がピクリと動く。
「託されたって……もしかしてその母親ってのは、死んだってことかい?」
「まぁ……」
ハンナは視線を落として曖昧な返事をして言葉を濁す。
本当のことが言えないのは勿論、性格上ウソもつけないからだ。
それにある意味、死んだというのもウソとは言い切れない状態であり……。
「そうか……聞いて悪かったね。しかし、そんな乳飲み子を連れて旅とは――」
「ふぇっ、ふぇっ、ふぇええーーーんぇええ~ん!」
長話をし過ぎたのか、ハンナの腕に抱かれた赤ん坊が目を覚ましてグズり始めた。
「あぁ、ごめんよ。ミルクだったね。すぐ用意するからね~」
赤ん坊の泣き声でハッとしたお婆さんは厨房の方へと引っ込み、ガタガタとミルクの用意をし始めた。
「おぉ~、よしよし。お腹すいたよね~。もうちょっと待ってね~」
生まれてから十日足らずで生家を追い出され、赤ん坊にしては過酷な旅を強いられた憐れな子供。
なのにもかかわらずここまで元気に生きているというのは、なんと強い子供なのだろうか。
腕に抱いた子供を揺らしてあやしながらふと、ハンナはそんなことを思うのだった。
「はい。人肌に温めてきたよ」
ハンナの居る方へと戻ってきたお婆さんはそう言ってミルクの注がれた温かいカップを近くの机の上に置いた。
「ありがとうございます」
ハンナは一緒に渡された木製のスプーンでヤギのミルクを少しすくい、赤ん坊の口へと持って行く。
唇にスプーンが触れた条件反射で赤ん坊が口を開くと中へ注ぎ入れ……それを赤ん坊が要らないという仕草をするまで繰り返したのだった。
60
あなたにおすすめの小説
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?
112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。
目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。
助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。
殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。
婚約者に裏切られた私が幸せになってもいいのですか?
鈴元 香奈
恋愛
婚約者の王太子に裏切られ、彼の恋人の策略によって見ず知らずの男に誘拐されたリカルダは、修道院で一生を終えようと思っていた。
だが、父親である公爵はそれを許さず新しい結婚相手を見つけてくる。その男は子爵の次男で容姿も平凡だが、公爵が認めるくらいに有能であった。しかし、四年前婚約者に裏切られた彼は女性嫌いだと公言している。
仕事はできるが女性に全く慣れておらず、自分より更に傷ついているであろう若く美しい妻をどう扱えばいいのか戸惑うばかりの文官と、幸せを諦めているが貴族の義務として夫の子を産みたい若奥様の物語。
小説家になろうさんにも投稿しています。
【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します
112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。
三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。
やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。
するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。
王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。
離婚します!~王妃の地位を捨てて、苦しむ人達を助けてたら……?!~
琴葉悠
恋愛
エイリーンは聖女にしてローグ王国王妃。
だったが、夫であるボーフォートが自分がいない間に女性といちゃついている事実に耐えきれず、また異世界からきた若い女ともいちゃついていると言うことを聞き、離婚を宣言、紙を書いて一人荒廃しているという国「真祖の国」へと向かう。
実際荒廃している「真祖の国」を目の当たりにして決意をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる