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第14話 別離

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「国境沿いの街まではこの馬車で送ってやる。お前とを見られるわけにはいかないのでな。あと、この国から出て行ったという確認もしたい」

「――ありがとうございます」

 それがエステルにとって父親との最後の会話となった。
 悲しみを越えた絶望に打ちひしがれたエステルを支えるように、横に座ったハンナはソッと背中に手をやっていた。

「ふんっ! 最後まで可愛げのないやつめ」

 言いたい事だけを冷たく言い捨てると鼻息荒く公爵は邸の方へと戻っていくのであった。

「じゃ、出ますぜ」

 御者としてそこに居たのはあの夜に冬の館までエステルを迎えに来た男。
 今夜もまた、外からは中の見えない訳アリ馬車に乗せられてエステルは不安でいっぱいであったが、その男がいるのが分かって少しホッとした。
 この男とは前に一度会ったっきりのこれが二度目――しかも口数も少なく態度も粗暴。
 やっている仕事から決して自分の味方にはならないだろうとわかってはいたが……なぜだか信用できる人だとピンときていたのである。

「少々……長旅になる。そこにあるブランケットとか……勝手に、使ってくれ」

「あ、ありがとうございます!」

 御者側から見れる確認用の小窓からチラチラと後方のエステルを気にして見ては、男はたまに二言三言喋る。
 そんな感じで少しずつ打ち解け、街の中に入ることもなく次々と横を過ぎてゆく旅路はついに最後の街、クーヴまで来ようとしていた。

「御主人様からどこの街にも寄り道をするな、決して入るなと言われていたから、かなりキツイ旅になっちまったろうが……悪かったな。小さな村に俺一人で買い物に行っても、食い物そんなに買えなかったし……」

「いいえ、あなたを雇ったお父――公爵様がそうお決めになって契約したのだもの……。仕方ないわ……うん」

 エステルは悲しい笑顔をみせ、何かを諦めてまるで他人事のように答えるのだった。

「すまねぇ――。もうすぐ見えるクーヴを過ぎた所にある人通りのない場所で降りてもらうことになる。道に沿ってまっすぐ歩けばすぐ国境だ。国境から見える位置に向こうの国側の小さな集落がある。そこに入るのを馬車から見届けたら俺は報告の為に帰らなきゃならん……」

「えぇ……分かったわ。丁寧な説明をありがとう。帰り道も気を付けてね」

「えっ!? あっ、ありがとよ――」

 こんな自分のことなぞ気にかけてくれるのかとちょっと驚きつつも、男は嬉しくも寂しそうにエステルにお礼を言った。
 そうして予定地へと着くと馬車を降り、ハンナの牽く荷車の中へとエステルは身を潜めることに。

「赤ん坊は荷車の上に乗せておけ。まだ何の思想にも染まっていない赤ん坊に限っては身分証無しで大丈夫らしいからな」
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