上 下
31 / 32

第31話 彼の友人

しおりを挟む
「ユリシーズ様~!」

 ドアがノックされ、ユリシーズを呼ぶ低い声が聞こえた。

「入っていいぞ」

「失礼しま~す」

 ユリシーズが許可の返事をすると、入ってきたのは皮鎧に付いている金具の音をガチャガチャと鳴らして歩く大柄な男であった。

「紹介しよう。この男が先程話した友人の『アイン』だ」

「ど~も、ご婦人方。アイアスって言います。ユリシーズ様からは『アイン』って呼ばれてますがねぇ」

 アイアスの軽い口調からは陽気な性格なのだろうとすぐに分かる。
 彼は二人にとっては今までの人生で出会ったことのないタイプの男であり、加えて軍務め経験者特有の迫力のある明瞭な声から受ける圧に一瞬たじろぐほどだった。

「えっ、あっ……。よ、よろしくお願いします。私はステラ。こちらは――」

「母のハンナです。この度は、ユリシーズ様には私たち家族3人が新たに暮らす地を紹介していただきまして、感謝しております」

 ハンナがぺこりと頭を下げたのを見て、ステラも頭を下げた。
 互いの紹介が終わったのが分かるとユリシーズは改めてアイアスの方へと向き直る。

「それで……だ、アイン。宿代の支払いや出発の準備はもう済んだか?」

「はいっ! 諸々と準備も済みましたので、あとは荷馬車に乗って出発するだけです! もう行けますか?」

「いや……」

 了承が即貰えると思っていたアイアスは思わぬ返事にキョトンとして首を傾げる。

「何かトラブルでもありましたか?」

「ほら、この子が――」

 と、アイアスにステラが抱っこしている赤ん坊をユリシーズは指し示した。
 あの朝の日にはこの親子と一緒に村まで旅をするという話を通してあったので、アイアスも赤ん坊の様子を見て事態を察した。

「あぁ……。なるほど」

「それでね、アイン。ちょっと診てやっては……くれないか?」

 アイアスは少し驚きつつもやれやれといった感じで大きく一つ溜め息を吐く。
 これはと思い、反対をしようとした。
 だがなんやかんやとユリシーズに言われ、最終的にはしょうがないなと承諾をするのだった。

「ユリシーズ様は本当に――」

「そこまでだよ。!」

「面倒見がいいですねって言おうとしただけですよ?」

「そ……それならいいが」

 ユリシーズはコホンと1つ咳払いをして場の雰囲気を正す。

「まぁ、そういうことだから今日の出発時間は少し遅らせる。だが我らは今日中にはこの街を出なければ予定に間に合わない。だからご婦人方は赤ん坊の回復を待ってから出発し、後で合流することになる」

「予定変更ですね」

「あぁ。それで――」

 ユリシーズはステラとハンナにアイコンタクトを取る。

「ご事情があって、今は医者にかかれないらしいので……アインに診てもらいたいというわけだ」

「はぁ……?」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7,747pt お気に入り:282

聖女の兄は傭兵王の腕の中。

BL / 完結 24h.ポイント:440pt お気に入り:3,201

全てを諦めた公爵令息の開き直り

key
BL / 連載中 24h.ポイント:376pt お気に入り:1,524

もしも貴方が

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:120,410pt お気に入り:2,377

【R18】これは『同期だから』で済まされる事ですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:308

脇役転生者は主人公にさっさと旅立って欲しい

BL / 連載中 24h.ポイント:4,721pt お気に入り:1,241

運命の番は姉の婚約者

BL / 完結 24h.ポイント:454pt お気に入り:2,300

事故つがいの夫が俺を離さない!【本編完結】

BL / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:1,921

処理中です...