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第30話 希望の梯子

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 ユリシーズはニコリと微笑み、持っていたハンカチでステラの涙を拭った。
 赤ん坊を抱っこしているが故に両手がふさがり、仕方がなかったとはいえステラの頬はポッと染まった。
 元婚約者にもされた事のない優しい行為に照れるやら恥ずかしいやらで……。
 だがユリシーズの視線はそれを捕らえる事は無く赤ん坊の方へと移り、熱を確認するように頭をペタペタと触っている。

「ステラさん、大丈夫です。ハンナさんも――少しはご安心くださったことでしょう。ですが……私たちにはしなければいけない仕事があり、前もってお話していた通り本日この街を出発しなければなりません」

「えぇ……。分かっております」

「それゆえにあなた達の準備が整うまで出発を待つことはできませんが――あの村に私が必ず連れて行くとお約束しましょう。その子のこともお任せください」

「い、いえ! そこまでしていただくわけにはっ」

 ハンナの慌てようにステラも慌てて言葉を返した。

「そうです! 名無しのこの子を診てくださるお医者様がいたとしても、かなりの大金が必要となるでしょう。それにこんなに小さな街ですといるかどうかという問題の方が……」

 支援してくれるというならありがたい――が、それで済むような話でないことが分かっているだけにその後を考えて二人は怖かったのだ。

「ご心配にはおよびませんよ。私が診た限りですが……もしかしたら共に来ている友人にならなんとかできるかもしれませんし」

「「えっ?」」

 驚きのあまりに二人は同時に素っ頓狂な声をあげた。

「友人のアインは衛生兵として務めていたこともありましてね。勿論、赤ん坊を診た事はないでしょうが……軽度の病気であれば医者に診せなくともなんとかなるでしょう」

「まぁ!」

「幸いにも重度と言えるほど症状は悪くはないと思います。高熱ではありますが意識はしっかりしているようですし、これなら」

 ステラとハンナは顔を見合わせ、ユリシーズの目の前に並んで立って深々とお辞儀をした。

「ありがとうございます!」

「なんと感謝を申し上げれば良いか……」

「いえ。この国には『偶然の出会いさえ運命によって定められている』ということわざもありますので。できうる限り、私はあなたたち家族をお手伝いしたく思うのです」

 そう言って優しく微笑みかけるユリシーズの顔には天使が宿っていた。
 出発は遅らせれてもあと2時間から3時間程度まで。
 その間にどこまでこの赤ん坊にしてやれるだろうかとユリシーズは考える。
 それと同時に訳ありの子連れ母娘にこれ以上深く関わることに、アインが良い顔はしないだろうなと悩みだしたのだった。
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