異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

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第3章 オフィーリア国、最初の街

4.少年の家

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「お兄ちゃん、本当にこの子の家に行くの?」

「だってパウロにアダムにイブ、猫3匹も連れた人間は宿に泊まるのは難しいってさっき聞いたじゃないか……。」

 リリアはしがみ付いた腕をグイグイと引っ張って俺の耳に口を寄せ、ヒソヒソと小声で話しかけてきた。
 俺たちは少年の提案に甘え、少年の家に泊まらせてもらう事にした。

「さぁ! ここが僕の家だ。」

 少年に案内された先にあったのは大きな切り株に窓や扉の付いたものだった。

「へ~ぇ…。さすがエルフ……。」

 街に入ってすぐに見えた大通りにあった近代的な建物と違い、少年の家とその周辺にある住宅は、どれも俺がエルフと聞いて想像していた様な、植わっている樹をそのままくり抜いただけの家ばかりだった。

「…ん? 何か言ったか?」

「い、いや…。何も……。」

 少年の家や周囲に見渡すばかりにあるファンシーな家々に俺が少年の家の玄関扉の前に突っ立って家を眺めたままポロっと独り言を漏らしていると、家の中に入った少年はどうしたのかと俺を不思議そうに俺を見ていたが、俺の返答に何かを思ったらしかった。

「大通りにある商業地区の建物やお金持ちの家なんかの石造りのものと違って、ここらは昔からある古い家ばかりだからな~。未だに樹の家だし……、それに驚いていたのか?」

「えっ?」

「えっ? 違うのかい?」

 少年は首を傾げて眉をしかめ、それ以外に外から来た人間が珍しそうに家を見る理由は何があるんだと言わんばかりに俺の目を真っ直ぐに見てきた。

「ねぇ、ねぇ。君の母さんや父さんは? …居ないの?」

 なんとも気まずい雰囲気を打ち消すかの様に、横に居たリリアが一足先に少年の家の中へと入り、室内をキョロキョロと他に誰が住んでいるのだろうかと探していた。

「……居ないよ。僕……一人で住んでるんだ。父さんも母さんも死んじゃってるから、さ………。」

「あっ………。」

 少年がリリアの言った「父さん」「母さん」という言葉にとても敏感に反応し、少し寂しそうな顔をして答えたので、俺とリリアは聞いてはいけない事を聞いてしまったなと焦った。

「あぁ、結構昔の事だし気にしないでよ。」

 そう言って少年はパッと笑顔になって何事も無かったかの様に俺たちに向き直った。

「ほら、兄さんも中に入ってここに座ってよ! お茶でも入れるからさ。」

 俺とリリアは少年に指定されたソファーに掛け、猫らは俺たちの膝の上に寝そべった。

「…あっ! そういえば自己紹介がまだだったね。僕はアージェ。ここ、オフィーリア国民の父さんとサクラヴェール国民の母さんの間に生まれた“ハーフエルフ”って呼ばれているヤツなんだ!」

「あぁ! だからその辺の人と見た目が少し違っていたのか~。俺はルカだ。よろしくな!」

「私はリリアよ。あなたが高慢ちきなオフィーリア国の人間ではなく、半分でも私たちと同じ温かいサクラヴェール国の血が流れていると聞いて安心したわ。」

 リリアはアージェが『ハーフエルフ』だと聞いて少し安心し、ニコニコしながら名乗った。

「ごめんね、アージェ……。リリアはオフィーリア国の人たちにあまり良い印象を受けたことが無いみたいでさ…。さっきも銀行で少し馬鹿にされた感じの物言いをされて、それで機嫌が悪くなっちゃって……。」

「あー……。この国の人間は皆プライドが高いからね…。僕もハーフエルフって事で苦労してるから分かるよ~。」

「苦労……してるんだ………?」

 日・伊ダブルの俺にもその苦労の一端が分かる所もあり、親近感と共にどう言って良いのか分からずにただアージェが言った事をそのまま聞き返した。

「まぁね。今は休戦中だから少しはマシだけど、戦時中は敵国の血が流れてるってんで酷かったよ~。『ハーフエルフ』なんて遥か昔から忌み子とされてるから風当たりも強いしさ……。小さい頃は父さんが庇ってくれたりもしてたけど…、でも死んでからはさ……。『ハーフエルフ』って事と両親が居ないって事と、エルフの証である高い魔力も持っていないって事の三重苦でさ。僕はずーっと貧乏暮らしだよ。アハハッ!」

 暗い過去を思い出して視線をどこか遠くに向けて話をしながらも、アージェは最後にニカッと明るく笑って見せた。
 アージェの笑い声で湿っぽくなっていた雰囲気が和らぎ、リリアも少し打ち解けてきた様だった。
 すると、そんな中でアージェのお腹がグゥ~と大きな音を立てて鳴ったのに、皆プッと一斉に噴き出して笑った。

「アハハハハハッ! そういえばもうルテナの時間だったね。夕飯にしようか。」

「ルテナ?」

「サクラヴェール国では言わないんだっけ? あの夜になると出てくる一際大きなキラキラと蒼白く光っている楕円形の星がルテナって名前で、あの星が出る時間をルテナの時間って言うんだよ。因みに朝になると出てくるルテナよりももっと明るく地上を照らして温もりを与えてくれる大きくて白っぽいピンク色をした星がサニアって名前で、これが出てる時間がサニアの時間って言うの。」

 初めて聞いた言葉に俺が聞き返すとアージェは丁寧に説明をしてくれ、それだけでアージェがとても良い子だという事が分かる。

「そうか……。オフィーリア国ではこの世界にある太陽の様な星をサニア、月の様な星をルテナって言うのか……。」

 ブツブツと自分で覚える為に言われた事を復唱していると、アージェはさらに続けて話をしてくれた。

「サニアとルテナはね、あの星そのものが精霊とされていて、2人の精霊に纏わるとても悲しいお話があるんだ……。」

「えっ! 聞きたい、聞きたい!」

 リリアが目をキラキラさせて俺とアージェの間に割り込んできた。

「後で晩御飯を食べながら話してあげるよ。」

 そうして俺たちも手伝い、皆で晩御飯を作り始めた。
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