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第3章 オフィーリア国、最初の街
5.太陽と月の神話
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「いただきま~す!」
この日の食卓に並んだのは色取り取りの豆の入ったトマトスープの様な物に蒸かした芋、それに俺が持っていたパンとチーズを焼いた物だけだった。
肉を食べる習慣のないこの国では野菜や果物や木の実などの植物しか流通しておらず、肉食獣の猫たちには俺が携帯していた干し肉をお湯で柔らかく戻したものを用意した。
「ごめんよ~。大した物も出せず…。この国では他の国の様に肉を食べないから物足りないかもしれないけど……。」
「いや、充分だよ。このスープに入っている豆は色んな色をしていて見た目もキレイだし、美味しいね~。」
マトスと呼ばれるオレンジ色をした実を潰した汁で作ったスープの味は正に“トマトスープ”で、その中を泳ぐ赤や黄色や若草色や青っぽい色をした、火を通して半透明になった豆らが宝石の如くキラキラしていた。
そしてそれに添えて出されたのがこの国では豆類と共に主食とされる芋で、ねっとりとした食感と味は俺の大好きな“里芋”だった。
「俺、この芋好きだわ。いくらでも食べられるねっ! 似た様な芋を知ってるけど、それはこれぐらい小さくてさ。こんなに大きい芋は初めて見たけど…、ガブって齧りつける感じが楽しくて止められないねっ!」
俺は地球でよく見る里芋のサイズに輪っかを両手で作ってみせ、大きさを説明した。
「へ~ぇ…。そんな小さな芋は見た事ないな~。トルモナはだいたいこの猫さん程には大きくなるものだし……。」
アージェは足元で仲良くふやかした干し肉を食べている猫たちを指差した。
「ねぇ、そんなことよりさっ……。」
俺の横に座っていたリリアがスープを食べている手を途中で止め、食べ物の話がいつまでも続きそうで聞きたい話がなかなか始まらない事にウズウスして、話に割って入ってきた。
「さっき言っていたサニアとルテナって精霊に纏わる悲しいお話ってやつを聞かせてよ。」
「あぁ、そうだったね……。」
アージェは水をゴクリと飲むと、夕飯の時に話すと約束していた話をしはじめた。
「このお話はオフィーリア国に古くから伝わる話でね……。太古のその昔、この世界がまだ昼と夜の2つに分けられることの無かった頃の話…。世界中の命の護り手であるサニア様とルテナ様は互いに愛し合い、いつも仲睦まじく多くの小さな精霊たちと共に楽しく暮らしていたのさ。でもある日、サニア様がルテナ様の妹君であるミルナス様と出会い、ルテナ様を放っておいてミルナス様とばかり仲良くする様になってしまい、気付いた時には2人の間に子供まで作っていたという事を知った。それで嫉妬で狂ったルテナ様が身重のミルナス様を殺し、それを悲しんだサニア様がもう二度とルテナ様には会いたくはないと、後に闇夜の隠れ岩と呼ばれる冥府へとも繋がっているとされる何も無く真っ暗闇だけの洞窟の中に入口を塞いで隠れちゃったんだ。すると世界は瞬く間に常闇に包まれ、あらゆる植物が育たなくなって食べる物が無くなったり、精霊たちでさえ病気になったりと大変なことが次々と起こって、世の中は“死の世界”へと変貌していったのさ。」
「うわ~ぁ……。妹に子供ができたから殺すって……無いわ~ぁ。」
神や精霊には地上に生きる生き物の様に性別というものは存在しないとは『あの神様』に聞いていたが、この話に出てくるルテナという精霊はまるで嫉妬深い女性の様で俺は怖くなってブルッと身震いした。
でも女の子であるリリアは「逃げるなんて! 元はと言えばサニアが悪いのにっ!」と、俺とは違う目線で話を聞いており、息巻いて話に出てくるサニアを憤慨していた。
「それでね、サニア様が闇夜の隠れ岩の中に隠れちゃったから死の世界が訪れたんだって、小さな精霊たちは大慌てで闇夜の隠れ岩の中に向かってサニア様に出て来てって叫んで呼びかけたりしたんだ。でもなかなか出てこなくて困っていた時に、ある精霊がルテナ様を闇夜の隠れ岩の前まで呼んできて、仲直りをする様に説得したのさ。妹君であるミルナス様に嫉妬するあまり殺してしまう程サニア様を愛していたルテナ様は、闇夜の隠れ岩の出入り口を塞いでいた岩をドンドンと叩いて泣き崩れながら叫んでサニア様に許しを請い、また仲良く一緒に暮らしたかったんだとサニア様にお願いしたんだ。小さな精霊たちもルテナ様を応援する様に中にいるサニア様に向かって色々と言ったのだけどまだ開かず、もうダメかと皆が諦めたその時、とても大きな黄色い鳩が突然やって来て闇夜の隠れ岩の前に降り立つとサニアとルテナに向かってこう言ったんだ。」
俺が所々に相槌を打って話を聞きながら夕食を食べている横で、いつの間にか夢中になって話を聞いているリリアは夕食を食べていた手も止まり、残っていたスープはすっかりと冷え切っていた。
「『私はルテナの妹、ミルナスです。色々と行き違いがあって姉に殺されるという悲劇が起こってしまい、今はこのような姿となりましたが決してそのことを恨んではいません。だからサニア、悲しまないで……。私にだって悪かった部分もあると思うのです。サニア、貴方にだって過ちはあったと思います。なので貴方を愛するあまりに行き過ぎた事をしてしまったルテナ姉さんですが、どうか許してやってください。残された小さな精霊たちとルテナと共に手を取り合い、仲良く2人でこの美しい世界をこの先も長く守っていってくださいね。』ってね。その言葉にサニア様はルテナ様の謝罪を受け入れることができる様になり、洞窟を塞いでいた大岩の蓋も横にどかされて中からサニア様が出てきたんだ。その途端、世界は再び光に包まれて多くの植物が実る様になり、闇夜の訪れと共にかかっていた病気もすっかりと全快して世の中は平和になったのさ。」
「へ~ぇ……。」
「ただ………、すぐに完全に許す事はできなかったサニア様は嫉妬深いルテナ様がきちんと反省するまでは以前の様に一緒に居る事はできないからと、1日を昼と夜の2つに分けて1人ずつ交互に世界を護る様にしようと提案し、打ちひしがれたルテナ様もそれを了承したんだ。でも、反省しているか確かめる為に百年に一度だけは2人きりで会う様になったのさ。」
この日の食卓に並んだのは色取り取りの豆の入ったトマトスープの様な物に蒸かした芋、それに俺が持っていたパンとチーズを焼いた物だけだった。
肉を食べる習慣のないこの国では野菜や果物や木の実などの植物しか流通しておらず、肉食獣の猫たちには俺が携帯していた干し肉をお湯で柔らかく戻したものを用意した。
「ごめんよ~。大した物も出せず…。この国では他の国の様に肉を食べないから物足りないかもしれないけど……。」
「いや、充分だよ。このスープに入っている豆は色んな色をしていて見た目もキレイだし、美味しいね~。」
マトスと呼ばれるオレンジ色をした実を潰した汁で作ったスープの味は正に“トマトスープ”で、その中を泳ぐ赤や黄色や若草色や青っぽい色をした、火を通して半透明になった豆らが宝石の如くキラキラしていた。
そしてそれに添えて出されたのがこの国では豆類と共に主食とされる芋で、ねっとりとした食感と味は俺の大好きな“里芋”だった。
「俺、この芋好きだわ。いくらでも食べられるねっ! 似た様な芋を知ってるけど、それはこれぐらい小さくてさ。こんなに大きい芋は初めて見たけど…、ガブって齧りつける感じが楽しくて止められないねっ!」
俺は地球でよく見る里芋のサイズに輪っかを両手で作ってみせ、大きさを説明した。
「へ~ぇ…。そんな小さな芋は見た事ないな~。トルモナはだいたいこの猫さん程には大きくなるものだし……。」
アージェは足元で仲良くふやかした干し肉を食べている猫たちを指差した。
「ねぇ、そんなことよりさっ……。」
俺の横に座っていたリリアがスープを食べている手を途中で止め、食べ物の話がいつまでも続きそうで聞きたい話がなかなか始まらない事にウズウスして、話に割って入ってきた。
「さっき言っていたサニアとルテナって精霊に纏わる悲しいお話ってやつを聞かせてよ。」
「あぁ、そうだったね……。」
アージェは水をゴクリと飲むと、夕飯の時に話すと約束していた話をしはじめた。
「このお話はオフィーリア国に古くから伝わる話でね……。太古のその昔、この世界がまだ昼と夜の2つに分けられることの無かった頃の話…。世界中の命の護り手であるサニア様とルテナ様は互いに愛し合い、いつも仲睦まじく多くの小さな精霊たちと共に楽しく暮らしていたのさ。でもある日、サニア様がルテナ様の妹君であるミルナス様と出会い、ルテナ様を放っておいてミルナス様とばかり仲良くする様になってしまい、気付いた時には2人の間に子供まで作っていたという事を知った。それで嫉妬で狂ったルテナ様が身重のミルナス様を殺し、それを悲しんだサニア様がもう二度とルテナ様には会いたくはないと、後に闇夜の隠れ岩と呼ばれる冥府へとも繋がっているとされる何も無く真っ暗闇だけの洞窟の中に入口を塞いで隠れちゃったんだ。すると世界は瞬く間に常闇に包まれ、あらゆる植物が育たなくなって食べる物が無くなったり、精霊たちでさえ病気になったりと大変なことが次々と起こって、世の中は“死の世界”へと変貌していったのさ。」
「うわ~ぁ……。妹に子供ができたから殺すって……無いわ~ぁ。」
神や精霊には地上に生きる生き物の様に性別というものは存在しないとは『あの神様』に聞いていたが、この話に出てくるルテナという精霊はまるで嫉妬深い女性の様で俺は怖くなってブルッと身震いした。
でも女の子であるリリアは「逃げるなんて! 元はと言えばサニアが悪いのにっ!」と、俺とは違う目線で話を聞いており、息巻いて話に出てくるサニアを憤慨していた。
「それでね、サニア様が闇夜の隠れ岩の中に隠れちゃったから死の世界が訪れたんだって、小さな精霊たちは大慌てで闇夜の隠れ岩の中に向かってサニア様に出て来てって叫んで呼びかけたりしたんだ。でもなかなか出てこなくて困っていた時に、ある精霊がルテナ様を闇夜の隠れ岩の前まで呼んできて、仲直りをする様に説得したのさ。妹君であるミルナス様に嫉妬するあまり殺してしまう程サニア様を愛していたルテナ様は、闇夜の隠れ岩の出入り口を塞いでいた岩をドンドンと叩いて泣き崩れながら叫んでサニア様に許しを請い、また仲良く一緒に暮らしたかったんだとサニア様にお願いしたんだ。小さな精霊たちもルテナ様を応援する様に中にいるサニア様に向かって色々と言ったのだけどまだ開かず、もうダメかと皆が諦めたその時、とても大きな黄色い鳩が突然やって来て闇夜の隠れ岩の前に降り立つとサニアとルテナに向かってこう言ったんだ。」
俺が所々に相槌を打って話を聞きながら夕食を食べている横で、いつの間にか夢中になって話を聞いているリリアは夕食を食べていた手も止まり、残っていたスープはすっかりと冷え切っていた。
「『私はルテナの妹、ミルナスです。色々と行き違いがあって姉に殺されるという悲劇が起こってしまい、今はこのような姿となりましたが決してそのことを恨んではいません。だからサニア、悲しまないで……。私にだって悪かった部分もあると思うのです。サニア、貴方にだって過ちはあったと思います。なので貴方を愛するあまりに行き過ぎた事をしてしまったルテナ姉さんですが、どうか許してやってください。残された小さな精霊たちとルテナと共に手を取り合い、仲良く2人でこの美しい世界をこの先も長く守っていってくださいね。』ってね。その言葉にサニア様はルテナ様の謝罪を受け入れることができる様になり、洞窟を塞いでいた大岩の蓋も横にどかされて中からサニア様が出てきたんだ。その途端、世界は再び光に包まれて多くの植物が実る様になり、闇夜の訪れと共にかかっていた病気もすっかりと全快して世の中は平和になったのさ。」
「へ~ぇ……。」
「ただ………、すぐに完全に許す事はできなかったサニア様は嫉妬深いルテナ様がきちんと反省するまでは以前の様に一緒に居る事はできないからと、1日を昼と夜の2つに分けて1人ずつ交互に世界を護る様にしようと提案し、打ちひしがれたルテナ様もそれを了承したんだ。でも、反省しているか確かめる為に百年に一度だけは2人きりで会う様になったのさ。」
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