忘却都市 ~君との愛に溺れたい~

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

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 2269年、世界は再び戦火に包まれていた……。
 第三次世界大戦の勃発である。
 小さな諍いや内戦はまだあれど、あの惨たらしいまでの大戦以降もう二度と地球規模の戦争なぞ起こることは無いと誰もが思っていた中でそれは起こり、世界中の街や森や海が荒れ果てていった。
 事の発端は2047年から始まった小氷期……所謂ミニ氷河期とも言われるやつだ。
 2000年代初頭には近々来るんじゃないかと学者たちを冷や冷やさせ、多くのメディアで取り沙汰されて話題にもなったあの有名な太陽の黒点の減少による寒冷化という、現代文明を揺るがしかねないのではないかと目されたもの……。
 と、そこから人間の感じる時間からすれば長きに亘って起こると考えられていた小氷期が来るぞ来るぞと話が盛り上がるだけ盛り上がってもなかなか来ることは無く、メディアで取り沙汰されることもとうに少なくなって情報が薄れてゆき、民衆の頭からすっかりと忘れられた頃にその危機はやってきた。
 勿論多くの国の政府はそんな中でも数年前から食糧を備蓄し、長く続くであろう小氷期に備えて色々と準備を整えてきてはいた。

 しかし甘かった………。
 自然の……、地球のもつ力とは筆舌に尽くし難いほどに強大なものだったのだ。
 いくら対策を講じようが、どんなに対抗しようとしようが、小さな人間ごとき生物にはなす術などない―――と、魂の奥底から誰もが実感するしかなかった。
 この地球上に様々な生物が生まれ出でてから幾億年、地球自身にとっては今まで何度も起こったであろうちょっとした風邪程度にしかすぎないであろう小氷期。
 それを人間が地形を変え、水の流れを変え、気候を変異させ、人間の損得勘定によって全ての生物たちの弱肉強食で成り立っていた数と力のパワーバランスを崩れさせ、地上も海も空さえも余す所なく何世代もかけて『自然』を汚染していっていたという事で、それは明らかに何かをおかしくさせていた。
 今までの地球史上においては寒冷化という過酷な環境の変化に適応できない種が死に絶え、進化などによって適応することができた種が生き延びて食物連鎖の流れを変えるだけの、地球という惑星をより良い繁栄へ導く為のただの淘汰にしか過ぎなかったのに……。
 そこに自然の摂理から外れた傲慢なる人間という生物の手が加わったことで本来死に絶えるはずの生物が人間にとっては有用だということで種を遺し、生き延びるはずだった生物が滅びた。
 これが後に人間自身の首をも絞めることになるとも知らずに………。

 世界中の学者たちが予め導き出していた答えは百年だった。
 今回起こるであろう小氷期は地質学などのあらゆる調査や研究によって、今まで記録に残っている過去にあった小氷期のことや今現在の太陽活動から計算しても長期間に亘るものではなく、わずか百年ほどで終わると予測されていた。
 だからどこの国のたてた対抗策もそれを基準としたものであった。
 だが予測は外れて百年をとうに越し、予め予測されていた最低気温よりも気温はぐんぐんと下がって毎年記録を更新していき、人間の住めない地域も広がっていった。
 そしてそれは食糧難を招き、人々を不安の渦の中に次から次へと溺れさせていったのである。

 そんな人間が増えていった結果、先進国や発展途上国という境目もなくあちらこちらで食料を求めて暴動がたびたび起こる様になり、時間をかけずしてそれは紛争から内戦へ、内戦から外戦へと拡大していくこととなり、当たり前の様に飢餓から起こった戦争は世界規模にまで繋がっていった。

「なぁ、兄ちゃん。軍人だろ? 酒くれよ、酒。」

 休日だというのに軍服を着て街を歩く一人の兵士がボロ雑巾の様な服を着てふらついている酔っ払いの中年男に絡まれていた。

「何だ貴様は? 昼間から酒臭いな……。こんな道端で………おいっ! 止めろ!」

 どう見てもアルコール中毒者だと思われる中年男に兵士は抱き着かれ、酒に侵されてプルプルと震える手で酒はないか金はないかと懐に入れられてゴソゴソとまさぐられた。

「貴様っ!」

 まさぐられた中年男の手の感触に背筋がゾワリとして不快感を覚え、反射的に拳を振り上げた。
 加減などなく、本能的に思いっきり殴ってしまったが中年男はヘラヘラと笑うばかりで薄気味悪くなり、なんとか自分から引き剥がすと兵士はここよりはまだ安全だと思われる大通りへと走って逃げた。

「ハァ、ハァ、ハァ……。この辺の治安も、だいぶ……悪くなってきたな……。」

 街灯に片手をつき、荒くなった呼吸の中からポツリと独り言が零れた。
 百年以上続く小氷期、それに伴って勃発した戦争も長く続き、世の中は大きく様変わりしていたせいで命の有り方も変わってしまった。
 高度な文明が栄耀栄華を極め、様々な物においてデジタル化が進んで宇宙開発にも本格的に手を入れ始めていた二十一世紀の豊かだった様相が夢や幻、はたまた誰かが作り上げた嘘だったのではないだろうかと疑って思えるほどに人間の築いてきた街は長きに亘る戦争によって壊れるだけ壊れ、農業も漁業も畜産業も全てが破綻してどこも荒み切っていたのだ。
 百年前、まだどの国も力を残していた頃に起こった第三次世界大戦で小国は潰れて吸収合併していき、今では世界は大きく五つの国として纏まり、国と国とを隔てている何も育たぬ荒野によって勢力が分断されている。
 その中の1つ、かつて日本と呼ばれていた地域にあるとある都市でこの兵士は、軍人となることで上級国民という身分を得て生きていた。

「忘却都市じゃ買い物もできやしねぇな。」

「あっ! エイデン伍長。」

 走って乱れた息を整えようと街灯の横に佇んでいた兵士に、若い男がそう声をかけてきた。

「ダニエルじゃないか。どうしたんだ、こんな所で……。」

 話しかけてきた若い男の名は『蒼井ダニエル』、2歳年下のエイデンの部下であった。

「ハッ! 市井のパトロールであります!」

「1人でか? 1人ではさすがに危ないぞ。俺もさっき……。」

 言いかけてエイデンは口をつぐんだ。
 上司としてのプライド……というよりはこの子犬の様に自分を慕ってくれ、自らも特別な思いを寄せるダニエルに自分の体をまさぐられたなどとは知られたくないと思ったからだ。

「……?」

 言いかけて口に手の平をやって止めた俺を、ダニエルは不思議そうな顔をして覗き込んできた。
 まだ無邪気さの残るその可愛らしい顔でエイデンの目をじっと見つめてくるダニエルの視線に、エイデンは顔をポッと紅潮させ、照れからか思わず目を背けてしまった。

「お、俺も! 俺も手伝ってやろう!」

 紅潮したのを誤魔化す為かエイデンは顔を明後日の方向へとフイッと向け、そのまま叫ぶ様にそう言い放った。

「……? エイデン伍長は今日は休暇ではないのですか?」

 思わずしてしまったエイデンの言動に少し変だなとは首を傾げつつも、ダニエルはエイデンを気遣って尋ねた。

「休暇……ではあるが。なに、気にするな。用事は済んだし。ダニエル、お前の事が心配だからな。」

「ありがとうございますっ!」

 ダニエルは憧れのエイデンと一緒に市井を歩けることに喜び、見えない尻尾を振っているのが見てとれるほどに嬉しそうに目をキラキラとさせて敬礼をした。
 それを見てエイデンは可愛いやつだなと思い、胸を思い切り掴まれた気分だった。
 心配……というのは嘘ではないが、この世界でただ一人の特別な思いを寄せるこの若い男と、仕事関係の人間のいない場所で傍に、共に居たかっただけなのだ。

「……で、なんで1人だったんだ? いつもなら少なくとも2人一組でやる仕事だろう?」

「それが……、今日の僕のパートナーだった相手が腹痛で寝込んでしまいまして……。しかも運悪く代わりの者が見付からなかったもんで………ハハハッ。」

 歩きながら2人は話を続け、エイデンの問いかけにダニエルは困り顔で笑って返した。

「そういう時は遠慮なく俺を頼れ。」

「でも………。」

 申し訳なさげにダニエルは少し俯き、上目遣いでエイデンの顔を見上げた。

「いいな?」

「……はい。」

 エイデンが上司という事を気にして口ごもるダニエルに対して、半ば強制する様に語気を強くして言い伏せた。
 ダニエルも軍に入って長くはないものの、この忘却都市の危険性はよく分かっていた。
 それ故に昔からよく知った仲である自分を殊更エイデンが心配してくれているのも分かっていた。

 『忘却都市』………。

 この地には正式な名はない。
 大昔にはあったかもしれないが……戦争によって日本という国が消滅し、幾つかの国が合併して新たな社会制度の下に建国された新国により、下級国民と見做された人間らが放逐される為だけの場所には名前なんて必要性がないと消された。
 だがこの国を管理している中央の人間、特級国民という資格を与えられた選ばれた者らからは目にも入らず忘れられた土地となって数十年以上経つうちに、この地に住まう下級国民らからは『忘却都市』と口々に言われる様になったのだった。
 人間が長きに亘って研究し手に入れた科学という力によって今も続く小氷期や戦争を生き延びた人間は多い。
 だが多いが故に食料問題のこともあってそれでは全ての人間が常に飢え、近い将来には人間という種が絶滅するだけだと誰もが分かっていた。
 そこでかつて日本と呼ばれていた地域を含むこの国では国民選別を行い、人間を食料にゆとりが出る数にまで減らそうと策が練られた。
 しかも後世の事を考えて一計を案じ、今はまだ内政が落ち着かずに自国の事に手いっぱいである他国が、小氷期が終わって少し外を見る余裕ができた時にこちらに侵略してきた大事をも考え、国民選別にあたって国力を付ける為により優秀な人間のみを生かすという方策をとることにしたのだ。
 その方策とは既に暮らしている全国民と、これから先この国に生まれた人間は一歳に満たぬ間に遺伝子検査を必ず受けなければならないというもの……。
 優秀だと認められた人間は『特級国民』という資格が与えられ、労働の免除と充分な食料や金、自由都市に住居まで与えられる。
 逆に遺伝子になにかしらの欠陥が見つかった者は『下級国民』というレッテルが貼られ、欠陥のある子孫を残さぬ為に去勢や避妊手術を強制的に受けさせられて強制労働の義務が課せられ、日々の食べ物にも困る状態で忘却都市へとまだ幼児のうちから放り込まれる。

 そうして常に空腹と戦いながら幸運にも十五歳まで生き永らえた下級国民は、唯一の望みとして軍に入ることを許されるのだ。
 身体検査をパスして軍人になることができれば『上級国民』となることができ、軍の宿舎にて暮らしながら定期的に開かれる戦争に参加することでそれなりの食料と、少額ながらも給料を貰える身分となることができる。
 すぐさま法律としても制定されたこの規定は暴徒となった人間を戒め、常に優秀な人間のみで支配し動かすことができるので国を早くに安定させた。
 エイデンとダニエルの2人もそんな社会の中で、荒れた忘却都市から幼少期を生き抜いてきた人間であった。

「エイデン伍長。今日は特に異常がありませんね。」

「あぁ。明日は戦争の日だし、何事も無くて助かるな。」

 特に問題もなく宿舎まで帰れたことで安堵し、ニッコリと優しく微笑みかけるダニエルの顔にエイデンは頬が緩んだ。

「なぁ……、ダニエル。」

 エイデンはダニエルから少し外へと目をそらし、自室へと帰ろうとしているダニエルを呼び止めた。

「はい? エイデン伍長。」

「この後少し時間あるか? ちょっと俺の部屋に……。明日はほら、戦争日だ。お前も新兵を卒業して初めての本格的な戦いに参加するんだし、その………色々思う事もあるだろう?」

「まぁ………。」

 ダニエルは笑顔を曇らせて目を伏せた。

「ちょっと酒でも飲みながら話でもしないか? 同じ街で育ち同じ血の流れを持つ同士だし、上司とはいえプライベートな話をするには俺が一番気易いだろう。」

「そう………ですね。」

 普段のダニエルとちょっと違い、テンションや表情がおかしい事に気付いたエイデンはこのまま騒がしい6人部屋に戻すことを躊躇って自らの個室へと招いた。
 2人が部屋の中へと入ると、パタリと静かにドアは閉じられた。

「まぁ、ここにでも座れ。」

 エイデンに促され、ダニエルはベッドのへりへと座った。
 棚から中身が残り少なくなっていた酒瓶を取り出し、窓際に置かれた机に置いてトプトプと2つのコップに酒が注がれた。
 その音と互いの息遣いの音だけが静寂に包まれた部屋中を木霊する。

「緊張……しているのか? それとも怖いのか?」

 静けさを打ち砕く様に、エイデンはダニエルに背を向けたまま口を開いた。

「えっ?」

「明日の事を考えて気が参っているんだろう? 今日のお前は少し変だぞ。」

「ハハッ……。昔から僕の事をよく知るエイデン伍長にはそういう風に見えますか………。」

「樹だ。」

「……っ!!」

 そう言われてダニエルはハッと顔を上げた。

「昔はそう呼んでくれていただろう……。今は2人なんだし、勤務時間外だ。苗字ではなく名前で呼んでくれ。」

「じゃあ僕の事も昔の様にダニーと……。」

「あぁ、ダニー。」

 樹はくるりと振り返り、両手に持っていた透明な酒の入ったコップの1つをダニエルに手渡した。

「まぁ、俺には一緒に酒を飲むことと話を聞いてやることぐらいしかできんが……、グイッといけ。」

「うん……。」

 2人はコップを少し上にあげて乾杯をした。

「……んんっ!?」

「どうだ? 美味いか?」

「これ……、どうしたんだ? 日本酒だろ?」

「ちょっと……な。」

 樹はイヒヒッと悪戯っぽく笑ってダニエルの驚きに答えた。

「まったく……また危ない事をしたのか。―――にしても、これはなかなか美味いな。」

「だろ~? ダニーに飲ませようと思ってな。少しでも気が晴れるかと思って……。残念ながらこれ少しだけで、今日も探したが追加の酒は買えなかったわけだが……。――俺も最初の出兵の時には、前の日から恐怖と緊張でどうにかなっちまいそうになったもんだ。」

「うん………だね。」

「戦争なんて言っても、歴史上にある大昔にあった時のものとは違う。俺らがやるのは戦争というのは名ばかりの命を賭けたゲームだ。腹の肥えた特級国民どもが暇つぶしとばかりに下級国民を弄ぶゲームだ……。」

「………。」

「あいつらは俺らの事を人間だなんて思っちゃいない。盤上に配置された駒の1つにしかすぎないと思ってやがる。戦争で死んでもちょっとオモチャが壊れた程度にしか思わない――。俺らの生殺与奪の権利を与えられている特級国民のやつらは欠陥品と罵って、当然とばかりに俺らの命を軽んじてやがるのさ。」

 酒の入ったコップを両手でキュッと強く握り締め、ダニエルは床に視線を落として身をプルプルと震えさせた。

「でも………。」

 樹は震えるダニエルの方にポンっと手を置いた。

「そんなでも俺たちは軍人として死に抗い、生きなければ! 例え特級国民に弄ばれるだけだと分かっていても……、明日を生きる為に戦争をしなきゃならない。それしか俺たちがこの国で生きる手段はないんだからな。」

「樹……。」

 樹の発する言葉に強い意志を感じ、ダニエルはスッと顔をあげて樹の顔を憧れの眼差しで真っ直ぐに見つめた。
 2人は見つめ合い……、数秒の時が流れた。
 数秒の時は2人の間に何かを介在させ、思いを繋げさせた。

「数週間はかかる戦争期間中に、俺よりも上の軍曹や三等曹長からダニーは……きっと呼び出しがかかるだろう。」

 樹は右手でそっとダニエルの右頬を優しく包みこんだ。

「まだ少し顔にも体にも幼さの残る若いお前は、上官たちの好まれるところにあるはずだ。」

「それって………。」

「ダニーも話ぐらいは聞いたことあるだろう……。所謂、戦場での嗜みというやつだ。俺も経験はあるが、誰しもが初陣の時なんかに必ず通る道だ。俺はお前を―――。」

 言おうとしたところを、ダニエルにスッと指を唇にもっていかれて言葉が止まった。

「うん……。僕はそれもあって明日が怖いんだ。上官には逆らえないし………。僕は樹とならって思ってる。避ける事が出来ないのならばせめて初めてはって……。」

「ダニー! 俺は嬉しい!! ならば誰かに穢されてしまう前に……、ダニーの純なる思いが奪われてしまわぬ内に……、俺がダニーに熱い愛を教えよう。」

その言葉を合図とばかりに、ダニエルはその先を期待して目を閉じた。
 ただ、互いの心臓が脈打つドクッドクッという音だけが耳の奥まで響く。
 樹はダニエルの横に静かに腰を下ろし、差し出された桜色の唇に自らの唇を重ねた。

「ぅ、んうん―――。」

 互いの手を背中に回し、存在を確かめ合う様にきつく抱きしめ合った。
 チュッチュッという唇を何度も重ね合うだけでは物足りず、樹は自らの舌を柔らかく閉じられてはいるがまだ戸惑いの残るダニエルの口の中へと侵入させた。

「んっ、んぁあ! あっ……ぅんん――。」

「ダニー……。愛しいダニー。」

 樹の舌は引っ込み思案なダニエルの舌をツンツンと刺激し、横から重ね合わせ、手を取り合う様に絡ませた。

「もっと……もっと俺に身を委ねてごらん。」

「んっ……んんっ………樹……。」

 勢いよく自らの欲望のままに攻めていた樹が、ダニエルが息をするのを忘れてやしないかとはたと気付いて一旦唇を離すとホウっと艶っぽく息を漏らし、ダニエルは初めて味わう心地良さに表情筋が自然と緩んで目が少し開かれ、ポーっと目を潤ませて顔を蕩けさせていた。

「あぁ、可愛いダニー……愛しいダニー。」

紅潮した頬はまるで幼い子供の様であり、だらしなく半開きになった口はもっともっとと目の前に居る樹を求めている様で、何も包み隠すことなく自身の頼りなさや弱さをさらけ出してダニエルは樹に甘え、その振る舞いに樹はこいつを守ってやりたいという保護欲がかき立てられていた。

「樹……。僕………。」

「俺たちは大事なモノを特級国民らに奪われ、子供を持つことはできない。」

「うん……。」

「そして同じ身分の女らは特級国民どもの奴隷となっていて、子供を作れない俺たちは抱くことはおろか話す事すらできない。」

「うん……。」

「だが真の愛に女なんて必要ないって思うんだ……。ダニー。こんな暗い世界だが、俺たちで真の愛を語りあかそう……。」

「樹……。」

 樹はそう囁くと、互いの思いを確認し合う様にダニエルをベッドへと押し倒した。

「ダニー……。愛しているよ。」

「うん……。僕も―――愛してる。」

 再び重ね合わせた唇は首へと流れ、キスをしながら互いの服を脱がせ合いっこしていった。
 右へ左へ、下へ下へと唇は流れ、愛おし気にキスを何度も体中へと浴びせた。

「ダニーが俺の愛を忘れない様に……。これを見た誰もがダニーが俺に愛されていたのだと分かる様に……。」

 そう言ってダニエルの体中へと痕を残し、マーキングを樹は繰り返していく。
 そこには明日か明後日……、戦争期間中におよそダニエルを抱くであろう上官に対しての嫉妬心があってのことだったのだろう。
 もしかしたらこのキスマークを見て、ダニエルを相手とするのを上官が止めるかもしれないと………。

「あぁ、樹……。僕の体が君の愛で溢れていくよ。」

「ダニー。俺も君への愛で体が燃え上がりそうなほど熱くなっていく――。」

「今だけは……現実を忘れて、この喜びで包まれた幸せだけを感じていたい―――。」

「いいんだよ……ダニー。忘れよう、今だけでも……。」

 樹に導かれて初めて感じた快楽に、ダニエルは自ら進んでズブズブと溺れていく。

「樹……。あぁ、もっと……、もっと君の愛を感じさせて……。」

「あぁ……。」

 ダニエルの胸の突起に舌を這わせていた樹は下へとスルスル滑らせていき、ヘソを柔らかな舌使いでスーゥっとなぞって刺激した。

「フ……フハァ……。」

 くすぐったい様な気持ち良い様な、じれったい何とも言えない絶妙なその触れ方にダニエルは思わずビクリと体を動かした。

「ふふっ……。」

「そこは………。」

「何でもないと思ってる様なこんな場所が……、意外に、感じるだろう。」

 樹の指が、唇が、舌が、ダニエルの体へ快楽を与え、快感を誘い出す。
 ダニエルの体はその刺激に素直に反応した。

「あぁ、可愛いダニー……。じれったそうにビクビクと下半身を反応させて涎を垂らし……。今にも弾けそうなほどに期待を膨らませているね。」

「もう……、もう……。」

「俺の手でその苦しさから解放させてあげよう……。」

 はち切れんばかりにピンと勃ち、初めて知った快楽という欲望を吸って吸って大きく膨張したダニエルのそれは、樹の大きな手で包み込まれるのを待っていた。
 包み込んだ温かく大きな樹の手は、ダニエルの下半身をシュルシュルと上へ下へと激しく動かした。

「あっ……、あっ……、あっ、あぁっ、あっ、あっ、あぁっ、あぁっ………。」

「さぁ、俺の手の中で安心して果てるがいい……! 何度でも俺は答えてみせる! 何度でも俺の愛で満たして幸せにしてやる。」

「あぁー!!」

 ダニエルの下半身からは内に渦巻いていた濁りと共に白い雨となってビューっと吐き出された。

「樹、僕………。」

 ダニエルはハァハァと息を荒げさせ、恥ずかし気にモジモジとさせながらグッタリとして心地良く疲れた体を樹にしな垂れ掛からせた。
 ダニエルの赤く染まった背中をそっと抱き寄せ、樹は額に軽くキスをした。

「不安も多いだろうが俺もいる。育った故郷も、血の流れも同じ同士だ。俺もお前もこの街がある日本を祖先にもつ仲間だ。その俺が直属の上司だし安心しろ! 最期の時までお前の傍に居てやる! 2人で明日を生き抜こう!」

「樹……! 僕、僕……。ずっと死ぬまで樹の傍に居たい! 明日も、明後日も……。こうしてもっと愛を語り合いたいよ!」

「ダニー……!」

 2人は互いを求め合う様にギュッと強く抱きしめ合った。
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