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ほらな
しゃあねえな
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「ですが、兄様が一緒に来てくれるとは――その!! 思ってませんでした……」
「ん~?」
学校の制服なるものに着替えながら、俺は振り返った。
リンは正座し、俺に背中を向けている。
デリカシーに欠けたのは間違いないが、ワンルームなのだから仕方ない。どうしても見られたくなきゃ、風呂場ででも着替えるしかない。
まあー、後でカーテンでも買って帰ろ。俺はともかくリンがあれだし。
「まあ雪女かゴリ姉が来るってんなら行かなかったけどな」
「……そう、ですか」
リンの気落ちした声が聞こえる。
リンは背中を向けていたので表情まではわからなかったが、どうせ寂しそうな顔で俯いているんだろうなと思った。
「あ――でもまあ、それ以外だったら俺も来るつもりだったよ」
「そうなのですか?」
「当たり前だろ。仮にも義兄だし、一応その――心配してんだぜ?」
変装用の眼鏡をかけながら、俺は言った。
ちなみに髪も黒色に染めている。
少しは凡夫のように見えるだろうということらしいが、眼鏡と黒髪への偏見がひどすぎる話だ。
「そ、そうですか……」
やはりシュンとした声で、リンが言う。
こいつじゃあどうやったら納得するんだよ。
軽くイライラした俺は、着替え終わった後、リンに近づいて行って、リンの耳に両掌を当てた。
「ヒャッ!!」
リンがビクッとして、うずくまる。両手は耳に当てていた。
それを見て、俺はカラカラと笑った。
「いきなりそんなことをされたら、ビックリしてしまいます」
リンが言った。
「ビックリすると思ってやったんだよ」
「ふふっ。何だか兄様、子供みたいです」
くすぐったそうに笑って、リンが言う。
俺はちょっとドキリとした。
「そんなことより、お前さっきから何落ち込んだ感じになってんだよ」
明後日の方向を見ながら、俺は尋ねた。
「え? そうでしょうか?」
リンがさもそんなことないとばかりの口調で言った。
こういうのを見ると、こいつも女だなと思う。
中々に、化ける。
俺は、そんなリンのそばに腰を下ろして、リンのモチモチしたほっぺをつまみ、引っ張りまわした。
「そんなのいらないからさー、さっさと理由を教えてくださいませんかねー、リンちゃんさーん」
「いひゃいいひゃい、いひゃいです、あひしゃま!」
俺の手を何度も叩いてくるので、俺はその訴えに応じた。
「で? 何で落ち込んでんだよ。言え」
「その……」
「なんだよ、俺に来てほしくなかったってことか?」
「ち、違います!! 絶対に違います!!」
「じゃあなんなんだよ」
「あの……」
「おう」
「その……」
「お前マジでいい加減にしろよ。そろそろ本気で怒るぞ、俺も。俺は待つのが嫌いなんだよ」
「いや違うんです!! あの!! せっかく兄様に来ていただいたのに、兄様と、同じクラスになれなかったのがその――少し……残念だな、と」
「あー」
|北頭の魔術学園のクラスは全部で十六。これは学年ではなく、能力と属性で分けられる。属性というのは魔力の質みたいなもんで、別に火属性だから火が得意水が苦手、なんてことはない。便宜的に火水風土とつけているだけである。ちなみに属性は、治癒を主とする白魔術の時に用いる。
俺とリンは、最初、火のBクラスに在籍するつもりだった。AではなくBを選んだのは、いざ無理が出てもAに繰り上がるだけで済むかもしれないと考えたからだ。まあ、ちょっとした保険ってやつ。
しかし、今回のクラス分けで、俺はB。リンはAとなった。理由はちょっと考えればわかるだろう。
「それはな~、お前が~」
俺は今一度、リンのほっぺを、むんずとつまんだ。
「特待Sなんて、一人でとってるからだろがあああああああああああ!!」
「ふええええええ!! だから言いたくなかったんですうううううう!!」
リンのほっぺを引っ張りまわすと、リンは泣きながら悲鳴を上げた。
「ったく」
「うぅ……ひどいです、兄様」
「ひどかねえ。それに残念でもねえ」
「あたしは……」
「ちょっとの時間だろー? 学校なんてほっときゃ終わってる。またすぐに会うさ」
「……はい」
シュンとした顔でリンが言った。
ったくこいつは。本当すぐすねる。
俺は、銀具――魔術補助器具――である指輪を左右に合わせて五つ、バラバラにはめていく。五つ目。最後の一つをはめようとして――
「リン」
「はい」
ピンと指で弾いて、その指輪をリンに放る。
リンがそれを慌てて受け止める。
「やる。つけとけ」
「えええええええええ!?」
リンが両手で口元を隠し、顔を赤くする。
「いや違うって。クラスが別れたからだよ。勝手に消えられると、困るからな」
腕を組み、目を背けた。
魔力探索と言って、自分の魔力はある程度までなら追うことができる。俺はそれに自分の魔力を込めて、リンに渡した。
例えるなら鉱山に行く前にヘルメットを渡したのとまあ同じだ。
それで『え、プロポーズ!?』みたいな反応をするのが、このリンという女なのである。
まあ北頭には、大事な相手に指輪を送る、という風習があるのも事実なのだが――
「はい!!」
リンの言葉が聞こえて、目を向けた。
リンは大層嬉しそうに笑っている。
伝わっているのかいないのか。
思わないでもない。
でもまあ、リンが喜んでいるのなら、それでいいか、とも思う。
大事だ、という気持ちに嘘偽りはないのだから。
『兄様と同じクラスになれなかったのが、少し、残念だな、と』
ふと、リンの言葉を思い出した。
頭の中で一秒ほど、ヴァルハラ魔術師学園校則書を、パラパラとめくった。
ヴァルハラ魔術師学園校則書。昇級について。
一。クラスごとに年四回ある試験を突破すること。
二。クラスで一番優秀なもの、クラスリーダーを、三人以上の魔導師立ち合いのもと、打ち倒すこと。
ただし双方の同意がなければ成立しない。三人以上の魔導師からの推薦があった場合、クラスリーダーはこの申し出を受けなければならない。
三。在籍しているクラスの魔導師、移籍先の魔導師、導長、学園長の四人の推薦と了承を得ること。
一、二、三、いずれかをクリアした時のみ、当該魔術師の実力がそれに相応しいものと認め、昇級させるものとする。
笑った。
「それじゃあとっとと行くぞ、リン」
「はい!!」
リンの声が、後ろから響く。
ガチャリ。
扉を開く。
光が視界を塗りつぶすように溢れてくる。
どうやら今日は、快晴らしい。
「ん~?」
学校の制服なるものに着替えながら、俺は振り返った。
リンは正座し、俺に背中を向けている。
デリカシーに欠けたのは間違いないが、ワンルームなのだから仕方ない。どうしても見られたくなきゃ、風呂場ででも着替えるしかない。
まあー、後でカーテンでも買って帰ろ。俺はともかくリンがあれだし。
「まあ雪女かゴリ姉が来るってんなら行かなかったけどな」
「……そう、ですか」
リンの気落ちした声が聞こえる。
リンは背中を向けていたので表情まではわからなかったが、どうせ寂しそうな顔で俯いているんだろうなと思った。
「あ――でもまあ、それ以外だったら俺も来るつもりだったよ」
「そうなのですか?」
「当たり前だろ。仮にも義兄だし、一応その――心配してんだぜ?」
変装用の眼鏡をかけながら、俺は言った。
ちなみに髪も黒色に染めている。
少しは凡夫のように見えるだろうということらしいが、眼鏡と黒髪への偏見がひどすぎる話だ。
「そ、そうですか……」
やはりシュンとした声で、リンが言う。
こいつじゃあどうやったら納得するんだよ。
軽くイライラした俺は、着替え終わった後、リンに近づいて行って、リンの耳に両掌を当てた。
「ヒャッ!!」
リンがビクッとして、うずくまる。両手は耳に当てていた。
それを見て、俺はカラカラと笑った。
「いきなりそんなことをされたら、ビックリしてしまいます」
リンが言った。
「ビックリすると思ってやったんだよ」
「ふふっ。何だか兄様、子供みたいです」
くすぐったそうに笑って、リンが言う。
俺はちょっとドキリとした。
「そんなことより、お前さっきから何落ち込んだ感じになってんだよ」
明後日の方向を見ながら、俺は尋ねた。
「え? そうでしょうか?」
リンがさもそんなことないとばかりの口調で言った。
こういうのを見ると、こいつも女だなと思う。
中々に、化ける。
俺は、そんなリンのそばに腰を下ろして、リンのモチモチしたほっぺをつまみ、引っ張りまわした。
「そんなのいらないからさー、さっさと理由を教えてくださいませんかねー、リンちゃんさーん」
「いひゃいいひゃい、いひゃいです、あひしゃま!」
俺の手を何度も叩いてくるので、俺はその訴えに応じた。
「で? 何で落ち込んでんだよ。言え」
「その……」
「なんだよ、俺に来てほしくなかったってことか?」
「ち、違います!! 絶対に違います!!」
「じゃあなんなんだよ」
「あの……」
「おう」
「その……」
「お前マジでいい加減にしろよ。そろそろ本気で怒るぞ、俺も。俺は待つのが嫌いなんだよ」
「いや違うんです!! あの!! せっかく兄様に来ていただいたのに、兄様と、同じクラスになれなかったのがその――少し……残念だな、と」
「あー」
|北頭の魔術学園のクラスは全部で十六。これは学年ではなく、能力と属性で分けられる。属性というのは魔力の質みたいなもんで、別に火属性だから火が得意水が苦手、なんてことはない。便宜的に火水風土とつけているだけである。ちなみに属性は、治癒を主とする白魔術の時に用いる。
俺とリンは、最初、火のBクラスに在籍するつもりだった。AではなくBを選んだのは、いざ無理が出てもAに繰り上がるだけで済むかもしれないと考えたからだ。まあ、ちょっとした保険ってやつ。
しかし、今回のクラス分けで、俺はB。リンはAとなった。理由はちょっと考えればわかるだろう。
「それはな~、お前が~」
俺は今一度、リンのほっぺを、むんずとつまんだ。
「特待Sなんて、一人でとってるからだろがあああああああああああ!!」
「ふええええええ!! だから言いたくなかったんですうううううう!!」
リンのほっぺを引っ張りまわすと、リンは泣きながら悲鳴を上げた。
「ったく」
「うぅ……ひどいです、兄様」
「ひどかねえ。それに残念でもねえ」
「あたしは……」
「ちょっとの時間だろー? 学校なんてほっときゃ終わってる。またすぐに会うさ」
「……はい」
シュンとした顔でリンが言った。
ったくこいつは。本当すぐすねる。
俺は、銀具――魔術補助器具――である指輪を左右に合わせて五つ、バラバラにはめていく。五つ目。最後の一つをはめようとして――
「リン」
「はい」
ピンと指で弾いて、その指輪をリンに放る。
リンがそれを慌てて受け止める。
「やる。つけとけ」
「えええええええええ!?」
リンが両手で口元を隠し、顔を赤くする。
「いや違うって。クラスが別れたからだよ。勝手に消えられると、困るからな」
腕を組み、目を背けた。
魔力探索と言って、自分の魔力はある程度までなら追うことができる。俺はそれに自分の魔力を込めて、リンに渡した。
例えるなら鉱山に行く前にヘルメットを渡したのとまあ同じだ。
それで『え、プロポーズ!?』みたいな反応をするのが、このリンという女なのである。
まあ北頭には、大事な相手に指輪を送る、という風習があるのも事実なのだが――
「はい!!」
リンの言葉が聞こえて、目を向けた。
リンは大層嬉しそうに笑っている。
伝わっているのかいないのか。
思わないでもない。
でもまあ、リンが喜んでいるのなら、それでいいか、とも思う。
大事だ、という気持ちに嘘偽りはないのだから。
『兄様と同じクラスになれなかったのが、少し、残念だな、と』
ふと、リンの言葉を思い出した。
頭の中で一秒ほど、ヴァルハラ魔術師学園校則書を、パラパラとめくった。
ヴァルハラ魔術師学園校則書。昇級について。
一。クラスごとに年四回ある試験を突破すること。
二。クラスで一番優秀なもの、クラスリーダーを、三人以上の魔導師立ち合いのもと、打ち倒すこと。
ただし双方の同意がなければ成立しない。三人以上の魔導師からの推薦があった場合、クラスリーダーはこの申し出を受けなければならない。
三。在籍しているクラスの魔導師、移籍先の魔導師、導長、学園長の四人の推薦と了承を得ること。
一、二、三、いずれかをクリアした時のみ、当該魔術師の実力がそれに相応しいものと認め、昇級させるものとする。
笑った。
「それじゃあとっとと行くぞ、リン」
「はい!!」
リンの声が、後ろから響く。
ガチャリ。
扉を開く。
光が視界を塗りつぶすように溢れてくる。
どうやら今日は、快晴らしい。
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