囚われた娘を助け出してから惚れられている。しかし相手は十一歳だ。

松岡夜空

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ほらな

ほらな

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「ども~っ!!」


「キャッ!!」


 火のAクラスの入り口前で腰掛けていた俺は、やってきた女魔導師に向けて手を上げた。


 見鬼けんきで見据える俺に対し、女もまた見鬼けんきを使う。


 発動まで六秒。整纏せいてん見鬼けんきの併用は、完璧にこなそうと思うと地味に難しい。
 腕は立つ。だが、この見鬼けんきの発動の遅さから見て、多分素人だな……。


 俺は見鬼けんきを解いて立ち上がり、女魔導師と向き合った。


「お、オホン!! 話は学園長から伺っています。あたしが、この火のAクラスの担任、ナターシャ、ディーンです」


「どうも。リティシア=ヒョウだ」


「あ、あの~」


「ん?」


 扉を開けようとする俺に声をかけてくるので、振り返った。


「なんだよ」


「暴れないでくださいね?」


「おいおい。お前の目は節穴かよ」


「え?」


 スペアの眼鏡をクイと持ち上げながら、俺は笑った。


「暴れるつもりなら、こんな形はしてないだろ?」


 ガララララ。


 教室に入る。


 俺とナターシャの二人で、教壇に立った。


 それを、様々な視線で見据える、A級生徒。リンもいる。リンは口元を袖で隠しながら、俺のことを見ていた。


 多分に驚いているのが見て取れる。


「えーっと、オホン。それでは皆さん、知っているとも思いますが、ご紹介させていただきます。本日急遽Bクラスから転入することになった――」


「リティシア=ヒョウだ。よろしく」


 ナターシャよりも先に俺が言った。


「え? ちょっとカッコよくない? 眼鏡外したところ見たいんだけどー」


「ネイファちゃんのお兄ちゃん、あの狂犬マルコを一瞬で倒したんでしょ? すごーっ」


「今のクラスリーダーであるルイセさんと、どっちがすごいんだろー?」


「オホン!!」


 四方山話を断ち切るように、ナターシャが一つ咳払い。


「じゃあ君の席は――元々ネイファちゃんの席だった、あそこで」


『空席は全部で三つ』あったが、そのうちの一つを指して、ナターシャが言った。


 足を回す。


 男からは敵意を。女からは好意を向けられる。


 リンの一つ隣の椅子を引いて、腰をつけた。


 ナターシャが背中を向けて、黒板と向き合う。俺はアゴ肘つきながらそれを見つめて――ふと、リンに目をやった。


 リンは今も、口元を押さえて、俺のことを見ていた。


 俺は――誰かに目を向けるってのが、嫌いだ。目を向けて、相手がこっちを見ていなかったら、無性に腹が立つからだ。


 それでも俺は、リンのことはちょくちょく見てしまう。何つってもこのバカは、いつだって俺のことを見ているからだ。


 そんなリンだが、たまに俺のことを見ていない時もある。


 そんな時は俺も少しは反省するのだ。こいつが俺を見ていない時ってのは、大体俺がやりすぎている時だからな。


 それにやっぱこいつが俺のことを見ていないと――いやまあ、これはいいか。


 俺は一度視線をそらして、今一度リンを見た。リンは今も俺を見ていた。両手で口元を隠しながらだ。


 ったく、こいつはよー。


 手の先でどんな顔をしているのか、俺にはわからないけどよ。


 いつまで同じ格好してやがんだよ。


 いい加減、笑っちまうぜ。


 俺はかけていた眼鏡を外した。外す時、眼鏡の耳かけが髪をこする。


 アゴ肘ついて、リンに笑いかける。


 そして、口を開いた。


 声には出さず、東尾とうびの言葉で。






『ほらな? すぐに会えただろ?』






 リンが口元を隠したまま、肩を大きく持ち上げる。


 両手を下ろした。


 リンは初め、とても困ったような顔で、笑った。

 
 しかしその後、何かに押されるように、表情を変えていって――


 



「はい!!」






 いつもの、くすぐったそうな顔で、笑った。


『だからお前声に出すなっつうに』


 口話で俺はそう注意した。


「はわ!!」


 リンが口元を袖で隠して声を上げる。


 そんなリンを見て、俺はまた笑った。

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