囚われた娘を助け出してから惚れられている。しかし相手は十一歳だ。

松岡夜空

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ほらな

穴熊

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『決死組? 本当に決死組だというのかね?』


 伝書に内容が書き込まれる。


 内閣守衛隊の一人、アイリス=クーパは、無表情を崩さぬまま、ペンを走らせた。


『間違いありません。言葉で見鬼けんきを誘ってから眩術を撃ちこみ、相手の錯乱に乗じて術を思念介入にて一瞬で乗っ取るあの手際。あれでもしも決死組でないのなら、東尾とうびは我々が思っている以上に魔界です』


『しかし……』


『ついでに言わせてもらうと、アーサー=クロイツ三佐が、敵の手に落ちました』


『何だって!?』


『正確には、三佐のホルダーから、こっちに連絡が来ました。内容は以下です。そっちで俺をAに上げる手続きしといてくれる? でないとこの学園でハゲてるやつから順に殺しちゃうので。特に往生際悪いすだれハゲから順に殺します。北翼ほくよくの盗賊王。ヒョウ様より。以上です』


『……文面を見る限り、彼は決死組じゃないように思えるが?』


『しかし東尾とうびの留学生としてきています。どっちにしても、彼をAに上げるように、学園長にはこちらから言っておきました。これ以上面倒起こされても困るので』


『盗賊王なのか。決死組なのか。どっちの偽装と見るかは水掛け論になるわけか。わかった。そしてこの、二人組だったか? リティシア=ヒョウ。リティシア=リン。この二人のことも、DD、おっと、今はESだったかな、外務省《そちら》に依頼して、徹底的に調べさせるとしよう。
 だがしかし、この二人が決死組というのは、私にはどうにも信じられん。
 理由は二つある。一つ。決死組は音もなく匂いもない。その決死組がここまで大胆なことをしてくるとは考えられない。
 もう一つは、決死組と我々の関係だ。東尾とうびは過酷な土地だ。うちの援助なしではまず成り立たない。ラグーン栽培にもやはり限界はある。
 他国からの要請で、我々に牙剥くとは考え難い。そんなバカな男ではないよ。あの男、カルロ=惣一郎は』


『……』


『いや、伝書で三点リーダーを使われても困るが……』


『どう言っていいかわからなくなったので』


『処置に関してはよくやったと言っておく。だから、一度その盗賊王くんに接触して話をしてみてくれないか? そのバカバカしい要求は、多分我々へのアプローチであろうと私は考えている』


 ズズズとジュースを口に含む。


『わかりました』


 パタンと伝書を閉じる。んっと伸びをした。


「ジジィどもなんて言ってた?」


 自分と同じ内閣守衛隊の一人で、白魔術室の魔導師として入り込んでいる、ホイットニー=ウィキマン曹長が言った。


「目的を聞いてこいって言ってました」


「ふーん。どっちがいく? 何だったらあたしがいこっか? ガキはどうでもいいんだけど、男の方には興味あるんだよね。イケメンだし」


「いえ、あたしがいきますよ」


「ふーん。やっぱ相手がイケメンだから?」


「そうですね。顔は重要ですよね。世の中それ以外で測る要素がないってぐらいに。男も女も生き物問わず」


 冷笑を向ける。


 同意してやったというのに、ホイットニーは苦笑いを零している。


 一体この女はどうすれば納得したのか。


 なんて、本当は興味の欠片もないけれど。


 そう、思うフリをした。


 バタン。


 扉を閉める。


 子供の頃からの癖で足音を消しながら歩いていると、自分のホルダーに連絡がきた。アーサーからだった。


『お前か? ホイットニーか? ヒョウを上に上がれるように画策したのは。何故勝手なことをした。これじゃあいつの思うつぼだ』


 アイリスは、返事を書くことなくページをめくる。こういう輩は、無視するのが一番きくことをアイリスは知っていた。


 アイリスは階級こそ一曹だが、実力はホイットニーはもちろん、アーサーよりも上だった。それでも一曹なのは、この国が全てにおいて年功序列を当てはめているからである。ちなみに魔術省直轄、内閣守衛隊のトップは魔術師ですらない。ただの二世だった。呆れ果てて乾いた笑いさえ零れない。

 
 あの二人に対しても、この組織に対しても、この国に対しても、尊敬する要素は欠片もない。気づくと破滅願望みたいなものが心に憑りついていて、それがしばしば行動に出た。


 罰せられるものなら罰してみろよと、思う。


 ホルダーをパラパラとめくって、ビッシリ文字が詰まったページにたどり着いた。


 そこには二枚の写真。青年と少女の写真が添付されていた。


 リティシア=リン。

 
 今年度の特待S。子供にしては相当腕が立つ。何より魔力容量が十一位と破格である。


『兄様あああああああああああああ!!』


 ヒョウが拳を向けられた時、リンは立ち上がってまでして叫んでいた。あの二人の実力差から見ても、あんなもの何でもないことぐらいわかっただろうに。


 つまり、それだけあの義兄が大切である、ということだ。


 リティシア=ヒョウ。


『さっきも言ったろ? 初手|見鬼は魔術師の基本であり挨拶だ。腹が立つなら、お前も俺の心を覗いてくれても構わんぞ。まあ、無理だろうがな』


 言葉で見鬼を誘い、カウンター魔術である眩術げんじゅつで相手の感情を増幅し、錯乱させ、不安定な状態で発動したマルコの術を、思念介入にて即座に奪い取った。


 恐ろしく鮮やかな手並み。ヒョウは魔術戦の何たるかを熟知している。それでいて非情だった。目的のために手段を選んでいない。


 だが。


 ヒョウはあの時、空筆を用いた。空間に、消化とだけ描いて、リンに意思を伝えた。あの時あいつは、リンを見ていなかった。

 
 合図さえ送ることもなく、ただマルコだけを見据えて、笑っていた。


 わかっていたのだ。リンならば、自分を見ているであろうと。そう確信していた。


 非情ではある。しかし、ヒョウはリンに対して、絶大な信頼を持っている。


 この二人にあるのは、絆だった。


「ふっ」


 口にこそ出していない。


 しかし、あまりにも臭い台詞だ。
 だからアイリスは、独り言ちに、つぶやいた。 


「笑える」


 カコン。


 一方その頃、|東尾では――


 十狼刀決死組三番隊組長、カルロ=惣一郎が、春起こしの音を聞きながら、あぐらをかいていた。


 手は口元、正面には駒の並んだ将棋盤が置かれている。相手の手は穴熊であった。しかし対戦相手はいない。
 

 カコン。


 また春起こしの音が響いた。


 そんな中、カルロもまた、つぶやいた。


「まず――二カ月」


 
 < ほらな 完 >
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