八百年生きた俺が十代の女に恋をするのはやはり罪ですか?

松岡夜空

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ティアラナさんの唇を奪え

深まる疑惑

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 扉の前にいたのは、声の通り、自警団副長、ナギと、コルピンだった。ナギは今にも人を刺し殺しそうな顔をしていて、コルピンは俺とナギを指さしながら、口をパクパク動かしている。
 

 しかし、読唇術を極めている俺でも何を言っているか全くわからない。せめて言葉にしてから口を動かしていただきたい。
 

 ナギが靴下ごと靴を脱いで、俺の元にまでやってくる。あの道は今日も水没していて、ナギとコルピンの足は水浸しだった。
 

 見下ろされ、見上げた。
 大丈夫か? こい――


「うお!!」 
 

 いきなり胸ぐらをつかまれ、立ち上がらされた。


「ちょちょちょ、ナギくん!?」
「いいえ、黙っていてください、ティアラナさん。この野郎、人が出張から帰ってみれば、よくもよくも。聞けばティアラナさんと同棲だと!? 許せねえっ。ティアラナさんの優しさにつけ込みやがって――っ」
 

 聞く耳持たず、問答無用で、ナギが拳を振り上げてくる。
 相変わらずムチャクチャしてくるやつだ。
 

 この質量と速さで殴られたら、素人なら普通に歯が吹っ飛ぶぞ。

 
 ――まあ、俺は素人ではないわけだが。
 

 掌を広げた。空気の振動が、俺たち二人を呑み込むようにして、巻き起こった。
 

 魔術師が操れるエレメントは、火、水、雷、風、土、闇の六元素とされているが、そのうち風と土は、魔力に反発する性質を持っている。じゃあどうやって操るのかというと、反発することを計算した上で、操る。


 掌の上に、魔力の囲いを作る。中で風が暴れ回る。掌の上に小さな台風を作る術。これが虹玉暦末期最強、近代魔術の祖と呼ばれた俺のオリジナル。風玉だ。


 俺の本気の風玉は、鋼の鎧の上から内臓まで吹っ飛ばす。

 因果応報。自業自得。

 一応手加減はしていくが、骨の二三本は覚悟しとけよ――!!


 振り返る。背中で何かが動く気配がしたからだ。それは俺達を飛び越え、ナギの背後に。そして。


「どうわおおおおお!!」
 

 ナギの悲鳴。
 風玉を喰らったからではもちろんない。


 ナギが飛びのき、背後に回ったペレを見つめる。
 自分の股間を押さえながら。


「どこ触ってやがる、ペレ!!」
 

 ナギの詰問。
 ペレは、ポーっと赤い顔を見せて、楚々とした動きで口元を隠した。


「どこ触ってるんだ!! なんてー。そんなことをあたしの口から言わせたいの? ナギきゅんってば、ホント狼さんなんだからー」
「何言ってんだ、お前」
「ニャハハー」
 

 陽気に笑いながら、ペレがテーブルの上のビールを口に含んだ。俺はちょっと感心した。いや、背後からナギの股間を触るという、ペレの変態力に感心したわけではない。あの飲んだくれた状態から一転、俺達二人を飛び越え、ナギの背後に回るその跳躍力。そこに感心したのだ。
 

 腐ってもフェルナンテか。まあそれであるが故に、相応のものは経験していそうだけどな。先の反応からみるに。
 

 フェルナンテは、その能力、容姿から、ひどい目に合うことが多い。また子を生しても、同じフェルナンテが産まれるわけではない、という現象が、迫害に拍車をかけていた。


「いやーでも今のはペレさんに感謝すべきですよ、ナギさん」
 

 同じく靴に靴下まで脱いでやってきたコルピンが言った。足は女のように小さい。


「そうよん、ナギきゅん。あたしに感謝しないとダメよん」
「こんなところで無実のビュウさん殴っていたら、あーもう考えただけでも恐ろしいです」
「ラーナはこれで結構毒舌だからニャー」
「ですです」
 

 言いたい放題言い合う二人。
 いや、俺の心配しろや、と思う俺と『そんなことない』とばかりに、頬を膨らますティアラナ。
 二人揃って怒っていた。


「な、何だって!?」
 

 二人の発言を真に受けて、ティアラナに目を向けるナギ。
 頬を膨らましていたティアラナは、ナギに目を向けられ、一転、半笑いで目を逸らした。

 こいつはこういうところが結構あった。
 よく言えばお茶目であり、悪く言えば意地悪。

 ナギはこれもまた真に受けて、ペレに顔を向け直した。


「そ、それは困る……っ」
「そうでしょうん。だからここは、平和的解決を――」
「そうそう、この場はゴメンなさいして、早く帰りましょう――」
「よし、ビュウ。表で決着をつけよう。な? 大丈夫大丈夫。一年ばかり入院してもらうだけだから――」
「ダメですってば!!」
「だーかーらー!!」
 

 二人同時に叱責されるナギ。


「むぅ……」
 

 俺の首根っこをつかみ、外にまでひきずっていこうとしていたナギが、手を離した。


 バッ。


 この世の終わりだと言わぬばかりに、両手と両膝を地面につけるナギ。


 叶うのなら、頭上からスポットライトをかけてやりたい。それぐらい、悲壮感に満ち満ちている。
 漫画だったら、俺たちの後頭部には大粒の汗が描かれていたことだろう。


「じゃあ俺はどうすればいいんだ。このまま看過などできない。何故なら、俺は、俺はああ!」
「大丈夫よん、ナギきゅん。そんなナギきゅんのために、とっておきのイベントを今考えたわ。
 題して、ラーナの唇争奪戦。優勝者には、ラーナの熱い唇が――」


「ちょうっっっっっと待ったあああああああああああああああ!!」
 

 声。
 外から聞こえた。
 五人の視線の先には扉。
 

 バン!!
 

 チリンチリンチリンチリン。
 

 台風でもきたのかってな勢いで、扉が開け放たれた。
 扉の前で仁王立ちしていた少女が、親指を自分に向ける。


「その勝負、あたしも参加するわ!!」
 

 ツインテールに縛られた、若干パーマ当て気味のピンク髪。
 
 へそ出しのトップスと、動きやすそうなショートパンツ。女の子らしいサンダル。
 
 俺はそれを見て、目を見開き、口元を隠した。
 

 こいつ……。


「あ!!」
 

 パミュが開いた口を掌で隠している。
 目を向ける。
 
 ふと。
 
 パミュが、小首を傾げて笑った。


「ちゃんと街に残ってたんだー。よかったー。いなくなってたらどうしようって、心配してたんだー」
「え? あ、ああ……」
「?」
 

 パミュが今度は違う意味で、小首を傾げた。覗き込むようにして、俺を見てくる。
 
 それでも俺は考え込んでいた。
 
 ギルドフルーレに繋がる道は一つ。あの水没した橋しかない。必然パミュもそこを通ってきたはずだ。なのにこいつ……。
 

 足が濡れていない。
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