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ティアラナさんの唇を奪え
勝者はだ~れ?
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「っておっそーい! 全員が完成しているというのに、一人だけが、この男だけが、悠々と、淡々と、この世界は俺のもの、だから時間も俺のものとばかりに、独りよがりに身勝手に――」
「いやもうはよ食えや!! まだ食ってなかったのかよ!! そっちにビックリだわこっちわ!!」
「遅い!! 遅い!! 遅すぎる!! さすがにこれ以上は待てません!! 人として!! ティアラナさんもペレさんもそれでよろしいですね!?」
「仕方ないわねん」
ティアラナも、目で了承を示す。
その顔には、今の状況を楽しむような、Sっ気たっぷりの笑みがあった。
「ではまず、ブリューナグ選手の卵チャーハンから。せめてもの抵抗として被せていたクロッシュを今、開きます。カチャリと響く金具の音。さすがに湯気は出てきませんか。ティアラナさんの持つ白いスプーンが、黄金色のチャーハンを主の口へと運びます。物音一つ立てずに咀嚼している。スプーンを置いた。さあ、感想はどうでしょうか?」
「冷たい」
「うわああああああああああああ!! やっぱりだ!! やっぱりです!! だから先に食べよう言うたやんか!! ブリューナグ選手も怒りの炎を燃やしております! 拳を握って耐えております!! ビュウくんを殴りに行かなかっただけでも立派と賛えてよいでしょう!」
「え、なんで俺」
「続きまして」
「……」
「ゼッケン番号二番。パミュ選手のフレンチトースト。食していただきましょう。バターとシロップのかかったフレンチトーストを、フォークで突き刺し、食べる。うーん。口元に置いた手皿一つでキュートに見える。これが『ザ、完璧』ティアラナさんの力です。さあ、それでは肝心要、味について尋ねてみましょう。いかがでしょうか? お味の方は?」
「冷たい」
「やはり!! やはりだあああああああ!! これには見物人までもが怒り心頭になっております!! いつの間にかできていた自警団の壁が、暴徒になりかけている見物人を抑えてつけております。第二回。第二回があるからとささやくことで、どうにか暴徒の顔に人の色が戻っていくぅうぅ。そしてビュウ=フェナリスはその間、お好み焼きの下に包丁を差し込み、ひっくり返したあああああああ!! ってだからおっそーーーーーーい!! 何を悠長にお好み焼いとんじゃ、はよしろやボケエエえええええええ!!」
テーブルを叩きながら、実況のターニャが吠え立てている。いつの間にか相当ヒートアップしていたようだ。
しかしそんなものもはや俺には関係がない。どうせ質問したって何も帰ってこないのだ。
俺の評価だって、これ以上落ちようがない。だったら好きにやるだけのことである。
更に三分経過。
「うーん、こんなもんか」
な――
思いながら、包丁でお好み焼きを突く。
ちょっと真ん中開けて、中を見てみようかなーなんて思ったわけなのだが、料理下手の俺は、実は中を見ても正味焼けているのどうかよくわからんところがあった。
中を見て、焼けているかどうかわからないとかありえないだろ(嘲笑)と一般人は思うかもだが、マジだ。
だから料理が下手で、料理が嫌いなわけでして。
元野良としては、気持ちもうちょい焼きたいなーなんて思うところもあるのだが、周りもうるせぇしなー。
焦げたら元も子もねぇし。こういうのまあ、ノリみたいなとこ、あるんじゃねぇのかなーなんて。
ん。
ふと、気づいた。
見鬼。
向けられていること。
俺は物音にすこぶる敏感だが、魔力の波動にはそれ以上に過敏だった。
戦場の癖で反射的に見鬼を用いながら、振り返る。
見鬼で肩を叩いてきたティアラナが、軽やかに指を動かす。
空筆。
内容は――
『絶対もうちょっと焼いた方がいいと思う』
『そうか?』
整纏(せいてん)を用いず、魔装で尋ねる。
ティアラナはS4(最高位)魔術師だ。魔装を揺らすだけでもある程度の会話はできる。
ティアラナは笑って、口元を動かした。
『マジ』
清楚な見た目とはかけ離れた口調で、ティアラナが言う。そしてそのまま、口角を横に引き伸ばす。
まああいつがそう言うならと、俺は照れながら、お好み焼きに焦げ目をつける。
更に五分経過。
マヨネーズを格子状に振りかけて、後は鰹節ユラユラと。
「よし、こんなもんだろ」
「よし、こんなもんだろ。このたかだか十文字に殺意を覚えた人間は、今この場にどれぐらいいるのでしょうか!? 勝負とは勝てばいいのか!? 勝てば何でもオールオッケイか!? 同棲だけじゃ飽きたらず、キスまでゲットしてしまうのか!? ホッカホッカのお好み焼きが、この状況ではただただ憎らしく見えます。おっとそこの砂を持って構えてる方!? やめてください! 例えどれだけ憎くても、相手と同じ土俵に立つことなどないのです! 勝敗は料理で! 何よりその行為は第二回開催の有無にも影響を与えてしまいます!! ――今、周囲の人に説得されながら、見物人の一人が砂を地面に落としました。泣いております!! 気持ちはわかります!! ここに誓いましょう!! もしビュウ=フェナリスが勝つようなことがあれば、その時は全員でビュウ=フェナリスを○すと!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
いや、『うおおおおお』じゃねえだろ『うおおおおお』じゃ。ったく、勘弁してくれよな。なんだって俺がこんなにも恨まれなくちゃいかんのか。
俺は料理作っただけだぜ。同棲つっても、毎日手料理が食べられるぐらいのメリットしかないってのに。はぁ。
「あ、今『まだ夜這いも成功してないってのに。チッ。クソが』とか思った!!」
「思ってねえ! マジで思ってないからな!? 勝手に人の感情を捏造するな!!」
「さあ運ばれてきた憎きお好み焼き。ほっかほかです。ほっかほかです。大事なことなので二回言いました。それをお箸で切り取って、口に運ぶ。優美に食しています。さあ、お味の方は、いかがでございましょうか、ティアラナさん」
「うん。……はふはふ。できたてであったかい。美味しい」
「うわああああああああああああああああああ!! ビュウ=フェナリス!! 許せない!! 許せない!! この男、一体どこまで人を虚仮にすれば気が済むのかああああああああ!!」
「いや俺は別に何も言ってねえだろ」
「さあいよいよ、判定に移らせていただきます。おっと、観客席の中には早くも服を脱ぎ、ビュウ=フェナリスを○すためのウォームアップを始めているものが出始めています。おおぉっとフットワークも軽いぞ。ワンツーワンツー。からの左アッパー。こんな男にめった打ちにされたら『俺、格闘技やってっから』と調子こいてるヤンキーぐらいのガタイしかないビュウ=フェナリスでは、ひとたまりもないでしょう。ビュウ=フェナリスの明日はどっちだああああ。
さて、これらの情報を踏まえたうえで、決めていただきましょう。第一回ティアラナさんの唇を奪えコンテスト、優勝者は――誰!!」
場内全ての視線がティアラナに突き刺さる。
ティアラナは、口元を優美にハンカチでふきながら、四百人の視線を受け流した。
始まる前にも言ったが、オチは大体読めている。どうせパミュかちゃぶ台返しだろう。まあ、女同士でもキスするのは嫌だろうから――パミュ自身はそうでもないようだが――見どころは、策士ティアラナが、この状況をどう捌くか。そんなところか。
俺は眠くもないのに欠伸する口を、掌で何度も叩いた。口が、ちょっとした楽器のようになる。
もしかしたらを期待して、ちょっと顔が赤くなっているのは、内緒であ――
「じゃ、ビュウくんで」
顔を向ける。
「へ?」
――沈黙。
からの。
怒号。歓声。号泣。
声という声、感情という感情の雨あられ。
そんな状況に晒されながら、俺とティアラナはまっすぐ見つめ合っていた。
えーと……。
「マジ?」
いつぞや、看板に向けて放った言葉。
そして先に、ティアラナが口話で言った言葉。
それを今度は、気になる女に向けて、俺はつぶやいていた。
「いやもうはよ食えや!! まだ食ってなかったのかよ!! そっちにビックリだわこっちわ!!」
「遅い!! 遅い!! 遅すぎる!! さすがにこれ以上は待てません!! 人として!! ティアラナさんもペレさんもそれでよろしいですね!?」
「仕方ないわねん」
ティアラナも、目で了承を示す。
その顔には、今の状況を楽しむような、Sっ気たっぷりの笑みがあった。
「ではまず、ブリューナグ選手の卵チャーハンから。せめてもの抵抗として被せていたクロッシュを今、開きます。カチャリと響く金具の音。さすがに湯気は出てきませんか。ティアラナさんの持つ白いスプーンが、黄金色のチャーハンを主の口へと運びます。物音一つ立てずに咀嚼している。スプーンを置いた。さあ、感想はどうでしょうか?」
「冷たい」
「うわああああああああああああ!! やっぱりだ!! やっぱりです!! だから先に食べよう言うたやんか!! ブリューナグ選手も怒りの炎を燃やしております! 拳を握って耐えております!! ビュウくんを殴りに行かなかっただけでも立派と賛えてよいでしょう!」
「え、なんで俺」
「続きまして」
「……」
「ゼッケン番号二番。パミュ選手のフレンチトースト。食していただきましょう。バターとシロップのかかったフレンチトーストを、フォークで突き刺し、食べる。うーん。口元に置いた手皿一つでキュートに見える。これが『ザ、完璧』ティアラナさんの力です。さあ、それでは肝心要、味について尋ねてみましょう。いかがでしょうか? お味の方は?」
「冷たい」
「やはり!! やはりだあああああああ!! これには見物人までもが怒り心頭になっております!! いつの間にかできていた自警団の壁が、暴徒になりかけている見物人を抑えてつけております。第二回。第二回があるからとささやくことで、どうにか暴徒の顔に人の色が戻っていくぅうぅ。そしてビュウ=フェナリスはその間、お好み焼きの下に包丁を差し込み、ひっくり返したあああああああ!! ってだからおっそーーーーーーい!! 何を悠長にお好み焼いとんじゃ、はよしろやボケエエえええええええ!!」
テーブルを叩きながら、実況のターニャが吠え立てている。いつの間にか相当ヒートアップしていたようだ。
しかしそんなものもはや俺には関係がない。どうせ質問したって何も帰ってこないのだ。
俺の評価だって、これ以上落ちようがない。だったら好きにやるだけのことである。
更に三分経過。
「うーん、こんなもんか」
な――
思いながら、包丁でお好み焼きを突く。
ちょっと真ん中開けて、中を見てみようかなーなんて思ったわけなのだが、料理下手の俺は、実は中を見ても正味焼けているのどうかよくわからんところがあった。
中を見て、焼けているかどうかわからないとかありえないだろ(嘲笑)と一般人は思うかもだが、マジだ。
だから料理が下手で、料理が嫌いなわけでして。
元野良としては、気持ちもうちょい焼きたいなーなんて思うところもあるのだが、周りもうるせぇしなー。
焦げたら元も子もねぇし。こういうのまあ、ノリみたいなとこ、あるんじゃねぇのかなーなんて。
ん。
ふと、気づいた。
見鬼。
向けられていること。
俺は物音にすこぶる敏感だが、魔力の波動にはそれ以上に過敏だった。
戦場の癖で反射的に見鬼を用いながら、振り返る。
見鬼で肩を叩いてきたティアラナが、軽やかに指を動かす。
空筆。
内容は――
『絶対もうちょっと焼いた方がいいと思う』
『そうか?』
整纏(せいてん)を用いず、魔装で尋ねる。
ティアラナはS4(最高位)魔術師だ。魔装を揺らすだけでもある程度の会話はできる。
ティアラナは笑って、口元を動かした。
『マジ』
清楚な見た目とはかけ離れた口調で、ティアラナが言う。そしてそのまま、口角を横に引き伸ばす。
まああいつがそう言うならと、俺は照れながら、お好み焼きに焦げ目をつける。
更に五分経過。
マヨネーズを格子状に振りかけて、後は鰹節ユラユラと。
「よし、こんなもんだろ」
「よし、こんなもんだろ。このたかだか十文字に殺意を覚えた人間は、今この場にどれぐらいいるのでしょうか!? 勝負とは勝てばいいのか!? 勝てば何でもオールオッケイか!? 同棲だけじゃ飽きたらず、キスまでゲットしてしまうのか!? ホッカホッカのお好み焼きが、この状況ではただただ憎らしく見えます。おっとそこの砂を持って構えてる方!? やめてください! 例えどれだけ憎くても、相手と同じ土俵に立つことなどないのです! 勝敗は料理で! 何よりその行為は第二回開催の有無にも影響を与えてしまいます!! ――今、周囲の人に説得されながら、見物人の一人が砂を地面に落としました。泣いております!! 気持ちはわかります!! ここに誓いましょう!! もしビュウ=フェナリスが勝つようなことがあれば、その時は全員でビュウ=フェナリスを○すと!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
いや、『うおおおおお』じゃねえだろ『うおおおおお』じゃ。ったく、勘弁してくれよな。なんだって俺がこんなにも恨まれなくちゃいかんのか。
俺は料理作っただけだぜ。同棲つっても、毎日手料理が食べられるぐらいのメリットしかないってのに。はぁ。
「あ、今『まだ夜這いも成功してないってのに。チッ。クソが』とか思った!!」
「思ってねえ! マジで思ってないからな!? 勝手に人の感情を捏造するな!!」
「さあ運ばれてきた憎きお好み焼き。ほっかほかです。ほっかほかです。大事なことなので二回言いました。それをお箸で切り取って、口に運ぶ。優美に食しています。さあ、お味の方は、いかがでございましょうか、ティアラナさん」
「うん。……はふはふ。できたてであったかい。美味しい」
「うわああああああああああああああああああ!! ビュウ=フェナリス!! 許せない!! 許せない!! この男、一体どこまで人を虚仮にすれば気が済むのかああああああああ!!」
「いや俺は別に何も言ってねえだろ」
「さあいよいよ、判定に移らせていただきます。おっと、観客席の中には早くも服を脱ぎ、ビュウ=フェナリスを○すためのウォームアップを始めているものが出始めています。おおぉっとフットワークも軽いぞ。ワンツーワンツー。からの左アッパー。こんな男にめった打ちにされたら『俺、格闘技やってっから』と調子こいてるヤンキーぐらいのガタイしかないビュウ=フェナリスでは、ひとたまりもないでしょう。ビュウ=フェナリスの明日はどっちだああああ。
さて、これらの情報を踏まえたうえで、決めていただきましょう。第一回ティアラナさんの唇を奪えコンテスト、優勝者は――誰!!」
場内全ての視線がティアラナに突き刺さる。
ティアラナは、口元を優美にハンカチでふきながら、四百人の視線を受け流した。
始まる前にも言ったが、オチは大体読めている。どうせパミュかちゃぶ台返しだろう。まあ、女同士でもキスするのは嫌だろうから――パミュ自身はそうでもないようだが――見どころは、策士ティアラナが、この状況をどう捌くか。そんなところか。
俺は眠くもないのに欠伸する口を、掌で何度も叩いた。口が、ちょっとした楽器のようになる。
もしかしたらを期待して、ちょっと顔が赤くなっているのは、内緒であ――
「じゃ、ビュウくんで」
顔を向ける。
「へ?」
――沈黙。
からの。
怒号。歓声。号泣。
声という声、感情という感情の雨あられ。
そんな状況に晒されながら、俺とティアラナはまっすぐ見つめ合っていた。
えーと……。
「マジ?」
いつぞや、看板に向けて放った言葉。
そして先に、ティアラナが口話で言った言葉。
それを今度は、気になる女に向けて、俺はつぶやいていた。
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