八百年生きた俺が十代の女に恋をするのはやはり罪ですか?

松岡夜空

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魔王

ビュウとロゼッタ

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「はぁ? 言ってることが意味不明すぎます。証明も何も、そりゃ普通に住んでるしょう?」


 ロゼの背中で、ブクブクとフラスコの中身が沸騰していた。
 今、フラスコの中身は紅色だった。


「どうしてそう言い切れる?」
「はい?」
「ちょっと前に、公園で料理大会があった」
「あぁ。あの下衆な大会ですね。知ってますよ。それが?」
「あいつ……いつの間にかいなかった」
「はぁ……」
「いや、それだけじゃないんだ。あいつ、前に猫が好きだって言ってたのに、前に会った時には、犬が子供の頃からの友達だって言ってて――」


 説明している自分がアホみたいに思えてきた。
 いや、事実アホだろう。
 だから何なんだって話だ。
 だからこそ、あのティアラナですら疑っていない。
 しかし……。
 気にかかる。
 あいつの言動、行動には、意味深なことがあまりにも多すぎる。
 それともこれは、八百年で嫌なものを見すぎた俺の、杞憂でしかないのだろうか……。


「ん?」


 考えていると、額に冷たい感触がきた。
 ロゼが、俺の額と、自分の額の温度差を、手で測っている。


「何だ?」
「いや、頭どうかしてるのかなと思いまして」
「……どうもしとらん」
「そうですね。どうかしてる人はみんなそう言います」
「お前俺に何か恨みでもあるんか? 妙に棘あるな、さっきから」
「いいえ。ただ、いい年して若い子ばかりに唾つけていく男が嫌いなだけです」


 メチャメチャ恨みあるじゃねぇか……っ。
 ロゼが床に置いていたバケツを取り、壺に立てかけてある梯子を上った。
 壺の中の水をすくって、下りてくる。


「俺は何もしてないんだけどな」
「それでも、あわよくば、と思っている。違いますか?」


 言葉に詰まって、上向いた。
 そうかもしれないと思った。
 何よりこの間が、それを証明していると言ってもいい。  
 

 ロゼが鼻で笑う。魔装を見なくてもわかる。明らかな軽蔑だった。
 ロゼが、バケツを置いて、魔術師特有の白い手を水の中に入れた。
 持ち上げると、水も一緒についてくる。
 

 接手式魔力誘導。
 

 エレメントに魔力を注ぎ込み、内からエレメントを自在に操る。魔術師の技法、自身の魔力を用いて奇跡を起こす、青魔術の一だ。
 それを板状に広げ、徐々に凍らせていく。
 

 魔力は性質で表せば当然気体なのだが、それは冷気なのだ。と言っても、せいぜい秋風程度の冷たさしかなく、ものを凍らせる力はない。
 

 だが、魔力と魔力は結びつこうとする性質があり、魔力を溶け込ませた水に、外から魔力を当てると、その結びつきで内から水を凍らせてしまう。これを魔力結合と呼ぶ。俺が前にやった、水の上を歩く技法、雪踏みは、この原理を応用している。
 

 薄い氷の板を手の中で作り出したロゼは、それを机の上に置いた。フラスコの中の液体は、今では紫暗色に変わっている。


「代わりましょうか?」
「え?」
「パミュちゃんが心配なんでしょう? だったらパミュちゃんと役を代わりましょうか? あたしは魔導師です。魔術師と、人を導くのが仕事。魔術師であるあなたがそう判断するのなら、それをサポートするのが、本来のあたしの仕事です。何かあってからでは遅いですし」
「いや、いい」
「もしかして、すねたんですか?」
「いや、ただ――」


 指を鳴らす。
 壺の中の水が天井を貫く勢いで噴出し、天井付近で蛇行、龍をかたどる。
 

 遠隔式魔力誘導。
 

 文字通り離れたエレメントを操る技法だが、この場合、魔術共鳴と呼ばれる呪(おと)を必須とする。
 

 天井付近で、水の龍にとぐろを巻かせる。
 

 俺は腰に巻いていたコートを解いて、羽織った。ポケットに入れていた長手袋で肘まで覆い、銀具を五つ、左右に振り分けてはめていく。
 

 以前とは比べ物にならないほど落ちてしまった魔力量を練り上げ、総量を百倍以上に引き上げた。
 

 ロゼが目を見開いて俺を見つめる。
 

 一流の魔術師は、引き寄せた死念を練魔、つまりは練り上げ、倍々にして纏う。そして魔力は神意、つまりは陽光を遮る壁。上がれば上がるほど、肌の色は白くなり、虹彩の色は深くなり、やがては色そのものが変わっていく。
 

 ロゼはあまり、あるいは一度も、見たことがないのだろう。百倍以上に練魔できる魔術師を。ティアラナは恐らく意図的だろうが、三倍程度にしか練魔していないからな。
 

 もっとも、十を百倍したところで千にしかならない。一流魔術師のそれには程遠い。今の俺の瞳の色は、第三位の黄金色。ろくに練魔していない、マリオンやロゼッタにさえ劣っている。
 

 水の蛇が、絹を張った大桶目掛けて突進してくる。
 俺はそれを、掌で受け止めた。
 水の龍が己が勢いで爆砕し、飛沫を上げる。それでも水の龍は突っ込んできた。というより、突っ込ませた。ガラガラと、何かが桶に溜まっていく音が、足元で響く。
 

 掌を振るう。
 最後の氷の残骸が、大桶の中に落ちた。
 大桶の中には無数の氷塊が詰まっている。


「心構えはしておくさ」

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