八百年生きた俺が十代の女に恋をするのはやはり罪ですか?

松岡夜空

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魔王

どっちが上だ

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「く、組長!!」
「落ち着け!! まだだ!!」
 

 こいつ……。
 

 必要以上に恐れているな。
 確かに、俺のこの魔力量の上げ方は、他の者では絶対にマネできない。魔術師歴八百年の俺だからこそできる荒業で、普通にやったらまず変獣するか気を失う。
 だからこそ、周りの兵隊は恐れている。こんなやり方があるのかと。こんなことができるのかと。
 しかしこいつの恐れ方は、そういう類のものじゃない。
 魔獣と同じ、紅い瞳の所有者。通称魔眼所持者なら、ここら一帯をパミュごと吹き飛ばしかねない。
 そう考えている、面構えだ。
 

 過去に、魔眼所持者と関わったことがある……?
 

 瞬間。
 周囲に敵兵が現れた。
 剣を振りかぶっている。
 こっちの初動を殺す、圧倒的な速さ。
 しかし。 
 

 通らずだ。
 

 周囲で氷の破片が舞った。
 氷壁。空気中の水蒸気を魔力結合で凍らせ壁を作る、技法の一つ。
 飛び散る氷越しに、敵兵と目を合わせた。敵兵が驚き、俺を見ている。
 

 初太刀は止めた。二手目。
 

 ムクリと、俺が散々切り殺してきた兵隊が起き上がり、周囲の敵兵に襲いかかった。
 流念帰依(るねんきえ)。死念に呑み込まれる前の流念を、死者の龍壺に帰す黒魔術の一。
 こいつらも、即座に仲間は斬れぬようで、一旦距離を置く。それを、屍兵が追いかける。
 

 距離は離した。三手目。


「龍術に見せかけた呼応分だと!? 七人分の死念を、三っつの魔術を同時起動しながら操るなど……っ!!」
 

 三連続同時魔術起動(トリプル)じゃねぇ。
 五連続同時魔術起動(フィフス)だ……っ!!


 俺は自身の魔力を膨らませた。


 魔術師は感情を操る。
 そして、一流の魔術師は、他者の感情も同様に操る。


 見鬼で相手を見つめた。
 カルロもまた、見鬼で俺のことを見つめている。
 

 見鬼は見鬼で返す。
 戦場魔術師間での定石。
 しかし、俺が見鬼で見据えても、カルロは見鬼で返しては来なかった。


 見鬼は魔力の流れを読む技法。
 ひいては相手の心を読める技法。
 指揮官こそ率先して使うべきだ。


 どうして今まで使ってこなかったのか?
 

 それは、見鬼には、その有用さを逆手に取った、カウンター技法があるからだ。
 

 五連続同時魔術起動(フィフスマジック)を使ったのは、演出でもお前らの動きを止める『だけ』でもない。


 お前を恐れさせた上で、見鬼を使わせたかったからさ。


 俺は膨らませた魔力を、カルロの眼球に叩き込んだ。
 お前が目に集めていた感情は、こっちの見鬼で既にわかっている。
 五情の五。恐。すなわち恐れ。


 これでパミュを引かせて五分。そのまま向かってきて九――
 

 ガツン!!


「なっ!!」
   

 カルロの顔面に拳が埋まっている。拳を離して、面を上げた。
 

 口元を覆う布が解けている。露になった口元から、血がドクトクと流れていた。
 

 挑発的に嗤った。全身から魔力をユラユラと立ち上らせながら。
 

 こいつ……っ。


「く、組長!?」
「心配するな。お前らは娘を連れて一度退避。それと全員唇を噛み切っておけ。眩術だ」
「なっ、それなら残ったほ――いって!!」
「黙っとけ。わかりました、組長!! ご武運を!! おら、お前らもいくぞ!!」
「だからって顔面殴るこたぁないでしょ! どんなコミュニケーションすか! 副長だからってひでえよ!」
「解いてやったんだアホ!! ド新人がガタガタぬかすな! とにかく行くぞ!!」
 

 掛け合いしながら、パミュをかついで飛脚する者が一名。その他三名が、その後を追った。
 カルロが片手をあげる。


「総員、一度態勢を立て直――」
 
 
 舌打ちする。
 やはり遠いな。圧倒的だこいつ。
 緻密ではなく、ナタでへし折るような立案をすると、当然のようにそこから崩される。引っ掻き回すことはできても、一人で立ち向かうには、こいつを筆頭に相手が手練れすぎる。
 

 どうしてもあと一人いるな、これは。
 運否天賦の神様任せで勝てる相手じゃない。


 俺のミスを一つ、できれば二つ、カバーできる魔術師が……っ。
 

「総員!! ここで仕留めるぞ!! 青魔術による一斉掃射!!」
「え?」
「なに!!」
 

 本人を差し置いて、カルロの声が、明後日の方向から聞こえてくる。俺とカルロが戸惑い、その方向に視線を送った。
 

 木の枝。フクロウが一羽とまっている。魔眼がなければ、実物と見間違うほど、精巧に造られた魔獣。俗に言う擬獣(ぎじゅう)。それが静々と俺達を見据えていた。
 

 ティアラナか!? 
 

 いや――


「まさか、裏切るつもりか!? お前のためでもあるんだぞ!?」
 

 違う!!
 

 カルロの詰問。魔獣が無表情のまま、嗤った。つまり、魔装で嗤ったのだ。


 魔装を揺らして擬獣が答える。喜と哀。すなわち嘲笑。そしてもう一つ。S4魔術師のみに読める、言葉。


『裏切る? あたしのため? 笑止。魔術師の世界に裏切りなんて言葉は存在しえぬ。人の心は察するものではなく、視るもの。そしてあたしが視たいものは――人の才能ただ一つ』
 

 擬獣の瞳が爛と輝く。  
 カルロが、顔を紅潮させながら、歯ぎしりした。


「ク――」
 

 それ以上は聞こえなかった。
 眩術にかけられ、すがるようにして放たれる、青魔術の閃光。
 隆起する大地。
 崩れ落ちる大木。
 青魔術によって動きを鈍化され、錐状の大地に突き刺される敵兵。
 こんな状況で、人一人の声など、聞こえるはずがないのだった。


「チィっ!!」
 

 カルロが空を舞い、舌打ちしている。
 そんなカルロの半身が、ズズズと、肩からずれ落ちていく。
 俺はカルロの背後から、竜頭蛇尾を振るっていた。



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